東電福島第1原発事故現場の後始末と廃炉は,いつになったら終えられるか,まったく展望すらままならない現況

原発は20世紀が産んだ「超まれな・厄介モノ」,21世紀においては「悪魔的な重荷」になりはてている,これに対する『日本経済新聞』のヌルいこと甚だしい論説は,経済新聞社としての論調を意図的に曖昧化した基本姿勢

 

  要点:1 原発コストが一番安いとうそぶいていた時代は終わり,その後の始末・廃炉工程には「際限なく経費がかかる」時代を迎えている

  要点:2 日本経済新聞社の社説「2020年1月18日」は,原発問題のなにを・どのように語りたいのか,腰の定まらない(引けた?)へなちょこの論旨あったが,もとはといえば日経は,原子力村の意向を受けて「原発・維持の立場」ではなかったのか

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 「〈社説〉見通せない原発の運転計画」『日本経済新聞』2020年1月18日朝刊のよそよそしい論旨

 この社説の引用から始める。

 --原子力規制委員会の安全審査に合格しても裁判所の決定で原子力発電所の運転ができない。そんなケースが増えていくのだろうか。四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを認めた広島高裁の判断は,エネルギー政策のむずかしさをあらためて浮き彫りにした。

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 伊方3号機は定期点検中で4月の営業運転再開を予定していた。テロ対策設備の設置が期限に間に合わず2021年3月には再び止まる見通しだったが,広島高裁の判断を受けてそれまでの間も運転できなくなる可能性がある。四国電は不服を申し立てる方針だ。

 東日本大震災後,伊方3号機は規制委の審査に合格し2016年8月に再稼働したが,広島高裁は17年12月に住民らの求めに応じて運転差し止めを命じた。この時は四国電の異議申し立てが認められた。

 これとは別に,山口県の住民が山口地裁に運転禁止を求める仮処分を申し立てて却下され,広島高裁に即時抗告していた。3年半ほどの間に,運転開始が決まったり中止になったりするのを繰り返す事態は健全とはいえない。

 補注)ここで使われた表現「健全」というのは,いったいなにを基準・規範に据えていわれているのか? 日本の裁判所においては,「原子力村:マフィア」の頂点にいる政府・経済産業省資源エネルギー庁あるいは原子力規制委員会の立場,つまり,その原発推進路線の思いどおりに「原発訴訟が指揮される」のが好ましいとでもいいたい口調である。ほかの表現の方法はみつからなかったのか?

 裁判官自身の立場を配慮してみたい。いまの日本の現状では,「東電福島第1原発事故現場」のことを「アンダーコントロール」だと,平然と大ウソをいいぬける総理大臣(広い意味でいえば「国家・体制側の立場・利害」のみ)を忖度する裁判の審理をするほかないのが,だいたいにおいて「裁判官の立ち位置」ではないか。

 原発裁判に関する「過去の判例」を回顧してみるとき,記録されてきた経過からして当然,観てとれるのが「原発裁判の判決」の一貫性の不在であった。いいかえれば,それは,あまりにも振幅のはげしい,それも説明しきれない「判決内容の相違・異質性」が残されてきた点に関してだと思われるが,それでもなお,ただちに「健全」という表現を充てたとなれば,この『日本経済新聞』社説のいいぶんがなにを強調したいかは,おのずと感得できる。

 今回,「広島高裁が四国電力伊方原発3号機の運転を差し止める仮処分を決定する」判決を下した森 一岳(かずたけ)裁判長の経歴に注目する必要がある。森は,大阪地裁や東京高裁などを経て,2016年4月に広島高裁に着任した。この2020年1月25日で65歳を迎え,退官するという。従来,今回のごとき判決を繰り出した裁判官が実質,左遷されたと観るほかない事例は,いくつもあった。

〔記事:社説に戻る→〕 2016年10月に〔森 一岳裁判長〕は,同年7月にあった参院選の「一票の格差」訴訟で違憲の一歩手前の「違憲状態」の判決を出した。2019年3月には,弁護人が接見時にもちこむ音声や映像が証拠品かについて拘置所側が尋ねることは憲法違反だとの判断を示し,国に22万円の賠償を命じた。

  ※ 今後の司法判断に影響 ※

 『原発の安全と行政・司法・学界の責任』の編著があり,原発訴訟について研究している元立命館大法科大学院教授の斎藤浩弁護士の話。

 山口地裁支部の決定は抽象的に「新規制基準は合理的で,原子力規制委の判断も合理的」などとしていた。一方,今回の決定は住民の主張をひとつひとつ具体的に検討していて,手堅く,説得力がある。佐田岬半島沿岸の活断層の有無を十分調べずに四国電力と規制委が問題なしとした点を,国の地震本部の長期評価にもとづいて,調査が不十分だと断じた。原発をめぐる今後の司法判断に影響を与えるだろう。

 広島高裁は,規制委が示した活断層と火山の影響評価の両方に問題があるとした。火山に関しては阿蘇山の大規模噴火で降り注ぐ火山灰などの量の想定が小さすぎ,規制委の判断は不合理だとした。

 火山の影響をめぐっては,2017年の運転差し止めのさい,高裁が規制委の指針の不備を指摘して指針見直しにつながった。さらに改善すべき点がないかを,規制委は絶えず点検する必要がある。

 広島高裁の判断は,他の原発訴訟の行方にも影響する可能性がある。国のエネルギー基本計画は,原発を重要な基幹電源と位置づけている。しかし運転計画が定まらない原発が増えれば,エネルギー政策がいきづまりかねない

 電力会社は審査基準を満たすのはもちろん,住民らとの意思疎通をよくして信頼獲得へ全力をあげるべきだ。規制委も司法判断を謙虚に受け止め,原発の安全性向上へいっそう努力してほしい。(引用終わり)

 この最後の2段落のうち前段はとくに意味不詳である。「国のエネルギー基本計画は,原発を重要な基幹電源と位置づけている」点を無条件に是として,この「運転計画が定まらない原発が増えれば,エネルギー政策がいきづまりかねない」という発想じたいが,現状までにすでにできあがっている,そしてこれから未来に向けて創造されつつある「再生可能エネルギー」の現実的な展開の様相を,完全に無視した意見になっている。

 つまり,この社説の論旨は,現状における「電源構成比率」のなかで占める原発の割合に関して,政府・経済産業省資源エネルギー庁側が2030年において「原発の比率を20%から22%」にもっていきたい(その水準まで戻したい)という意向をそのまま是認している。だが,この目標率(%)は,最近ではすでに到達不可能になっており,非現実的な目標設定になっている。

 「将来の日本に望ましい電源構成(エネルギーミックス)」について政府は,2030年時点の電力供給を原子力発電で20~22%,再生可能エネルギーで22~24%賄う方針を決めた」けれども,現時点においてこの見通しが「砂上の楼閣」化した事実は,経済産業省資源エネルギー庁,そして原子力規制委員会の関係者たちも否応なしに周知である。

 むしろ,再生エネの普及を妨害する要因になっているのが,その原発比率20~22%へのこだわりであった。電力会社によっては管内において,再生エネでも太陽光の普及が非常に進んでおり,この受け入れ・活用を原発が妨害する結果を来たすほどにまで高い比率を占めている。

 したがって,次項 ② のごとき意見(分析と批判)が登場している。

 

 九州電力太陽光発電出力抑制は時代に逆行? / 千葉商科大学名誉教授 三橋規宏」『企業家倶楽部』2019年1 / 2月合併号,「緑の地平 vol.45」2019年01月24日,http://kigyoka.com/news/magazine/magazine_20190124.html

 なお,執筆者の三橋規宏(みつはし・ただひろ)は,「経済・環境ジャーナリスト」を名のる千葉商科大学名誉教授であるが,前職は日本経済新聞社に長く勤務していた人士である。

 1) 太陽光発電が突出FITの約95%を占める

 政府が推進する再生可能エネルギー戦略に混乱が生じている。再エネ普及の切り札として政府が2012年7月に導入した固定価格買取制度(FIT)に支えられ,再エネ発電容量は順調に増えている。たとえば2003年度から2009年度まで6年間の再エネの発電容量の増加率は年率5%,2009年度からFIT導入の2012年度までの3年間は同9%だった。これに対し,導入後の2012年度から2016年度までの4年間は同26%と急増している。

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 FITの対象になる再エネの種類は,太陽光,風力,中小水力,地熱,バイオマスの5種類だが,このなかで太陽光発電が突出している。経産省の調査によると,FIT導入後,発電容量の累積は2017年3月末現在,3539万kw(キロワット)だが,このうちの約95%が太陽光で占められている。

 補注)原発1基の出力は,だいたい 100万~110万kw程度である。再生エネの太陽光部門だけでこれだけの急増ぶりを記録してきた。ここに至り,相対的にも絶対的にも,原発が「邪魔者」化しているエネルギー事情が理解できようというものである。

〔記事に戻る→〕 太陽光発電に人気が集まるのは,つぎのような理由がある。

  イ) 個人の屋根の上や耕作放棄地,荒廃地などに簡単に設置できる。

  ロ) 比較的小額の投資資金で賄える。

  ハ) 発電パネルなどの技術革新が進み,パネルの低コスト化が期待できる。

 〔ところが〕さまざまな再エネが同じように普及するのではなく,太陽光に集中した結果,新たな問題が発生してきた。

 具体的には,九州電力が昨〔2018〕年10月13日に実施した太陽光発電を一時的に止める「出力抑制」だ。九電の送電網につながる約2万4000件の太陽光発電事業者のうち,9759件を遠隔操作で送電線から切り離した。抑制時間は午前9時から午後16時までの7時間。

 日照条件が良い九州は太陽光発電の設置が進み,九電管内の太陽光発電の出力は807万kw(2018年8月末時点)に達している。これに対し需要量は825万kwなのでお天気次第で需要のほとんどを太陽光発電で賄える状態になっている。

 一方,九電管内では9月下旬から原子力発電4基が営業運転しており,その出力は414万kw程度と見積もられている。

 電力は需要と供給がバランスしないと周波数が乱れ,最悪の場合,大規模停電が起こる可能性がある。〔2018年〕9月6日に発生した北海道地震で大型火力発電が停止し供給力が急減した。その影響でほぼ北海道全域で停電する「ブラックアウト」が発生したことはまだ記憶に新しいところだ。

 皮肉なことに,九電の場合は供給力の増加が問題になっている。九電は余った電力の一部を火力発電の出力抑制などで対応してきた。しかし秋に入り涼しくなり,冷房需要が落ちてくるため,太陽光発電の出力を抑制しないとバランスを取るのが難しくなってきた。

 〔たとえば〕10月13日の供給推定量は1293万kw。これに対し需要推定量は828万kwだ。需要に合わせるためには465万kwを抑制しなければならない。その対策としてダムに水を汲み上げる揚水式発電,蓄電池による貯留,域外への送電で合わせて422kwを賄う予定だが,それでも43万kwが余ってしまう。 

 2) 太陽光で43万KW抑制

 出力抑制は緊急の場合の例外措置として国に認められている。欧州でも再エネの出力抑制は認められているが,ドイツやフランスでは原発で出力調整をしている。日本では原発稼働を優先するルールになっているため,太陽光の出力抑制に踏み切ったわけだ。

 出力抑制は翌日の〔2018年10月〕14日にも実施され,11月に入ってからも晴天だった3日,4日も連日実施され,抑制日は合わせて6日間に増えた。3日には初めて風力発電の出力抑制も行われた。4日の出力抑制は10月21日と並び最大の約93万kwを止めた。出力抑制日は,晴天で休日が目立つ。冷暖房が使われず,休日で工場の稼働が低いなどの条件が重なり供給過剰が懸念されるためだと九電側は説明している。

 3) 太陽光発電事業者,強く反発

 この措置に対し,太陽光発電事業者は強く反発している。再エネの普及はいまや優先度の高い国是であり,7月3日に閣議決定された第5次エネルギー基本計画でも,再エネについて「主力電源化」をめざすと明記されている。出力抑制はまず原発で実施すべきだと主張している。

 補注)だが,政府・経済産業省資源エネルギー庁は「原発も『主要な選択肢』として使いつづける立場」に,異様なまで固執しており,この基本姿勢を変えようとはしていない。

 すでに指摘したように,国の出力抑制順位として原発は最後の手段として位置づけられている。石炭火力などと違って,稼働時にCO2 を排出しない原発はパリ協定でも公認されている電源だ。

 補注)ここでも “常識的な非常識” である理解が示されている。つまり,「原発は」「稼働時にCO2 を排出しない」という点が「パリ協定でも公認されている電源だ」いう《受け売りの決まり文句》は,完全に誤謬である。この記述でも繰り返すが,「原発は石油の2次製品」である事実をしらずに,原発問題をめぐりこの論者のように語る者が多い。だが,原発に関する基本的な認識に決定的な不足があった。

 しかし日本の場合は違う。福島原発事故で悲惨な放射線被害を引き起こし,多くの地域住民が先祖代々住み慣れた土地を追い出され,避難を余儀なくされた。農産品や海産物も汚染物質のレッテルを貼られ,一部の国はいまでも輸入規制の対象にしている。一度事故が起これば取り返しのつかない悲惨な状態が長期間続くことは福島原発事故から明らかである。

 地震,火山大国の日本では原発は危険が大き過ぎる。近い将来,とくに恐れられているのが南海トラフ地震だ。静岡県駿河湾沖から九州の沖合にかけての南海トラフ震源で,過去のケースを振り返ると,2050年ころまでに大地震が起こる可能性が高まっている。内閣府の試算によると,万一南海トラフ地震が発生すれば,最悪の場合32万3000人が死亡し,経済被害は215兆円に達する。

 現代世代だけではなく将来世代の安全,安心のためにも原発は早急に縮小・全廃させることが必要だ

 ところが,深刻な原発事故を経験したにもかかわらず,政府の原発信仰は事故後も変わらず,設立後40年を過ぎ,リスクが高くなった老朽原発の再稼働さえ推進している。この異常な原発信仰が「再エネ推進とその出力抑制」という矛盾を生み出してしまったのである。

 補注)「3・11」を境に,「原発神話(安全・安価・安心)」という虚構は,張りぼてにもなりえない中身しかなかった事実は,誰もがよくしっている。問題はなぜ,政府・経済産業省資源エネルギー庁はそれほどまで原発にこだわり,信仰心まで抱くのかという点である。

 残る疑念は「原発と原爆は双生児である」というよりは,原発の「生みの親である」原爆(核兵器)との関連において,想起されねばならない。それだけのことであった。この問題についてはいまのところ,防衛省が前面には出てこれない「この国の敗戦後史的な特定の事情」があった。

 再エネを主力電源にするためには,「国家百年の計」として長期的,大局的な展望に立ってしっかりと位置づけ必要な対策を実施する必要がある。足元の利害調整に重点を置いた杜撰かつ場当たり的,短期的視点では再エネを主力電源に高めることはできない。

 補注)「原発=原爆」という基本視点を踏まえて考えておく余地があった。現状のごとき政府・経済産業省資源エネルギー庁の「異様な原発信仰」は,「『再エネ推進とその出力抑制』という矛盾を生み出してしまった」という事実があるもの,その向こう岸には「軍事方面に対して有する原発のかかわり」に,すなわち「原爆の利用」を「寸止め技法」的に活かしているのが原発の基本特性であるゆえ,「彼らの意図が奈辺にある」かは自明に属することがらかもしれないのである。

 4) 再エネ最優先で頑丈な送配電網の構築に挑め

 再エネを主力電源にするためには,余った電力を他の地域に送電するなどの送電網体制の整備が不可欠だ。さらに既存の送配電線網では,質の異なるさまざまな電源からの電気を大量に流すと変圧器などに支障が生じ,停電の恐れがある。再エネ電源から大量の電気を流してもびくともしない太くて頑丈な送配電網の構築・整備が大前提になる。

 この点については2003年に策定された最初の「エネルギー基本計画」(第1次)ではまったく検討されなかった。「再エネを主力電源化する,そのためになにをすべきか」という発想が当時の政府にはまったく欠落していた。それが今日まで続いている。

 九電の「出力抑制」で再エネ戦略に大きな矛盾が発生したこの機会に,国家百年の計に立って「原発最優先」の看板を降ろし,「再エネ最優先」の旗を高くかかげ,その普及・促進のための新たな体制,制度設計を官民一体で早急に創り上げ,実施することが必要だろう。(引用終わり)

 ともかく,以上は “御説もっともな論旨” である。だが,問題の焦点のそのまた背景に控えている,それも制約や妨害となるほかない「政治の理屈」「経済の論理(ただし当座・短期のそれ)」にまで,さらに討議を深めないことには,単なるきれいごと的な議論に終始する結果になりかねない。

 たとえば,本日〔1月20日〕の『日本経済新聞』朝刊11面に「〈科学技術〉ロシア原子力,世界席巻『海上原発』途上国に 中印に技術支援  米に燃料供給,日本は距離」という記事が出ているが,これは最後の段落でこう言及している。

 米国では1979年のスリーマイル島原発事故以降,原子力産業が衰退。かつてのライバル,ロシアに頼らなければならないのが現状だ。日本もかつて原子力技術の確立には国を挙げて取り組み,数兆円の予算をつぎこんだ。非核保有国ながら高速炉やウラン濃縮などの研究に取り組んだが,原発事故後は世界をリードする地位を完全に失った。

 かといって,「海上原発」としてまで原発の技術を発展させ応用しているロシアが,もしもチェルノブイリ原発事故の「新版:21世紀版になる事故」など起こしたぶんには,放射性物質の汚染問題をさらに深刻化させ複雑にするだけでなく,この地球環境を根幹から破壊する事態まで招来しかねない。

 プーチンが実質独裁するロシアが,原発を応用する領域を拡大するための努力をおこなっているにせよ,そこには,まさしく「危険がいっぱい」である。前世紀に「原発の大事故」を起こしたロシア(旧ソ連)は,いまではウクライナに残置されたままのチェルノブイリ原発事故の「遺跡」を,それこそ他国事とみなしているわけか?


 福島原発事故の処理,廃炉は何年かかる?  40年前の米TMI事故炉の廃炉も未着手」京都大学大学院経済学研究科「再生可能エネルギー経済学講座」』No.121,http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0121.html

 この「2019年4月4日」の寄稿者は,エネルギー戦略研究所シニアフェロー・竹内敬二である。

 福島第1原発事故の8周年が過ぎ,廃炉処理に何年かかるのか,費用はどこまで高騰するのかがあらためて問題になっている。政府と東電は,廃炉作業は30~40年で完了し,事故の総費用は21.5兆円(廃炉には8兆円)との数字を示していた。だが,このほど民間シンクタンクが「35兆円から81兆円」という大きな数字を出した。より多くかかるとした主な理由は,見通しのつかない汚染水処理だ。

 過去の原発大事故をみると,40年前に起きた米スリーマイル島原発事故炉では廃炉作業は未着手であり,ウクライナチェルノブイリ原発事故(1986年)の処理には今後100年が必要ともいわれる。原発事故は,驚くほどの時間と費用がかかるケースが多い。

 1) スリーマイル島原発,燃料を一部残し,廃炉未着手

 今〔2019〕年3月28日は,米国スリーマイル島(TMI)原発事故の40周年だった。原発の2次冷却系のトラブルで蒸気発生器に水を送る主給水ポンプが止まり,原子炉の冷却がしばらく止まった。炉心の核燃料の多くが崩壊し,一部が溶融した。圧力容器は破れなかったが,炉の下部には,折れて崩れ落ちた燃料が折り重なった。

 TMI事故は「多重防護で守られた原発では大事故は起きない」という安全神話を最初に砕いた事故だった。

 事故炉では,1980年から除染作業が始まり,1985年から炉内の燃料の取り出しが始まった。圧力容器の下部には燃料が溶融後に固まった堅い層があり,鉱山で岩石を砕くボーリング機を使ったが,機械の歯の破損が続くなど難渋を極めた。

 取り出し作業はいちおう1990年に終えたが,燃料の一部は除去できていない。事故が起きた2号機とは別に,1号機は運転中だったため,廃炉処理は1号機の停止後におこなうとして,そのままの状態で置かれている。

 その1号機は,赤字経営が続いていたが,今〔2019〕年9月に停止する予定で,その後,本格的な廃炉作業に入る。ただ今後,何らかの補助金などが受けられるようになれば,運転続行もありうるとされる。(表1)

 補注)2019年9月20日,この1号機は営業運転を停止した。

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 2) チェルノブイリ,処理は「100年事業」

 チェルノブイリ原発事故では,炉心の屋根が吹っ飛んで(格納容器がない炉型),溶融した炉心が大気に露呈し,大量の燃料が放出された。炉心周辺で火災が起き,消火作業などで30人近くが死亡した。主に急性放射線障害だった。

 事故後,多数の被爆者を出しながら,半年をかけて,コンクリートパネルなどで「石棺」と呼ばれる覆いが建設された。その石棺も老朽化したため,事故後30年の2016年,石棺をすっぽり覆うかまぼこ型の巨大なシェルター(1700億円)をEUが建設した。耐用年数は100年以上。いまは,外から事故炉がまったくみえない状態になっている。

 炉心には溶けて固まった大量の燃料が放置されている。今後は,時間をかけて放射性物質の処理方法を検討する。外部に取り出さず,その場で処理,保管する案も有力。時間が経てばそれだけ放射能も弱まることから,処理開始も送れることになりそうだ。「処理には100年かかるだろう」といわれている。

 3) 福島,汚染水が難題 「30~40年で完了」は疑問

 さて,福島第1原発経済産業省による2013年12月の試算では,事故の総費用は総額11兆円(廃炉2兆円)だったが,3年後の2016年12月の試算では総額21.5兆円(廃炉8兆円)に跳ね上がった。なかでも廃炉の見積もりが,一気に4倍になった。それほどに予測がむずかしいことの裏返しでもある。(表2)

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 東京電力は福島第1原発廃炉に関する工程表をつくり,逐次改定している。その特徴は「30年から40年で廃炉が完了する」というという「短さ」だ。完了時期は2040年代~50年代になる。

 補注)この東電福島第1原発事故現場の “後始末と廃炉” が「30年から40年で廃炉が完了する」といった希望的観測は,いいかえれば「きわめてずさんな予定設定」であって,まったく妥当性をもたない将来への展望であった。

 完了時期がひとまず2100年とでも説明されていれば,まだしも理解できなくはない。東電福島第1原発事故現場については当初,チェルノブイリ原発事故の後始末方式(石棺で覆う方法)が提議されたこともあるくらいであるから,「完了時期は2040年代~50年代」というきわめて甘い予測は,それこそお話にもならない「廃炉未来・観」である。以下につづく段落がその点を説明している。

〔記事に戻る→〕 主な工程としては,「使用済み燃料の取り出し」「燃料デブリの取り出し」「汚染水対策」「廃棄物対策」と並んでいるが,しかし,デブリの取り出し,汚染水の処理,廃棄物の最終処分などは見通しが立っていない。

 溶けた燃料が炉心の底にとどまっているのは,チェルノブイリ事故と似ている。大きく異なるのが,地下水だ。福島の原発3基の壊れた炉心は,地下水の流れの中にあり,常時汚染水を生み出している。

 福島では汚染地下水を減らす方策として,つねに電気で氷の壁を維持する「凍土壁」が建設されたが,水の遮断性においては信頼性が低く,失敗とみられている。

 補注)この凍土壁の設置は鳴り物入りに終わっていたと形容したら多少大げさになるかもしれないが,こう総括しておく。当初は大きな期待がこめられて,しかも政府の支援のもとに建造されていたが,いまでは元の木阿弥に近い。工事にたずさわった業者の収益確保に貢献はできていても,東電福島第1原発事故現場の収拾・解決策として,当初の期待どおりに役立っているとはいえない。

 今〔2019〕年3月,民間シンクタンク日本経済研究センター」が,事故の対応総費用は「35兆~81兆円にのぼる」という試算を公表した。大きな部分を占めるのが廃炉・汚染水処理などで最大51兆円とした。そのほか賠償で10兆円,除染で20兆円だった。

 補注)本ブログ筆者は東電福島第1原発事故現場については「爆発事故の後始末」と「通常の廃炉」に分けて言及してきたつもりであるが,双方は工程管理上,必ずしも明確に区分できない問題であった。

 いずれにせよ「爆発事故の現場」という特性をもつ状態のなかで,廃炉までの工程を完了させうる時期は,いったいいつになるのか。その総経費はいくらになるのか。これらに見通しは依然,暗雲のなかにあるとしかいいようがない。これからも重ねてなんどもご破算を迫られるはずである。

 つまり,今後において現場の後始末と廃炉に時間がかかっていけばいくほど,これに比例して経費も増大していく。いつ完了できるかという見通しすらつかないまま,この経費の増大だけは確実に進行していくのである。

〔記事に戻る→〕 今後,どんな処理方法を選ぶかによって,費用は大きく異なるとしている。「溶けた核燃料デブリを取り出さず,廃炉を当面見送って『閉じこめ・管理する』いわゆるチェルノブイリ方式だと,2050年までの総費用は35兆円になる。

 汚染水の処理や汚染土を最終的にどう処分するかを決めなければ,事故処理はどの程度の時間と費用がかかるかわからない。「30~40年で完了」は,事故直後に,当局が掲げた希望的な数字の意味合いが強い。

 日本経済研究センターは「デブリの全量回収は可能で被災者はいずれ全員帰還できる」という楽観シナリオだけでなく,悲観的なシナリオも含め,その根拠も含めて示すべき」と,現実性のある事故処理,廃炉シナリオで議論すべきとしている。

 4) 事故炉でなくても「100年事業」,英国の原子力施設

 英国は,ガス炉原発を約40基建設したが,多くが停止している。またウラン濃縮施設,途中まで開発した高速増殖炉など,20地点近くで廃炉作業が進んでいる。廃炉や除染を担う原子力廃止措置機関(NDA)は各地点の廃炉計画を作っているが,どの施設をみても,費用の大きさ,期間の長さに驚く。

 英国中西部にある原子力施設が集中しているセラフィールド地区が最難題だ。核兵器に使うプルトニウムを製造したパイル炉2基,旧型ガス炉4基などが廃炉作業中。昨〔2018〕年運転を終了した再処理工場ソープも廃炉になる。その終了時期はなんと2120年,費用は235億ポンド(1ポンド150円で3.52兆円)にもなる。放射能を扱った施設の処理・廃炉には,事故がなくても膨大な時間と費用がかかることを示している。(引用終わり)

 

  東電福島第1原発事故では核爆発を起こしたと目されている3号機が使用していたMOX燃料に関連する記事

 なおこの四国電力伊方原発3号機は,本日の記述で最初にとりあげた「話題」であった。

  ◆ MOX燃料,初の取り出し 使用済み,行き先未定 伊方原発
    =『朝日新聞』2020年1月14日朝刊26面「社会」=

 四国電力伊方原発愛媛県伊方町)3号機で〔1月〕13日午後9時,使用済みになったプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)を含む核燃料を原子炉から取り出す作業が始まった。MOX燃料を使うプルサーマル発電は全国の3原発4基でおこなわれているが,MOX燃料が使用済みになり,取り出されるのは初めて。処分方法は決まっておらず,いき先のないまま,敷地内のプールで当面保管される。

 四電によると,作業は13日午前0時から始まる予定だったが,12日の準備中に核分裂反応を抑える制御棒1本を誤って引き上げるミスがあり,安全確認や準備のため遅れた。

 原発は通常,ウラン燃料を使う。使い終わった燃料からプルトニウムを取り出し,ウランと混ぜて作るのがMOX燃料だ。国は輸入に頼るウランの有効利用になるなどとして,プルサーマル発電を進めてきたが,使用済みMOX燃料については,使用済みウラン燃料より発熱量が多く,保管管理上の危険性を指摘する声もある。

  原子力市民委員会」座長の大島堅一・龍谷大学教授(環境経済学)の話 ※

 使用済みMOX燃料の原発敷地内での当面の保管は事実上,永久的に置くことになりかねない。そもそも使用済みウラン燃料をそのまま処分した方が安くなると評価されており,コスト面でも使用済みMOX燃料の再処理は無意味だ。プルサーマル発電は実質的に目的が失われている。

 翌日〔1月15日〕『朝日新聞』朝刊「朝日川柳」に,こういう1句が採用されていた。「伊方原発MOX燃料」について,であった。

    “使用済  当てもないのに  取り出され”

真似ていうと,

    “東電の  事故現場は  とわにあり”

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