食事文化として箸を使う国々のなかで日本人の箸使いは突出してすばらしいのか,日本では正しく箸をもてない大人が多数派である

         日本は本当にすばらしい箸の国か?

                    (2014年3月3日)

 

  要点:1 丸美屋の広告とお箸の話から記述を始める

  要点:2 意外に多くいる「箸を正しくもてない」日本の人びと


  箸のもち方は日本文化に固有の作法なのか

 1) 丸美屋「全面広告」

 2014年3月1日の新聞広告(『朝日新聞』朝刊)にある食品会社の広告が出ていた。「丸美屋」のそれであった。この会社は通称で丸美屋食品とも呼び,正式名は丸美屋食品工業株式会社である。東京都に立地する食品加工メーカーであり,ふりかけメーカーの最大手で,「のりたま」や「味道楽」「すきやき」などのロングセラー製品を製造・販売している。

 この丸美屋がその全面広告を出すときの「絵柄:構図」(モデルの格好)が,「のりたま」をご飯にふりかけて食べる母娘の姿であった。筆者がふだん,テレビなどでもよくみている「昨今,日本人の箸のもち方」が気になっていたが,これはだいたい『正しいもち方』をしているようにみえていた。

 このあまりにも当然のことというか,つまり,食品製造業者の宣伝の絵(画像)のことであるから,箸をきちんともったモデルが登場させられることは,考えてみるまでもなくごく自然な光景であると感じた。

 補注)話は飛んで,今日:2020年2月13日時点での話となる。丸美屋が自社の宣伝用の広告動画をホームページで紹介している。このなかからは,「のりたま」用の広告動画・目次表紙から切りとった「3編の続き表紙面の画像」と,「釜めしの素シリーズ」用の広告動画・目次表紙からの「1編の表紙画像」(こちらは “箸の部分” だけを切りとったもの)を選んで,つぎに上下に並べて,紹介しておく。出演している女優は木村佳乃である。ところが,木村の箸のもち方がもうひとつすっきりせず,合格点をあげにくい印象である。

 註記)http://www.marumiya.co.jp/community/cm/index.html

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 上の静止画像で観取できる広告動画に映っている「女優木村佳乃」(ほかにも登場する大人や子どものほうはさておき)の “箸のもち方” が,どうしても少しあやしく感じた。

 そこで,ネット上には「正しいとされる箸のもち方」を教えている記述がいくらでもあるゆえ,それらの説明と比較対照しておくのが,ここでは好都合である。それもとくに,つぎの2つの画像を借りて紹介しておく。これを,上の木村佳乃のもち方とくらべてみれば,その違いはすぐに判る。木村のほうは人さし指がほぼ伸びきっているし,中指もそれに近い格好になっている。この箸のもち方では多分,以下の説明になされているとおりには箸使い(運用)ができない。

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 出所)https://hyozaemon.com/mochikata

 『正しく箸をもつための4つのポイント』 正しく箸をもち,動かせるかどうかは,美しい箸づかいの基本の「き」。まずは以下の4つのポイントを押さえたもち方,動かし方ができるかどうか,実際に料理を食べながら確認してみるといい。

 ポイント 親指,人指し指,中指の3本で上から3分の1くらいの部分をもつ  

 ポイント 中指は上下の箸に触れている

 ポイント 箸先がピタリとつく

 ポイント 箸先を開いたとき(動かしたとき),中指は上の箸についている  

 以上の「まとめ」をいってみれば,こうなる。正しい箸のもち方,動かし方の練習は,繰り返すことが大切であり,長年の生活で身についた自己流のクセがある場合も,毎日練習をおこなうことで必らず美しい箸づかいができるようになる。

 註記)「正しい箸の持ち方」『日本箸文化協会』日時不詳,http://hashi-bunka.jp/pg224.html

 とくに,こういう点がいえそうである。箸をもっている手元のほうの幅が広がっていれば(前掲の図では『箸頭 ⇔ 間隔』のところ),これが「正しいもち方・使い方」を判断するとき,いちばん分かりやすい〈目安〉になる。

 

  2) みたくもない芸能人・タレントの作法

 今日,わざわざこのように「箸の〈正しいもち方〉」に言及するのは,とりわけ日常的に,食い物番組の多いテレビの画像(動画!)を介してみせつけられている『芸能人・タレントたちの箸のもち方』が,非常に気になっていたからである。

 なかには食通を自他ともに認める彼ら,あるいは料理好きの誰かなどもいるけれども,そのなかで「箸を〔正しい〕とはいわないまでも,まともにもてている人たち」は,はっきりいって少ない。だから,びっくりするやら・呆れるやらで,正直いってみてられない。

 ときたま,テレビ番組ではしつけ・行儀の先生(そのほとんどが女性講師だが)が登場してきては,芸能人・タレントたちの箸のもち方を採点する場面もみうけるが,合格点をもらえている者たちの箸もち方をみていても,ずいぶん甘めの採点で合格とする場面が多いという印象を避けえないでいる。

 補注)このテレビ番組における「箸のもち方:採点」番組は,2020年2月の時点に至ってはもう観られないといってもよく,このブログの記述が当初に書かれていたころ,一時期の話題であった(6年から7年も以前)。

 昔,AJINOMOTO が「お箸は日本の文化です」というコマーシャルの文句をかかげて,自社の宣伝広告をしていた時期があった。この〈味の素〉のホームページをのぞくと,さすがに「正しい箸のもち方」に関する解説をしていた。ただし,現在はこのホームページ(下の註記の住所:アドレス)からは探しにくい。というわけで,ひとまず以前にあった “話題” としてのみ紹介しておく。

 註記)http://www.ajinomoto.com/jp/activity/shokuiku/library/japanesemanners/01.h

 この最後の部分で,箸のもち方で「もし間違っていたら,早めに直すように心がけましょう」と書いてあるが,この〈矯正〉がなかなかむずかしいのが実際である。幼児のころからきちっと教えていかないと,成人してからでは,当人のよほどの覚悟・気持がなければなおしにくいようである。

 3) いまも昔

 西丸震哉『食べ過ぎて滅びる文明』(角川書店,1986〔1980〕年)が,つぎのように書いていた。

 「年配者たちは今まで,自分たちが体験した苦しいことを愛する子孫たちに経験させまいとして,甘やかすことしかしなかった。そのあげく心も体も弱い次世代を作りあげる努力をしてしまった。その大きな罪ほろぼしを,血相かえてやるのが年配者の残り時間に課せられた義務であろう」。

 

 「ちかごろの若者はたるんどるとか,狂っているとかボヤいてはならない。自分たちの怠慢,先を見通す能力が欠けていたことなどのツケが,今,次から次へと廻されてきているのだ」。

 

 「若者もボヤボヤしていてはいけない。親が悪いの,社会が悪いの,政治がどうのではない。何が悪かろうと,自分の努力で現状を修正し,好転させてみせるという意欲がなければ,理想郷は手のとどくものにはならない」。「シラケているヒマなんてないのだ」(236-235頁)

 西丸がこれを書いてから早34〔40〕年が経過した。高度経済成長時代の真っただなかのころ,こうした「いまどきの若者」という決まり文句に対してだけでなく,年配者の若者に対する指導責任そのものまで,きびしく問う論者もいたわけである。だが,21世紀のいまごろになってもなお,こうした叱咤激励が大いに要請されるほかない時代になっている点は,思えば情けない実情である。

 それはともかくもといいたいところだが,以上のように叱咤激励されてよいはずの「小さなひとつの内容」が,この「箸のもち方」というものであった。だが実は,この食生活の道具・作法に関する問題は,けっして馬鹿にできないくらいに生活の全般にまで大きくかかわっている。こちらの広い次元からも「あれこれいわれているところ」を,ある意味で集約的に〈象徴〉する「作法のひとつ」が,「箸のもち方」ではないかと受けとめてもよいのである。

 

  料理専門家も心配する「箸を正しくもてない日本人たち」
 
 1) 服部幸應の指摘

 まず,本(旧々)ブログ「2009/02/27」の記述から。--「お箸の国:日本」と自称・自認する割りには正しく箸をもてない日本人が,とくに昨今は非常に多くなりつつある。たとえば年配者が子孫に「箸のもちかた」さえろくに教えてこなかった経緯は,服部栄養専門学校理事長・校長の服部幸應はっとり・ゆきお)も驚いて指摘していた。正しく箸をもてない日本人の率が急増している事実は,食事の洋風化となんらかの関係もある。

 本ブログ筆者は,集団で他者と食事をする場所でまわりをみまわすとき,必らず遭遇させられる光景が,この「あまり目にしたくない」=「箸をきちんともてない人のほうが圧倒的多数である情景」である。その目前に広がる様子を接するたびに,だいぶウンザリさせられる。箸の〈躾け〉さえ,きちんとできないということはさらに,「他事諸般」における「子孫の〈躾け〉」にも問題が多々生じているはずだ,というような拡大解釈が可能である。

 2) 箸の歴史文化的な意味

 つぎに少し長くなるが,本(旧々)ブログ「2008/05/11」の記述から。--石川九楊二重言語国家・日本』(日本放送出版協会,1999年)という書物のなかに「手の文化」という項目があり,箸についての記述もあった(以下,同書,74-75頁を参照)

 書字中心言語である日本語は,「手先の器用」「手に職をつける」という手を重視する用語があるだけでなく,「語り手」「聞き手」「書き手」「読み手」というように,人間でさえ〈手〉に比喩される。 
 
 西欧では,ナイフ(小刀)とフォーク(先割れの鋤)で食事し,対象を解剖・分析し,傷をつけてでも,核心を突く哲学をつくりあげた。これに対して,中国・韓国(朝鮮)・ベトナム・日本の食事においては箸をもつ。これらの地域は漢字文化圏・書字中心言語圏であり,毛筆をもつ手が箸をもつ手を生んだ。

 筆ざわり=筆蝕の訓練は,極微細な筋肉と神経と経路と運動感覚を発達させた。とりわけ,中国や朝鮮,ベトナムのようには匙を使わず,2本の箸だけで済ます日本は,この微妙な間接触覚を極限まで発達させた。

 補注)この日本では「2本の箸だけで済ます日本の食事」という部分はいいすぎである。これはあくまで,和食料理のときに限定される条件である。いまどきの日本人は “和食だけで食生活を済ませている” わけではない。

 二重言語・日本の食事文化の鍵は2本の箸にある。切る機能の弱い箸は,一方に「切る」文化,つまり,包丁料理の文化を育てあげた。また,箸によって可能になる,剥がす,裂く,ほぐす機能は骨つきの魚料理,つまむ機能は豆腐や煮豆を生んだ。

 この文化は,筆記具にも似た文化的な「箸」でつまみ上げて,色や形の外貌と重さと触覚から,対象の存在を計量し,抽象し,推し測る「加減」と「思いやり」の美学を生んだのである。毛筆が箸を生んだ。箸に象徴されるように,さまざまの手の文化が,書字中心の言語地帯で育っていった。

 3) 箸がもてなくなった

 話しことばは,口真似で比較的容易に覚えることができるとしても,文字(書字)は意識的な長い教育のうえに取得される。戦前の調査では,2歳半で箸をもちはじめるが,5歳までうまくもてる子は皆無。12歳でもわずか2割強。矯正がきくのは17歳ころまでだというから,2~3歳から毎日,毎食訓練しても,その取得に3年から15年かかる勘定である。

 補注)さきほどの記述中では,大人になってからでも正しく箸をもてるようになる,矯正はできるみたいに語った記述があった。だが,ここでは「17歳矯正限界説」が唱えられている。さて,どちらがどこまで本当で妥当する意見か?

 書字同様,箸使いには永く辛抱強い教育が必要で,その果てに獲得されるものなのだが,近年の日本においては親の教育に根気がなく,6割強の子どもたちが正しい〔歴史的な〕箸のもちかたができなくなった。

 註記・出所)「箸の正しいもち方」を分かりやすく説明している YouTube 動画として,つぎを挙げておきたい。⇒  https://www.youtube.com/watch?v=fGDlfex268Q

 現在,いやというほど目撃させられる2本の箸の下に中指を添えるぎこちない箸使いは,箸をもちはじめた2~3歳児のもちかたそのもの。これは子に対する親の教育放棄である。そして,この6割という数字は,おかしな鉛筆のもちかたの子どもたちや学生の比率と奇妙に一致している。

 以上のなかで,石川九楊(いしかわ・きゅうよう)が指摘したこと,すなわち,箸を「正しくもてない」日本人の比率6割というものは,前出の「学校法人服部学園服部栄養専門学校理事長・校長」の「服部幸應(医学博士)」も,「日本人の40%が正しくハシをもてなくなってしまいました。高校生だと10人のうち3人しか〈合格点〉をやれない。そもそも学校給食で,担当の先生までハシをつかえない人がいます」と嘆くほどである(『サンデー毎日』2001年1月7-14日新年合併号,190頁)といっていた点と,実はあまり変わらない「質的な意味」があった。

 フランスのことわざには「若者の食事をみればその国の未来がわかる」というものがある。最近の大学生〔だけではないが〕を食事風景でながめていると,ちゃんと「箸」をもてている者はほとんどいないかのようにも観察され,正しいもちかたで食事をしている若者を探すのに苦労する。

 補注)「箸の正しいもちかた」に関する模範を画像(動画)にして紹介しているユーチューブは,さらに,つぎの住所を参照されたい。リンクも張ってある。⇒  http://www.wasyokuken.com/cstick/index.html

 参考にまで触れておくと,服部栄養専門学校のホームページは,自校の教育目標をこう宣伝している。

 「食」が人に良いと書くように,心も体も良くする,育むのが本来の「食」です。家庭でも友人・恋人同士でも,コミュニケーションの仲立ちとなるのが「食」。 “旬のものを美味しく” や “正しく箸をもって・・・” など,日本ならではの食文化を伝えていくことも,21世紀を生きる私たちには大切なことです。

 註記)http://veeschool.com/lesson/school/07100100000.html

 AJINOMOTO社のコマーシャルが以前,「日本はお箸の国である」といって強調する宣伝をしていたことがある。ただし,既述にもあったように「箸を使う食事文化」は,日本だけではない。ただし「箸」だけで食事をする日本は確かに,匙〔に相当する道具〕も同時に使う 韓国(朝鮮)・中国・ベトナムとは,はっきり異なる部分を有する。ところが,その《肝心の箸》をきちんともてない日本の若者〔だけではないが〕がどんどん増えている。これではもう自慢げに「日本はお箸の国」とはいえない。

 前段において「中国や朝鮮(韓国),ベトナムのようには匙を使わず,2本の箸だけで済ます日本は,この微妙な間接触覚を極限まで発達させた」と誇らしげに語られていた。けれども,この点が平均的にという意味でもって,日本人のすべてにまんべんなく体現されて事実であるわけではない。

 

  箸が意味する文化技術的な含意

 『日本経済新聞』2002年6月8日に「今どきの子ども-下手な箸使い-器用な日本人が消える」というコラムが出ていた。紹介しよう。

 会席料理を避ける人が増えている。若い女性がそうである。なかでも見合いの席では極端に嫌われる。彼女たちはグルメで舌は肥えている。本当は会席料理を口にしたいのである。

 なのになぜ会席料理を避けるのであろうか。どうもそれは箸をうまく使えないからでである。下手なもちかたをしたところを,大事な見合いの席でみられるのを嫌がる。

 日本「箸」のおかげで日本人の手先は器用になった。それが,ひいては時計やカメラに代表される精密機械工業の発展につながる。いまや,手先の器用な日本人は消えようとしている。

 この論述は,日本の産業経済における技術発展に寄与してきた基本要因に「箸の文化」があると指摘している。若者〔だけではないが〕が箸をきちんともてない現象は実は,家庭教育のありかたの問題とも深く関係している。

 ということであったが,ここでつぎの記述を紹介し,本日における「この箸に関する議論」を終わりにしたい。

  ★「その箸の持ち方 大丈夫?  正しい人は30代でも3割  どこまで直せるか,記者が挑戦」★
 =『暮らしの知恵』2012/9/27,https://style.nikkei.com/article/DGXDZO46373710R20C12A9W03201?channel=DF130120166128&style=1

 

 箸を正しくもてないと食材をうまくつかめないうえ,みた目も悪い。記者(33歳)は箸をきちんともてず,長年,なんとかしたいと思っていた。いまからでも遅くはないはず。30年以上の食生活で身についてしまった箸の間違ったもち方をどこまで直せるか,試してみた。

 

 ※ 正しく使える人,40~50代でも3割台

 

 目白大学が栃木,埼玉,福島各県などの約8000人を対象に調べたところ,記者と同年代の30代女性で箸を正しく使える人は約3割にすぎなかった。40代や50代でも30%台で,男性もほぼ同じ結果だ。正しく使える人の割合は,年々減っているという。

 

 右の図〔この図は省略したが,すでに該当する説明があった〕のように,上の箸は中指と人さし指の第1,第2関節を使って上下に動かし,親指はぐらつかないようにそえる。下の箸は薬指の先端と親指の付け根に置いて固定し,食べ物をはさむには上の箸を動かす。これが正しいもち方だ。

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