企業目的・評価の問題,付加価値や労働分配率の問題,最近における「安倍1強」が日本を「衰退させている問題」

企業評価と企業目的-最近における企業の付加価値や内部蓄積の問題をめぐる考察-
             (2017年2月7日更新,2009年2月8日)

  要点:1 企業の営利目的をどのようにとらえるか

  要点:2 企業の現実からみた経済の事情・経営の目標


 「企業評価論にもとづく付加価値論」

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 「稲葉陽(イナバ・ヨウジ)」(画像)は,日本大学法学部第一部政治経済学科教授,ソーシャル・キャピタル,日本経済,設備投資,コーポレート・ガバナンスなどを研究している。この稲葉が,2009年2月2日朝日新聞朝刊「私の視点」に「企業評価-利益より付加価値額に着目を」という論説を掲載していた。

 出所)画像は,http://www.nira.or.jp/past/icj/seminar/2005/youyaku/05a.html

 a) 稲葉は「企業の目的は付加価値をつくり出すところにある」と定義する。現在の企業評価は,

    自己資本利益率(ROE:Return on Equity)や

    総資本利益率 (ROA:Return on Assets:総資産利益率

など,利益率でみるのが普通だが,これは株主価値の評価としては有効であっても,「企業価値の評価法」としては不十分である。

 そこで,新しい企業評価法として,総資本付加価値率(VAOA:Value Added on Assets)の導入を訴える。これは,企業がもつ資産に対して「賃金を含む付加価値」を,いくら計上したかという点をみる指標である。

 b) 稲葉はさらに,企業内部では生産性に直結する付加価値を意識して経営しているのに,企業外部の投資家や国民からは,その付加価値額が分からないというのは問題だと指摘する。つまり「企業の目的は付加価値をつくり出すところにある」のだから,「経営者が頑張って雇用を守り付加価値額を維持していても,利益が下がればただちに経営責任が問われ」るのは問題である,というのである。

 しかし,「企業の本当の評価はどれだけの付加価値を生んだかという点からなされるべきだとすれば,この総資本付加価値率で評価されるべきだ」という稲葉の主張は,経営学を専攻する「本ブログの筆者」から判断するに,そのように「おこなうだけである〈評価〉の『立場・方法』」は採れない。当該の問題は,そのような思考によって片づけられる,済ませられるほど,単純明快な論点ではありえない。

 稲葉陽二は経済学者の思想をもって,新しい企業評価法だと唱える「総資本付加価値率(VAOA:Value Added on Assets)の導入」を訴えているが,この考え方は格別新味のある概念の発想ではない。経営学会計学の陣営における学史的な理論蓄積を踏まえていえば,いささか陳腐な「新構想」の提示であった。

 

 経営学者の資本付加価値率〔極大化〕論」

 すでに1959年4月,経営学者(元一橋大学商学部教授)の「藻利重隆(モウリ・シゲタカ) 」は,公表したある論稿をもって「総資本付加価値率極大化論」を提唱していた(その主張の詳論については,藻利重隆『経営学の基礎(改訂版)』森山書店,昭和37年,「改訂版序文」参照)。ところが,この「総資本付加価値率極大化論」を,部分的・断片的にでもいい,まともに実証を可能にするような企業経営の行動軌跡あるいは産業経済の動向記録は,これまでほとんど観察・観測できていない。つまり,その理論的な提唱はいまだに立証されたことがない。  

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 出所)画像は,http://www.chikura.co.jp/ISBN978-4-8051-0006-6.html

 補注1)藻利重隆「わが国企業の総資本付加価値率に関する一考察」(『ビジネス・レビュー』第9巻第4号,昭和37年3月)は,その「総資本付加価値率極大化論」を理論的に証明しようとした実際的(演繹)な研究であったが,不首尾に終わっていた。

 いわゆる「藻利経営学」の中枢分にあえて実証性を理論的に期待する〔求める〕ことは,「木に縁りて魚を求む」に等しい試図であったのである。

 藻利経営学の特性は「経営二重構造論」とでも表現できるのだが,この二重構造は加重二重構造でなければ根本的に誤りであるという指摘がなされており,「結局は常識にすぎぬもの,少なくとも学問の名に値しないと批判」されていた。
 註記)渡瀬 浩『経営社会学丸善,昭和45年,217頁。

 補注2)黒澤一清『生産性分析の基礎原理』(時潮社,昭和52年)は,藻利重隆の経営学構想における目的論の不全性をつぎのように指摘している。

 「藻利氏は企業の指導原理としての営利原則については,これを歴史的な内容変化において把握し,終局的に総資本付加価値率極大化という原則の到達した」。

 「しかし氏の推論過程は分析という点で徹底を欠き,現実性への吟味においては,むしろ氏の抱く理念性への情熱がかえって氏の客観的現実への正当な認識を妨げ,かくてその満足条件つき極大化の体系をば,事実上は総資本付加価値率極大化のみを追求する唯一論として定立している」。

 註記)黒澤,同書,384頁。本書の第8章「企業付加価値ならびに企業付加価値生産性」(343-474頁)が,関連するくわしい分析と批判を展開していた。

 「藻利の経営理論」の根柢に歴史科学性を求めても徒労である。ドイツ・ナチス期における経営共同体論のシッポを引きずっている。

 とどのつまり,藻利「総資本付加価値率極大化論」も稲葉「企業評価=資本付加価値率」論も,ほぼ同旨の立論を含意していると解釈できる。ところが,それら「論」には,どうしてもみのがしえない重大な問題がある。それも,企業の利益を付加価値のなかに押しこめて “思考しようとする” ところに潜在させていた〈なにかの問題〉である。

 もちろん,概念関係においては,利益も賃金も付加価値「概念」に含まれるし,これを大枠の源泉にする。とはいえ,賃金を,利益とまったく同格・同質の経営要因とみなす発想がそもそもおかしい。出発点でボタンの掛けちがいをしている。

 同じ「金(カネ)」でも,賃金の原資となって,換言すれば「製造原価」(製造業の場合)に支払われる部分と,企業の内部に留保・蓄積されたり株主への配当されたりする部分とは,財務会計的にも管理会計的にも,けっして同じ意味や目的をもつとはいえない。

 「おカネ(たとえば最高紙幣の1万円札)」はたしかに,その色あいや模様において異なるところはないものの,その使途が企業経済的・経営財務的に明確に異なった領域に流れていっている。こちらの側面・次元に即して観察すると,どこにその「おカネ」の使途が向けられるかによって,それぞれに背負わされる意味が,企業会計・経営計算においては違っている。

 経営学者の藻利重隆が前提していた「実際界の企業経営が上げるべき業績成果」に込めていた理論的な期待感は,つぎの文章を借りて表現できる意向に表現されている。

 労働分配率という用語がある。この労働分配率は「人件費と粗利益との均衡」において,経営体質を判断する指標である。人件費と粗利益との上昇傾向が同じ歩調を保っていれば,全体の労働分配率は同じ水準を維持できる。だが,人件費の上昇傾向に粗利益の上昇傾向が追いついていかなければ,労働分配率が上昇する。これでは経営環境が悪化する。この関係から経営者の立場においては,人件費の増加傾向よりも粗利益の増加傾向が,より多くなり上回るようにする努力を傾注しなければいけない。

 業績が右肩上がりで推移している時期においては,売上高を拡大させることで,粗利益が低下したり人件費負担が大きくなったりしても,ただちにめだって大きな問題は生じない。だが,業績が横ばいから下落傾向に入った段階でも同じ趨勢をたどっているとなれば,そのダメージがボディ・ブローのように効きはじめる。こうした深刻な状況に陥る以前から,売上高の変化や従業員数の増員にともなう経営体質の変化を,冷静な数字でつねに監視しておかねばならない。そのための有効な指標として「労働分配率」がある。

 注記)以上,http://www.jnews.com/kigyoka/2002/kigyo0208.html  参照。 

 補注)なお,前段に参照した記述中には明らかな間違い個所があった。それは「人件費の上昇傾向に粗利益の上昇ペースが追いついていかなければ,労働分配率は低下する〔原文はここまですべて赤字・太字の強調〕ことになり,経営環境は悪化する」においては,「低下する」を「上昇する」に訂正した。まったく逆の表現であるはずのところが,前後の論及・文脈に照らしてみるに,このような間違いを残すのは奇妙である。

 この間違いの原因が発生したと思われる理由は,上記に引用した当該ホームページの内容をよく読めば分かるので,ここではあえて触れない。なお,以上の間違いは今回〔2016年2月8日に〕再筆のさい,該当ページを再度のぞいて確認したところ,以上の論述は,こういう点に注意を向けていた。

 企業経営者が常時注視し,警戒が必要なのは,売上が下落する段階において「付加価値に占める人件費」の占める率が上昇傾向とならないことである。つぎにかかげる2つの統計図表は,上が「日本の労働分配率推移」,下が「賃金の伸び悩み」を表わしている。

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  出所)「アベノミクスで『労働分配率』が低下する理由最新のGDP統計から見える日本の実態」『東洋経済 ONLINE』2017年01月26日,http://toyokeizai.net/articles/-/153932〔~ 153932?page=2〕

 さきほど,「人件費と粗利益(実は純利益)との均衡」という条件に注目した経営学者藻利重隆が,「総資本付加価値率極大化論」を提唱した事情に若干触れた。付加価値とはいっても,このなかに含まれる利益(利潤)は,けっしてその「人件費と粗利益との均衡」内におとなしく収まっていればいいというものではない。むしろ,資本主義の発生当初から「利益の最大化」(藻利の表現に合わせるなら「利益の極大化」)を至上命題とする企業経営の目的は,付加価値をもって簡単に制御しうる,あるいは代替的に操作しうる「現実の代物」ではない。

 補注)藻利重隆においては「最大化」と「極大化」の両名辞は,実は別の意味をもたせられている。だが,ここでは無視した議論をしている。そうとりあつかっても支障はないと判断した。

 それでも,付加価値という《騎手》が利益という〈暴れ馬〉を乗りこなすことができるかのように論じたところで,現実における企業経営の行動様式を,少しでも変更させたり変質させたりできるのではない。むろん,会計操作的に利益額(率)をいじることは,いくらでもできる余地がある。けれども,それにはおのずと限界があり,度を超せば会計粉飾の問題にまで立ち入る問題になる(昨年:2016年から問題になっている東芝がその好例=悪例である)。

 要するに,稲葉は「企業の目的は付加価値をつくり出すところにある」と論断していたが,この定義=提唱がなされたからといって,「利益というじゃじゃ馬」を手なずけられる《騎手》の登場が保証されたということには,けっしてなりえない。当たりまえのことについて,その一面をとりあげ強調したに過ぎない。

 「利益の含まれない付加価値」はいわば,膨らんでいない風船玉,空気が抜けてぺしゃんこのタイヤみたいなものである。次項の ③「付説」は,最初に「日銀方式」による「付加価値=経常利益+人件費+金融費用+租税公課減価償却費」を挙げている。

 このイコールの右項のうち,企業経営の業績が悪化して赤字になると消滅するのが「経常利益」である。そして,この経常利益から純利益が出なければ,当然のこと法人税の負担もない。その右項におけるほかの費目のうち,手を着けられるのが人件費である。昨今(ここでは2009年ころに関する時期のこと),世界同時不況の荒波を受けてまず非正規労働者が雇い止めにされ,つぎに正規社員もリストラの対象になっている。

 利益の追求に付加価値概念という《轡》をはめさせえたからといって,画期的とみなせるほどに「利益の概念」そのものを変身させうるのではない。「付加価値」概念そのものを強説するあまりになのか,その反面で「利益」をあえて,質的=理論的にないがしろにするような,現実的(?)な議論がなされている。筆者は,以上のごとき批判的な議論は「付加価値論」「付加価値会計論」の研究成果を前提に繰りだしたつもりである。

 

 「付  説」

 付加価値とは「企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値」である。以下のように各種・各様に表現された計算式がある。それぞれにまちまちの概念整理と加算内容なのであるが,すべてに共約できる項目は「〈利益〉+人件費」のみである。なお,その前にとりあえずかかげてみたつぎの「付加価値の概念図」は,参考のための一例である。

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 出所)https://kotobank.jp/word/付加価値-123723

 ☆-1「日銀方式
       付加価値=経常利益+人件費+金融費用
                +租税公課減価償却

 ☆-2経産省方式
      粗付加価値=実質金融費用+当期純利益
                +人件費+租税公課減価償却

 ☆-3中小企業庁方式
      加工高(粗付加価値)=生産高-外部購入価額

 ☆-4財務省方式
      付加価値=役員報酬+従業員給料手当+福利費+動産・不動産賃借料
               +支払利息割引料+営業利益+租税公課
 
 企業経営は,生産活動や販売活動などを通じて,基本目的である利益を最終的に上げるばかりでなく,人材を雇用したり,税負担や金利負担を賄ったりすることで,社会的にさらに貢献している。これらは,企業が存在しなければ生み出されない価値であり,利益にこれらの要素を加味することで,企業が存在していて生み出す価値を明確にしている。付加価値に占める人件費の割合を労働分配率租税公課の割合を租税分配率,それら以外の割合を資本分配率という。

 注記)http://www.exbuzzwords.com/static/keyword_566.html  参照。

 

 「〈付加価値〉額の収奪が経営の実際」

 本ブログは別の記述で,セブンイレブンの経営実態に関する分析をしたさい強調したのは,この〈セブンイレブン〉による経営管理の実際的な手法があくなき利益の追求であり,いうなれば,やらずぶったくりの関係にしか映らない「コンビニの本社によるフランチャイズ店からの収奪関係」を反映させている事実であった。

 その意味でもたしかに,皮肉ではなく「企業の目的は利益などを中心として付加価値をつくり出すところにある」。しかしながら,利益のその中身そのものの分析は,利益志向を中心=根底に据えておこなわなければならず,ただ「企業の目的が付加価値の創造だ」と提唱してみたところで,この意味じたいが方向喪失に陥ってしまい,迷宮路に突入するほかなくなる。

 もっとも,筆者は「付加価値額に着目を」という呼びかけを否定する意向は寸毫もない。ただし,議論の方途において,資本主義企業体制をいかように踏まえているのか不可解に感じた見解であれば,これを徹底的に吟味・批判しておく必要がある。

 

 「2016年時点において考えるべき労働分配率の関連問題」

 以上 ④ までを更新しつつ改筆するさい,つぎのような関連の記述をみつけた。もちろん,ここまでの論旨をなんらかの仕方で論証し,補強してくれている内容である。しかし,そうはいっても,あくまで理論的な思考をもってする「ひとつの経営・会計の現実相」への接近を図るための論旨であるから,対象とする論点を優雅に実証してくれるための材料にまでなりうるのではない。とはいえ,本ブログ筆者の主張のほうが「より正確に現実に近づきうる分析」を試みている点は,確実に傍証してくれている。

 ということで,「労働分配率内部留保」『経済コラムマガジン』(第907号,2016年9月12日)という一文から,前半部分を引用する。少し長くなるが,関連して重要な記述をおこなっている。文章そのものは若干補正をくわえている。

 ★ 増えている内部留保

 1)内部留保ばかりが増大

 2016年9月3日の『日本経済新聞』に,労働分配率内部留保財務省の法人企業統計から算出)の推移を示すグラフとその解説が掲載されていた 註記)労働分配率は,ピークの2008年の72%程度から下がりはじめ,2015年度は66%程度になった。一方,内部留保は2001年の150兆円程度から毎年増えつづけ,昨年度(2015年度)は377兆円に達した。

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  註記)この図表を出していた記事の題名は「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度,内部留保は最高」。住所(アドレス)での該当記事は,nikkei.com 2016/9/3 3:30)http://www.nikkei.com/article/DGXKASFS02H5D_S6A900C1EE8000/

 

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 出所)ダイヤモンド編集部「職種別『初任給』」ランキング,会社のもうけと給料の密接な関係とは」『DIAMOND online』2019.4.23 5:00,https://diamond.jp/articles/-/200708?page=3

 労働分配率が下がりつづけきた原因は,企業の利益が伸びている割に,人件費が増えていないからである。しかし,人件費の増加がきわめて穏やかなのは,従業員の賃金が引下げられてはいないなかで,むしろ大企業の正社員の給料はボーナスをはじめ,増えているためである。

 また,非正規労働者の単価(時給など)も上がっている。ちなみに労働分配率の過去における推移は,資本金10億円以上の企業が60%,同1~10億円が70%,同1億円以下が80%程度である。平均値では資本金1~10億円の企業とほぼ同程度に推移し,70%程度。

 以上はおそらく,給料の高い正社員が引退し(団塊の世代が中心),賃金の安い非正規労働者が増えてきたことが,労働分配率低下の原因である。この動向はもう少し続くので,この労働分配率の低下がさらに続く可能性は強い。ただし,不況になれば多少上がる可能性はあるが……。

 もし,これ以上に労働分配率が低下する事態を阻止したいのであれば,本誌〔引用中の『経済コラムマガジン』第907号のこと〕が主張しているように,最低賃金の大幅なアップなどの政策が必要である。外国人労働者の制限も有効である。

 ともかく,内部留保はほぼ毎年伸びている(ただしリーマンショック後の2009年度のように,わずかに減少した年度も数度ある)。2001年度から2015年度まで毎年10~20兆円程度増えている。ちなみに昨〔2015〕年度は対前年度で23兆円と6.6%も増えている。また1988年の累積が100兆円だったことを考えると,たしかに2000年代に入ってからの内部留保の増え方は,かなり大きくなった。

 2)内部留保が増大する原因はなにか

 ところが,内部留保が増えている原因はいろいろと考えられるが,明確な定説がない。最初に考える原因は,当たりまえであるが,企業の利益(当期利益)の増大である。そして,企業の利益が増えている理由はさまざまであるけれども,企業全般にいえることは,株主から「ROE(株主資本利益率)を最大にする」経営が求められていることが挙げられる。つまり,株主の企業経営に対する圧力が強くなったのである。このため企業は利益指向を強めるほかなく,投資を選別したり,またリストラなどの合理化を押しすすめたりしてきた。

 経営に対する圧力強化の背景には,バブル経済崩壊後において不良債権の処理をおこなわれる過程で,大企業の株式の持合い解消が進んだことが挙げられる。とくに,新たに株主となった外資などは,日本の企業経営陣に利益を上げるよう厳しく迫っている。このために「株式を持合った “なあなあ的な経営 ”」がむずかしくなった。株主のこの厳しい要求に耐えられない大企業のなかには,決算を粉飾してでも株主の経営責任を問う声をかわしてきた。

 そもそも「内部留保労働分配率とが推移する関係」がはっきりしない。労働分配率が下がったから内部留保が増えたと,単純にはならない。たしかに労働分配率は,ここ数年下がりつづけている。だが,いったん不況に落ち入る(リーマンショック後など)と逆にハネ上がる傾向にある。これはやはり “人件費が固定費的な要素が強い” からと考えられる。ただ,最近の団塊の世代の引退に伴う労働者の構成の変化による人件費削減のせいで,企業の利益は多少増えているのかもしれない。

 3)いつから内部留保が増大しだしたか

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 注目したい事実は,内部留保のすごい増え方である。内部留保は1980年代,1990年代は毎年5兆円程度の増加であった。ところが,2000年代に入ると,これが年平均で15兆円程度に増えている。しかし,内部留保が増えている理由は,上述した「企業利益の増加」を除いてしまうと,はっきりしなくなる。というのも,個々の企業によって内部留保が増えている事情は異なるからである。

 出所)前掲画像は『東京新聞』,http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201606/CK2016060502000129.html から。

 ほかには,不良債権処理時代の銀行の貸し渋りをみて,企業が内部留保を厚くしようとしていることが推測される。また配当金は増やしているが,利益の伸びほどには増えていないので,配当率の低下している。なかでも,金融関係の企業の内部留保の増え方がとくに大きいという声がある。つまり,巨額の不良債権を償却してきたゆえ,長期間,法人税を払っていない可能性がある。そうであれば,税前利益がそっくり当期利益になってもいる。もし,その点が本当なら,一般の事業企業のほうだけを調べても「肝心の原因」はよく分らないことになる。

 註記)以上「労働分配率内部留保」『経済コラムマガジン』http://adpweb.com/eco/eco907.html  参照。

 以上の説明においてわけても注目したいのは,こういう点である。「内部留保労働分配率とが推移する関係がはっきりしない」と指摘されていながらも,「人件費削減のせいで,企業の利益は多少増えている」のは,「内部留保のすごい増え方」がその裏側の事情として控えていたからである。また「金融関係の企業」では「内部留保の増え方がとくに大きい」とみられるのは,その「税前利益がそっくり当期利益になっているはず」だからだとも指摘されていた。

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  出所)https://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/1110709.html

 補注) なお,平均年収(給与)は,2017年:432万円,2018年:441万円と増加しているが,前後する論旨を否定する材料にはなっていない。

 リーマン・ショックが起きた2009年に “ガタッと落ちた” この平均年収を,今後も2000年の以前,それも1990年代後半の水準まで回復させるためには,いまでは完全に弊履である事実が証明されている「アベノミクスのアホノミクス:ダメノミクス」頼みは,まったくできない相談である。

 仮に,賃金面に関してこのミクスの効果が挙がっていたとしても,その実際における効果は,マイナス的な要因だけがよく発揮されてきた。この顛末は,われわれの生活実感からも皮膚感覚で理解できる。

 ここでは再度,こういう経済の現実を指摘しておく。--民間大企業の「内部留保は1980年代,1990年代は毎年5兆円程度の増加であった。ところが2000〔平成12〕年代に入り,これが年平均で15兆円程度に増えている」。結局,労働分配率が増えるわけがなかった。

 4) 『しんぶん赤旗』のしごく妥当な指摘

 『しんぶん赤旗』2018年9月4日の記事「大企業内部留保 425兆円超 前年度から22兆円増 従業員賃金は減」が,以上までの記述をとうしてだと,まだモヤモヤした印象が残るという人には,有効な説明(指摘・批判)を与えている。

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 財務省が〔2018年9月〕3日発表した2017年度の法人企業統計によると,大企業(金融・保険業を含む,資本金10億円以上)の内部留保が425.8兆円となりました。2016年度より22.4兆円増えました。第2次安倍晋三政権が発足した2012年度から1.28倍に増えました。経常利益も57.6兆円と2016年度から4.8兆円も増やしました。当期純利益は2016年度から8兆円増やして44.9兆円となりました。2012年度からは2.3倍です。

 法人税減税をはじめとしたアベノミクス(安倍政権の経済政策)による優遇政策によって,大企業は利益を拡大しつづけていることがあらためて示されました。

 経常利益の増加に合わせて1人当たり役員報酬は1930万9000円と2016年度から60万円以上も増やしました。2012年度からは1.13倍の伸びです。配当金も17.5兆円で2012年度に比べ1.65倍に急増しました。一方,従業員の賃金は575万1000円と2016年度に比べ5万4000円の減額です。2012年度と比べても1.03倍にとどまります。この間の消費税増税や物価上昇と合わせると実質減少です。大企業の利益の拡大とは対照的です。

 補注)ここでの「従業員の賃金」とは前述に出ていた平均年収とは異なる基準で提示されているので,単純に比較できない。

 安倍首相は「重く暗い空気は,アベノミクスによって完全に一掃することができた」といいますが,国民生活に晴れ間はみえません。むしろ日本経済の構造的ゆがみが拡大しています。

 補注)この安倍晋三の発言はもはや「脳天気」だなどと批判する以前の,事実とは完全にかけ離れた狂想的な発言であった。

 安倍政権は来〔2019〕年10月に10%への消費税率引き上げを狙います。一方,大企業向けには「生産性革命」などを口実に研究開発減税の拡充などを「税制改正要望」に盛りこみました。逆立ち政治がきわまっています。

 ※ 用語解説「内部留保」※  企業がえた利益のうち,企業の内部に蓄積された部分のことです。狭義の内部留保である利益剰余金のほか,かたちを変えた利益蓄積として資本剰余金や引当金などを合計して算出し,資本金10億円以上の企業を集計しています。

 昨日〔1月17日〕の『日本経済新聞』夕刊に,つぎの記事が出ていた。

【ニューヨーク = 野村優子】 米誌「USニューズ&ワールド・リポート」が発表した2020年の「世界最高の国」ランキングで日本は3位となり,2019年調査の2位から順位を1つ落とした。スイスが4年連続首位となったほか,上位10カ国には,ドイツや英国,スウェーデンなど欧州勢が目立った。

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 「世界最高の国ランキング」は2016年に開始された調査で,2020年調査は世界36カ国・計2万人以上を対象におこなった。ペンシルベニア大学ウォートン校の研究チームなどが開発した評価モデルに基づいて,調査し,ランキングにした。

 これは,一部の調子者であるネトウヨ者の国粋精神からしたら大歓迎の「日本,スゴイ」に関するこの順位づけである。だが,この日本における国情をあらためて目をこらして観察するまでもなく,とても「世界最高」に近いとはいえそうもない “関連の諸指標” がいくつもあった。ここでは,つぎのひとつだけ挙げておく。

 『東洋経済 ONLINE』2020年1月18日(今日)の日付でのぞいてみた「ライフ 貧困に喘ぐ女性の現実」という連載記事は,こういう特集報道をしている最中であった。その内容については直接, “ https://toyokeizai.net/category/hinkon ” を読んでほしいが,その意図はこう説明されている。

 この連載では,女性,とくに単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため,「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。貧困に苦しむ読者からの取材申しこみを随時受けつ付けており,そのなかから取材先を選定している。個々の生活をつぶさにみることで真実を浮かび上がらせ,問題解決の糸口を提示していくことが目標である。

 この記事の具体的な中身として,ひとつひとつ並べられている「その題名をみた」だけでも,こころが痛むものばかりである。これでなにが,なにを基準にして「日本は『世界最高の国』で3位」か? 現実離れの話題を報じた記事に接して喜んでいられるような「この日本国」であったか? しかも,女性の貧困問題だけが貧困をめぐる問題ではないのが,日本国の現状でもある。『東洋経済 ONLINE』「ライフ 貧困に喘ぐ女性の現実」という題名は,日本社会の基本矛盾が女性にしわ寄せされている事実を捕捉するために準備されていた。

 さて,昨日〔1月17日〕の報道では「自殺者10年連続減 2019年速報値,初めて2万人下回る」(これは『日本経済新聞』夕刊の見出し)がなされていた。

 2019年の自殺者数が統計を開始した1978年以来,最少の1万9959人となったことが17日,警察庁の集計(速報値)で分かった。減少は10年連続で,人口10万人当たりの自殺者数(自殺死亡率)も前年より0.7人減り,15.8人となった。

 

 以下の統計図表は,この記事が言及する「警察庁の集計(速報値)」を図表にした「厚生労働省の原図」である。(クリックで拡大・可)

 

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 だが,あえて皮肉っぽくいわせてもらうとしたら,それもいくらかひねくれたかのようにいってみるほかないが,「自殺する元気もないほど」にいまの日本社会全体が落ちこんでいるのではないか。その代わりにといってはなんであるが,新たに注目されているのが「引きこもり」の問題であり,とくに男性の場合,50代(60代)にまで広く浸透している。しかも,この引きこもりの問題では「男性が4分の3を占めている」と報告されている。

 安倍晋三(第2次政権以来)の為政は満7年を越えてきたが,国恥かつ国辱であり,まさしく「日本全体に対して膿(病原菌)をばらまいてきている」疫病神が,このボンクラ政治屋=「世襲3代目のお▼カ首相」であった。いまの日本,安倍晋三がこのまままだ総理大臣の椅子に座っているかぎり,現状のごとき「中途半端な先進国」から「本命的な後進国」(発展途上という用語とは無縁の)へとズルズル後退していくほかなく,本当に “亡国・滅国・壊国の針路” をとって,まっしぐらに進行中なのである。一刻も早く船長を早く交代させないと……。

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