東電福島第1原発事故現場の汚染水問題は半永久的に残存する原発公害

「融けて流れりゃ皆同じ」という要領に似せて「薄めて流せば皆同じ」なのか,「汚染水」(処理水ともいう)は太平洋に排出してしまえば,東電福島第1原発事故現場の汚染流水問題は,安倍晋三風にアンダーコントロールになるとでも考えているのか?

 

 要点:1 東電福島第1原発事故現場における汚染水問題は,半永久的な解決過程(?)を迫られつづける「難題」である

 要点:2 『朝日新聞』は汚染水といい,『日本経済新聞』は処理水というが,放射性物質を完全に除去できずに残している「汚染水」を「処理水」といいかえたところで,問題の本質はなにも変えられない。つまり,処理水は「水 + トリチウム」であるから汚染水であるが,これを処理水と呼んだところで汚染水である事実に,なんら変わりなし

 要点:3 《悪魔の火》がもたらした災厄にこれからも悩ませられる運命に置かれた東電(東京電力ホールディングス株式会社)は,その原発事故の残り火(超自然的な・宇宙的な因果)のために,これからも苦労を強いられていく

 

 「汚染水処分,海へ放出有力視 経産省小委が提言 福島第1」朝日新聞』2020年2月1日朝刊1面

 東京電力福島第1原発の敷地内に溜まる処理済み汚染水の処分方法について,経済産業省の小委員会は〔1月〕31日,前例のある大気放出と海洋放出の2案に絞りこんだうえで,技術的に実施しやすい海洋放出を有力視する内容の提言をまとめた。専門家による議論は終わり,提言を受けた政府の判断に焦点が移る。(▼3面=風評対策は,12面=社説)

 溶け落ちた核燃料を冷やす注水で生じる汚染水は,多核種除去設備(ALPS:アルプス)で処理しても,放射性物質トリチウム三重水素)が残る。トリチウム放射線が弱く,国内外の原子力施設では濃度を管理して海などに流している。

 現在,タンクにたまる水は約120万トン。東電は約137万トン分まで増設する計画だが,2022年夏ごろに満杯になるとする。この水は処分前に2次処理する。さらに,トリチウムは基準以下に薄める。ただ,事故を起こした原発の水だけに,風評が懸念される。小委は2016年11月から17回にわたり,技術的な検討を終えた5つの処分方法について,社会的な観点も含めて議論してきた。  

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 提言ではまず,薄めて海に流す海洋放出と,蒸発させる大気放出の2案を「現実的な選択肢」とした。さらに,放出後の放射性物質の監視のしやすさなどの技術的な面で比べ,「海洋放出の方が確実に実施できる利点がある」と評価した。

 社会的な観点では,大気放出の方が風評被害の影響を受ける地域や産業が広いとしたが,定量的な評価は示さなかった。廃炉作業の進めやすさから,処分は早く終える方が望ましいとしつつ,風評被害への影響を懸念。具体的な時期や期間には踏みこまなかった。(引用終わり)

 この記事で肝心な文言は「トリチウム放射線が弱く,国内外の原子力施設では濃度を管理して海などに流している」といいわけするところにみいだせる。トリチウムが弱い放射線しか発しないからといって,人間・動物そして自然界に悪影響が「弱い=少ない=それほど心配しなくてもいい」と意味を運ぶのは,「科学的に確かな根拠のない想定話」であり,非常に危険な仮想の論旨である。 

 トリチウムの人間に対する内部被曝的な危害が非常に問題であって,とくに遺伝子を破壊する放射線を発する事実を軽視ないしは無視したかのような説明は,問題があり過ぎる。前段のような理由をもって「トリチウムを海に放出」する方法は,人間・動物そして自然界に対する害悪を,まだよく解明されていない状況に乗っかって採用されている。

 トリチウムについては,② のように懸念を科学的に主張する識者がいる。詳細に聞いておく必要があるゆえ,つぎにその意見を紹介しておきたい。


 「〈注目の人 直撃インタビュー〉西尾正道氏 原発汚染水の海洋放出は人類への“緩慢な殺人” 」日刊ゲンダイ』2019年12月2日,https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/265439〔~ /9〕

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  出所)https://blog.goo.ne.jp/kimito39/e/07a3b254db5be7ba48b71c8e44559e35

 最近はすっかり “安全運転” になっている小泉進次郎環境相だが,就任直後,まず発言に窮したのが福島第1原発の汚染水問題だった。前任大臣が離任直前「海洋放出しかない」と “宿題” を投げ,小泉氏の見解に注目が集まったのだ。敷地内での保管に限界が迫り,海洋放出論は加速している。これに強く警鐘を鳴らすのが,内部被曝を利用したがんの放射線治療に長年携わってきた医師で北海道がんセンター名誉院長の西尾正道さん。がんと核をめぐる闇を語った。(以下では◆が記者,◇が西尾)

※ 人物紹介 ※  「にしお・まさみち」は1947年函館市生まれ,札幌医科大学卒業後,国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現北海道がんセンター放射線科に勤務,約40年間がん治療の現場で放射線治療を続ける。2013年4月から現職。「市民のためのがん治療の会」を主宰。2007年北海道医師会賞,北海道知事賞受賞。医学領域の専門学術論文など著書多数。


 ◆ 放射能汚染水の処理について海に投棄されれば希釈されて大丈夫だという声もありますが反対の立場ですね。

  ◇ 大量の汚染水は貯蔵の限界に迫っています。汚染水放出について,国の有識者会議は5つの処分方法を提示しています。費用は34億円から3976億円の幅がありますが,一番安価なのが海洋放出。だから海洋放出をしようとしているわけです。しかし,廃炉が決まった福島第2原発の敷地は広大に空いていますから,そちらに大きなタンクを造り貯蔵すればよいのです。

 ◆ 自然界にも放射性物質はあるから,放出は安全だという声もあります。

  ◇ 自然界の放射性物質はもともとごく微量で,ほとんどが大気中核実験や原発稼働によって自然界が汚染されて急増したものです。このため放射性物質であるトリチウム三重水素)は1950年の約1000倍の濃度になっています。汚染水に大量のトリチウムが含まれるから危険なのです。

 ◆ どのように危険なのでしょうか。

  ◇ トリチウム半減期は12. 3年)はベータ線を出しヘリウムに変わりますが,水素としての体内動態をとります。細胞内の核のなかにも水素として入り放射線を出します。このため,低濃度でも人間のリンパ球に染色体異常を起こすと,1974年の日本放射線影響学会で報告されています。ドイツでも原発周辺のがんと白血病の調査をして,子どもに影響があると結果が出ています。

  カナダでもトリチウムを大量に排出する重水炉型原発の周辺で小児白血病の増加,新生児死亡の増加,ダウン症などの健康被害が報告されました。米国でも原発立地地域では乳がんが多い。トリチウムは脂肪組織での残留時間が長いためです。これらは統計的にも有意です。原発から近いほど濃度が高いのです。

 ◆ 稼働させているだけで放射性物質が放出されれば,原発はクリーンエネルギーとはいえませんね。

  ◇ 日本でも全国一トリチウム放出量が多い佐賀県玄海原発の稼働後に,白血病死亡率が高まりました。北海道でも泊原発のある泊村は原発稼働後数年して,がん死亡率が道内市区町村でトップになりました。加圧水型原子炉トリチウムの排出量が多いからです。ノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊さんも2003年に「トリチウムを燃料とする核融合はきわめて危険で,中止してほしい」という嘆願書を当時の小泉純一郎首相に提出しています。

 ※-1 DNAにとりこまれ内部被曝が続く

 ◆ トリチウム被曝はどのようなメカニズムで人体に影響するのですか。

  ◇ まず内部被曝は,とりこまれた放射性物質の周囲の細胞だけを被曝させます。トリチウムベータ線は体内で約10マイクロメートル(0.01ミリ)の距離しか届きませんが,トリチウムは水素として細胞にとりこまれて内部被曝させます。体内の有機物と結合して有機結合型トリチウムになり,排泄が遅くなり,体内に長くとどまります。

  DNA(デオキシリボ核酸)のなかにも入りこみ,また遺伝情報をもつDNAを構成している塩基の化学構造式のなかにも水素としてとりこまれ,ベータ線を出してヘリウムに変われば塩基の化学構造式を変化させ,健康被害につながります。また,遺伝情報をもつDNAの二重らせん構造は4つの塩基で構成されていますが,この二重らせん構造は水素結合力でつながっているので,水素としてとりこまれたトリチウムがヘリウムに変われば水素結合力も失われます。

 ◆ 化学構造式まで変える特異な放射性物質だと。これまでトリチウム内部被曝についてあまり耳にしませんでした。

  ◇ 目薬も全身ではなく目に滴下するから効くわけです。同様に放射線は当たった細胞や部位にしか影響しません。放射性微粒子が鼻腔内に付着すれば鼻血の原因にもなるのです。内部被曝放射線量をまったく当たっていない部位まで含めて全身化換算してシーベルト(Sv)で評価するICRP(国際放射線防護委員会)理論では,内部被曝の数値は超極小化されてしまって,内部被曝の人体影響は評価できません。

 ◆ 内部被曝がピンポイントで被曝することをICRPは誤読させている。

  ◇ 原爆製造のマンハッタン計画にかかわった核物理学者を中心につくられたNCRP(米国放射線防護審議会)が,衣替えをして1950年に設立したのがICRPなのです。ICRP内部被曝に関する審議を打ち切り,内部被曝を隠蔽・軽視し,原子力政策を推進してきました。ICRPは国際的な原子力推進勢力から膨大な資金援助を受けてきた民間のNPO団体に過ぎませんが,その報告をもとに各国はさまざまな対応をしてきました。実証性のないエセ科学にもかかわらず。

 ※-2 このままでは日本人の3分の2ががん患者

 ◆ 日本はどうでしょう。

  ◇ 日本政府もトリチウムが危険だと分かっているからこそ隠してきました。米国は広島・長崎の原爆投下後も残留放射線内部被曝はないとし,その後の歴史は内部被曝を隠蔽・軽視する姿勢が続いています。がんは1950年ごろから世界中で増えています。がんは生活習慣病ではなく生活環境病なのです。

  日本では40歳代から死因のトップががん死となりました。このままいけば日本人の3分の2ががんに罹患するでしょう。これからの日本社会は放射線被曝だけではなく,農薬の残留基準値も世界一緩いデタラメな対応と遺伝子組み換え食品の普及による多重複合汚染の生活環境により,健康が損なわれると思います。

 ※-3 科学には表と裏,光と影がある

 ◆ 現代版「複合汚染」による健康被害があると。

  ◇ それにトリチウムの排出規制基準も日本は異常に緩く,日本の飲料水基準は1リットル当たり6万ベクレルです。これは日本で最初に稼働した福島第1原発が年間20兆ベクレルのトリチウムを排出していたことから,国は放出基準を22兆ベクレルとしました。それが理由で,医学的な根拠はまったくありません。

  ちなみにWHO(世界保健機関)が1万ベクレルで,米国が740ベクレルです。日本政府は「小学生のための放射線副読本」でも放射性物質は人体への影響はないと嘘の安全・安心神話をばらまいていますが,国民はICRPのフェイクサイエンスとデタラメな行政の催眠術から目を覚ますべきです。

 ◆ 汚染水が海洋放出されると内部被曝はさらに悪化しますね。

  ◇ トリチウム食物連鎖でつぎつぎに生物濃縮します。動物実験で母乳を通して子どもに残留することも報告されています。処理コストが安いからといって海洋放出することは人類に対する緩慢な殺人行為です。

 ◆ 原発敷地内にたまってしまった汚染水の解決方法はありますか。

  ◇ 汚染水からトリチウムを分離する技術を近畿大学が特許申請中で,それが実現すれば海に流すことができます。汚染水の原因となっているメルトダウンをロボットを使用して処理しようとしていますが,ロボットのCPUも高線量が当たれば壊れます。最終的にはチェルノブイリ原発と同様に原子炉全体を箱に入れるように覆う石棺化しかありません。

 ◆ 自著の『患者よ,がんと賢く闘え!』では,放射線の光と闇について書かれていますね。

  ◇ 放射線治療はまさに放射線の光の世界です。しかし,医学部教育の問題もあり,医師もよく理解していません。放射線の治療と診断はまったく別領域なのに,日本では診断学と治療学に講座が分かれている医学部は3分の1しかありません。

 結果として日本のがん治療では放射線治療が上手に使用されていません。そのため放射線治療の啓発のために私は「市民のためのがん治療の会」という患者会活動を支援しています。科学や情報には常に表と裏,光と影が存在します。一番大切なことは科学的に議論をしていくことではないでしょうか。(聞き手=平井康嗣/日刊ゲンダイ

 

 「風評対策,踏みこまぬまま 汚染水処分『海へ放出』にじませ幕引き 議論3年,技術面の『消去法』」朝日新聞』2020年2月1日朝刊3面「総合3」

 東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の処分方法を検討してきた経済産業省の小委員会が〔1月〕31日,約3年間の議論を終えた。社会的影響も含めた総合的な提言を期待されていたが,技術的な面から「海へ放出を」とにじませた内容での幕引きに。風評対策の重要さを訴えてきた委員からは踏みこみ不足との指摘も出た。

 「二つの併記というか,重みはついています」 小委の委員長を務めた山本一良・名古屋大名誉教授は,会議後の記者会見で,海洋放出と大気放出に優劣を付けたことを隠さなかった。昨〔2019〕年末の提言案で事実上2案に絞りこんだ処分方法を,さらに絞ったかたちだ。

 トリチウムに詳しい山本さんは「提言のなかで,必らずできるというものを示したかった」と実現の確実さを重視したことも強調。2案のどちらでも,多核種除去設備(ALPS)を通った処理済み汚染水から,さらに放射性物質を取り除きトリチウムを含む水を放出。環境の変化を監視する流れは同じだ。ただ,風評被害対策に欠かせない,放出後の放射性物質の監視が容易な点などを挙げ,海洋放出の「利点」と明記した。

 委員の1人で,風評被害に詳しい関谷直也・東京大准教授は,「いろんな考えがあると思うが,私は消去法だと思う」と総括した。タンクを増やし長期保管する案も検討されたが,敷地確保のむずかしさなどで,選択肢から消えた。関谷さんは「海洋放出は福島の復興への影響がきわめて大きい。これでいいのか,という思いはある」と話す。できる限り放出を遅らせることを望む声も委員から出た。

 タンクに溜まる水の処分方法は,小委の議論が始まる前の2013~16年に,経産省の作業部会が地層に注入するなど5つの選択肢について技術的な検討をしている。その報告書でも,費用や期間では海洋放出が有力な方法とされた。小委の委員の小山良太・福島大教授(農業経済学)は「3年前と同じ結論だったら,3年もいらなかったと思う」と不満を漏らした。

 小委は,農業関係者らの聞き取りなどをもとに風評被害の仕組や対策について議論を重ねたが,提言では,予測される被害の詳しい分析などに踏みこめなかった。小山さんは「書いてある対策は,これまでやってきたものだけ。水を放出した場合に起こりうる風評の問題に対して,流通の仕組を変えるなどの対策をとらないといけない」。

 今後,政府が地元関係者らの意見を聞いたうえで処分方法などを決めるが,手順は定まっていない。さらに,原子力規制委員会の審査や放出設備の工事などに2年ほどかかる見通し。

  福島産品,戻らぬ価格・販路 ※

 福島県産の農作物などは原発事故による風評被害を受けつづけてきた。購入を避ける消費者は減ってきたが,下がった価格が戻らない産品もめだつ。構造的に固定化している面もあり,対策は容易ではない。

 福島県産品は放射性物質の検査体制が強化されており,基準値を超えないと確認されたものが流通している。それでも,畜産やコメなど年間を通じて供給される品目は他の産地へ代替が進みやすく,販路が回復しない傾向がある。消費者庁が昨〔2019〕年実施した調査では,福島県産の食品を購入していない人の約4割が「日常生活の範囲で売られていない」ことを理由に挙げた。

 福島産和牛の東京都中央卸売市場での単価は,事故直後に全国平均より26. 3%安くなり,2017年度も7. 2%安いままだ(農林水産省調べ)。東京都目黒区で精肉店を営む太田美雄社長は,福島産は品質が良く,いまは値段が安いためお手頃と感じているが,福島産というだけで敬遠する客もみてきた。「一度落ちた価値を回復するのはむずかしい」というのが実感だ。

 水産物も,検査で安全性が確認された魚種に限って試験操業を続けている。漁獲量は回復してきたが,いまも震災前の2割を下回る。小委の提言は,処理済みの水を放出した場合,風評被害が上乗せされる可能性がきわめて高いと指摘する。福島県漁業協同組合連合会の立谷寛治副会長は「海洋放出は受け入れられない。若い漁師も頑張っているのに死活問題だ」と強調する。

 ※ 提言の骨子

  ◆ 廃炉が終了するさいには処分を終えていることが必要
  ◆ 処分開始時期や期間は政府が責任をもって決定するべきだ
  ◆ 大気放出と海洋放出が現実的な選択肢

  ◆ 放出すれば,その影響は既存の風評に上乗せされる
  ◆ 放出後は監視をして測定結果を分かりやすく発信することが重要
  ◆ 海洋は大気よりも放出作業や監視を確実に実施できる

 以上の記事を読んでなにが問題かをまとめてみたい。

 東電福島第1原発事故現場で蓄積されてきた汚染水の問題は,たとえトリチウムを最終的に含む処理水にまで科学的な処理がほどこされたところで,このトリチウムじたいは最後の段階まで除去できずに残っている。結局は,沿岸海域に放出する方法しかとりえないのだから,この難問の解決は「最終的な解決」ができないまま,海にその負担を押しつけるかっこう,いいかえれば,太平洋をゴミ箱代わりにして(「海は広いな大きいな……」),海水中にトリチウムを流しこみ,ごまかす(お茶を濁す)方法を採っている。

 以上の記事に語られていた事実は,その後始末の方法をどのようにしたら実行できるかについて〈押し問答〉をしているに過ぎない。海洋放出かそれとも大気放出かという問題は,どうみても2次的な議論であった。汚染水は処理されて処理水になっても汚染水だという基本に残る困難が最終的には解決できないまま,これを「太平洋への排出」でケリがつけられようとしている。このやり方は問題の解決策などではなく,単に見え見えの「隠微な放散」方式である。さらにいえば,完全なる弥縫策であって,なんらの次善策でもありえない。

 たとえていおう。葉山市の海岸近くの家に住むイヌや猫が,隣家のふかふかした青い芝の上にウンチをするか,それとも近くの海岸までいってウンチを波際に垂らすかの違いでしかない。このとき,陸も海が汚れることに変わりない。

 かといってトリチウムは,ウンチの場合であればいずれ期待されるような「自然・生態の循環作業による浄化作用」はいっさい期待できない。《悪魔の火》のゆえんであった。トリチウムは薄めて流せば問題がないみたいに発言する科学者は,大げさでなく「人類の敵」だというほかない。

 以上の議論を踏まえたうえで,つぎの ④ に引用する『日本経済新聞』は,「記事としてのものいい(論調)」に注意しながら,あらためて読んでみたい。ここまでの中身と重複する内容にならざるをえないが,その点は容赦してもらいたい。

 

 「福島第1処理水,海洋放出が『より確実』 経産省小委,処分案を大筋了承 水蒸気放出『影響幅広い』」日本経済新聞』1月31日夕刊10面「社会」

 経済産業省は〔1月〕31日,東京電力福島第1原子力発電所に溜まりつづける処理水の処分方法などを話し合う小委員会に報告書案の修正版を示し,大筋で了承された。海洋放出と,蒸発させる水蒸気放出が「現実的な選択肢」とした。とくに海洋放出は国内の原発で実績があるため「より確実に処分できる」と明記した。今後,政府が地元自治体などの意見を聞き,最終的な処分方法を決める。

 補注)ここの記述「海洋放出は国内の原発で実績があるため『より確実に処分できる』」という表現=理屈は,正直いって噴飯モノ。極論していってしまえば,単に薄めて太平洋に流しこむだけの要領に関して,このような表現をするのは,大仰だといよりも前にコッケイだとしか感じられない。

 31日午前の小委に事務局案として示した。炉心溶融メルトダウン)事故を起こした福島第1原発では放射性物質に汚染された水が1日170トン(2018年度平均)発生している。東電は専用装置で主要な放射性物質を取り除いた処理水を敷地内のタンクで保管してきた。 

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 出所)この図解は『日本経済新聞』2020年2月1日朝刊から。

 2019年12月時点で118万トンの処理水がたまっている。東電は2020年末までに計137万トン分のタンクを確保するが,「2022年夏ごろに満杯になる」と試算している。

 小委では約3年にわたって風評被害などの社会的な影響を含めて処分方法を議論してきた。事務局の経産省が昨〔2019〕年12月に示した当初案で地下埋設などの5つの処分方法から,薄めて海に流す海洋放出と水蒸気放出という国内外で前例のある方法に絞りこんだ。 

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 前回会合で出た委員の意見を踏まえて案を修正した。海洋放出と水蒸気放出のメリット,デメリットを詳細に明記した。国内での実績,設備の取り扱いやすさなどを海洋放出のメリットとしてあげた。

 補注)ここでは,「海洋放出と水蒸気放出のメリット,デメリット」という表現におかしい点がある,と感じたほうが自然である。

 トリチウムを排出・放出する方法に関してだから,その害悪性は当然に踏まえているはずの話題が,このように日本語(漢字)でいえば「利点と不利点」「長所と短所」みたいな対語をもちだし,並べて話す方法じたいのなかに,いうまでもないことだが「欺瞞=ペテン」的な発想がしこまれていた。

 メリットもデメリットも,トリチウムという放射性物質の排出・放出に関して,〈その害悪じたいの程度の差〉にかかわって充てられていたことばである。それゆえ,内容の重要性に鑑みて判断するとしたら,この種の「言葉の対」が気安く使われる便法は,トリチウムという放射性物質の害悪そのものを希釈化させる表現にならざるをえない。この点がもともと問題であった。

〔記事に戻る→〕 風評被害はどちらの方法でも発生するものの,水蒸気放出は「海洋放出より幅広い産業に影響が生じうる」と指摘した。海洋放出が優位と読める書き方だが,処分方法は「政府が幅広い関係者の意見を丁寧に聞きながら,責任と決意をもって決定することを期待する」との記載にとどめた。

 政府が今後,地元自治体,漁業関係者などの意見を聞いて,処分方法を決定する見通しだが,メドは立っていない。海洋放出には地元の漁業関係者を中心に風評被害への懸念が根強い。処理水には取り除くのがむずかしい放射性物質トリチウムを含む。トリチウムを含む水は基準値以下に薄めれば海に流すことが国際的に認められている。(引用終わり)

 この記事を一読すると,風評被害の問題が重要なのであって,処理水(汚染水)は「基準値以下に薄めれば海に流すこと」は「国際的に認められている」として,なにも問題がないかのように報じている。しかし,よく考えてみればよいのである。海水でトリチウムを含んだ汚染水(処理水)を薄めたうえで排出・放出する作業・操作は,海水じたいはいくらでも利用できるゆえ,トリチウムの含有率じたいを海水の利用分に応じていくらでも薄めることができる。

 だから,「汚染水の処理:排出・放出」はこれをいったん実施すると決めたとなれば,それ以降は無制限に可能な措置となる。それだけの話題であった。ところがである,そこに示されているリクツは「残る問題は風評被害だ」などと,まるで「加害(東電など原子力村)⇔被害(福島県農林水産業)」の相互関係性を希薄化するごとき形容まで登場している。

 この ④ における記述内容とつながる一連の報道をしていた『日本経済新聞』は,翌日(2月1日)の朝刊では「福島第1処理水,海洋放出が優位 政府,反発強く動けず」との見出しで,連続する記事を報じていた。④ と重複しない段落を引用する。

 (前略) 苦肉の策が国内外で実績がある「海洋放出」と「水蒸気放出」の2案に絞りこみ,海洋放出の優位性を浮き彫りにするというまとめ方だった。国内外の一般の原発でもトリチウムを含む水は海洋に放出しており,報告書は「実績なども含めて海洋放出の方が確実に実施可能」と明記した。蒸発させる水蒸気放出は米国で事故を起こしたスリーマイル島原発での例だけで国内では実績がない。さらに水蒸気放出を「より幅広い産業に影響が生じうる」と指摘した。

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 6年にわたる有識者による議論はこれで幕を閉じる。委員長の山本一良・名古屋大名誉教授は〔1月〕31日の記者会見で「廃炉作業に制約がかかることはあってはならない」と処分の必要性を強調した。報告書は事故後30~40年とされる廃炉終了までに「処分を終えておく必要がある」としたが,開始時期には踏みこまなかった。小委では「可能な限り保管は延長してほしい」(日本消費生活アドバイザーコンサルタント・相談員協会の辰巳菊子氏)との声も出た。

 補注)ここでは,「廃炉終了」というこれまた際限のない展望を現実にはせざるをえない問題がとりあげられている。廃炉作業は「事故後30~40年〔かかる〕とされる」と断わられているが,これはほとんど夢物語だといって大げさだと反発されるならば,サバの読み過ぎだといいかえておく。いまでは,通常の廃炉工程でも1世紀の期間を念頭に置いてとりかかるといわれているのに,政府経産省の見解である「廃炉は30~40年」という仮定は,当たりまえにいえば悪い冗談でなければ,現実に目をつむった発言でしかありえない。

〔記事に戻る→〕 政府による関係者の意見聴取や政府会議に舞台が移るが,道は険しい。具体的に誰の意見を聞きいつ決断するのかは「決まっていない」(経産省)。福島県の年間漁獲量は事故前の15%弱にとどまり,漁業関係者は風評被害がさらに深刻にならないか警戒している。報告書は「風評被害対策を拡充・強化すべきだ」としているが,有効な手立ては乏しい。

 夏に東京五輪パラリンピックを控え,国際的なイメージにも配慮が必要だ。韓国が国際会議の場などで福島第1の処理水に懸念を示している。むずかしい調整になるのは間違いない。放出方法を決めても「準備に2年はかかる」(原子力規制委員会の更田豊志委員長)。タンクの増設を決めない場合,この夏にも決断を迫られることになる。(引用終わり)

 世界中から日本の東電福島第1原発事故現場がどのように観られているか,国民・市民・庶民の側にはなるべく分からないように情報を遮断しておきながら(もっともインターネットの時代に無理な話だが),2020東京オリンピックをやるとかなんとか力んでいるようでは,「原発事故の後始末」や「フクシマの復興」にまわせるカネ・モノ・ヒト・情報などがうまく調達できていない現状が,さらにしんどくなるばかりである。

 さて『朝日新聞』2020年2月1日朝刊「〈社説〉トリチウム水 福島の声を聴かねば」は,後半の記述でこう意見していた。

 明言こそ避けたものの,海洋放出に優位性があることを示唆している。とはいえ政府は,これをもって安易に海洋放出を決断してはならない。「地元の自治体や農林水産業者など幅広い意見を聴いて方針を決めることを期待する」。この小委の要請を,重く受けとめるべきだ。

 

 地元との対話に,政府が海洋放出ありきの姿勢で臨めば反発を呼ぶだろう。自治体や事業者のほか,地域住民らの声を誠実かつ丁寧に聴いてほしい。忘れてならないのは,小委が一連のプロセスをガラス張りにするよう求めている点だ。密室で議論しても,政府の最終判断に国民の理解はえられまい。情報公開が肝要である。

 

 東電は「2022年夏ごろに敷地内の貯蔵タンクが満杯になる」として早期の判断を望むが,小委は提言のなかで,政府決定や処分開始の時期を明示しなかった。期限を切って意思決定の手続を進めるようでは困る。仮に処分方法が決まっても,準備に年単位の時間がかかる。処分を終えるまでには,さらに長い年月が必要だ。息の長い取り組みになることを,政府は肝に銘じなければならない。

 この汚染水「処理」の問題は,「ドッチに転んでも」結局は,困る方途になるほかない性格=本質を,当初からもっていた。つぎのように想定して比較すると,原発の恐ろしさは判りやすくなる。

  ★-1 水力ダムが決壊した。濁流・泥流の被害はどこまで,どのくらい発生するか?

 

  ★-2 火力発電所が爆発炎上事故を起こした。火災・この延焼の被害はどのように,どこまで及ぶか?

 

  ★-3 太陽光パネルのある現場が土砂崩れによってすべて破壊された。その被害はいくらとなり,元に復旧するにはどのくらい時間と経費がかかるか?

 いずれの想定も間違いなく,いろいろとひどい被害を発生させるに違いない。だが,原発の事故のときのように “放射性物質による汚染被害の問題” は起こさない。おそらく,その問題は「ほとんどない」といってよい。

 なんといっても,原発の利用後に一番問題になるのは,その発電所設備一式を解体するにしても,つまり廃炉工程じたいが完了したあとでも,使用済核燃料をはじめとして各種の放射性汚染物資の後始末を長期間にわたり,必要とすることである。原発廃炉後は,いわゆる「トイレのないマンション」として残される「負的な特性部分そのもの」が,「地球単位に対して負荷される問題」となってこの先,ずっと遠い将来にまで残されていく事実が重大な問題であった。

 2011年「3・11」時,東電福島第1は原発事故を起こしていた。以後,その現場がいままで苦しんできた現実の体験は,ほかの「ふつうの事故・災害」と同一視できない特徴を,これみよがしに,嫌というほど遭遇させられる経緯になっていた。すなわち「長い年月が必要だ。息の長い取り組みになる」というゆえんである。

 その「長さ」がいったい,どのくらいの先の期間にまでつづくのか,誰にも確たる回答は用意できていない。

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