私大医学部不正入試は完全に撲滅できるのか

医学部入試不正問題の後始末,当座的に処理するだけで,裏舞台では基本面の是正措置を部分的にのみおこなっている姑息な現状,正直ではないその不徹底な姿勢

                   (2019年9月19日)

 

 要点:1 医学部入試制度に関して残る一定の暗部が根絶されたとはいえないし,そういえるだけの実際的な証拠(その説明・公開)がまだ担保されていない

 要点:2 中途半端に医学部入試制度をいじるのではなく,合理・公正的であり客観性のある入試だと正々堂々と公開もできる程度にまで,その制度と運用の方法を全面的に改善する気はないのか


 「日大医学部,卒業生の子優先 入試不正,調査検証委も認める」(『朝日新聞』2019年9月19日朝刊33面「社会」)

 医学部入試不正問題で,日本大学(東京)は〔9月〕17日,調査検証委員会の報告書を公表した。同大は昨〔2018〕年12月,2016~2018年度の一般入試で追加合格者を決めるさいに同大医学部卒業生の子どもを優先したと発表しており,調査検証委も認めた。

 同委員会は,医学部以外の教職員や弁護士ら計4人で構成。報告書によると,2次,3次の追加合格者を決めるさいに同窓生の子どもを優先させたことで不合格になった受験生は,2016年度2人,2017年度8人,2018年度2人の計12人。日大は,希望すれば入学を認めることとし,3人が入学した。
 補注)不合格とされた該当の受験者が入試で実際に獲得した点数は何点であったのか。それに対して,不正に合格とされた受験生は何点であったのか。どの最低点であった合格の該当者が「その代わりに不合格とされた」のか。調査検討委員会内では既知の点であると推察しておく。

 以上のことがらは,この記事の文面だけでは不明な部分であった。2017年度に8人もの同窓生の子弟・子女が,特別あつかいされ,優先されて合格者になっていたが,このさい,この不正合格者の点数は何点であり,それぞれ合格点に何点足りなかったのか。

 以上の疑問は,大学側の内部資料からはただちに判明できている点だと思う。だが,新聞の記事にはなにも報道されていない。そもそも「医学部以外の教職員や弁護士ら計4人で構成する」「調査検証委員会の報告書を公表した」というのだから,この発表じたいの限界はおのずと推察できる。

 「医学部以外の教職員」がその委員会を構成しているという点からして,疑問が抱かれる。日大の関係者はいっさい除外しておき,それ以外の識者,そして弁護士であっても日大とは利害関係のない人物などをもって,その調査検証委員会に調査・報告をさせていなかったとすれば,おおよそのところでは,それ相当になんらかの制約を背負った状態で結論を出すに決まっていた。

 医学部の関係者は当事者であるから論外にしても,第3者委員会としての性格を完全に確保したいのであれば,誰がみても「中立・公正」だとみなしてくれる,その委員会の委員構成にしておかねば,結局は,あとでなにやかやいわれかねない “すき間(余白)” を残す。

〔記事に戻る→〕 日大は今〔2019〕年3月,その12人に対し,補償金一律20万円の支払いを決めたが,複数の受験生からは了承をえられず,話しあいを続けている。また,報告書によると,2015年度入試でも不自然に下位の受験生が追加合格となっている可能性がある。ただ,調査検証委は「これ以上の調査を実施しない」としている。(引用終わり)

 以上のように,自学出身者の子弟・子女を優先的に合格させていた日本大学医学部の入試「不正」は,その受けとり方の立場あるいは解釈しだいによっては,「不正」ではなく「許されうる範囲内だ」と主張する者がいないのではない。

 しかし,そうであるならば(そのようにしたいのであれば),その合格枠は別に確保するなり,たとえば自学内に限定した推薦入試枠で受験させて合格させておけば,いうなれば,従前のごとき露骨な自学関係者に対する優先的なとりあつかいは,そう簡単にはバレない,あるいは,それなりに説明可能な余地を準備していたかもしれない。

 日本大学の医学部だけの問題に限らないが,とくに私立大学医学部のなかで縁故入試があった事実は,これ〔2018年度〕までにおける入試においていえば,自学内では当然のあり方と認知されていたはずである。

 問題は,その正当性に関する〈自己認識〉が社会常識としても文句なしに妥当するといえるのか。妥当しうるとしたら,それではその点をどのように対社会に向けて,合理的かつ説得的に説明するのか。こういうところに関心がもたれる。だがそうはいっても,学内で優先される縁故入学「合格者」の存在は,あくまで内部秘に属する事項であった。

 ところで,2019年度入試における偏差値は,日本大学医学部の場合,こうであった。その数字を,出所(記述や文献の出典)にはかまわず,ごく適当に3件ほど参照してみると,

  64. 7(偏差値 67位/82校) 67. 5   66. 0

だとかというふうに並んでいた。

 日本大学医学部の入試の難易度は,この偏差値やさらに入試倍率から考えると,私立医学部のなかではほぼ平均のところに位置している。いってみれば,慶應義塾大学医学部をはじめとした上位の医学部に入りたい人たちにとっては,確実に受かるべき学校としての抑えの候補(滑り止め)になっているのが,この日大医学部である。
 註記)「日本大学医学部は難易度,偏差値,倍率から入りやすい?」『医学部一発合格のコツ』2018/10/19 2018/10/22,http://1年で医学部合格.xyz/2018/10/19/nihondaigakuigakubu/ 参照。

 さて,日本大学そのものは古い伝統を有する大学である。だが,各学部の入試面に関して,その “難易度の尺度” で表現されてきたものは,その長い歴史の割りには相対的に低位・劣勢のままであった。その理由はともかくとして,日大の場合は各学部の定員そのものが多いという点に尽きるのであるが,医学部の定員は120名であって,私大のなかでも特別多いというわけではなく,平均的な規模である。国立大学ともほとんど代わらない定員である。これには,医学部教育の特性が定員を厳格に設定(制限)させているという事情があった。

 いずれにせよ,医学部入試での成績が「合格点に達していない受験生」であっても,日大関係者の子弟・子女であれば優先的に合格にしてもらえる余地が,それも秘密裏のとり決め:内部規定(?)にもとづく優遇措置(操作基準に準拠)として存在してきた。しかし,そうだったのであれば,なぜ,そのような裏制度がいままで生きていたのかを,対・社会にきちんと説明する責任があった。

 第3者委員会もその肝心な問題をきちんと調査し,学校法人としての日本大学側に対してその責任を認めさせ,なんらかの事後措置をとらせないことには,問題を抜本から解決したとはいえない。このあたりの問題点は,日本大学だけに固有ではなく,ほかの私大医学部にも妥当するけれども,どの医学部も逃げまわっている対象である。日大の場合はとくに,ほかの問題で注目を浴びたことのある理事長田中英壽の存在もあった。

 

 「昭和大医学部入試,女性差別の可能性 第三者委が報告書」(『朝日新聞』2019年9月14日朝刊33面「社会」)

 この記事は, ① の日大医学部に関する報道より5日前に,同じ『朝日新聞』に報道されていた。

 --昭和大(東京)は〔9月〕13日,同大医学部の入試不正について調べていた第三者委員会(委員長=榊原一久弁護士)の調査報告書をホームページで公表した。一部の繰り上げ合格者の男女比に「合理的理由をみいだすことができない」差があるとし,女性差別があった可能性を指摘した。
 補注)早速,疑問が浮上する。「女性差別の可能性」そのものについてではなく,「その事実の有無」を解明するのが第3者委員会の任務・仕事である。ところが,このように「可能性の次元」でしか結論を出していないというのでは,まさしく隔靴掻痒であったる。

 問題の百%解明というところまでは困難があっていかずしても,最大限に努力し,不明な疑問をできるかぎり解明するのが第3者委員会の役目である。ここでは,現在,東京弁護士会副会長を務める榊原和久は,昭和大学(医学部)との特定の利害関係がない人物であると,ひとまず観ておく。

〔記事に戻る→〕 昭和大をめぐっては昨〔2018年〕秋,一般入試のうち,面接と小論文,高校からの調査書で判断する2次試験で,現役と1浪の受験生に加点し,さらに一部の試験で同窓生の親族を優先させる不正が発覚。〔だが〕女性差別については大学側は否定していた。文科省が昨年9月に公表した調査結果によると,昭和大は過去6年間の平均で男子の合格率が女子の1.54倍あり,81大学の中で2番目に高かった。

 つぎにかかげる関係の統計図表は,泉谷由梨子・生田 綾・錦光山雅子稿「全医学部に聞いてみた。男女の合格率,大学でこんなに違う【独自調査】-東京医科大の事件を受け,2018年度入試のデータで分析。医学部予備校の代表『そうだろうな』と思ってた-」から引用している。

 註記)『HUFFPOST』2018年08月11日 07時00分 JSThttps://www.huffingtonpost.jp/2018/08/10/igakubu-data_a_23499881/?utm_hp_ref=jp-homepage)。

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 補注1)昭和大学医学部は,日本の医学部として昨年5月ころから急に浮上してきた入試不正の問題が社会的に関心を引くなかで,女性差別多浪差別・同窓縁故優先合格といった「三拍子そろった〈不正入試〉」をおこなっていた。この医学部も対・社会に対してまともに説明できるような「不正入試」に関する弁明はしていなかった。この点がとくに問題であった。

〔記事に戻る→〕 報告書によると,2013~2019年度入試を検証した。1期試験で繰り上げ合格になった男女の数が大きく異なっていた
 補注)なお,ここでは受験生における男女比は未詳だが,明らかにめだった男女間に関する数値が出ていることは,一目瞭然である。

  2013年度 男性137人,女性3人
  2014年度 男性127人,女性6人
  2015年度 男性122人,女性8人
  2016年度 男性 92人,女性6人
  2017年度 男性 73人,女性2人
  2018年度 男性 56人,女性0人

 繰り上げ合格の決定は,少数の入試常任委員と学部長らでおこなわれる。成績上位の補欠者から順番に電話をかけ,入学の意思を確認して決める。報告書によると,大学側は「作為的な操作はしておらず,偶然の結果」と第三者委に説明。これに対し,第三者委は「女性のみ電話がつながりにくいことも考えられない」と一蹴した。
 補注)この程度になる応答が交わされていたなかで,大学側からは「女性の受験生に対する差別がされていない」という応え方が本当に出ていたとしたら,これを聞いて呆れない人(信じる人)はいない。

 相手の電話が携帯(スマホ)であれば(ただし,固定電話ならば撤回する指摘となるが),なおさらのこと,このようなヘリクツは通用しない。

 この程度の応答が,本気で第3者委員会とのやりとりのなかでゆきかっていたのだとしたら,本当は「世間をバカにしている・コケにしている」とまで,きびしく批判されていい。

 ただ,電話をかけた時の記録が残っておらず,断定できないという。また,2017年度の2期試験では正規合格者で,2018年度の2期試験では繰り上げ合格者の選抜で不自然な男女差があり,さらに2018年度入試では,不合格理由が不明な受験生が2人いた。昭和大は「真摯(しんし)に受け止め,入学試験の公平性,妥当性の確保・維持に努める」とのコメントを発表した。
 補注)最近,この「表現=真摯」ということばの価値(真義)は,ガタ落ちになってきている。けれども,あまりにも当たりまえであるはずの「入学試験の公平性,妥当性の確保・維持に努める」必要性(大前提)が,実は,2018年度における入試までは平然と無視されていた。

 その種の入試不正を実行してきた「当事者である医学部」側が,自然に口にしたそうした “言い草” だったとなれば,これには「第3者」側のほうが聞いて呆れる。この点は当たりまえの反応である。というのも,問題の性質は常識次元に属することがらであった。

 2018年5月ごろから話題になっていた「東京医科大学に発した」,とくに「私大医学部を主場」とする入試不正(および不適切入試)の問題は,この東京医大における事件が発覚していなければ,2019年度以降においても,しかもすべての医学部(医科大学)が継続していく事実(慣行)として,旧態依然にのまま当然のごとくにまかり通ることになっていたはずである。

 

「入試不正,3大学争う姿勢 医学部受験めぐる損賠訴訟」(『朝日新聞』2019年9月7日朝刊34面「社会」)

 東京医科大,昭和大,順天堂大の医学部入試で不合格になったのは,性別や年齢を理由に不利に扱われたためだったとして,元受験生の女性が3大学に計3621万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が〔9月〕6日,東京地裁田中秀幸裁判長)であった。3大学は,請求の棄却を求め,争う姿勢を示した。

 訴状などによると,医療機関に勤務していた女性は2018年1月,これらの大学を受験し,東京医科と昭和は2次試験で,順天堂は1次試験で不合格となった。同年8月,東京医科が女子や浪人年数の多い受験生を不利に扱っていたことが判明。昭和や順天堂などでも,同様の問題が発覚した。

 女性は東京医科と昭和に追加合格し,順天堂は1次試験に合格していたと通知された。女性は今春,別の大学に進学。東京医科は予備校費用などとして100万円を提示,昭和,順天堂は受験料6万円の返還のみだったという。
 補注)東京医科大学は,文科省の某局長がらみとなって社会問題化した受託収賄事件で,日本社会を大騒ぎさせる入試不正の事例を提供していた。それだけに,このようにやや異なる対応をみせている。だが,この東京医科大学にしても,その後において披露してきた事後処理の問題に関して外部に示してきた姿勢は,「罪(?)の意識」が希薄である雰囲気(意地でも争うという態度)を充満させていた。

 法廷では,女性が「不正に不合格にされ,1年間を無駄に過ごしたのに,補償が実費や受験料の返還だけでは納得できない」などと訴え,再発防止策も求めた。一方,大学側は「合理的な理由も認められないほどの差別とはいえない」などと主張した。(引用終わり)

 医学部の入試におけるそれもとくに女性差別の問題は,日本社会全体が女性をどのように処遇しているかといった実情とも,不可避に根深く関連している。そもそも現政権は,口先では男女共同参画社会に触れてはいるものの,本心では,大昔風の戦前的な「女性・人間観」しかもっていない。つまり「旧態依然の人権感覚」に執心しているゆえ,女性差別を実際にはなんとも思っていない。

 大学医学部入試における女性差別問題は,昨年(2018年5月に)たまたま発覚したがために「社会問題化」し,各大学医学部側もその是正・改善に取り組まざるをえなくなっていた。だが,前述したようにそのきっかけがなければ,おそらく2019年度に実施された入試も従前であったに違いない。

 

 国公立大学医学部の偏差値ランキング」https://医学部.jp/igakubu_hikaku/hensachi.php,2019年中の記述だが,公表された月日は不詳)

 この記述からは,なかほどの段落からのみ以下を引用しておく。ここでは疑問点となる点,いいかえると, ② までに論じてきた医学部入試(私大の問題が主であったが)に関するそれを,国立大学医学部における “入試各科目の配点” にまで視線を移動させて注目してみるとき,ひとまず別個に付言しておくべき論点が残っていた。これに少し言及してみたい。

 英語が得意な文系出身者が高い得点を出しやすい入試制度を採用している国立大学があります。それは,秋田大学島根大学徳島大学宮崎大学の国立大学医学部となります。

 この4大学は,2次試験で理科科目がなく英語と数学を中心に面接試験を実施しているため,理科がどうしても苦手な受験生でも英語と数学で勝負することが可能です。

 なお,鳥取大学医学部も長らく理科科目がありませんでしたが,2018年度から二次試験で理科科目が復活しているので,今後は理科科目が導入される可能性も高く注意が必要です。

 もちろん,センター試験では理科科目を受験するのはもちろん,医学部に入学後は理科科目ができて当たりまえに授業は進んでいくので,覚悟しておく必要がありますが,医学部合格というスタートラインに立つ意味では,英語を武器に受験を有利に進めることができます。

 また,理科科目が実施していない医学部は地方国立大学が多く,偏差値も手ごろで受験しやすいのが特徴です。

 ということで,以上において大学名の出ていた国立大学医学部4学部における「試験科目の各配点」は,こうなっている。

   大学名   偏差値  英語  数学  面接

  秋田大学    60.5  100点   100点   200点
  島根大学    63   200点   200点    60点
  徳島大学    64   200点   200点  非公開
  宮崎大学    63.5   300点   300点  非公開

 私大医学部における入試不正,その現実の問題がどこで・どのように操作され発生する余地があったかといえば,とくに2次試験科目のうちでもその操作可能性が,大幅にかつ柔軟にも収納できる「小論文と面接」に求められていた。

 国大医学部の話題となるが,島根大学では面接点への配点が60点であり,その割合が少なめであるのにくらべて,秋田大学は200点と多く,「英語と数学の合計200点」と同じ点数になっている。また徳島大学宮崎大学は「非公開」とされている。つまり,この2大学医学部においては,面接の評価点は外部に対して「暗箱(ブラックボックス)」あつかいされうる採点部分だ,という要領が使える。

 国大でも男女比が極端に偏っている医学部が多くあった。なかには,女性のほうの入学(合格)比率が多い国大が何校かあった(前掲の図表では上方の大学を参照されたい)。このあたりの事実については,つぎのような解釈が可能である。  

 つまり「入試不正」が社会的に発覚し,問題となる以前からの対策として,そうした事象の介在に気づいてきた受験産業側は,独自に内部的な指導をおこなってきており,医学部入試ではとくに,女性の受験生たちが「女性に対する差別のなさそうな国大医学部」に向かうよう指導をしてきた。その結果として,それらの医学部においては,女性の「男性に対する在籍率」が顕著に高くなる事情が生まれていた。

 医学における入試不正の標的(犠牲者)は,もっぱら女性に求められてきた。そのなかで,その標的にされてしまう不運な事情(結果)を回避するために,女性受験者側からは迂回作戦が採られたその結果として,受験する志望先の医学部となって「特定された地方の国大医学部」が「女性の合格者比率がめだって高い何校」として浮上していた。

 この ④ で触れたごとき問題,国大医学部における入試では「面接に対する配点」を公表しない大学がある事実については,これが不審を抱かれる原因になる点を,十分に覚悟してもらっておく必要がある。いずれにせよ,そのように “非公開にしておく部分” をなくす努力が早急になされるべきであり,入試の実施方法に関してはとくに「面接への配点基準やこの採点基準の明確化」を,抽象的にであってもより適確に準備しておくべきである。

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