食事文化として箸を使う国々のなかで日本人の箸使いは突出してすばらしいのか,日本では正しく箸をもてない大人が多数派である(続)

            日本は本当にすばらしい箸の国か?(続)

                   (2014年11月24日)

 

   【要点】 箸の正しいもち方に《日本の文化》が表現されている?


 ◆ 前  言 ◆

 本ブログはさきに「2020年2月13日更新,2014年3月3日」に,同名の記述「日本は箸の国か?」を公表していた。本日のこの記述は続編となるが,その前編の内容は,

  -1 箸のもち方は日本文化の固有の問題か,

  -2 料理専門家も心配する「箸を正しくもてない日本人たち」,

  -3 箸が意味する文化技術的な含意

という論点を主に立てて,議論していた。とくに,近年の日本においては親の教育に根気がなく,6割強の子どもたちが正しい箸のもちかたができなくなっている事実を指摘していた。

 註記)https://socialsciencereview.hatenablog.com/entry/2020/02/13/212710

 『朝日新聞』2014年11月16日朝刊に「〈どうする?〉お箸の正しい持ち方  教室で練習『子どものうち』」という解説記事が掲載されていた。この記事を材料に使い,この「日本は本当にすばらしい箸の国か?(続)」を記述してみる。

 

  箸の正しいもち方ができない日本に住む大勢の人びと

 まず,冒頭に表題をかかげた2014年11月16日朝刊の記事を全文紹介する。

 a) 毎日の食事に欠かせない箸。「上手にもてない」と苦手意識がある子どもが多いようです。正しくもてるようになるためのヒントを,専門家に聞きました。

 「世界の人の何割がお箸でご飯を食べているかわかりますか?」 箸製造販売会社「兵左衛門(ひょうざえもん)」(本社・福井県小浜市)文化事業部の中道久次さん(70歳)の問いかけに子どもたちがざわついた。

 「答えは3割。そのなかでも,日本は,最初から最後までお箸だけで食べる唯一の国なんです。はさむ,つまむ,切る,はがす,すくう……。箸でできることはたくさんあるけれど,お箸を正しくもてないと難しい。食べ物の好き嫌いにもつながります」。

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 出所)くら寿司の宣伝画像。この北大路欣也は正しく箸をもっている。

 10月半ば,東京都台東区立金竜小学校で6年生を対象にあった「お箸知育教室」。箸のもち方をクイズ形式で学んだり,正しいもち方,使い方の指導を受けたりしてから,それぞれの手の大きさにあった箸を作った。箸を握るようにもってしまうという田島瑚雪さん(11歳)は「自分で作ったお箸を使うたびに,今日 聞いた話を思い出せそう」。

 今回の「お箸知育教室」は区教委の橋渡しで開かれた。同教委は食育の一つとして,2008年度から希望する区立小中学校で知育教室を実施。食育関連なら各学校が自由に使える「食育予算」も年間2万5千円ずつ計上している。

 金竜小学校では今年,食育予算で,指をあてる部分に印やへこみがある練習用の箸を購入した。1年生から3年生が学級ごとに,交代で一定期間ずつ使う。

 2年生の北村唯香さん(8歳)は「練習用のお箸の時は中指を箸と箸の間に入れられるようになった」と喜ぶ。

 栄養士の宮嶋伸枝さん(60歳)は「保護者も正しくお箸を使えないことも多く,学校で教える必要がある。お箸の正しいもち方は鉛筆のもち方にも通じ,勉強面でのよい効果にもつながる」と話す。

 1998年に始まった「お箸知育教室」はこれまでに全国で約2千回開かれた。参加者は子どもに限らず,計10万人以上が箸のもち方などを習った。講師の中 道さんは「クセが強くなってしまっている大人のお箸のもち方をなおすのはむずかしい。子どものうちに正しいもち方を教えてあげてほしい」と話す。

 b) では,正しいもち方と練習方法は? 自宅でもできる手順をまとめた。コツは,まずは上の箸だけで練習すること。そして,開閉がむずかしければ,下の箸を 押さえた状態で上の箸を動かす練習を。「できないことをやるのは大人でもつらい。練習は,楽しく過ごしたい食事の時間以外に。親子一緒に,短時間の練習を 繰り返し,少しできたらほめてあげて」。

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  出所)https://tabihare.mokichang.com/post-565/

 

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  出所)https://smarby.jp/articles/29001

 ◆ マナー絵本・ホテルでレッスン。--箸や器を置く位置,尾頭つきの魚の食べ方,スープの飲み方--。子どもにしってほしい食事のマナーは箸のもち方以外にもたくさんある。では,どう伝えたらいい? そんな保護者の期待に応える絵本が売れている。

 『テーブルマナーの絵本』(高野紀子作,あすなろ書房)。2011年の出版から3年で約12万部売れた。動物のキャラクターたちとともに和食,洋食のマナーを学べる。バイキングや回転ずしといった外食先でのマナーもとりあげているのが特徴だ。

 山浦真一編集長(56歳)は「バイキングで食べ終えたお皿に,もう一度料理を盛っていいのか。大人も意外と知らないマナーを網羅できる実用絵本をつくりたかった。保護者が口でいっても身につきにくいマナーが,絵本を介することで自然と身につく,と喜ばれている」と話す。

 ホテルも子どものマナーレッスンに力を入れている。

 京王プラザホテル(東京都新宿区)は2003年から,小学生とその家族を対象に「ファミリーテーブルマナープラン」を春休み,夏休み期間に開く。洋食と懐石の2コースで,スタッフのマナー指導を受けながら食事を楽しむ。

 同様の教室は各地のホテルでもあり,夏休みなどに開催するケースが多い。

 『子どもに恥をかかせない食事のマナー』(マガジンハウス)の共著があるクッキングプロデューサーの葛(かつら)恵子さんは「食事のマナーは一緒に食べる 人,サービスをしてくれる人への思いやり。個食をさせず,いろいろな人といろいろな場所で食事をさせることで,身につけさせてあげて」と話す。

 

  日本文化といっていいのか,箸使いの作法

 「お箸やナイフ,フォークの使い方に自信がないと気後れするもの。しっかり身につけて社会に出ることは,一生の財産です」。

 ① に聞いた「箸のもち方」の「問題」は「一生の財産」になる作法のことだという結論になっていた。筆者は教員を職業にしていたせいで,若者たちの箸の使い方を多数みてきた。あるいは,いまではテレビ番組で盛んに放映されている「食い物・食事」の場面では,いかに多くの芸能人が「正しく箸をもてていない」でいる現象を,否がおうでも視聴させられつづけている。

 正直いって残念な印象なのであるが,有名な芸能人になればなるほどだが,箸を使う場面で「箸を正しくもてない」光景をみせられると,それだけがっかりさせられる。その場合はたいていチャンネルを切り替え,ほかの放送局に移動することになる。冒頭に紹介した「既述の本ブログ」は6割強の日本人が正しく箸をもてず,成人(おとな)になると,その〈矯正〉がなかなか困難である事実に触れていた。

 こういう感想をいっておきたい。「いい大人が箸をきちんともてない」のであれば,はたして「日本人であり」「日本の文化を正しく継承する者である」とはいえないのではないか,とまで考えこんでみるしだいである。子どものころから「箸のもちかた」くらい,きびしくしつけられなかった結果が,大人になってもそのままにつづいていることになる。

 

  外国人の箸にまつわる不満・批判

 インターネット上には「日本のこんなところが不満!  日本に住む外国人の本音とは?」( “NewSphere”  2014年1月12日11時0分,http://news.livedoor.com/article/detail/8424999/ )という記述(コメントの意見)もあった。こういっている。

 「新しい人に会うと,日本の食べ物は食べられるかどうか聞いてくる。はい,と答えると,納豆は? 海産物は?っていう風に聞いてくる」。

 

 「箸を使うたびに『上手ですね』といわれるんだ。アメリカ人でアジア人がフォークとナイフを使って同じことをいわれているところを想像してごらんよ」。

 

 「かわいい,すごい,おいしい・・・といった言葉を使いすぎている。いくつか形容詞を覚えれば日本語の25%が理解できるよ」。 

 以上,理解しやすいコメントである。しかし,フォークとナイフを使うことと箸を使うこととはだいぶ基本が異なっているはずである。フォークとナイフは “おおよそもてば” 使えるが,箸は正しくもたなければきちんと(つまり正しいとされる箸の運用法でないと上手には)使えない。ここには大きな差があるといってよい。

 「箸のもち方」に関していうと,とくに「摘む」「開く」ための操作が肝心となる。その点に注目すれば「箸の操作はきわめてむずかしい」といえ,したがって「フォークとナイフを使う動作」とは,質的にかなり異なっている。

 筆者は以前,実際にだいぶ変わった箸のもちかたをする若者たち(20歳前後)といっしょに食事をする機会がたびたびあって,彼ら(若者男女)の箸をもつその姿が視野に入った瞬間,いつも,ギョッとさせられた。そのときの気持は,なんといったらいいのか,ただ “天を仰ぐような気分” であった。

 

  過剰に誇るべきではないはずの「日本文化としての『箸の伝統』」

 いまでは「箸を正しく使えるかどうか」という点と「日本人かそれとも外国人かという違い」を,あえて深く関連づけて話題にするのはどうか,と思われるような時代になっている。

 ましてや日本の文化・伝統と称して,箸だけを使い・食事をするのは日本人だけだ,などと誇りたがるかのような「日本風の宣伝イデオロギー」は,まさしく虚偽意識の域を出ていない。

 日本人でも箸を正しくもてない人びとは大勢いるし(「過半数より以上」であり,相当に多く実在する),外国人でも箸を正しくもてる人びともいくらでも存在する。

 アジアのほかの諸国で箸を使い匙(スプーン)をいっしょに使って食事をすることと,日本・日本人の食事方法が箸しか使わないこととの『文化的差』(?)に注目し,これをとりたてて強調するという説法は,日本人が正しく箸をもてない比率(若者ではたった4割以下しか正しくない箸のもち方)に鑑みるに,いささかならず気恥ずかしい思いをさせられるのではないか,という感じまで受ける。

 筆者がいままでいろいろな場で「日本人自身の箸のもち方」を観察してきた印象によれば,はたして,4割の人たちが箸を正しくもてているのかという感じは,もてないでいる。どちらかといえば,目線をそむけたくなる〈食事の場:箸をもつ風景〉が非常に多い。

 ニコニコ動画で視聴できる「箸のもち方」に関するある説明は,風刺的な説明をおこなっている(⇒ http://www.nicovideo.jp/watch/sm24110402)。

 この動画は,「外国人に教えてあげたい箸の正しい使い方」という語調で説明をしているけれども,いまの時代,その外国人のなかには,当然のこととして「日本人も含めておかねば」おかしくなっている。かといっても,本当ところは,昔もいまも同じに通じる話題でもあったが……。

 箸のもち方に関する「正しい教え方」うんぬんの話題は,外国人に教える前にまず,日本人に対して,しっかり・ていねいになされたほうがよいと思われる。

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