2015年,ババを引き当てた東芝の原発事業部門,その経営失敗に気づかなかった社外取締役伊丹敬之たち

原発はトランプ・ゲームのババであるが,この事業をアメリカから買収した東芝の対米盲従経営路線の破綻,社外取締役のお飾り性
                   (2016年12月31日)

 

  要点:1 いまどき原発事業で儲けようなどともくろんだ時代錯誤,東芝原発事業部門の迷走的失策

  要点:2 無策・無為(カヤの外)だった社外取締役監査役たち,経営学の大家(?)も理論どおりにはいかない「経営の世界の実際」


  原油市況-原発事業推進の理由にはならないこの市況の変動- 

 1)「NY商品,原油が続落 利益確定や持ち高調整の売り,金は反落」nikkei.com,
2016/12/31 6:01 http://www.nikkei.com/article/DGXLASQ2INYPC_R31C16A2000000/

 2)「原油先物が年初来高値 東商取,今年の取引終了」nikkei.com,2016/12/31 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO11240180Q6A231C1EN2000/

 「芝株,3日で4割下落 原発で巨額損失,不透明感を嫌気」日本経済新聞』2016年12月30日朝刊7面

       f:id:socialsciencereview:20200117052534j:plain


 東芝の株価が下げ止まらない。3日連続で2ケタの下落率となり,〔12月〕29日には一時,前日比26%安の232円と約7カ月ぶりの安値を付けた。終値は3日間で4割強下落した。ウミを出し切ったはずの原発事業で数千億円の損失が発生する可能性があると27日に発表。市場では経営の先行きに対する不信感が強まった。

 補注)この記事で「ウミを出し切ったはずの原発事業で数千億円の損失が発生する可能性がある」との指摘は,2015年中に東芝が露呈させた不正会計の問題が「ウミ」として,さきに存在していた事実を指している。

 本ブログでは,たとえば2015年10月5日に,主題「経営学者伊丹敬之の真価,企業問題に関する『理論と実際』にかいまみえる『落差』」,副題「経営学者が理論で語る『事業の実践』のきびしさ」を記述し,「経営管理問題の理論と実践」に関するきびしい現実をとりあげ議論してみた。

 註記)「同上」記述へのリンクは,⇒ https://socialsciencereview.hatenablog.com/entry/2020/01/13/160639

 経営学界のなかではたいそうエライ先生だといわれてきたその経営学者であっても,「社外取締役陣」(彼は監査役)にくわわっていた「東芝の事業経営・内部事情」は,実際のところ知悉していなかった。これまで報道された事実を参考にしていえば,彼らは実は「東芝の経営内容」をなにもしらず,完全に無知(無縁?)の立場に疎外されていた実情が暴露されている。

 この種の事情があったにせよ,結局「経営学者の経営しらず」という恥ずかしい立場が,その経営学専攻者においても露呈させられるハメになっていた。こちらの論点について本ブログは,2015年10月15日の記述,主題「経営学者伊丹敬之に問われる『学者の倫理』問題」,副題「経営の理論と実際に関して,まともに・きびしく,問われていない経営学者の立場」として議論してみた。

 註記)「同上」記述へのリンクは,⇒ https://socialsciencereview.hatenablog.com/entry/2020/01/14/211344

 東芝のホームページにはこういう説明がある。まず「役員・社外取締役紹介 社外取締役について」「(1)社外取締役の氏名など」の項目では,伊丹敬之をこう解説している(この解説に関する日付はこのページをみるかぎり明記されていないので,2016年12月時点のものとしておく)。

 a)「伊丹敬之 指名委員会委員」 「監査委員会委員」として「取締役会に23回(96%),指名委員会に12回(86%),報酬委員会(2015年9月まで)に3回(100%)出席しました。また,監査委員会委員(2015年7月から2015年9月までは監査委員会委員長)に就任した2015年7月以降,監査委員会に29回(94%)出席しました。経営学の専門家,大学の組織運営者としての幅広い実績と識見にもとづき,適宜必要な発言をおこないました。

 b)「イ.当社の法令又は定款に違反する事実その他不当な業務の執行に関する対応の概要」 社外取締役である伊丹敬之氏は,本件事実が発覚するまで,当該事実を認識しておりませんでしたが,同氏は日ごろから当社取締役会等において,コンプライアンスの強化徹底の観点から発言をおこなっておりました

 本件事実の発覚後,同氏は2015年7月22日に監査委員会委員長(2015年9月以降は監査委員会委員)に就任するとともに,同月29日に設置された経営刷新委員会の委員長に就任し,本件の再発防止策として,取締役会の機能と構成,監督機関の強化を中心に当社のコーポレート・ガバナンス改革の基本方針に関する提言をおこなうなど,適切にその職務を遂行しました

 社外取締役である島内 憲,斎藤聖美,谷野作太郎の3氏も,同様に,本件事実が発覚するまで,当該事実を認識しておりませんでしたが,日ごろから当社取締役会等において,コンプライアンスの強化徹底の観点から発言をおこなっておりました。3氏は,本件事実の発覚後,経営刷新委員会の委員に就任し,本件の再発防止策として,取締役会の機能と構成,監督機関の強化を中心に当社のコーポレート・ガバナンス改革の基本方針に関する提言をおこなうなど,適切にその職務を遂行しました。

 --この東芝側の説明,いささかならずいいわけがましいだけで,きわめて強度に手前味噌である。いいぶんが振るっている。

 自社の社外取締役たちが(多分)「節穴の目」しかもちあわせていなかった立場に置かれていたとしても,これはいたしかたない点であったのである。むしろ,わが社に「ことが実際に起きて〔発覚〕しまった」前後を問わず,ともかく「日ごろから当社取締役会等において,コンプライアンスの強化徹底の観点から発言をおこな」うよう励んでくれていたゆえ,彼らの働きはそれなりに「たいそうけっこうでした」というふうな,なにかをかばっているかのような調子に聞こえる。

 率直に感じた点をいえばそのように,仲間うちでのかばいあいに聞こえるのである。その実体があったのかどうか不詳のままである。このさい,社外取締役たちのご機嫌をも害してしまい,嫌われたりしたら(!?)元も子もないということか。伊丹敬之のような関係者は,事件が起きた当時,株主総会においては,株主たちや,たとえばすでに公刊されていた文献,今沢 真『東芝不正会計-底なしの闇』(毎日新聞出版,2016年1月)に,きびしくこう問われていた。

 「社外取締役監査法人,会計部門の責任者が不正をまったく認識できていなかったのはなぜか。それをやるのが最大の仕事ではないか,社外取締役には外務省出身者や大学の先生が入っているが,全然役に立たないのではどうにもならない」。「3人の社外監査委員のなかには財務・経理に関して十分な知見を有していなかった」。そうまで「いわれては,華麗な職歴が泣くというものだろう」。

 

 「社外取締役は役割を果たしていないのか?」「まるっきりの想像だが,提訴に関して役員が説明しないことを,社外取締役はしらされていなかった可能性がある」「しらされていたら,社外取締役から『おかしい』と声が上がるはずだからである」。「社外取締役は数だけ7人に増えた」「しかし,情報開示について現時点では機能を果たせていない」。

 註記)今沢 真『東芝不正会計-底なしの闇』毎日新聞出版,2016年1月,28頁,81頁,120頁,121頁。

 ここで,あえて伊丹敬之に好意的に解釈をくわえるのであれば,この経営学者もまた「東芝の暗い闇」に足をすくわれていた。しかし,伊丹が同時にまた,その闇をわずかも暴けていない社会科学者であったとすれば,この経営学者存在意義は一挙に半減するか,あるいはそれがもともとなかったことを意味する。

〔ここでようやく ① の記事本文に戻る→〕 売買高は6億3875万株と,会計不祥事が表面化したさいの2015年5月12日(4億株強)を超え,東証1部の3割を占めた。売買代金も1653億円と東証1部で最大で,2位のトヨタ自動車の2倍強に達した。時価総額は3日間で8000億円近くを失い,29日には一時,1兆円を割りこむ場面もあった。28日に国内外の格付け会社3社が東芝を格下げしたことも嫌われた。

 損失対象は2015年末に買収した原発建設を担う米社。当時の想定よりコストが膨らみ,企業価値を切り下げる減損処理が必要になる。ただ損失がどこまで膨らむか未確定のため,ひとまず株を売る動きが広がった。「他の損失リスクもあるのではとの疑念をぬぐえない」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成氏)との声も聞かれた。

 原発事業では2016年3月期に米子会社を中心に約2500億円の減損損失を計上。大規模な損失は一巡したとみられていただけに,市場のショックも大きい。東芝株は2016年12月15日には2月の安値の3倍まで上昇していた。

 

 田原総一朗東芝不正会計,過大な原発事業計画が失敗の原点」(『nikkei BP net』2015.09.02)から

 この記事そのものの引用は少しあとからとなる。その前に田原総一朗に関する話をしておきたい。

 だいぶ昔の記憶になる。原発問題に関してこの田原総一朗は,歴史的に深い関与をしてきたジャーナリストである。つづいて引用する記事に紹介されている人物紹介は,こうなっている。

 --1934年滋賀県生まれ,早大文学部卒業後,岩波映画製作所,テレビ東京を経て,フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」,1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。

 新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして,1998年,ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また,オピニオン誌『オフレコ!』を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく,学生たちの指導にあたっている。

 著作に『ドキュメント東京電力』(文春文庫),『塀の上を走れ-田原総一朗自伝』(講談社),『元祖テレビディレクター,炎上の歴史(文藝別冊)』,『日本人と天皇 昭和天皇までの二千年を追う』など多数。近著に『安倍政権への遺言』(朝日新書),『戦争・天皇・国家』(角川新書,猪瀬直樹氏との共著),『人の心を掴む極意』(海竜社)がある。

 原子力原発の問題に関してウィキペディアは,この田原総一朗の仕事関係を,つぎのように説明している。

 『原子力戦争』 1976年には,原子力船むつ問題を扱った映画『原子力戦争』をATG製作 註記)で映画化・公開した。映画は原田芳雄扮するヤクザが原子力発電所をめぐる利権争いに巻きこまれるという原作を,脚本にしあげたものであった。問題作とも評され,田原は発表時脅迫されたという。

 補注)ATGという略称は「日本アート・シアター・ギルド(にほんアート・シアター・ギルド)」のことで,1961年から1980年代にかけて活動した日本の映画会社である。他の映画会社とは一線を画す非商業主義的な芸術作品を製作・配給し,日本の映画史に多大な影響を与えた。また,後期には若手監督を積極的に採用し,後の日本映画界を担う人物を育成した。

 著書『原子力戦争』(筑摩書房,1977年)では,底辺の人々(反対運動,賛成運動の人びと,原子力潜水艦の技術者など)に取材した。だが,実際にものごとを決めているのは,「社会の上部の政治家や官僚だ」と気がつき,その後,政治家や官僚について取材していく「契機」となったという。この『原子力戦争』の内容は,国会でも話題となり,大手広告会社の逆鱗に触れ,田原は東京12チャンネルを辞職したといわれる。

 補注)ここで大手広告会社とは電通であり,日本における原子力村の有力会員。

 なお,現在(その後)における田原の原子力発電に対する姿勢は,東日本大震災後も「将来的には廃止が望ましい」とし,「あと20年は原発を維持すべきだ」と主張するなど,原発容認派に転向していた。自己のツイッターのなかでも「日本の原子力発電所の技術は世界有数」だと,日本の原子力技術を賞賛する発言している。

〔ここから,② の東芝関係の本文記述を開始する ↓ 〕

 組織的に利益を水増ししていた「不適切会計」問題の責任をとり,東芝の田中久雄社長をはじめ歴代の3社長が2015年7月21日付で辞任した。同年9月末から新体制が発足し,取締役会を構成する11人の取締役のうち,社内取締役が4人,社外取締役が7人で,半数以上が社外からとなる。

 1)新体制発表も有価証券報告書提出を再延期

 新たな社外取締役三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏,アサヒグループホールディングス相談役の池田弘一氏,資生堂相談役の前田新造氏といった有力企業の社長経験者3人のほか,会計士2人,弁護士1人が就任する。新しい経営体制を発表し,イメージを刷新すると東芝が打ち出したのは〔2015年〕8月中旬のことだが,8月31日に予定していた2015年3月期の決算発表を再度延期した。

 米国子会社での不適切な会計処理など約10件が新たに判明したためだ。従業員の内部通報や監査法人の監査でわかったという。8月31日に都内の本社で会見した室町正志社長は「あらためて深くお詫びする」と陳謝するとともに,9月7日までに決算発表と有価証券報告書の提出ができない場合には「進退も含めて考えたい」と述べた。

 2)「不正会計の原点はウェスチングハウス買収」(『日経ビジネス』参照)

 東芝の不正会計を調査した第三者委員会の報告書(2015年7月20日発表)によると,2009年3月期から2014年4~12月期で計1518億円の税引き前利益を水増ししており,さらに568億円の追加修正額(8月18日発表)が明らかになっている。

   f:id:socialsciencereview:20200117055154j:plain

   出所)http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/9722d4a0ee0727463dc6b16385ea403b

 辞任した歴代社長が「チャレンジ」と称して各カンパニー社長に収益改善の目標値を示し,その達成を迫ったという。また経営陣はメールや電話で「工夫をしろ」などと圧力かけて利益のかさ上げを迫るなどして,多くの事業部門が不正の会計を組織的におこなってきたとされる。

  関連する図表の紹介(挿入資料) ※

  f:id:socialsciencereview:20200117060601j:plain

  註記)『日本経済新聞』2016年12月28日朝刊。

  f:id:socialsciencereview:20200117060503j:plain

  註記)『日本経済新聞』2016年12月28日朝刊。

 なぜ「名門」「老舗」と呼ばれた東芝がこんな過ちを犯したのか。その謎に迫る記事が,『日経ビジネス』2015年8月31日号の特集「東芝 腐食の原点」に掲載されている。特集第2部の「不正の動機は何か 6600億円買収の誤算」と題したリポートだ。この記事によれば,東芝が不正会計を処理するようになった原点は,米国の原子日経ビジネス2015年8月31日号表紙力発電機器大手ウェスチングハウス(WH)の買収だったという。

 2006年,東芝ウェスチングハウスを約5400億円で買収,のちの追加出資分を含めると買収総額は6600億円になった。実は当初,ウェスチングハウス三菱重工業が買収しようとしていた。その買収額は2000億円程度だったが,結局は買収を見送っている。この2000億円と比べれば,東芝の買収総額がいかに高いかが容易に想像できる。

 補注)本日の記述の題名は「原発はトランプ・ゲームのババであるのに,この事業をアメリカから買収した東芝……」という文句を付けていたが,この段落までくると,その意図がだんだん理解してもらえるはずである。 

 3)米WH社の買収で,加圧水型原子炉手に入れる

 一般的な原子炉には沸騰水型原子炉(BWR)と加圧水型原子炉(PWR)がある。BWRは核分裂によって生じた熱エネルギーで水を沸騰させ,高温・高圧の蒸気でタービンを回して発電する方式。これに対し,PWRは核分裂の熱エネルギーを加圧水に伝え(一次冷却系),それを蒸気発生器に通して高温・高圧の蒸気をえてタービンを回す方式だ。

 f:id:socialsciencereview:20200117061311j:plain

  出所)http://www.hitachi-hgne.co.jp/nuclear/moreinfo/s_power/waterway/

 BWRは原子炉構造を比較的に単純化できるものの,放射性物質に汚染される部材が多くなるデメリットがある。一方のPWRは放射性物質を一次冷却系に閉じこめることができるのでタービン建屋全体を遮蔽する必要がなく,保守や安全性の面で有利と言われる。

 東芝は米ゼネラル・エレクトリック(GE)と組んでBWRを手がけてきた。東京電力をはじめ東北,中部,北陸,中国の各電力会社がBWRを採用している。一方,三菱重工はPWRを手がけ,北海道,関西,四国,九州の各電力会社が採用している。

 ウェスチングハウスが手がけていたのはPWRであり,そのため当初,三菱重工が買収しようとしたのは当然のことだったといえる。世界の商用原子炉の流れをみれば,当時,BWRよりもPWRのほうに勢いがあった。そうした状況を考えて,東芝はPWRを手がけるためウェスチングハウスを6600億円という高額で買収したのだ。

 4)福島原発事故後も原発事業計画は変更せず

 『日経ビジネス』の記事に戻ると,ウェスチングハウスを買収した2006年当時,東芝西田厚聰社長は経営方針説明会で「2015年度までに(原子力事業の)売上高を3~3. 5倍にする」とぶち上げた。2年後の2008年5月には,「2015年までに(原発新設で)33基の受注を見込む」との目標をかかげた。

 西田氏の後任として社長に就任した佐々木則夫氏は2009年8月,「2015年度の(原子力事業の)売上高は1兆円,全世界で39基の受注を見込む」と表明する。当時はすでにリーマンショックにより世界経済は大きく後退していた時期にもかかわらず,強気の路線を崩すどころか,原発受注計画を6基上乗せして39基としたのだ。

 ところが,2011年3月11日に東日本大震災が発生し,翌12日に東京電力福島第1原子力発電所で重大事故が発生する。世界の原発をとり巻く状況は大きく変わることになるのだが,それでも東芝原発事故から2カ月後5月24日,佐々木社長は経営方針説明会の席で再び「2015年度目標は39基,売上高1兆円をめざす」といいきったのだ。

 福島原発事故後にも原子力事業の計画を変えなかった東芝だが,その計画はいまどんな状況にあるのか。2015年8月現在,新規原子炉の受注実績は中国で4基,米国で4基,合計で8基しかない。 バラ色の未来を想定しつづけ,無理を重ねる。

 補注)その後,原発世界市場に関する最新の事情には,一定の変化が現われているが,ここではつぎの報道を,途中に挿入する体裁で引用しておく。

  世界でしぼむ原発市場
        日立,東芝三菱重が核燃事業統合へ ▼
     =『東京新聞』2016年9月30日朝刊 =

 

 日立製作所東芝三菱重工業の3社が原発の燃料製造事業を統合することで調整していることが〔2016年9月〕29日,分かった。東京電力福島第1原発の事故の影響で国内の原発はほとんど稼働せず財務が悪化しており,来春をめざした統合で経費節減などをめざす。しかし,原発産業をめぐる経営環境は国内外で厳しさが増しており,狙いどおりの効果を上げるのは難しい状況だ。 

  f:id:socialsciencereview:20200117061915j:plain

 統合を検討している3社は,日立,東芝,三菱重が直接出資する2社と,東芝傘下の米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)などが出資する1社。安倍政権は原発の再稼働を急ぐが,国民負担を増やす議論が始まるなど,矛盾や課題が山積している。安倍首相はインドやトルコなど海外に原発を売りこむが,原発産業は世界でも厳しさを増している。

 

 欧州ではドイツが脱原発の方針を決定。フランスは原発大手アレバが開発した原子炉に相次いでトラブルが発生し,2015年度まで5年連続で純損益が赤字になり,政府が支援に乗り出している。英国は二酸化炭素(CO2)の排出を抑えるため原発の新設を決めたが,事業者の採算割れを防ぐため1キロワット時当たり12. 21円(一ポンド=132円換算)の収入を保証する仕組を導入。市場で取引される電力価格(一キロワット時当たり5. 5円程度)の2倍を超え,足りない分は国民が負担する状態だ。

 

 米国では採掘困難な地層から石油や天然ガスがえられるようになったシェール革命で火力発電が安くなり,コストに劣る原発廃炉が相次ぎ決まっている。新興国では原発の増加がみこまれている。だが,世界の原子力産業を調査する市民グループによると,中国では原発への投資額は再生可能エネルギーの2割弱。インドでも2012年以降,風力の発電量が原発を上回る傾向が続いている。
 註記)http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201609/CK2016093002000126.html

  リーマンショックをものともしない強気の受注計画を発表するなか,実は東芝は2009年3月期に3436億円の最終赤字を計上している。この赤字転落が予想されたからこそ,原子力事業で赤字を埋めるために過大な期待を寄せたのかもしれない。そう推測することもできる。

 前述したように,不正会計問題を調査した第三者委員会が,歴代社長が「チャレンジ」を迫り,税引き前利益を水増ししたのは2009年3月期からと指摘しているが,それはちょうど西田,佐々木両氏(佐々木氏の社長就任は2009年6月)の時代に始まっているのだ。

 東日本大震災後,ドイツの総合電機大手シーメンス原発事業から撤退を表明する(2011年9月)。フランスの原子力大手アレバは2011年から4期連続の最終赤字に陥り,フランス政府の救済を受けなければならなくなっている。さらに,米GEの原発事業の売上高は約10億ドルで,総売上高の1%に満たない。

 世界の原子力産業が大きく変化していくなか,東芝はあくまでもバラ色の未来を想定し,無理に無理を重ねたのではないかと思われる。こうしたことが不正会計処理の大きな動機になっている。『日経ビジネス』はそう指摘する。

 5)「その場の空気」が組織を呪縛する

 原子力産業を取り巻く世界の環境が大きく変化しても,東芝は虚構を重ね,事業計画をすみやかに変更することができなかった。「2015年度の売上高は6300億円」と下方修正したのは2013年8月,田中久雄社長の時代になってからだ。

 東芝はいち早く社外取締役を導入し,ガバナンス改革の先駆者とみなされていた優良企業のはずだった。その「名門」が会社ぐるみで不正をおこなったのは,作家の山本七平さん(故人)が『「空気」の研究』(文春文庫)に書いたように,組織全体が「その場の空気」によって呪縛されてしまったからなのだろう。

 トップが「売り上げと利益をあげろ」と無理やりいったとき,そこに矛盾や問題があることが分かっていても,誰も「NO」といえない日本的な風潮があったのだ。私たち日本人は,「その場の空気」に縛られているかぎり,いつになっても失敗を繰り返してしまうのかもしれない。

 註記)以上,http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/100463/090200027/〔~ 090200027/?P=6〕

 

 アメリカ】ワッツバー原発2号機が稼働開始。米国で20年ぶりの新規原発『Sustainable Japan サステナビリティニュースメディア』2016/11/11

 米国テネシー川流域の総合開発を手がけるテネシー川流域開発公社(TVA)は〔2016年〕10月19日,テネシー州東南部レイ郡に位置するワッツバー原子力発電所2号機(1,218MW)の運転を開始したことを発表した。

 アメリカで新たな原子力発電所が運転開始したのは,1996年に同発電所1号機(1,121MW)が運転開始して以来20年ぶり。完成した2号機は,1号機と同じ加圧水型原子炉(PWR)で,ウェスティングハウス製。1970年代に建設が開始していたため,最先端の第3世代原子炉ではなく,第2世代の原子炉。

 同機の建設が始まった1973年,アメリカは原発建設の最盛期を迎えていた。しかし,1979年のスリーマイル島での原発事故,1986年のチェルノブイリでの原発事故を受けて,アメリカの原子力産業は停止状態に。規制強化に伴って原発にかかる費用が急上昇し,TVAは経営破綻寸前まで追いこまれた。そのため,ワッツバー原子力発電所2号機の建設計画は,1980年代後半に一時中止となった。

 しかし2000年代,環境規制の強化を受けて,石油や石炭などの化石燃料の代替として再び原子力が着目されるようになった。連邦政府のローン保証を用意して原発を推進したブッシュ政権の動きは「原子力ルネサンス」と呼称された。この潮流に乗り,TVAは2007年にワッツバー原子力発電所2号機の建設を再開。

 2011年に福島第1原子力発電所の事故が発生したことを受け,連邦政府原子力発電規制当局である米原子力規制委員会は,原発設計に関し9ヶ所を修正し,そのうち2ヶ所は建設中のワッツバー原発2号機建設にも該当し,設計のやり直しがなされた。昨〔2015〕年末に2号機は米原子力規制委員会から40年間の運転許可をえ,この日の完成に至った。

 当初の予算をはるかに上回る47米〔億,←原文は抜けている語〕ドル(約4,900億円)という費用を要したワッツバー原子力発電所2号機だが,TVAは同機が今後40年以上にわたって低コストで環境負荷の低い電力を供給するとしている。同発電所の2機によって発電される電力は,アメリカ南部複数州の130万世帯分にあたる予定。

 米国では,福島第1原子力発電所事故のあとも,原子力発電所は稼働を続けているものの,ここ20年間で原子力発電の新規稼働はなく,原子力発電割合は20%に留まっていた。運営主体のTVAは,原発稼働により温室効果ガス削減効果が期待できるとしている。

 註記)https://sustainablejapan.jp/2016/11/11/first-new-us-nuclear-reactor-in-20-years/24209

 この記事は,第2世代の原発を40年も経ってから,それも新設あつかいした発電所として完成させ,稼働させた事実を報じていた。なんとも悠長な原発事業の進行状態であったというほかない。その間における自然・再生可能エネルギーの開発・利用が飛躍的に進歩している現実は,まったく度外視されたまま,別世界での出来事になっていた。

 自動車産業の製造・販売の問題として考えてみればいいのである。「40年前に設計された新車」の図面を基本に使い,それもいまごろ再生させて製造・販売する自動車会社が,どこにあるのか? 原発と自動車はそう簡単に並べて比較はできない製品とはいえ,たとえ話としては理解の手がかりを提供してくれるはずである。

 

 東芝は不可解な『巨額損失』の経緯解明を」nikkei.com,2016/12/30,https://www.nikkei.com/article/DGXKZO11235380Q6A231C1PE8000/

 会計不祥事で再建中の東芝に,新たな巨額損失の可能性が浮上した。昨〔2015〕年末に子会社の米ウエスチングハウスを通じて買収した,原子力発電所の建設などを手がける米企業で想定外のコストが生じ,数千億円規模の減損損失が発生するおそれがあるという。

 財界トップを輩出した名門企業は重大な岐路を迎えたといえる。東芝の経営陣にまず求められるのは損失額の1日も早い確定と,なぜ巨額の損失が出る見通しになったのか,経緯の解明だ。東芝の説明によると,原発をめぐる安全意識の高まりから,米社の手がける原発建設のコストが予想以上に膨らみ,巨額の損失につながったという。

 だが,原発の安全性に厳しい視線が注がれるようになったのは最近の話ではなく,東京電力福島第1原発事故以来だ。昨〔2015〕年末に買収を決める時点で,考慮に入れるのが当然の要素だろう。くわえて当時の東芝は会計不祥事の渦中にあった。さらなる問題を起こせば,上場廃止を含めて市場や社会から厳しい制裁を科されるのは,必至の情勢だった。

 そんな企業がなぜ,これほどの失敗を重ねたのか,理解に苦しむ。買収相手の資産査定でよほど大きな見落としがあったのか,それ以外の深い事情が隠されているのか。納得いく説明が聞きたい。いずれにせよ同社は今後,解体的出直しを迫られるだろう。複数の事業を抱える「総合電機」という企業のかたちをいつまで継続できるか,先行きは見通せない。

 だが,発想を切り替えれば,今回の事態を再出発の機会ととらえることもできるのではないか。たとえばフラッシュメモリー事業だ。最大手の韓国サムスン電子にも対抗しうる強い事業だが,東芝の一事業部門にとどまるかぎり,十分な資金を調達できず設備投資競争に劣後するかもしれない。

 むしろ独立して外部のリスクマネーをとり入れたほうが展望が開ける,というみかたがある。原発事業も,国内他社との再編集約を含めさまざまな選択肢が浮上するだろう。日本では東芝日立製作所三菱重工業の3つの原発メーカーが並び立つ。「多すぎる」という声は前々からあった。

 企業の再生や事業の再構築を成功に導くには,強力なリーダーが不可欠だ。社内外を問わず有為の人材を登用し,難局に立ち向かわなくてはならない。(引用終わり)

 この日経の記事は,「原発事業じたいを否定すること」は,けっしていっていない。東芝が昨年(2015年)中に話題となった困難は,① と ② で言及してあったが,このように指摘されるような経営問題を,この会社は再び惹起させていた。ということであれば,社外取締役たちの見識(それなりの立場における「企業観や経営手腕」?)もまた再び問われる。というよりも同時にまた,いったいなんのための東芝役員の立場に入っていたのかも,非常にきびしく問われている。

 次項 ⑤ は,そのあたりに関連する「経済の背景・経営の事情」を解説している。

 東芝がはまった米原発の難路」 (日経)米州総局稲井創一「NY特急便」『日本経済新聞 電子版』2016/12/30 9:05

 米南東部ジョージア州オーガスタ。街の中心から30分ほど車で走ると巨大なコンクリートの塊がみえてくる。大規模損失に揺れる東芝子会社のウエスチングハウス(WH)が原子炉を供給するボーグル原子力発電所だ。このボーグル原発3,4号機(下掲画像)。今〔2016〕年5月時点の工事進捗率は2~3割だった(ジョージア州)。

  f:id:socialsciencereview:20200117063530j:plain

 「米原子力規制委員会(NRC)が頻繁にチェックに訪れ,そのたびに作業が中断する」。今〔2016〕年5月に現地を訪れたさい,ある現場社員がこうつぶやいたのを思い出す。2011年の福島第1原子力発電所事故やテロ脅威の影響もあり,現場にはNRCの人間が常駐し工事に目を光らせる。設計変更まで求めるNRCの関心は「安全」であって「工期」ではない。

 【2020年1月17日補足:参考記事

 一般社団法人日本原子力産業協会『JAIF』は,2019年8月1日の「米国で建設中のボーグル3号機,初装荷燃料を発注」という記事で,こうしらせていた。

 
 米国のジョージア・パワー社は〔2019年〕7月30日,同国で約30年ぶりの新設計画として進めているA.W.ボーグル原子力発電所3,4号機(各110万kWのPWR)(=写真)建設プロジェクトで,3号機の初装荷燃料を発注したと発表した。価格は明らかにしていないが,2020年夏にも建設サイトに搬入とみられている。

 

 3,4号機は2013年3月と11月にそれぞれ本格着工。ほぼ同時期に着工したV.C.サマー2,3号機(各110万kWのPWR)と同じく,米国初のウェスチングハウス(WH)社製AP1000となっている。

 

 設計初号機の建設にともなうさまざまな問題や,2017年3月にWH社が米連邦倒産法にもとづく再生手続を申請したこともあり,両炉の完成日程は当初計画から約4年先送りされ,現在はそれぞれ2021年11月と2022年11月となっている

 註記)https://www.jaif.or.jp/190801-a 

 5月時点でボーグル3号機の稼働時期は2019年6月,4号機が2020年6月と当初予定から約3年遅れていた。原発工事に慣れた技術者が米で枯渇していたこともあるが,米原発工事の安全・品質基準の厳格化がとりわけ足かせになっていた。工期の遅れは作業員の雇用期間が延びるなどコスト増につながる。今回の巨額損失の理由として,東芝の畠沢守執行役常務も「プロジェクト完成にかかるコストが想定より大きかった」と説明した。工期をめぐるなんらかの要因が損失増につながっている可能性がある。

 しかし,原子炉を供給するWHがなぜ,原発建設の巨額損失リスクを負うのか。2015年12月,WHは原発建設のパートナー,米エンジニアリング大手シカゴ・ブリッジ・アンド・アイアン(CB&I)から原発建設を手がけるCB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を買収した。買収を発表した2015年10月のCB&Iの資料によると,WHは2億2900万ドル(約270億円)を現金で支払うことになっている。

 WHのダニー・ロデリック会長は「1つのチームとして能力を拡大できる」として,WHが得意とする原子炉周辺だけでなく,より広範な領域で原発工事を手がけるメリットを強調した。一方,CB&Iのフィリップ・アシャーマンCEOは2015年11月の決算会見で,S&W売却について「原子力ビジネスの売却で事業計画が立てやすくなり株主の満足にもつながる」と述べた。

 通常,工事の延期による費用は建設・エンジニアリング会社が負担する。電力会社への賠償も発生しかねない。CB&Iは建設会社にとって生命線の「工期」に不透明感がつきまとう原発ビジネスはもはやリスク以外なんもでもないと判断。「原発建設」から距離を置いた。結果,リスクをとったWHは買収で損失範囲を拡大させた。一口に建設といっても調達,設計,据え付け,試運転,労務管理など多岐にわたる。CB&Iからすればこうしたリスクからうまく逃れたことになる。

 WHが買収したS&Wはボーグル以外にもサウスカロライナ州のVCサマー2,3号機や中国などWHが原子炉を供給する別の発電所でも建設を担う。ある市場関係者は「今回の損失の詳細も判然とせず今後も損失リスクは残る」と指摘する。

 「原発売上高1兆円の旗は下げない」。2011年3月11日の東日本大震災による原発事故以降も,当時の佐々木則夫社長は原発強化の姿勢を強調していた。しかし「絶対ない」(佐々木氏)としていた共同出資者だった米エンジニアリング会社ショー・グループの子会社が,2012年にWHへの出資を引き揚げ,契約にもとづきその分を東芝が約1250億円で引きとらされる事態となった。

 S&Wを売却したCB&Iと共通するのは,「3・11」以降,規制をめぐる環境が一変して原発ビジネスのリスクが高まったという認識と素早いリスク回避の動きだ。対する東芝は積極的にリスクをとりこみつづけ,その結果が,相次ぐ巨額損失と大規模リストラを招いた。

 米原発関連の損失が明るみに出た2016年12月27日から3日間で東芝株は41%下落。一方,同期間でCB&Iは6%安,ボーグルやVCサマー発電所を運営する会社の親会社サザン電力は0. 1%安,WHの建設パートナーのフルアー社も0. 8%安にとどまった。米原発ビジネスで一手にリスクを背負いこんだ東芝の苦悩を株式市場は如実に映し出す。(ニューヨーク=稲井創一)

 註記)http://www.nikkei.com/article/DGXLASGN30H04_Q6A231C1000000/

 ところで,アメリカの次期大統領は偶然にもトランプという姓であるが(ただし,このトランプ:Trump はドイツのもとの苗字: Drumpf を変えたもの),日本の東芝は,アメリ原発事業を,トランプ・ゲームでのババの役回りであるかのようにわざわざ押しつけられる経営判断を,それも皮肉なことに「失敗・失策の意思決定」を反復しつつ記録してもきた。

 そして,そうしたをみとがめ阻止すべき役目をもっていたはずの,経営学者伊丹敬之を含めた東芝社外取締役陣は,原発関連事業に関したことのなりゆきに,いっさい気づいていなかった。結局,なんの役にも立っていなかった。いったい,なんために,いまも存在している「社外取締〈役〉」の陣容(人たち)なのか,根本から疑問が尽きなかった。

 ここで参考にまで指摘しておくと,東京理科大学大学院イノベーション研究科のホームページ(当時)には,つぎのような報告が記載されていた。

   ◇ 伊丹敬之教授が東芝の経営刷新委員長に就任
         = 2015/08/04 掲載 =

 

 東芝が不適切会計問題に係る調査報告書を受けて設置された経営刷新委員会の委員長に本専攻の伊丹敬之教授が就任しました。経営刷新委員会は,社外の有識者が自由に意見を交わして助言する組織として,調査報告書での指摘事項を考慮し,経営体制,ガバナンス体制及び再発防止策等を検討します。
 註記)http://most.tus.ac.jp/mot/news_event/detail.php?i=859

 経営学者であるはずの伊丹敬之はそのうち,東芝の「以上に関する回顧」録,つまり自己分析( ⇒ その体験の反省を学問的に「見える化」する?)を,ぜひとも書物に表現するかたちをもって公表してほしいものである。「後進」のためにも,である。伊丹の筆力にかかれば,きっと,おやすい御用であったと拝察する。

 補注)ここに記しておいた「期待」(2016年12月のもの)は,残念ながら実現しないままに経過していた。現在,2020年1月の時期になっているが,今後に向けてさらに期待することは止めにしておく。

------------------

※ 以下の画像には Amazon 広告へのリンクあり ※