国立大学の予算を従前に締めつける大学行政はアホノミクス化現象の典型実例,日本の教育体制を劣化・弱体化させた

日本の大学における研究力の「弱体化や劣化」は,高等教育予算を削減していながら成果だけは要求する基本態勢,「教育理念なき思考方式」に原因する
                   (2019年4月15日)

 

  要点:1  「教育は国家百年の大計」である事実に関する認識のない「安倍晋三政権下の文教政策」

  要点:2 研究費の絶対的な不足に苦悩する日本の大学(国立大学)の,世界における相対的な地位は低下しつつある

  要点:3 先日最新鋭の戦闘機F35が墜落した,実際の調達価格が147億円ともいわれる兵器が海の藻屑になっていた


 🌑 まず 参考にまで「書評の紹介」から 🌑
 
 ★ 書評 豊田長康〈著〉『科学立国の危機-失速する日本の研究力-』★
       =『朝日新聞』2019年3月30日朝刊 =
   ▲ 評・長谷川眞理子総合研究大学院大学学長・人類学)▲

   選択と集中,ゆき過ぎは間違い ※

 

 わが国は資源に恵まれず,島国で山も多い。しかし,古来より刻苦勉励をよしとし,近代国家として経済発展をなしとげてきた。明治以降は,科学が果たした役割が大きい。しかし,いまはどうか?

 

 経済は伸び悩み,少子高齢化が進む。国立大学法人の運営費交付金は徐々に減り,研究者の数は増えない。研究者をめざす若者は減っている。論文の生産数も減り,大学ランキングも下がり気味。日本の科学技術力は明らかに落ちている。

 

 このことは,誰もがもっている共通認識だろう。それではどうしよう? ここで起死回生をはかるには,どんな政策をとるべきか。それを考えるには,実情のリサーチをしなければならない。

 

 本書は大変な労作だ。多くの国際的なデータと統計を駆使して,どんな要因が科学の研究力を上げることにつながるのかを詳細に分析している。200枚以上の図表がぎっしりつまった分析は圧巻。

 

 まずは,そこに敬意を表したい。一国の科学技術の状況を正確に把握するには,これだけの細かな分析が必要なのだ。自分の言説に都合の良い1,2枚の図をもってくればすむ話ではない。

 

 分析の果てにみえてくるのは,過度の「選択と集中」は間違いだということだ。人を育てるのが本当に大事だということ。研究業績をあげてGDPの成長に結びつけていくためには,研究者の数を増やし,さまざまなところに活躍の場を増やしていくことが重要なのだ。

 

 日本は人件費削減で,研究者の数を増やしてこなかった。そして,大企業や一部の国立大学に資金が集中し,広がりがなさ過ぎる。最後の第6章では,大量の分析を総合し,なにをすればよいか,してはいけないかが提言される。

 

 最近流行の数値目標も,どんな意味と根拠があるのか,説明がていねい。政策を決めるには,せめてこれくらいの分析をもとにして論じあって欲しいと思わせる一冊だ。

 

 「〈今月の視点〉-125 国立大「運営費交付金 “等” 」の 仕組と狙い! 2017年度「運営費交付金等」は東京大 824.1億円,京都大 543.5億円など,交付金補助金』で機能強化促進!」旺文社教育情報センター,2017年5月の解説

 a) 国立大学法人等(国立86大学・4研究機構の90法人)には,基盤的経費の安定的な確保と機能強化への重点支援として「運営費交付金」が交付されている。しかし,2002年度の法人化以降,ほぼ毎年度減額され,2017年度は前年度より20億円(0. 2%)減の1兆925億円である。

 他方,国立大などの機能強化を継続・安定化させるため,2017年度は53億円を機能強化経費から基幹経費へ移しかえるとともに,新たな「機能強化促進費」(補助金)45億円を措置。その結果,「国立大学法人運営費交付金 “等” 」は,東京大824. 1億円,京都大543. 5億円など,国立大学法人等に前年度より25億円(0.2%)増の総額1兆970億円が交付される。

 b)「運営費交付金」減額の影響。上述のような「運営費交付金」の長年にわたる減額は,国立大の財政に多大な影響を及ぼし,教育研究活動や教職員人件費などを圧迫している。しかしながら,財政審「対」文科省の見解には違いがあった。

 この「運営費交付金」の減額をめぐっては,まず,財務省財政制度等審議会財政制度分科会(財政審)と文科省のあいだで,つぎのような見解の相違がみられる。(原図7参照)

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 ※-1 2004年度~2016年度まで外形上,1,740億円減であるが,財政審の “382億円減” に対して,文科省は “1,000億円以上減” と計算する。また,2004年度の運営費交付金1兆2,415億円と2016年度1兆945億円を比べると,外形上は1,740億円の減少であった。

 ※-2 その減額に対し,財政審と文科省はさらに,つぎのような見解を示している。

 一方の「財政審」は,法人化以降,2016年度までの運営費交付金の減額▲1,470億円のうち,附属病院の赤字解消(▲584億円)と退職手当の減(▲504億円)が大宗(注.大部分,大半の意)を占めており,これらの合計(▲1,088億円)を除くと,▲382億円(▲3. 1%)の減額に留まっていると計算。

 他方の「文科省」は,財政審資料では,退職者の減少による自然減と附属病院の経営努力による支出減を「減額要因」としてかかげている。 しかし,義務的支出増の「増額要因」約800億円(法定福利費の増,消費税改定の影響など)は考慮されてない。この約800億円を考慮すると,「運営費交付金」は,実質▲1,000億円以上の減額となると計算。

 註記)以上資料の住所は,http://eic.obunsha.co.jp/resource/viewpoint-pdf/201705.pdf

 c) これ以上にくわしい解説は紹介できないが,いずれにせよ,現在は独立行政法人となっている国立大学に対する国家の「運営費交付金」の減額化措置は,小泉純一郎内閣の時代(2001年4月~2006年9月)に開始されていた。新自由主義規制緩和という経済理念のもと,国家予算のうちでもっとも財政的に締めつけやすい文教領域の予算を,それも大学方面に対して実施してきた。

 だが,現在となってその結果として招いた実情は,たとえば冒頭に書評で紹介してみた,豊田長康『科学立国の危機-失速する日本の研究力-』(東洋経済新報社,2019年2月)が徹底して実証的に解明しているように,「日本の研究競争力が低下してしま」う(446頁)顛末をみずから招来させる,という大失策をもって鮮明になっていた。

 昨今,日本の研究者が多くノーベル賞を受賞されている。ところが,このすばらしい成果が国内で大いに喜こばれているなかで,実のところ,その授賞者たち自身がこのさき「日本からノーベル賞授賞者が出なくなる」と,深刻に危惧している。この点は,前段に述べたごとき,日本のとくに国立大学における運営費交付金にかかわる事実,つまり「高等教育国家予算のあからさまな減額傾向」を踏まえて指摘されていた。

 前段の a) と b) の解説中にみられるが,「財務省財政制度等審議会財政制度分科会(財政審)」と「文科省」のあいだで対立していた議論,換言すると「運営費交付金」の減額をめぐる「実質的な減額」の解釈の違いに関する議論などは,単に「見解の相違」が争われる以上に,小泉純一郎内閣の時代から安倍晋三内閣の時代にまでつらなってきた「高等教育機関に対する国家指導者たちの認識」における「重大な欠損」を示唆している。

 その問題点については,2019年4月に入ってから報道されて関連の記事をいくつかとりあげつつ考えてみたい。

 

  「AI研究者大学脱出 企業で基礎研究,裁量大きく」日本経済新聞』2019年4月8日朝刊9面「科学技術」

 人工知能(AI)開発の第一線に立つ大学や公的機関の若手研究者が企業に相次いで移籍している。AIの応用先が広がり,多くの企業が基礎研究に力を入れはじめたためだ。

 海外でも企業が人材の囲いこみを急ぐが,大学の研究者は産学双方の立場で力を発揮する。日本の大学は兼業などのの制度整備が遅れ,AI人材の供給がいつまで続くのか不安も残る。

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 AIを言語や画像の処理に応用する牛久祥孝氏は2018年,東京大学の講師を辞めた。オムロンの子会社,オムロンサイニックエックス(東京・文京)の研究責任者に転身した。

 2016年にイラスト画像を解析する競技会で世界一に輝くなど,AI分野では日本の第一人者。オムロンは研究責任者のポストを示し,自分の裁量で活動できるようにした。講師時代と違い,研究内容を決める権限をもつ。

 1)助教から会社員

 東北大学助教だった山口光太氏も2017年,サイバーエージェントに転職し,研究チーム「AIラボ」の責任者となった。大学では,基礎研究に充てる科学研究費補助金科研費)などの資金は使い道が限られる。同社入社後は研究費の融通が利くうえ,企業ならではのさまざまなデータが使えるという。

 大学の優れた人材の流動化が目立つ背景には,企業が基礎研究を重視するようになったことがある。トヨタ自動車は2016年に自動運転の技術開発をみすえて,AIの研究子会社を設立した。産業技術総合研究所の研究チーム長を辞め,AIスタートアップのヒューマノーム研究所(東京・中央)社長となった瀬々 潤氏は「AI開発では,理論構築など基礎研究が欠かせず,企業が力を入れはじめた」と指摘する。

 実際,研究論文でも企業が存在感を高めている。機械翻訳では米フェイスブック,声で操るロボットの成果でAI開発のプリファード・ネットワークス(東京・千代田)の論文が,2018年の主要国際会議の最優秀論文に選ばれた。国内企業は海外のIT企業と比べると,給与面では見劣りする。それでも,企業の研究現場を選ぶのは「研究チームのトップとして,意思決定できることを重視した」(山口氏)。企業であっても,基礎研究などに取り組める環境は魅力的だという。

 2)危うい政府目標

 大学が産業界の人材を育むのは歓迎すべきだが,企業への転身が単なる「人材流出」に陥る懸念も出ている。産学の双方に籍を置くような柔軟な活動がむずかしいからだ。学内の若手研究者を登用する動きも鈍い。東大の教授1268人のうち84%が51歳以上(2017年5月時点)。40歳以下はわずか2人だ。

 大学でAIの研究や教育を担う教員が減れば,優秀な学生が育たなくなり,専門人材の不足に拍車がかかる。政府がかかげる年間25万人のAI人材の育成に向け,大学と企業が人材を奪いあっている場合ではない。海外では大学の著名な研究者が産学の相乗効果を生んでいる。

 カナダのトロント大でAIブームの火付け役となる成果を出したジェフリー・ヒントン氏はグーグルに入社。フェイスブックもAI研究所の設立のさい,ニューヨーク大学のヤン・ルカン教授をトップに招いている。日本もAI分野の人材不足の解消をめざすなら,産学が一体となって取り組む必要がある。 (引用終わり)

 さて,つぎに紹介する人物はAI部門の人材ではなく,医学方面での若手逸材がどのように日本で処遇されているか紹介する。ただし,この事例はごく例外的なものであった。

 武部貴則(タケベ・タカノリ,生年1986年・出身地神奈川県) は,現職東京医科歯科大学統合研究機構教授であるが,シンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長消化器部門・発生生物学部門准教授,および横浜市立大学先端医科学研究センター教授も兼任している。

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 出所)武部貴則,http://yokohama.localgood.jp/news/7042/

 『公立大学法人横浜市立大学記者発表資料』(2018年1月22日附属病院職員課)によると,「横浜市立大学に現役最年少,31歳の教授が誕生!」した。「横浜市立大学では,現・医学部臓器再生医学准教授武部貴則(たけべ・たかのり)氏を平成30〔2018〕年1月15日付で,先端医科学研究センター担当教授に任命しました。これにより,横浜市立大学の現役の教授において,最年少の教授が誕生しました。当該教員はこれまで数々の優れた研究成果……」と公表していた。

 武部貴則は,授賞理由「多能性幹細胞を用いたヒト器官原基による固形臓器の発生・再生研究」をもって,第15回(平成30〔2018〕年度)「日本学術振興会賞」を授業されていた。この時点ですでに前段に触れた日米各大学での教授・准教授職を兼職していた。

 武部貴則のように突出した業績・成果を挙げた大学教員「人材」に対する処遇についての関心事はさておいても,その研究裾野を広く維持・拡延していなければならない大学の人材が,いまでは民間企業・研究所に流出せざるをえない現状がある。

 ところが,先進国であるはずの日本なのであるが,『東京新聞』(2019年4月6日)は,見出しを「性別や年齢差別,全学部で認めず  大学入試巡り文科省方針」とつけて,つぎの書き出しからなる記事を伝えていた。

 文部科学省は〔2019年4月〕5日,大学入試全体の公正性確保策を議論する有識者会議の中間報告を公表した。募集,出願,試験,合否判定,発表など各段階で求められる対応を列挙し,大学側の説明責任を強調。一連の医学部入試問題で明らかになった性別や年齢など属性による差別的な扱いはどの学部でも「不適切」と明記した。

 註記)https://www.tokyo-np.co.jp/article/education/edu_national/CK2019040602000207.html

 一部のとくに私大医学部・医科大学が,昨〔2018〕年中に世間の耳目を惹いた「入試において女性を差別していた不正問題」は,人間の半分が女性であって「彼女らの才能・実力」を活かさねばならない「国家体制(および人類社会)」じたいの問題が,単に一私大医学部においての特有の問題ではないことを,あらためて教示した。高等教育における女性差別の問題は,実は,そのほかすべての領域にまで連なっている「普遍的な問題」をも意味する。

 

 「助成中止,職失う研究者も 若手育成の矢先『汚職のあおり』」朝日新聞』2019年4月9日朝刊3面「総合」

 計画の途中で,突然文部科学省が打ち切りを決めた私立大学研究ブランディング事業。助成は大学が若手研究者を雇用する資金にもなっていた。雇用契約の更新に悩む大学もある。

 1)「生活不安」憤る

 事業の採択校に雇用されている理系の男性研究者は憤る。「わずか数年で職を失えば,つぎの就職活動にもっていく成果すらえられない。生活の不安もある」。男性の給与は事業の助成でまかなわれている。事業の打ち切りを受けて,雇用継続はむずかしいとする大学と相談し,別の大学の職を探すことにした。

 任期制の研究職を経て,いまの大学のスタッフ募集に応じた。良い研究者がそろい,5年間の計画があった。「ここで経験を積み,つぎのステップにつなげよう」と思った。事業打ち切りを告げられたのは,職場に慣れ,大学に貢献しようと意気ごんでいた矢先だった。

 この大学の担当者は「つらいことだが,彼にやってもらうと約束した仕事がこの打ち切りでできなくなる可能性がある」と説明する。男性は「博士を増やすという旗を国が振っておきながら,汚職事件のあおりのようなかたちで事業が終わるなんて。はしごを外されたような気持ちだ」と語る。

 補注)この汚職事件とは,前段の話題に上っていた件であった。私立大学医学部・医科大学の「不正入試」に直接かかわった「文部科学省某局長の収賄事件」を指している。

 2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画(2020年度まで)は「若手研究者のキャリアパスが不透明で雇用が不安定な状況にある」と指摘し,若手への研究費支援などの必要性をうたう。ある大学の幹部は「国の支援計画が短期で変わるという前例を作れば,就職か研究かで悩んでいる若手は大学に残らなくなる」と心配する。

 「国際的な研究の競争力のために若手の雇用の安定化をめざしているのは,ほかならぬ文科省だったはずだ」と批判する文科省の関係者もいる。こうした反発に文科省の担当者は「予算の制約がなければ事業を続けたかった」と釈明している。

 2)貴重な研究資金

 「われわれはなにも悪いことをしていないのに」。

 〔2019年〕3月1日,大阪市であった文科省の説明会。非公開の会場の外に,採択校の関係者から怒りの声が漏れた。私立大にとって,50億円を超える同事業の助成は,貴重な研究資金となっている。代表的な国の研究助成である科学研究費助成事業の配分は,2018年度は国立大の1343億円に対し,私立大は397億円だった。

 ブランディング事業に採択された研究には,各大学の特色が出ている。たとえば,国学院大は「古事記学の拠点形成」。名城大は「青色LEDの発明」でノーベル物理学賞を受けた赤崎 勇終身教授を中心に光デバイスを研究する。

 早稲田大は,医療工学や社会科学の横断的なプログラムが採択されている。取材に「打ち切られるのは大変遺憾。私立大の研究力基盤の強化をサポートする施策が必要だ」と回答した。

 アジア・太平洋地域の法秩序の多様性の研究で助成を受けていた中央大は「少なからず影響を及ぼす」とした。「研究推進と成果の社会還元は重要な課題」として,事業を継続させることを検討するとしている。(引用終わり)

 

 「平成の科学 残した宿題」朝日新聞』2019年4月11日朝刊27面「科学」

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 前項 ③ の記事に関連させた話題となるが,2日後のこの『朝日新聞』に掲載されたこの解説記事が,「平成の科学 残した宿題」との見出しをもって,つぎの3点をとりあげるかたちで,最近における日本の大学を囲む研究環境の悪化状態をくわしく説明していた。

 --まもなく平成が終わる。日本の科学をめぐるこの約30年間を振り返ると,相次ぐノーベル賞受賞など華やかな側面がある一方で,事件や事故を通じて科学と社会の関係が問われた時代でもあった。そして近年は,日本の「研究力」そのものの低下も懸念されている。「令和」時代に託された日本の科学の課題を探る。

 1)事件事故,失った信頼 原発サリンデータの偽装…」

 平成の時代には,科学や技術に関連する多くの事件・事故が起き,そのたびに人びとの不信感も増大した。

 原子力では,東日本大震災(2011年)に伴って,東京電力福島第1原発で事故が起きた。「原発は絶対安全」としてきた国の原子力行政や東京電力の姿勢が,強い批判を浴びた。放射線による健康への影響や食品の放射能汚染をめぐって,風評被害も起きた。土壌の除染や汚染水の処理,廃炉など,長期を要する課題が山積している。

 2012年版の科学技術白書には,文部科学省科学技術政策研究所による調査の結果が紹介された。この調査によると,「科学者の話は信頼できる」とする人の割合は震災前に比べて半減した。また,「研究開発の方向性は専門家が決めるのがいい」とする意見への同意も,3分の1に激減した。

 阪神・淡路大震災(1995年)では,倒壊しないとされた構造物が相次いで崩れた。地震予知にも批判が集まった。この年に起きた地下鉄サリン事件では,化学物質サリンが市中でまかれ,13人の死者と6千人以上の負傷者を出した。若い科学者らが犯行にくわわっていたことが明らかになり,世界に衝撃を与えた。その後も牛海綿状脳症(BSE)などの食品安全問題,耐震偽装事件などが起きた。

 科学技術に対する国民の厳しいまなざしを受けて,日本学術会議は2012年,「科学不信」をテーマに議論し,報告書をまとめた。しかしその後も,STAP細胞問題(2014年)を始めとする研究不正事件が相次いで発覚するなど,信頼回復への道は遠い。

 2)研究費「競争」,光と影  環境整備の一方,苦境の大学も

 科学と社会のあり方が問われる一方で,科学研究の環境の整備は進んだ。平成の初期,国立大学の,とくに基礎科学の研究現場は,貧弱な研究環境にあえいでいた。1991年に京都大総長に就任した同大名誉教授の井村裕夫さん(88歳)は「学内の図書室にはサッシが壊れて窓枠にビニールシートをかぶせているところもあった」と当時を振り返る。

 国は「科学技術立国」を打ち出し,1995年に科学技術基本法を施行。2001年には,省庁を束ねる総合科学技術会議内閣府に設置された。5年ごとに策定する科学技術基本計画には予算目標を盛りこみ,関連予算が増えはじめた。

 基礎研究の予算である科学研究費補助金科研費)は,平成初期の約500億円から,2018年には約2300億円に。科研費を含めた応募型の「競争的資金」が増え,競争力のある大学や研究機関の施設は充実した。井村さんは「政策の司令塔ができたことは研究費の増加に一定の役割を果たした」と話す。

 一方で,国立大学は,2004年の法人化を機に,人件費と教育・研究の基盤的経費である「運営費交付金」が年1%ずつ削減された。その削減幅は,2018年度までに約1400億円に上る。

 研究成果の面では,基礎科学分野で2000年代にノーベル賞の受賞が急増した。白川英樹・筑波大名誉教授から2018年の本庶 佑(ほんじょ・たすく)・京都大特別教授まで,日本のノーベル賞受賞者は計18人にのぼる。国際宇宙ステーションスパコンなど,国の巨大科学プロジェクトも進められた。

 しかし近年,その土台が危ぶまれている。運営費交付金削減の影響で,とくに地方の国立大で研究費が枯渇し,研究室の維持にも困るケースが出ている。

 3)激変する社会,弊害は AIやゲノム編集,使い方しだい

 平成時代の科学技術政策の特徴に「イノベーションの推進」がある。研究の成果を,日本の経済力の強化や社会課題の解決に生かそうという考え方だ。

 イノベーション政策は,アメリカでは1980年代に関連法が整備され,大学が研究費を自前で稼ぎ出す産学連携やベンチャー設立などの動きが急速に進んだ。2000年前後にはグーグルやフェイスブックなどのITベンチャーが誕生し,急成長する。

 日本では主に産業界がイノベーションを担ってきた。しかし,バブルが崩壊し,多くの大企業は研究所を再編し,基礎研究を縮小した。第2次安倍政権(2012年~)は,イノベーションを経済政策「アベノミクス」の柱のひとつに位置づけた。産業界と連携して大学の知を生かす体制づくりや,研究予算の自前調達などを含む「国立大学改革」を進めている。

 補注)いま〔2020年1月の時期〕になってみれば,アベノミクスとは「口にするのも汚らわしいエセもいいところの経済政策であった事実」は,強調するまでもなく周知となっている。当初からすでに「アホノミクスだと蔑称されてきた」このアベノミクスであった。

 前段(本文)の話題にからめていえば,まさに「カラノミクス」そのものであって,植草一秀にいわせれば「アベノリスク」でしかありえない中身なら,確かに備えていたという程度の “カラッポのミクス” であった。

 もともと「3本の矢」で「なんとかになるのだ」と力説されたりしていたけれども,実質においては空騒ぎ的に終始してきた「ウソノミクス」(通称:アベノミクス)であった。それゆえ結局は,たいした実績を挙げえずに終わっていて,リフレ政策としてのインフレ・ターゲット目標(年間ごとに2%)は達成できていなかった。

 「なんとか・ミクス」という造語群のひとつに仲間入りできた「アベノミクス」なる呼称は,安倍晋三自身にとってはうれしい出来事であったかもしれない。だが,いまとなって鮮明に浮上したその結末は「恥:そのもの」でしかありえず,それも “国恥の次元” においてまで「指弾されるごときダメノミクス」の大恥(赤恥・青恥など)の披露宴になっているではないか。

 アベノミクスを盛んに(垂れ流し的に)ヨイショしてきたはずの『日本経済新聞』は,最近になっても「物価『2%』達成 険しい道のり-消費者物価3年連続上昇 伸び率は鈍化」(2020年1月25日朝刊)などと,「呑気な父さん」風の報道をするだけである。

 だが,安倍晋三の第2次政権(以降)がすでに7年も経過してきたなかで,経済新聞の立場・視点からすれば,まだいうべきことがたくさん残っている。要はアベ忖度的な報道しかできないのだとしたら,いったいなんのために「経済新聞」の看板をかかげているか疑問がある。

 話を本論に戻して批評すると,その間における新手になる大学改革の施行は,すでに「改革疲れ」で疲弊しきっていた「国立大学の立場」に対してさらなる負担をかけるだけであり,いいかえれば,従来から抱えてきた困難をより深刻にさせるだけであった。

〔記事に戻る→〕 イノベーションの代表例に,人工知能(AI)がある。2010年ごろ,人間の脳のモデルを使った「ディープラーニング」という技術が米国でブレークし,一気に社会に普及した。しかし,AIは株の高速取引から自動運転まで応用の幅が広く,人間の仕事を奪うのではとの懸念がある。

 個人の属性や行動データをもとにAIで社会的信用度を数値化するビジネスが,差別を助長するとの批判もある。ITを活用したビッグデータ解析もイノベーションの例だが,個人情報の利用とプライバシー保護をめぐって,国際的な議論が起きている。

 近年登場した「ゲノム編集」も,応用のしかたしだいで生命のあり方を根本から変えてしまうとの懸念がある。

 名古屋大経済学部の隠岐さや香教授(科学技術史)は「社会が急激に変化すると,人びとは情報を入手して影響を検討する時間的余裕がなく,議論も合意もむずかしくなる。イノベーションには社会的な課題を解決するという意義があるが,しばしば弊害を伴い,それを抑えるしくみが必要だ」と指摘する。(引用終わり)

 この ④ に紹介した解説記事は,日本の大学などにおける研究力の水準低下・劣化を懸念すると同時に,単に理系的な学術発展にともなわない文系的な哲学・思想面の貧弱な研究体制が憂慮されていると受けとめておく必要がある。

 

 「大学の危機乗り越えよう ノーベル賞の梶田氏らシンポ」朝日新聞』2019年4月14日朝刊22面「教育」

 人件費などに使われる国の予算の抑制や,度重なる改革で日本の大学は疲れはて,深刻な危機を迎えている。そう心配するノーベル賞受賞者梶田隆章氏や白川英樹氏らの呼びかけでできた団体が先〔2019年3〕月,東京都内で初めてシンポジウムを開いた。梶田氏は「社会の理解をえて,研究費への税金の投入を増やす必要がある」と訴えた。

 団体は「大学の危機をのりこえ,明日を拓(ひら)くフォーラム」。大学の現状に危機感を募らせる大学関係者51人が呼びかけ,今〔2019〕年2月に結成された。シンポなどで市民も交えて議論するほか,ホームページ上で情報提供や意見交換をおこない,大学を支える世論を作りたいとしている。

 3月31日に東京・御茶ノ水明治大学であったシンポでは,大学関係者4人が研究や教育の現状や課題などについて話した。

  a) 梶田氏は「これから芽が出ようという研究が,『選択と集中』で自由にできない仕組は基礎科学には向かない。研究費を減らしても,競争すれば研究力が上がるという国の実験は,失敗したと思う」と指摘。そのうえで「基礎科学は世界各国でも基本的には国が支えており,日本もさらに国の予算を増やすべきだ」と述べた。

  b) 国立大学協会の山本健慈専務理事(元和歌山大学長)は,東京と地方では,国立大が存在する意味あいが違うと主張した。「地方国立大が減ると,国民が高等教育に接する機会に格差が生まれる」と警告した。

  c) 「国が進める大学改革は,教育・研究のためではなく,経営のためにおこなわれている」と指摘したのは,日本学術会議で副会長を務めた甲南大学井野瀬久美恵教授。管理業務や評価の仕事が増え,学生と向きあう時間が不足する現場の窮状を訴えた。

  d) 大学改革の推進・反対両派の主張を検証した「『大学改革』という病」を書いた徳島大学の山口裕之教授は,「研究者を業績評価で競争させると,短期的な成果を求め,チャレンジングな研究をしなくなる。基本的な予算を保証したうえで競争する方向に変えるべきだ」と語った。

 同フォーラムは6月16日にも,高等教育の無償化をテーマにしたシンポをおこなう。(引用終わり)

 この記事は私立大学関係者もくわわって議論している。

 

 日本経済新聞』2019年4月13日夕刊から拾った2つの記事

 1)「研究力低下,教育に影響  国立大8割が懸念 文科省調査」『日本経済新聞』2019年4月13日夕刊10面「社会1・スポーツ」

 文部科学省科学技術・学術政策研究所は〔4月〕13日までに大学の研究者や企業の研究担当役員ら約2700人を対象とした意識調査の結果を発表した。国立大学関係者の約8割が研究活動の停滞が「教育・指導の質の低下につながっている」と回答するなど危機感を示した。

 今回は3回目で,2745人に質問を送り回答率は91.1%だった。教育への影響については初めて尋ねた。

 安定的な研究資金不足が大学の研究力の低下を招いていると指摘される。「(研究活動の停滞が)教員がもつ最先端の知識の陳腐化を招き,教育・指導の質の低下につながっている」と感じる国立大学関係者が54%。「どちらかといえばそうである」(31%)を含め8割強が危機感を示した。

 「(授業料や国からの運営費交付金でまかなう)基盤的経費のみでは学生が卒業・修士・博士論文を執筆するための研究を実施することは困難」も,同様に「どちらかといえばそうである」と合わせて7%に達した。

 2)「遠みち近みち科学研究,選択と集中の代償」編集委員・滝 順一稿『日本経済新聞』2019年4月13日夕刊12面「文化」

 「研究は他人のお金で遊ぶことだと思う」。インターネットや人工知能で人間の能力の拡張をめざす暦本純一・東京大学教授はいう。「だから思い切り遊ばないと申しわけない」。誤解を招きかねないいい方だが,要は失敗を恐れず自分の夢を追求せよということだ。日本の多くの研究者,とくに若手はいま,思いっきり研究したくてもできない環境にある。

 酵母の研究者,木村洋子・静岡大学教授は申請した科学研究費補助金が「当たらず」,運営費交付金約63万円(電気代25万円含む)で8人の学生の教育と研究を賄わねばならなかった。研究室の維持には切りつめても約180万円要る。大隅良典・東京工業大学栄誉教授の財団から助成を受け一息つけた。余裕がなく「いつも目をつり上げている私をみて学生たちが科学者の道を選ばなくなるのが心配」と話す。

 雷を研究する榎戸輝揚・京都大学特定准教授はクラウドファンディングで資金を集め成果をあげる。科学研究の新しい進め方だ。それでも「過度の選択と集中による(研究の)不安定化は問題」と,自民党科学技術・イノベーション戦略調査会の小委員会で話した。

 政府は大学の学術研究を幅広く支える交付金を減らし戦略的に重要とみる分野に集中投資してきた。その結果,多くの研究者が明日をも知れぬ環境にある。狙いどおりのイノベーションが起きればまだしも,はっきりしてきたのは科学者を志す若者の減少だ。人口あたりの博士号取得者は英独はもとより韓国よりも少なく,さらに減る。

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 出所)これはあちこちに出ている図表であるが,ここでは「『知のプロフェッショナル』日本の将来の発展を担う大学院改革」『キャリア教育ラボ』2019/06/05,https://career-ed-lab.mycampus.jp/career-column/1461/ から引用。

 

 より最近の関連統計として,「博士,ビジネス感覚を 理系大学院の意義 名古屋大学教授の天野 浩氏に聞く」『日本経済新聞』2020年1月22日朝刊27面「大学」から,つぎの図表を借りておく 

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 さらに,以下に挙げる3番目の画像資料は『朝日新聞』2019年9月30日「記事」から借りるものである。

 

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  出所)asahi.com  2019年9月30日 13時18分,https://digital.asahi.com/articles/photo/AS20190924001646.html  

 これは失政だといえるが,大学にも問題がある。内向きで城を守ることにきゅうきゅうとし,大学や学問の大切さを社会に伝えることを怠ったのではないか。(引用終わり)  

 さて,この文章を書いた日経編集委員の滝 順一(下掲画像)は,おしまいの段落で余計なこと(要らぬ一句)を書いていた。20年も前だったならばともかく,いまの時点でこのような,つまり現在において顕著となっている日本の大学(とくに国立大学)の,学術・研究機関として観たときの「惨状というか窮状」を,単に揶揄することにしかなりえない妄言(聴きようによっては暴言になるかもしれない)を吐いていた。

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 出所)滝 順一,https://www.bs-tvtokyo.co.jp/keizaikyoushitsu/cast.html

 こういう文句であった。日本の大学においてかつては問題であった “特殊な事情(特殊論)” に対して,「内向きで城を守ることにきゅうきゅうとし」ていると批判したのである。だが,この意見は,現状における日本の大学をまともに把握したうえで発せられておらず,単に旧態依然の観方(古い固定観念)にこだわった,それもひどく錯誤した認識であった。

 いまどき窮地に追いこまれている日本の国立大学を目前にして,それもしごく “一般の議論(普遍的な抽象論)” の見地から,おまけに上から目線で「大学や学問の大切さを社会に伝えることを怠った」などというのは,やぶにらみどころか,最近における「日本における大学事情・実際」についての意見だとしたら, “完全に無知” にもとづく発言だったと一蹴されてよいのである。

 この日経論説委員にそのような発言をさせた,ある意味では,日本の文教政策に多大な悪影響あるいは逆機能的な効果をもたらした実業人が誰であったかといえば,経営コンサルタントで経営者でもある冨山和彦であった。

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 出所)冨山和彦,https://www.projectdesign.jp/201805/local-design-2018/004884.php

 冒頭で書評を紹介し,また前述において参照した最近作,豊田長康『科学立国の危機-失速する日本の研究力-』(東洋経済新報社,2019年2月)は,冨山が基本的には錯誤した立場に立っていた問題点を,つぎのように分かりやすく説明していた。

 日本政府が進めてきた大学の「選択と集中」政策や,冨山和彦さんが提言されている「G型L型大学」政策は,一部の上位大学をのぞいて,多くの “大学” の研究機能の低下を招き,GDPにマイナスの影響を与える可能性があります。日本のGDPの増のために,喫緊にしなければならないことは研究機能を重視したイノベーションに貢献する “大学” の数を増やし,機能を高めることです(236頁)

 冨山和彦に独特であった大学に関するこの種の見解には,一部に賛同できる要因があるものの,あくまで実業界の人物に固有である「視野の狭い:限られた〈大学観〉の思考方式」しか現示できていなかった。

 冨山和彦は実質,日本の大学を劣化かつ弱体化させるために具体的な提案をしていた。これが実際に,文部科学省の大学政策に反映されてきた。だから,本日の記述が触れたように,彼は「日本の大学」をさらに確実に衰退させていく道案内役を果たしてきた。

 冨山和彦はどうみても,「営利企業における活性化戦略(実は戦術?)」にも似た「中・短期目標の設定手法」を立案し実践していけば,大学運営(研究と教育)における新局面が打開できると確信していた節があった。

 しかし,その効果のほどはいえば,いまさらとりかえしのつかないような勘違いを実現させていた,と批判されるほかなかった。結局は,高等教育機関という制度・実在に対する根本的という意味での「哲学論的な認識」を,自身が決定的に欠如させていた。それゆえに,いたずらに大学を疲弊させていくほかない,要するに,混迷させただけでなく劣化させ弱体化にまで至らせる「失敗」を招来させていた。

 冒頭に書評で言及した,豊田『科学立国の危機-失速する日本の研究力-』2019年は,冨田和彦が意気こんで提唱した「日本の大学活性化」が,一部の上位大学をのぞいて多くの “大学” の研究機能の低下を招き,GDPにマイナスの影響を与える可能性まであると批判していたが,まったくそのとおりの結果になっていた。しかも,その最上位の範囲内に位置するはずの日本の大学(東大や京大)であっても,世界全体において判定・認証される順位をじりじり下げてきている。

 要は,「大学本来の目的」と「企業の営利原則」との区別さえ基本から理解できていない経営コンサルタント業人士のカイゼン手法が,高等教育の世界に直接もちこまれるとなったら,いったいどのような《大学の「研究と教育」の崩壊現象》を結果させるのか,その「もっとも悪い見本」のひとつを,冨山和彦が提供してくれたのである。

 冨山和彦は2020年1月になって,以上のように批判されるしかない持論の失敗を認めたくないのか,「誤解云々」の応答をしていた。これについてはあらためてとりあげ,議論の対象とするつもりである。

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