安倍晋三が首相として完全に疲弊させたこの国の惨状,そして苅谷剛彦の議論

オックスフォード大学の教授苅谷剛彦が,アベノミクスやアベノポリティックスは歯牙にもかけずに,つまり「蚊帳の外」に置く論旨で講じた日本経済社会分析

 

  要点:1 アベノミクスとは昼行灯的な経済政策であって,せいぜい,その中の灯りがボヤ(火事)にまでならないようにさせるのが「最善策であった」だけ

  要点:2 アベノポリティックは,私物化政治によってこの国を破壊するためであれば,大いに役立った。けれども,アベに対する忖度機能しかまともに発動できない政治機構を作ってしまったがために,民主主義の三権分立まで崩壊させた「亡国・国恥の首相」であるこの人の姿だけが,いまではきわだっている


  アメリカとイランの戦争状態としての紛争のなかで右往左往すらできないで,ただオロオロする態度もはっきり表現できない情けない『ワガ総理大臣・安倍晋三君』,「安倍が特異だという外交」手腕などどこにもみられない貧相な「日本の対外政治」

 本日〔2020年1月9日〕『朝日新聞』朝刊3面に掲載されたつぎの記事は,「自衛隊派遣,募る不安 政府『情勢見極めつつ準備』 イラン,米軍拠点に報復」との見出しで,つぎのように報じていた。しかしそれにしても,トランプの背中というかお尻当たりはよくみえていて捕捉できているつもりらしい「アベ君の国際政治感覚」をもってしては,ただオロオロする態度しかみせることができないでいる。 

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 記事のこの「写真」は「 “イランによる米軍への報復攻撃を受け,質問に答える安倍晋三首相=8日午後,首相官邸,岩下毅撮影」と説明されていた。だが,いささか「▼ンマな顔つきにみえる」と同時に,ともかく「まことに冴えない表情に写っている」とも感じられる。この『朝日新聞』の記事を参照する前に,別途『Newsweek 日本版』が報じていた関連記事をさきに紹介しておく。

 ★「イラン戦争間近?  アメリカで『#第三次大戦』がトレンド入り,若者は徴兵パニック 」★
    = ウェスリー・ドカリー稿『Newsweek 日本版』2020年1月8日14時15分,
      https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/01/post-92084.php

 

 この記事の英文題名は, “ Why Is World War 3 Trending? Social Media Users Comment On The Possibility Of A US Military Conflict With Iran.” である。つぎのように語っている。

 

 「アメリカとイランが戦争すれば第3次大戦に発展する? いまのうちに政府の徴兵登録を抹消しようと若者がシステムをクラッシュさせる騒ぎに」。米軍が1月3日,ドローン攻撃でイラン革命防衛隊の司令官カセムスレイマニを殺害すると,アメリカのSNSは大騒ぎとなり,ツイッターでは「第3次大戦(WWⅢ)」がトレンド入りした。アメリカがイランとの戦争に踏み切れば,徴兵が始まるのではないかという不安の声も多く上がっている。

 

 米政治コンサルタントのフランク・ルンツは,「徴兵再開を危惧した若者たちがセレクティブ・サービス・システム(選抜徴兵登録制度)のウェブサイトに殺到してクラッシュさせた。第3次大戦が始まるのではないかと心配でたまらないからだ」とツイートした。もしアメリカが徴兵を再開すれば,1970年代のベトナム戦争以来になる。

 

 アメリカの若者がセレクティブ・サービスのウェブサイトにアクセスしているのは,選抜徴兵登録を抹消する方法をしりたいからかもしれない。同制度への登録は,18~25歳までのアメリカ人男性全員に義務付けられている。大学進学のため連邦政府奨学金を受けるのにも選抜徴兵登録が必須なので,「FAFSA(連邦学資援助無料申し込みの略称)」もソーシャルネットワークでトレンド入りしている。

 

 ベトナム戦争並みなることはないかもしれないが,イラク戦争並みの対イラン戦争が本格的・全面的に開始されたら,「選抜徴兵登録」している若者は大学の勉学などそっちのけにされて,鉄砲かついでIT時代の戦争・戦場に参加させられる。命が惜しいのは誰とて同じ,兵隊に駆り出されてはたいへんだと,アメリカの若者たちは焦っている様子がうかがえる。

 ここから,① の『朝日新聞』記事本文を引用する。

 イランの米軍に対する報復攻撃を受け,日本政府は〔1月〕8日,急きょ国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合を開くなどして対応を協議した。政府は,緊張緩和に向けて外交努力を尽くすと強調するものの,具体的な手段は限られているのが実情だ。一方,中東海域への自衛隊派遣は予定どおり進める考えで,自衛隊員らからは懸念の声も上がっている。

 補注)われわれは,安倍晋三の手の内をよくしっている。というか,この首相が外交面において実質的にはなにもできず,できることといえば,ただトランプに指示されるとおりに動くしかない点であった。この事実は,よくしられるようになっている。アベ君の「ひたすら,みかけだけ〈やっている感〉」は,今回のように本格的に深刻な国際政治の急展開に対しては,なにもまともな対応ができない。この点は,日本の国民たちもいまでは知悉している。

 たとえば,北朝鮮による日本人拉致問題の「解決に向けた」これまでのアベの実績(努力)といえば,「口先だけでは勇ましい気分」を醸しだすことに熱心であったものの,第2次安倍政権のいままでにおいて,なにひとつかたちのある成果は出せていない。

 それどころか,北朝鮮のあの超不健康・デブの偉大なる首領様にさえ,アベは小▼鹿にされる始末であった。金 正恩君には,ろくに相手にさえしてもらえなかった安倍晋三君に,一定の評価できるような外交手腕などあるわけがない。したがって,この人がいまさら外交の舞台に立って,なにかをなすつもりになっていたとしても,誰からもなにも期待されるはずがない。

〔記事に戻る→〕 安倍晋三首相は〔1月〕8日のNSC〔National Security Council,国家安全保障会議〕で,情報収集と国民への的確な情報提供,在留邦人保護に全力を尽くすことなどを指示。首相官邸で記者団の取材に対し「さらなる事態の悪化を避けるために,あらゆる外交努力を重ねたい」と述べた。

 菅 義偉官房長官は同日,NSC後の会見で,「関係国と緊密に連携をし,粘り強い外交努力を展開していきたい」と述べた。ただ,米イランにどのような働きかけをするのか問われても「外交努力を継続していきたい」と語るのみで,具体策は示さなかった。

 補注)この首相と官房長官のいいぐさがいい。アベ君は「さらなる事態の悪化を避けるために,あらゆる外交努力を重ねたい」といい,スガ君が「外交努力を継続していきたい」というが,まさしく口先だけであって,本当はリップサービスにもなりえない,ただの寝言のようなこの2名の発言である。国際政治の舞台においては「チョウチョ,チョウチョ,菜の花にとまれ……」といった童謡を歌う程度の効果しか挙げえないこの2人の存在である点は,すでに衆人がよく承知する事情であった。

 〔1月〕11日から予定している首相の中東訪問を延期する可能性については,菅氏は会見で,「今般の事態も含めた現地の情勢をみきわめながら判断したい」と話した。

 補注)そもそもいまの政権中枢に「現地の情勢をみきわめ」られる外交面の分析力があるようには感じられない。アベ風の私物化政治は,有能な人間を自分の周辺に集めることをむずかしくしてきた。

 なんといっても「世襲3代目の大▼カ政治屋」,つまり「初老の小学生・ペテン総理」(『くろねこの短語』命名)は,昔からこの地球上で展開される国際政治にまともに関与してきたことは,一度もない。外交が好きである彼の立場はよくしられているものの,訪問される国々にとってみれば,この日本の首相はATMにしかみえないと,もっぱらの評判である。

【関連記事】

 「安倍首相の中東訪問中止に批判噴出『逃げるなら自衛隊派遣も見直せ』 米イラン衝突で混迷する日本外交」AERA dot.』2020.1.8 17:44,https://dot.asahi.com/dot/2020010800096.html〔~ 2020010800096.html?page=2〕

 

 政府は〔1月〕8日,イランがイラク国内の米軍駐留基地をミサイル攻撃したことを受け,今月中旬に予定していた安倍晋三首相の中東歴訪を見送る方針を固めた。安倍首相は11日に出発し,サウジアラビア,UAE(アラブ首長国連邦),オマーンの3カ国を歴訪するとされていた。日程は7日の自民党役員会で安倍首相みずから発表したが,わずか1日で決定が覆ったことになる。

 

 中東歴訪の中止は,米国とイランの間で緊張が高まっていることが影響したのは間違いない。一方,安倍政権は昨〔2019〕年12月27日,中東海域に自衛隊を派遣することを閣議決定している。1月中に河野太郎防衛相が派遣命令を出し,1月中にP3C哨戒機,2月から海上自衛隊護衛艦「たかなみ」を派遣する予定だ。

 

 自衛隊の最高指揮官である安倍首相が中東行きを中止したとなると,自衛隊の中東派遣計画も白紙になるかと思いきや,そのつもりはないようだ。菅 義偉官房長官は8日の記者会見で「現時点では変更はなく,現地の状況をみきわめつつ準備に万全を期していく」との見解を示している。

 

 これに対して,ネット上で批判が噴出している。ツイッターでは,

  「いざ危険になると,自分だけは真っ先に逃げるとは…」

  「逃げるのだけは相変わらず早いな」

  「自分が逃げるなら自衛隊派遣もまず見直せ」

  「安全圏にいる権力者たちが若者を死地に送る戦争の本質があらわれている」

など,安倍政権を批判するコメントが相次いでいる。

 

 イランと友好関係にある日本は,歴代政権は中東問題に対して中立的な立場を維持してきた。だが,イランのザリフ外相は8日にツイッターを更新し,「私たちは事態のエスカレートや戦争を求めてはいないが,いかなる侵略に対しても自分たちを守るつもりだ」と投稿。イラク革命防衛隊も,米軍駐留基地への攻撃後に「アメリカのテロ軍に基地を提供したすべてのアメリカの同盟国に警告する」と表明している。

 

 ジャーナリストの高野 孟氏はいう。「そもそも中東海域への自衛隊派遣は,米国が呼びかけた有志連合への参加を日本が断ることはできないので,『調査・研究』という立場で “やっているフリ” をするものでした。最初から問題があるのに,米国とイランの衝突でリスクが高まったのだから中止するのが当然です。自衛隊員には『ケガをせずに帰ってきてね』というつもりなのでしょうが,不真面目きわまりない」。

〔『朝日新聞』の記事に戻る→〕 また,自衛隊の中東派遣については「現時点において方針に変更はなく,現地の情勢をみきわめつつ,準備に万全を期していきたい」と話した。ただ,「現時点」とも強調しており,情勢しだいで流動的な対応となる可能性もある。自衛隊は11日にP3C哨戒機を,来〔2〕月上旬には護衛艦1隻をそれぞれ派遣する予定だ。

 防衛省内からは,この時期の派遣について懸念の声も上がる。同省幹部は「昨〔2019〕年末の閣議決定時とは情勢が変わっている」と苦渋の表情を浮かべた。防衛省はこの日,中東海域への護衛艦派遣を念頭に,突発事態などへの対応を想定した図上演習も始めた。

 だが,幹部自衛官の1人は,「想定を超えたむずかしい状況判断を,現場の艦長らだけに負わせてしまうリスクが出てくるのではないか」。別の自衛隊関係者も「戦争とまではいえないにしろ,紛争・戦闘で間違いない状況だ。現場としてはたまったもんじゃない」と語った。

 立憲民主党安住淳国会対策委員長は8日,「戦闘状態に近い状態まで緊張が高まっており,こんななかで自衛隊を派遣して調査するのは信じられない」と述べ,閣議決定を見直すべきだと主張。首相が米イランの橋渡しをめざしてきたことについても「残念ながら日本の仲介はなんの役にも立っていない」と指摘した。

 補注)アベ君がトランプ兄貴の舎弟である立場は,皆がしったところの上下関係である。そのために,このように日本国防衛省自衛隊3軍のほうでは,要らぬ苦悩を味あわされるハメになっている。ただ,いまのところトランプはイラク戦争みたくは「戦争を推進できない立場」にあることが,唯一救いである。

  退避勧告イラク全土に拡大 ◆

 外務省によると,2018年10月1日時点で,イランの在留邦人は714人。イラクの在留邦人については「非公開」(担当者)として明らかにしていない。外務省は〔2020年1月〕8日,4段階の危険情報でもっとも厳しい「退避勧告」を出す地域を,イラク全土に拡大した。


  アベノミクスもアベノポリティックスも,地に足が着いていない架空的の政治理念

 本日2020年1月9日の『日本経済新聞』朝刊25面の「経済教室」は,苅谷剛彦・オックスフォード大学教授「2020年代の針路(4)人びと束ねる『社会』呼び戻せ」と題した寄稿を掲載していた。この一文は日本のことをとりあげ論じていながら,いままで続いてきた第2次安倍政権の政治・経済については一言も言及しない議論を展開していた。

 要は,とりあげるに値しないのが「アベの為政全般」だという解釈なのかもしれない。もちろん,議論のどこかあちこちにおいて意識的に言及されてはいるが……。ともかく以下に引用する。

 なお,苅谷剛彦かりや・たけひこ,1955年12月19日-  )は,日本の社会学者, 現在,オックスフォード大学社会学科および現代日本研究所教授,セント・アントニーズ・カレッジ・フェローである。この寄稿の要旨(ポイント)は,つぎの3点である。


  ※-1 戦後日本は経済成長中心の国家主義追求
  ※-2 抽象的な理想と安直な推論で政策を立案
  ※-3 社会のさまざまなカテゴリー選択問題重視を


 a) いまから40年前,ひとつの政策文書が提出された。大平正芳首相が招集した政策研究会の報告書である。日本が西欧先進国に追いついたことを高らかに宣言し,「高度産業社会として成熟した日本は,もはや追いつく目標とすべきモデルがなくなった」との自己認識を示した。そして「これからは,自分で進むべき進路を探っていかなければならない」と将来の指針を提起した。

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 その前年,通常国会での大平首相の施政方針演説には「近代化の時代から近代を超える時代に,経済中心の時代から文化重視の時代に至った」との言葉が踊った。エズラ・ヴォーゲルハーバード大教授の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が日本でベストセラーとなった年の出来事だ。

 補注)ヴォーゲルの『同書』は,広中和歌子訳でTBSブリタニカから1979年6月に発売されていた。

 その後の日本は「プラザ合意バブル経済バブル崩壊 → 失われた20年」を経て,2010年代には「日本再生」を政策目標にかかげるに至る。大平首相が求めた「文化重視の時代」は,バブル期の一瞬きらびやかな消費=余暇文化の称揚に終わり,その後は文化も経済成長の道具とみなす「クールジャパン」の時代を迎える。 

 こうして欧米に産業や経済の面で「追いついた」時代認識をもとに,日本は経済を前景化した自己像を描きつづけた。そこに至る経緯と自己像が生み出す問題点は,近著『追いついた近代 消えた近代-戦後日本の自己像と教育-』〔岩波書店,2019年〕で詳述した。

 b) 戦後の日本は経済成長を中心とした国家主義,「経済ナショナリズム」と呼ぶ枠組からはみ出ることなく現在に至る。昨今の大学入試改革をめぐる混乱もその表われだ。英語4技能試験の民間委託は,官邸が主導する産業競争力会議での文部科学相の発言に端を発した。「世界に伍(ご)して成長・発展していく」ために「使える英語力」の重要性が指摘され,その手段として外部試験導入が提案された。

 大平演説から約40年経たいまでも,世界に伍して成長・発展していく産業競争力を主軸に政策が立てられる。経済ナショナリズムにかなう政策の一環だから,グローバル人材の育成という曖昧な政策目標でも,具体的で有効な手段の提供や十分な資源投入ができない政策でも,受け入れられる。

 根底には多様な解釈を許す抽象的な理想をかかげ,そこからの安直な推論(希望的観測)で政策を立案する,近著で「エセ演繹(えんえき)型思考」と呼んだ思考の習性がある。その通用性(妥当性ではない)は,経済ナショナリズムと結びつくことで支えられた。フィードバックを不可欠とする事実や現実から発想する帰納的思考とは正反対だ。

 補注)『教育勅語』が大好きがアベ政権の基本特性も,この「エセ演繹(えんえき)型思考」という不確かな土台の上で,日本の教育制度を無理やりにいじってきたといえる。ここでは,苅谷剛彦が日本の現状のなにを批判的に討究しているか歴然である。

 c) 2020年代が困難な時代になるのは明白だ。団塊世代が80代を迎え,団塊ジュニアは50代後半に差しかかる。いわゆる就職氷河期世代と呼ばれる世代は40~50代を迎える。生産人口の減少と老年人口の増加で,2030年には約1.8人で1人を扶養せねばならない(図参照)。

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 補注)なお,ここでは苅谷剛彦の原文「20年代,30年」は,それぞれ2020年代,2030年に補正した。要は分かりにくいので,以下でも同じにする。

 生産年齢人口の減少が経済成長の足かせとなり,社会保障給付費の増加率が経済成長率を上回る。政府債務増大に歯止めがきかず,毎年の政府予算では歳入の3分の1を新規国債で賄う。歳出の5分の1は負債の返済だ。これが長くもたないことは容易に想像がつく。次世代へのツケ回しができなくなる,それが実感となる10年間が20年代だ。

 日本が直面する課題の解決に一定の経済成長が必要なことは否めない。だがその成長をどう実現するか。成長のわずかな果実をどう有効に使うか。それらを構想するには,経済成長を社会に位置づけ直すことが不可欠だ。世界に伍して成長・発展していく目標の設定を支えるのは,いまだに「追いつき追いこせ」の成長主義を根にもつ経済ナショナリズムだ。最初に成長ありきの発想からの脱却が2020年代の指針となるべきだ。

 d) こうした観点から近年の諸政策をみると,観光立国,文化産業立国,科学技術立国,環境立国など,いまだに経済ナショナリズムに主導された立国論が目につく。困難きわまる2030年代に向けて2020年代に必要なのは,成長主義がみえ隠れする立国論ではない。「社会」を呼び戻すことだ

 社会とはさまざまなカテゴリーで構成される人びとの関係の束だ。ジェンダー,階層・階級,学歴,地域,年齢,国籍,人種・民族などのカテゴリーにより,人びとやその関係の束が社会として集合的に理解される。経済にせよ政治にせよ,そこで生じる現象は社会というフィルターを通して,それぞれに違うかたちで人びとの生活=生き方に影響する。

 経済の停滞は,日本に住む人びとに平均的に影響を及ぼすのではない。消費増税保育所不足,入試改革も同様だ。社会のどのカテゴリーに着目するかで,その影響のみえ方や理解の仕方が異なってくる。働き方改革も,改憲のような高度な政治決定も,その影響は社会を構成するカテゴリーの設定しだいで違ってくる。

 社会のさまざまな問題の理解にも,カテゴリーの選択が深く関わる。たとえば格差や不平等を問題とする場合,どのカテゴリーに着目するか。ジェンダー,年齢,所得,学歴,地域,性自認,国籍,企業,産業などカテゴリー選択は,格差や不平等をどのような問題とみなすか,その解決策をどう講ずるかを左右する。社会問題自体が,選び出したカテゴリーの特徴を帯びて理解されるからだ。

 どの領域の格差(医療・介護,教育,雇用,所得など)を,どのカテゴリーに着目して優先的に是正するか。社会・経済政策の多くは,カテゴリーの優先選択問題と抜き差しがたく結びつく。どの集団が問題提起するカテゴリーを中心にとりあげるか,あるいはカテゴリーによらずに全員均等にするのか。ただし,全員均等にすれば納得されやすいが,それが公正に値するとは限らない。

 e) これらを含め,カテゴリーの選択問題を突きつける「社会」を意識的に呼び戻すことが20年代の課題だ。その場合に,選ばれたカテゴリーに応じて現実の実態を把握する帰納的思考が不可欠なことは明らかだ。

 この点を留意しないまま難問山積の2030年代に立ち向かうことはできない。経済ナショナリズムに引きずられた立国論が危ういのは,社会を構成するさまざまなカテゴリーの選択問題を,視野の外に追いやるからだ。

 経済ナショナリズムに導かれた立国論や新たな成長主義の政策は,パイの拡大には関心をもっても,それをどのようなカテゴリーに注目して切り分けるかという,カテゴリーの優先選択問題を含んだ分配論にはくみしない。自由な市場に任せ,自己責任論を振りかざす経済政策ではなおさらのこと,そもそも社会を構成する個人が,多様なカテゴリーの束と重なり合っていることが消し去られる。

 経済成長が一層困難となり配分の問題がさらに深刻になる2020年代だからこそ,カテゴリーの選択問題を突きつける「社会」を,帰納的思考を通じて現実から呼び戻すことが必要だ。それはカテゴリーの選択問題をみてみぬふりをする経済ナショナリズムやエセ演繹型思考からの脱却でもある。(引用終わり)

 以上,苅谷剛彦の論旨は端的にいってしまえば,アベノミクスの全的な否定である。このアベノミクスが「いまだに経済ナショナリズムに主導された立国論」である事実は,簡単に理解できる。それにしても,アベノポリティックスにあっても露骨に表象されているのは,「社会のどのカテゴリーに着目するかで,その影響のみえ方や理解の仕方が異なってくる」と指摘されても,このような問題把握とは完全に無縁であった点である。

 ましてや「カテゴリーの選択問題を突きつける「社会」を意識的に呼び戻すことが2020年代の課題だ。その場合に,選ばれたカテゴリーに応じて現実の実態を把握する帰納的思考が不可欠なことは明らかだ」などと指南されても,今井尚哉政務秘書官のような補佐官しかまわりに居ないアベにとってしたら,いまさらなにを教えてもらっても動きがとれない。

 そもそも「私物化政治」「忖度の行政」もきわまっていた “アベノ・エコノミカル・ポリティックス” は,だいぶ以前からすでに立ち腐れ同然であった。したがって,いまの政治状況のなかでは,「カテゴリーの選択問題を突きつける『社会』を,帰納的思考を通じて現実から呼び戻すことが必要だ。それはカテゴリーの選択問題をみてみぬふりをする経済ナショナリズムやエセ演繹型思考からの脱却でもある」といわれても,アベの脳細胞に照らして判断するに,とうてい無理難題である。


 「〈働き方改革の死角〉 日本,続く賃金低迷 1997年比 先進国で唯一減」東京新聞』2019年8月29日 朝刊

 時間あたりでみた日本人の賃金が過去21年間で8%強減り,先進国中で唯一マイナスとなっていることが経済協力開発機構OECD)の統計で明らかになった。企業が人件費を抑制しているのが主因だが,「働けど賃金低迷」の状況が消費をさらに冷えこませる悪循環を招いている。

 賃金低迷は現役世代の困窮を招くだけでなく,年金の支給額の低下にも直結する。賃金反転に向けた政策を打ち出せるかが,日本経済の大きな課題として浮上している。

 OECDは残業代を含めた全労働者の収入にもとづき,「1人当たりの賃金」を各国通貨ベースで算出,指数化している。

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 2018年時点での日本人の1時間あたりの賃金は1997年に比べ8.2%減少。これに対し,英国(92%増),米国(81%増)などは軒並み増加している。物価上昇分を差し引いた実際の購買力である実質賃金でみても日本は10%下がったが,英国(41%増),米国(25%増)などは上がっている。

 経済成長が続けば物価や賃金も連動して上がるのがこれまでの経済の基本。それだけに日本だけが下がる理由について専門家の意見は分かれる。ゴールドマン・サックスの元アナリストで,賃金に詳しいデービッド・アトキンソン氏(現・小西美術工芸社社長)は日本が先進国中,もっとも急速に少子高齢化が進んでいるのが要因のひとつと分析する。

 日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8700万人をピークに2015年には7700万人と一千万人も減った。これに伴い,企業の国内売り上げも減少に転じたが,各社は利益を確保しようと,人件費を抑制。「これが消費低迷を招き,企業が人件費をさらに絞る悪循環に陥っている」(同氏)とみる。

 政府も労働者派遣法改正などの規制緩和で企業の人件費削減を容易にした。賃金の安い非正規雇用の比率は1997年の23.2%から,2018年の37.8%に上昇した。〔この〕賃金低迷は年金支給にも悪影響を与える。会社員が賃金額に比例し保険料を支払う部分も大きいためだ。

 政府が〔2019年8月〕27日に公表した新たな年金財政の標準的なケースの見通しでは2047年度の年金の給付水準は,現在より2割近く目減りする。厚生労働省は,ここ数年実質賃金上昇率がほぼ横ばいにもかかわらず長期間にわたり毎年1.1%の上昇が続くことを前提に置く。

 第一生命経済研究所の熊野英生氏は「これまでの賃金低迷状況をみれば,賃金が長期的に上がりつづけるとの見通しは非現実的だ」と指摘。支給額のさらなる低下は免れないと予測する。

【解  説】 金融緩和不発  ため込む企業 「人への投資」急務

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 賃金低迷は現役世代のみならず引退世代の生活も不安定なものにする。生産年齢人口は2065年までに現在より4割少ない4500万人まで減り経済の足を引っぱる。従来の安い賃金で安いモノを作る体制から,高賃金で付加価値の高いモノやサービスを生み出す経済への転換が喫緊の課題だ。

 

 政府は長年のデフレから脱却させるため日銀に大規模な金融緩和を続けさせてきた。一時的な景気低迷なら刺激策が効果を発揮することもあるが,人口減少で構造的に消費が縮小していく状況への処方箋にはならなかった。

 

 円安でみかけ上,輸出企業を中心に企業利益は増えたが,人件費の抑制姿勢は変わらずお金は内部留保として企業内に滞留。1990年代後半に130兆円だった内部留保は2017年度には446兆円にまで積み上がった。一方,円安で輸入物価は上昇し,家計の負担となっているため消費者の購買力は縮小している。

  補注)要はアベノミクスとは “空振り三振” の経済政策を,打席に入って立った時点から意味していた。せいぜいスクイズバントくらいはしたかったが,球はバットにかすりもしなかったという程度に終わっていた,というよりはそもそも3塁に走者がいなかったわけだから,初めから無理難題だらけのエセ経済政策であったと断罪してもいいほどである。

 政府は2019年度の最低賃金を全国平均で27円上げると決定。全国の時給は初めて900円台に乗り東京では千円を超える。だが,根本的には1人当たりの生産性を上げ,日本経済の生み出す付加価値を増やさないと,賃金上昇は続かない。

 

 非正規社員の割合が増え,十分なスキルを身に付けられない人が急増する。企業が賃金とともに社員教育費を削減していることも生産性低下に拍車をかける。職業訓練や能力開発のテコ入れ策など「人への投資」の促進策や,賃上げの余裕のない中小企業再編支援策などあらゆる角度からの政策検討が求められそうだ。(『東京新聞』引用終わり)

 補注)以前アベは,パート労働者(夫婦のうちでも女性配偶者を念頭に置いた話法であったが)の日給月給が25万円だと仮定して「話をしていた」が,この一言でもこの人が日本経済のことをなにも判っていないことは,すぐにバレていた。

 たとえば,パート労働者が時給1000円で,それこそ最大限にムリをしてがんばり,日曜日以外の週6日を勤務時間8時間(実働時間)で働いたとしても,月額(日給月給)は(1月=30日として26日働く計算とする),20万8千円である。最近でこそ,大都市部では時給が千円を超えているものの,地方都市やそのほかの地域にいくと,それも単純的な労働内容となれば,千円という時給はなかなかみつからない。つぎの表をみたい。

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  出所)「バイトの時給は職種・地域でこんなに違う!」『All About マネー』2019年05月03日,https://allabout.co.jp/gm/gc/12032

 仮にアベノミクスの貢献があるのだとしたら,大企業向けのそれだけであった。アベの経済政策が繰りだしてきた諸策は,みなチョボチョボのシケたものばかりであり,ただ目先で「やっている感」を最大限に喧伝してきただけであった。しかし,いまとなっては “騙されるような国民たち” はごくまれである。

 「桃栗三年・柿八年」ともいうが,アベの首相任期は合計すると満8年にもなっている。結局,この「世襲3代目の大▼カ政治屋」は,「渋柿」どころか「桃」も「栗」もろくにヤリクリ(収穫)できないような成果(青い果実?)に終始してきた。

 とどのつまり「政治家としてはいまもなお青二才の坊や」が安倍晋三なのであって,「こんな人」をこの国の最高責任者の立場に就かせたことじたい,国民たちの立場・利害からすれば大きな過誤になっていた。やや脱線気味に触れるが,カルロス・ゴーン前日産会長は,保釈中にレバノンに逃亡したが,安倍晋三君に逃げるところは用意されていない。あるとしたら「どこか」?

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