聖マリアンナ医科大学に関する不正入試:女性差別の疑いはまだ晴れていない,なにがそうさせているのか?

いまになってもまだ医学部「不正入試」で女性差別がないといいわけしたい聖マリアンナ医科大学の奇怪

 

  要点:1 不正入試の疑いを払拭できないままだった「聖マリアンナ医科大学の抗弁する姿勢」は,いったいなにを理由にして,いままで維持されているのか

  要点:2 医学部の入試態勢が正常化されること,つまり女性差別などをなくすしかない方向性が強く要求されている


 「第三者委『女性ら一律差別』 大学側否定 聖マリ医大入試」『朝日新聞』2020年1月18日朝刊32面「社会」

 聖マリアンナ医科大(川崎市)は〔1月〕17日,医学部入試で女性や浪人生を一律に差別していたとする第三者委員会(委員長=北田幹直・元大阪高検検事長)の調査報告書を公表した。大学側は「一律機械的に評価をおこなったとは認識していない」と差別を否定している。文部科学省は「過去を反省する姿勢がまったくみられず,納得できない」として,私学助成金の減額を検討する。

 第三者委は2015~18年度入試の結果を分析。いずれの年度でも,志願票と調査書の評価で,女性と浪人回数の多い受験生の点数が一律に低くなっていた。同大のパソコンを分析したところ,2016年度の記録に「男性調整点」の枠があり,男性に一律加算された点数と一致する「19.0」との記載がみつかったという。

 同大は17日,「意図的ではないにせよ,属性による評価の差異が生じ,一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があった」として,受験生(入学者らを除く)に対し受験料を返還するとした。

 医学部入試をめぐっては,文科省が2028年12月,聖マリアンナ医大に「不適切な入試の可能性が高い」として,第三者委の設置を求めていた。(引用終わり)

 この医学部不正入試の問題は,本ブログ内では2019年11月26日の記述,主題「私大医学部不正入試は完全に撲滅できるのか」,副題「医学部入試不正問題の後始末,当座的に処理するだけで,裏舞台では基本面の是正措置を部分的にのみおこなっている姑息な現状,正直ではないその不徹底な姿勢」(https://socialsciencereview.hatenablog.com/entry/2019/11/26/184950)で論じてみた。

 その記述は,2018年中に発覚していた東京医科大学の入試不正に連なるかたちになっていたが,聖マリアンナ医科大学などが入試において女性差別を意味する「男女間における合格数・率の有意な差」を現象させていた問題を議論していた。東京医科大学の場合は,文部科学省のある局長とのあいだで犯した贈収賄事件が発覚していために,女性差別としての不正入試,つまり女性受験者を不当にあつかってきた入試態勢の問題点までも明るみ出る経緯となり,この事後の対策に当たらざるをえなくなっていた。

 だが,聖マリアンナ医科大学は,いろいろとあちこちの医学部で女性差別が入試の過程でおこなわれていたのではないかと疑念が抱かれてきたなかで,ともかく,自学だけはそうした不正入試はおこなっていないと強弁していた。さきに紹介した本日〔1月18日朝刊〕の記事から拾ってみると,こういういいわけが披露されていた。

 「意図的ではないにせよ,属性による評価の差異が生じ,一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があった」

 しかし,この文句を聞いたかぎりでは,女性差別を結果させている不正入試であったからこそ,つまり「意図的」に「属性(男女という性別)による評価の差異」づけがほどこされていたということ,いうなれば「一部ではなく全体の入試結果そのもの」が,入試としては不正に,女性を差別するために実施されていたことは否定できていなかった。

 以上の問題をめぐっては,すでにネット上には聖マリアンナ医科大学側に対して根本的な疑念を突きつける議論が公開されていた。文部科学省聖マリアンナ医科大学の対応姿勢について「過去を反省する姿勢がまったくみられず,納得できない」と批判するのには,それ相応に十分な理由があった。

 次項 ② の解説が関連する事情を的確に分析・批判しているので,これを紹介したい。これと同様の記述内容は,東京医科大学の不正入試が事件化した直後,2018年の秋以降にも公表されていた。その改訂版(実際はほとんど同文)と目される内容である。

 註記)本ブログ筆者の手元には,「聖マリアンナ医科大学女性差別の可能性の検証」(『医学部受験バイブル』2018年8月8日,更新2018年10月18日,https://医学部予備校.com/?p=8926)という確かな記録があるので,このように断わっておく。同じ記述が,1年半近く経ってから再掲されていた点は,この聖マリアンナ医科大学が疑問をもたれている不正入試に関して,その間,なんら誠意ある回答も対応もしていなかった事実を,あらためて世間に訴えたいがためだと解釈しておく。


 聖マリアンナ医科大学女性差別の可能性の検証」『医学部受験バイブル』2020年1月18日 10:23:41,https://医学部予備校.com/?p=8926

 聖マリアンナ医科大学は下記のとおり詳細データを公開しています。このデータから入試における女性差別をおこなっている可能性があるといわざるをえない分析結果がえられます。詳しくご説明します。 

 1) 2年間の2浪以上の女性の入学者が0人

 非常に衝撃的なデータですが,以下の「現浪別構成比」をみると,ここ2年間とも2浪以上(再受験生も含めて)の女性の入学者が0人となっています。一方,同じ2浪以上(再受験生含む)の男性の入学者数は2018年度:37人,2019年度:47人であり,2年間で合計84人の入学者となります。

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 2浪以上(再受験生含む)の出願者数は,こうなっています。

   2018年度 男性 1171人 女性 648人

   2017年度 男性 1274人 女性 647人

 合計すると2浪以上および再受験生は,2年間で 男性2445人,女性1295人が出願し,男性は84人が入学,女性の入学者は0人となります。確かに受験者数は男性が女性の1.9倍いますが,それでも入学者数にこれほどの差がつくことは自然とはとらえづらいといえます。

 そもそも,2浪以上の女性は2年間で1295人が出願し,入学者数が0人です。結果として,2浪以上および再受験生の女性の受験生は聖マリアンナ医科大学は受験しても無駄であった,と結論づけざるをえません。

 2) 男女別の合格率の比較

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 2018年度の男女別の受験者数→合格者数と合格率です。合格率では約2.6倍の差となっています。

   男性 1748 → 100人( 5. 7%)
   女性 1347 →   30人( 2. 2%)

 3) 聖マリアンナ医科大学の不透明な回答

 上記のようなデータを受けて,下記記事が報道されました。「聖マリアンナ医大,昨〔2017〕年から2浪以上の女子入学者がゼロに…大学側『意図はありません』」(http://biz-journal.jp/2018/08/post_24318.html)。上記より聖マリアンナ医科大学の回答にあたる文面を引用します。

 「私どもは成績順で取っております。一般入試は一次が英語,数学,理科2科目の400点満点,二次は小論文100点と面接100点を最終的にトータルして合否結果を出しています。2017年度と2018年度はたまたま現役と1浪の方が合格しただけ。意図はありません。当大学は在学生に占める男女の割合も6対4で女子の比率が高いのが特徴。データをみると現役生と1浪が多くみえますが,これは昨年から推薦入試の制度を変えたためです。

 

 いままでは指定校推薦だけで20人の募集枠でしたが,昨年から一般公募制の推薦入学試験も導入して10人増員した関係で,推薦だけで30人の募集枠になったのです。昨年は推薦の合格者が5名増えて35名になったため,結果的に現役生が増えてしまったようにみえますが,推薦制度を変えたことによるもので,一般入試で現役と1浪を優遇しているわけではありません。

 

 二次試験の面接でも女子に結婚,出産について聞くことはありません。うちは聖マリアンナという名前からも女子大と思われるような大学ですし,もともと女性が比較的多い大学だと思っております。学生に女性が多く,そのまま女性が大学に残ってくれるので,ほかの大学より女性教員の数も多い。それに,申しこめば一次試験の不合格者に対して成績の開示もするので,受験の透明性も確保できていると思っております」。

 上記は一見するとしっかりとした回答をしているようにみえます。しかし,データを分析すると実にうまい逃げ方をした回答だといえます。詳しくご説明します。

 4) 一次試験の合格率に男女による差は認めない

 一次試験の男女別の合格率を掲載します。

   男性 1748 → 313人(17. 9%)
   女性 1347 → 204人(15. 1%)

 上記のとおり,やや男性が高いものの,一次試験の合格率にそれほど大きな差はないといえます。聖マリアンナ医科大学が,一次試験の不合格者に対して成績の開示もすると自信をみせているのもうなずけます。ところが,つぎに大きな裏がみえてきます。

 5) 二次試験(面接,小論文)の男女別の合格率に約2.3倍もの差がある

 つぎに,二次試験(面接と小論文)の男女別の合格率を掲載します。

   男性 252 → 100人(39. 7%)
   女性 171 →   30人(17. 5%)

 註記)一次試験の合格者数から二次試験の受験者数に差があるのは,二次試験の受験を辞退する受験生がいるため。

 上記のとおり,二次試験の合格率は男女間の差がいちじしく,約2. 3倍もの差があります。聖マリアンナ医科大学の回答にもあるとおり,一次試験は英数理の学科試験で400点満点,二次試験は小論文と面接で200点満点,合計600点満点の試験です。

 学科試験である一次試験では,男女間の合格率の差はそれほど認めなかったということは男女間の学力の差は大きくなかったといえます。それにもかかわらず,意図的な得点調整をおこないやすい面接と小論文で男女間に2. 3倍も合格率に差があるのはあまりにも不自然といえるのではないでしょうか。

 さらに,聖マリアンナ医科大学は二次試験に600点満点中200点と非常に高い配点となっています。〔つまり〕二次試験の得点調整がおこないやすい配点の試験形式だといえます。

 6) 二次試験の採点基準と男女別の得点表の開示を求める必要がある

 聖マリアンナ医科大学の回答にあるとおり,成績開示ができるのは一次試験の点数のみです。しかし,上記のとおり二次試験で得点調整がおこなわれていると予想されるため,二次試験の採点基準と男女別や年齢を含めた得点表の開示を求める必要があります。

 上記すべてのデータを踏まえると,二次試験で2浪以上の女性へのなんらかの得点調整がおこなわれていることが予測〔推測〕されます。もし二次試験での得点調整をおこなった形跡が認められれば,「一次試験の不合格者に対して成績の開示もするので,受験の透明性も確保できていると思っております」と回答したことは,非常に悪質であるといえると思います。

 7) 当塾の生徒の被害について

 もし得点調整がおこなわれたのであれば,ですが,当塾の昨年度 補注)の生徒も3人の女性の受験生が被害を受けたことになります。

 補注)ここで「昨年度」といったら「2017年度」のことと思われるが,やや不明瞭な点が残っていた。この理由については ② に入る直前に付記しておいた。

 2名は2浪の女性で,一次試験は合格したものの二次試験で非常に順位の低い補欠番号がついてしまい,最終的に不合格となりました。面接や小論文でとくに失敗をした印象がなかったため,不安を感じ相談を受けていました。結果的に両名とも他の医学部に進学できたものの,当時の補欠順位をみて不安になったことは事実としてあります。

 さらに,1名は再受験の女性で,彼女は受験校も少なく聖マリアンナ医科大学のみ一次試験に合格していました。同様に二次試験で非常に低い補欠番号となり,最終的に不合格となり医学生になることができませんでした。彼女は一次試験の合格が1校のみであったため,面接や小論文の対策も十分おこなっていました。

 もちろん3名とも正当な二次試験の評価のうえで,このような結果となった可能性は十分にあります。しかし,上記のようなデータをふまえると,やはり二次試験の採点基準や受験生の得点データの一覧を強く要求したく思っております

 また,明確なデータの公表がえられない限り,2浪以上および再受験生の女性は聖マリアンナ医科大学は受験しない方がよいと結論づけざるをえないといえます。

 8) 合計の入学者数の男女差だけではみえてこないデータもある

 聖マリアンナ医科大学はすべての試験をあわせた合計の入学者数では,女性は115名中45名であり39.1%になり,それほど女性比率が低いようには一見みえません。しかし上記のとおり,学年別でみると2浪以上や再受験生の女性の入学者数は0人であり,不当に不合格となっていることが予想されます。

 重要なのは表向きの女性比率ではなく,女性だからという理由だけで不当に得点調整や不合格の措置がとられていないかだといえますから,他の医学部においても学年別の男女比率までしっかり公開することが求められると思われます。(引用終わり)

 ① に引用した本日〔2020年1月18日〕の新聞朝刊に報道された記事の内容のうち,「医学部入試で女性や浪人生を一律に差別していたとする」聖マリアンナ医科大学の「第三者委員会(委員長=北田幹直・元大阪高検検事長)の調査報告書を公表」による意見表明は,妥当な結論であったと受けとめられる。

 外部のそれも受験産業側からの疑いは,どこまでも外見的に手探りでする分析・批判であったが,大学内部に設けられた第3者調査委員会の結論もまた,聖マリアンナ医科大学は「入試で女性や浪人生を一律に差別していた」と「不正入試に関する推定事実」を指摘したとなれば,大学側がこの事実をトコトン認めない事由は,いったいなんであるのかという点に興味が湧いてくる。

 ということで,つぎの ③ の議論にくわしく聞くことで,問題のありかをさらに鮮明にしていくことにしたい。ただしこちらの記述は,2019年夏に執筆されていた。

  「医学部入試に起きた『ある変化』と,不正発覚後も残る『ある問題点』 最新合否を分析したらみえてきた」『現代ビジネス』2019年9月15日,https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66777〔~ 66777?page=8〕

 1) 医学部入試に「変化アリ」

 毎年熾烈な競争が繰り広げられる医学部入試。2018年は,東京医科大学の不正入試事件と,私立医科大学を中心とした入試における女子差別・年齢差別問題で,大変な混乱が生じた。

 各医科大学や病院・医学部関連機関や文科省は,2019年入試(2019年1月~3月の入試)に向け,さまざまな対策を講じることになった。その結果,施策として不徹底なところも残しながらも,入試結果には少なからぬ変化が生じた。

 さて,結局のところ,医学部入試における女子差別や多浪生差別はどうなったのか。そして,2020年以降の医学部入試は,どのように変わっていくのか。2019年度入試を総括し,展望を示そう。で〔とくに〕,「女性差別」〔入試差別の問題〕はどうなった…?

 2018年度以前の入試で,得点操作などにより女子を不利に扱う「不正な入試」を行なったと指摘されたのは,順天堂大学東京医科大学北里大学聖マリアンナ医科大学の4大学であった。いずれも東京と東京近郊に位置する人気の高い医学部だ(ただし,聖マリアンナ医科大学当局は,女子受験生差別=男子受験生優遇対応があったことについて否定している)。

 まず,以下の表を見てほしい。文科省による「医学部医学科における不適切な事案の改善状況等に関する調査結果」である。 

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 文科省から指摘を受けた4校だけにはなるが,文科省が今〔2019〕年度入試後に調査した2018年度と2019年度の入試結果を比較したのがこの表だ。なお,表の中の「差」は単純に男女の合格率を引き算した数字であり,統計上は正確な処理ではないが,男女差を感覚的に把握していただくために表記した。

 2018年度においては,北里大学以外の大学で,男子の合格率が女子の合格率を大きく上回っていた。しかし,今年度の入学者を決める2019年度入試においては,男女の合格率はほぼ逆転し,すべての大学で女子の合格率のほうが高くなった。

 昨〔2018〕年度までの男子の合格率の高さはたしかに異常だったが,反対に今〔2019〕年度は女子を優遇しすぎたのではないか?「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」ではないが,女子を優遇しすぎて,逆差別になっているのではないか,という人もいるかもしれない。しかし,それは違う。

 PISA(OECDによる国際的な学習到達度調査)によれば,女子の学業成績が男子よりも高い傾向があるのは世界的な現象であると報告されている。また,著者自身も,長年に渡り医学部受験生の指導をおこなってきたが,平均的には,女子受験生の成績がよいことが多かった。

 2) 初の10%越え

 PISAの調査にある通り,コツコツと積み上げ型の勉強が功を奏する高倍率の医学部受験においては,女性の受験生の方の合格率が高くてもおかしくないというのが,個人的な結論だ。そして,実際に,そのとおりになってきたようだ。

 上記4校の受験結果などから,2019年度入試においては,多くの大学で「女子受験生差別(男子受験生の優遇措置)はなくなった」と筆者は推定する。また,全国の医学部のほぼすべて(78大学)を対象とする朝日新聞の独自調査でも,女子受験生への不利な扱いは改善されていることがみてとれる。

 その調査結果によれば,男子の合格率は78校合計(平均)で12.61%,女子は11.62%で,いまだ女子の合格率の方がやや少ないものの,女子の合格率が10%を超えるのはこの7年間で初となったという。不正入試問題をうけ,多くの大学で不正を排除する取り組みがなされた結果とみてよいだろう。

 なお,筆者のしる某医学部専門予備校の塾長は,2019年の予備校の生徒募集での「異変」を語ってくれた。その方の話によれば,3月末・4月初旬になってから,手続を済ませて間もない女子受験生の「入校辞退」(この予備校への)が複数名あったという。

 私立医大に落ちたに違いないと考え,再度の浪人を決意した受験生が,繰り上がりで医学部に合格したことによる辞退であった。その数名は,すべて女子受験生(多浪生を含む)であったという。

 3) 変化の兆し

 当然ながら,女子受験生が,その本来の学力に対して正当な評価がなされることにより,女子合格者の「数」それじたいも増えている。この傾向が続けば,数年後からは,女性医師の絶対数も増えることになるだろう。現状の男性優位の医師の世界は,その良し悪しをどう評価するかは別として,確実に変化することになる。

 たとえば,順天堂大学では,女子の合格者数が2018年度の93人から2019年度139人へと増加し,64名の女子入学者を迎えることになった(男子入学者は76名)。不正入試問題が最初に問題となった東京医科大学でも,最終合格者は昨年度43名から今年度95名と倍増した。

 東京医科大では,過去の不正入試で不合格になった受験生に対して救済措置を打ち出したが,それによる追加合格者29名(男子は15名)をくわえると,合計で124名の女子受験生が合格となった(うち女子入学者は47名,男子入学者は77名)。

 なお,どの大学にも合格者数と入学者数の間に乖離が出ているのは,複数校への出願(併願)を前提とする私立大学入試の特徴である。合格者が他の志望校へ合格すると,すでに合格している大学への入学を辞退するため,このような乖離が生じる。

 医学部入試においては,いわゆる「滑り止め校」(確実に合格できる大学)が存在しないため,私立医大の受験生は,平均で10校近くの医大・医学部に出願するといわれる。

 その結果,私立医学部では,受験生の合格後の流動性が高くなり,慶應医学部等のトップ校を除き,合格者数と入学者数の間には数倍の差が出ることになるのだ。

 4) 今後,医学部の「男女比」は変わっていく

 さて,現状の医学部学生数の男女比はどうなっているだろうか。各大学により公表されているデータによれば,国立トップ校である東大で男85:女15,私立トップ校である慶應で男75:女25,私立中堅の聖マリアンナ医科大学で男62:女38,北里大学で男58:女42となっている。

 このように,学生数の男女比は,各大学であまりにも大きな幅があるため,一律の比較はできず,統計的にも現時点の実態がどうなっているかを議論することには困難がある。ただ,今後の推移を予想することは可能だ。

 「女子受験生差別」が指摘された聖マリアンナや北里でさえ,男女比がおおよそ60:40であることから考えると,現状の医学部志望者を男女隔てなく正当に評価した場合,近い将来には,多くの大学で男子60:女子40の割合に近づいていくことになるだろう。そして,おそらく長期的には,限りなく男女比50:50の比率に近づくと推定することに無理はない。

 文科省が毎年5月に実施している「学校基本調査」(確報値の最新版は2018年度のもの)によれば,大学(学部)への入学者数は,男子が339,867人,女子が288,954人,計628,821人であり,男子54:女子46の男女比となっている。

 2017年度は,男子が342,108人,女子が287,625人,計629,733人と,男子55:女子45の男女比であるから,徐々にではあるが,確実に女性の大学入学者が増えている。

 女性の大学進学率の上昇は,先進国,発展途上国を含む世界的な傾向で,OECD諸国(先進国グループ)のなかでは,多くの国で男女比が約50:50になっている。日本も,将来はこの数字に近づいてくるはずだ。

 5)「上位校」に女性志願者が少ないワケ

 ただし,気になる点もないことはない。全体として女子差別はなくなる方向性にあることは確かだが,医学部でも超上位校においては,女子受験生数じたいが少ないのである。

 たとえば,私立では慶應義塾大学の医学部,国公立では東大・京大といった,超エリート大学の医学部と他の学部において,女子合格者・女子入学者(数)がここ近年,一向に増えていない。なぜだろうか。思いつくままに挙げてみると,つぎの理由が考えられる。

  (1)   そもそも志望校として選ばない(あるいは選ばないように指導される)

  (2) 女子学生数が少ないことから,受験生や親・受験指導者も「女子は受からない」と思いこんでいる

  (3) 日本の女子受験生は,高偏差値校より,現実的に合格できそうな大学を選ぶ傾向にある

 おそらくは,(1) から (3) のいくつか,あるいはすべてが原因となって,女子は,超エリート校に進学するベネフィットより,試験勉強などに費やされるコストのほうが大きいと感じられており,東大・京大・慶應大等への女子進学率(進学者数)が低位のままとなっているのだろう。

 「学閥」や「学歴」ならぬ「学校歴」によって社会の重要なポジションへのアクセスが決まる日本社会において,女性,そして女性医師がもっと活躍してもらうためには,女子学生の合格率のみならず,合格者数・入学者数が増え,「超」のつくエリート校への進学者がもっともっと増えていく必要があるだろう。

 これは,日本社会の現状のシステムを与件として考えた場合のことではある。もちろん,日本社会のシステムじたいも,今後,根本的に変わってくる可能性は否定できない。

 6)「多浪生差別」の実態

 医学部入試における女子差別の実態が明らかになってから,その結果への対応は比較的スムーズにおこなわれたようだが,もう一つの差別,すなわち「年齢差別」への対応はどうだったのだろうか。

 長年,他学部からの編入受験や,社会人受験・多浪生(医学部受験では一般的に3浪以上を指す)などの医学部受験指導をしてきた身としては,年齢差別が存在することに対しては忸怩たる思いがある。ただ結論からいえば,年齢差別は,女性差別と比べてその差別的性質がみえにくいため,対応はかなり遅れているのが現状だ。

 実際に,学力試験で合格となった50歳代主婦の医学部受験生が面接試験を経て不合格になった事例(ただし一般入試ではなく学士編入試験)で不当な年齢差別であるとの訴訟があったが,裁判では主婦の請求が棄却された。

 また,一般社団法人・全国医学部長病院長会議は,「大学医学部入学試験制度に関する規範」を公表し,「どんな入試枠であっても,性差で一律的に判定基準に差異を設ける事例は不適切」としながらも,年齢の制限については,「地域特別枠等で,各地域の状況を勘案し,社会に説明可能な範囲で入試要項に記載すれば実施可能」としている。

 補注)ここで「社会に説明可能な範囲」という字句は理解不能である。「社会」を踏まえて「説明可能な範囲」といっているが,その範囲は誰がどのように決めるのか? 裁判にまでもちこむほかない「その範囲」とならざるをえないのではないか?

 近年の傾向として,一般入試枠の入学定員が少しずつ減員される一方で,推薦入試や地域特別枠の定員が増加している。今後,一般入試では,年齢や浪人年数による露骨な差別がおこなわれなくなったとしても,定員の増えている推薦や地域枠では20歳以上は合格がむずかしいなどという現象が現れてくるかもしれない。

 補注)なお,地域枠割り当てによる医学部入試が不調である現状が十分にみなおされていない。

 医学部は,医師の養成機関であると同時に,いや,それ以前に「大学」である。日本国憲法の第23条には,学問の自由が謳われており,憲法26条には教育権の規定がある。医学部・医科大学が,能力以外の理由(年齢を含む)で合格を拒否するのは,法の下の平等という原則に照らしても,不当である可能性はある。

 せっかく,女子への差別的対応がなくなりつつあるのだから,年齢における差別も,どうかなくなる方向へ進んでいくことを期待したい。

 7) 2020年以降の医学部入試のゆくえは?

 医学部全体でみても,社会情勢から考えても,全体として,医学部人気はいまだ衰える様子はない。不正入試というネガティブなスキャンダルを経てもなお,この傾向は続いていくことだろう。

 医学部への受験倍率は少なく見積もっても横ばいだ。受験戦争はまだまだ続くとみるのが正しいというのが,私を含む専門家の共通の意見だ。

 不正入試後の医学部入試は,徐々に制度的差別が撤廃される方向に動いてはいる。しかし,見えない差別や,本来学ぶ権利のある学生が公式・非公式に不合格とされる可能性は,いまだ排除できていない。

 制度の改変と多様化により,こういった差別や危険がさらにみえにくくなる危険性すらある。上に述べた,推薦入試や地域特別枠を利用した「みえない差別的選別」の危険性だ。

 大学関係者は,この1年間,不正撲滅への努力をつづけてきてくれた。その努力の成果は,彼らの本心がどうであれ,適正に評価しなければならない。しかし,この努力は,今後も継続して続けていかなければ意味がない。

 また,大学関係者による努力の方法も,独りよがりなものではなく,誰がみても分かりやすいかたちで示していくことが要請される。メディアや一般国民も,その経緯を注意深く見守っていかなければならない。

 今回,この記事を作成するにあたっては,各大学の合格者の数字を探すのに,大変な手間がかかった。なにとぞ,文科省と各大学,関係各団体には,一致協力して,男女の合格者数・合格率の内訳,年齢別の受験者数と合格者数の内訳,これらを,「全大学共通のフォーマット」で,ホームページ上のわかりやすい場所に格納して,公表するようにしていただきたい。

 補注)あるいは,1個所のホームページに全大学医学部などの合格者数「情報」を掲示する場所を設けてもいいはずである。

 私のような一介の物書き・受験指導者の文章が,政策決定者の目に止まれば,の話だが。心ある関係者に,伏してお願い申し上げる。(引用終わり)

 ここまで長々と関連する記述を参照してきた。さて聖マリアンナ医科大学は,二次試験(面接と小論文)の採点結果にしたがい生まれている「合格者数・比率」の「男女:差」について,不正入試が入りこむ余地などいっさいないと自信をもって答えられるのであれば,世間に向けて「関連する情報」を公開してもなんら不都合はないのではないか?

 入試そのものが公明正大に実施されており,なんら不正も不透明も入りこむスキがない制度として運営されているとなれば,個人情報のとりあつかいに関して支障のない範囲内で,関連する情報が公開されてもいいはずである。

 いいかえれば,自学では入試に関してとくに「性差別・多浪差別・年齢差別」はしていないと,自信をもって確言できるのであれば,そうした基本姿勢を社会の側に明確に伝えるためにも,一定の情報公開をもって応じることは,かえって大学の社会的責任を積極的に果たすことにもなる。

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