「ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用」という対概念と「正規雇用・非正規雇用」という対概念のあいだには,本質的な違いがあるのか(3・完)

「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い」は「正規雇用と非正規雇用の違い」とどこが違うのか,ことばは変わるが歴史を通して,本質はそれほど変わらない資本制企業の営利原則のエゲツなさ(3・完)

 

  要点:1 雇用形態の変わらぬ部分と変わる部分

  要点:2 労働形態問題の本質論とは離れた目先の議論が浮遊する労働経済問題をめぐる類型的観点の不確かさ

  要点:3 新・日本的経営システム等研究プロジェクト編著『新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とその具体策-』」日本経営者団体連盟,1995年5月の見解が不要になったわけでもあるまい

  要点:4 正規・非正規雇用という用語を使わせまいと試みてもいた安倍晋三政権のまやかし

  要点:5 ジョブ型雇用とは「仕事に人を割り当てる雇用の形」であり,一方のメンバーシップ型雇用は「人に仕事を割り当てる雇用」形である。欧米諸国ではジョブ型雇用が主流であるが,メンバーシップ型雇用をしているのは,実は日本のみ。それぞれにメリット・デメリットはある

  要点:6

   イ)「長期蓄積能力活用型グループ」 正規雇用の「正社員」
   ロ)「高度専門能力活用型グループ」  たとえば税理士とか会計士,営業職など
   ハ)「雇用柔軟型グループ」 非正規雇用,パート・アルバイト,派遣社員など

 


 「〈耕論〉男の育休,逆風のわけ 宮崎謙介さん,中原淳さん,内田亮子さん」朝日新聞』2020年2月14日朝刊15面「オピニオン」から中原のみ紹介する

 ◉「昭和な同調圧力への悲鳴」中原 淳さん(立教大学教授)

 小泉進次郎さんの育休は,男性の育休について議論を呼び起こした一方で,この話題が人びとの間に,感情的ねじれや反発を呼びやすいことも明らかにしました。反発のなかには,「職場では育休をとりたいなんて口にすらできない」というものもありました。育休をとりたくても職場の同調圧力でとれない様子が,叫びのようにこだましています。

 背景には,日本企業独特の職場風土や働き方の問題,さらには「メンバーシップ型雇用」という慣行があります。決まった職務に人をつけるのではなく,人に仕事をつけていくという雇い方をします。職場のなかで,どこまでが自分の仕事かが明確でないので,仕事が終わっても帰ることができません。同調圧力が強くなり,長時間労働が横行します。しかしそれに耐えられれば終身雇用が保障されます。

 補注)ここで,あえて指摘しておきたい点がある。日本型経営方式では,「米欧型」のジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用なので,このように語られている問題が起こるのだという調子で,育休のことも語られている。ところが,このジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用が,同じ日本の企業のなかでは雇用形態の別種類でありながらも「同居している」というところに,核心となるみのがせない論点が存在していた。

 一方ではジョブ型雇用だからという点が,他方ではこのジョブ型の雇用とメンバーシップ型雇用が混在していて,とくに後者のいわば正規雇用=正社員の場合は,「人に仕事が割り当てる雇用」である関係上,育休すらとりにくい職場の環境・雰囲気があると問題視されている。

 それでは,ジョブ型雇用の非正規雇用非正社員の場合は,その逆だからという理解ができ,議論もしていいのかといったら,ちょっと待てよ,それぞれの問題の次元というか性質に違いがあったのではないか,という疑問が浮上する。

 欧米型と日本型という単純化した類型化のもとで,一方では欧米型だから欧米型しかない,他方では日本型ではあっても「欧米型と日本型」の双方の効用形態が存在(併在)するといったふうな,よく考えてみるまでもなく,そもそも「比較の方法」として適切であるのか疑問の問題設定がなされていた。

 すなわち,もともと無理のない欧米の「一般型」と日本の「特殊型」との相対関係を設営したうえで,相互間の比較をするための議論ができていたといえば,これについては根本的な疑問があった。要は,「比較の方法」そのものに問題はなかったのか,という前提条件に関する注意事項が無視されていた。

〔記事に戻る→〕 高度経済成長期に広がった働き方ですが,時代は変わりました。産業の中心が製造業から,知識の陳腐化が早いIT・サービス業に移り,企業が同じ従業員を長期雇用することはむずしくなっています。

 ところが昭和モデルが染みついた上の世代は「暗黙の前提」として,育児は女性がするものという性別役割分担意識をもっています。そういう意識は会社のなかでも再生産され,職場のなかに広がります。人手不足ですから,育休をとられると回らない,という経営者もいるでしょう。

 しかし本当に回らないのか,暗黙の前提を排して考える時です。このままでは,共働きしたい若い男性は会社から逃げだし,さらに人手が足りなくなります。それでも変われないという経営者は,市場から退場するしかないでしょう。

 社会が森だとすれば,小泉さんは率先して「森全体」を揺さぶりました。個々の木に働きかけても,同調圧力や分断に阻まれてなかなか動きません。さらなる変化には,政治の力も必要です。従業員に育休取得を促すことを企業に義務づけるとともに,取得することが企業にも個人にも「得」になるような補助金や支援の制度を作るべきです。支持率が高いいまの政権だからこそやるべきことでしょう。

 補注)資本家や経営者の側のためにはなった法人税の「下げ」ならば,いままで一生懸命におこなってきた政府(主に自民党政権のことだが)であるけれども,労働者・サラリーマンのための生活向上のためにもつながる社会政策,とりわけ少子高齢社会なのだから「人間再生産作業が可能である年齢層の人たち(男女従業員)」には,大いに子どもを儲けてもらいたいという「国家側の期待・要望」があっても,企業経営の次元では当面する目先の利害にとって阻害要因となる,いいかえれば営利の短期的な実現にとっては「妨害要因」にしか映らない「産休や育休」は,けっして喜んでなど与えたがらない。

 しかも,そうした基本姿勢は,「メンバーシップ型の雇用」にある従業員(正社員)であっても,「女性の産休」や「男性の育休」に関したいままでの一般的な会社の風土は,非常に排他的・否定的にしか対応していなかった。ただし,最近は積極的に産休・育休をとらせる会社も増えている。以前は,女性従業員が子どもを産み・育てるという事態になると,「即・退職」という日本的経営の伝統(?)があった。それ以前に「寿退職」もあったゆえ,現在となってみれば「なにをかいわんや」の「日本の会社の伝統」が,以前においては当たりまえの慣行として実在していた。

〔記事に戻る→〕 ただし男性の育休は,単に夫がおむつ替えやミルク作りなど個別の「タスク」をする期間ではありません。夫婦が未知の領域である育児に取り組む時,やり方や役割分担の意識を一致させるのは簡単でありません。2人で育休をとることで,育児というマラソンを完走するための作戦を練ることができるのです。

 僕は妻と協力しながら育児に奮闘していますが,子どもが生まれた当時は育休をとりませんでした。テレワークを活用してでもなんとか育休をとり,育児の「長期戦」にのぞむ作戦会議ができればよかったと,とても後悔しています。(引用終わり)

 以上,男性側労働者の育休に関する例話を通してとなっていが,「ジョブ型雇用の非正規雇用」と「メンバーシップ型の雇用」の問題の組みあわせが,はたして,このように2分割的な類型化じたいとして観念されて議論することでかまわないのか,という別の問題を意味させているはずである。

 

  非正規社員(労働者)が置かれている不公平・非均衡な立場

 1)「〈職場のホ・ン・ネ〉「正規」こそ正しい?」『朝日新聞』2020年2月17日朝刊24面「働く / 小説」

 派遣社員として働いていますが,「就職氷河期世代の非正規雇用」と呼ばれることに違和感があります。まるで「正規」こそが正しいといわれているように感じます。私は新卒でベンチャー企業に入り,2人の子どもを出産。働きづめで気持に余裕がなくなり,子どもに悪影響が出ていると思って30代前半で退社。その後は派遣や有期雇用,正社員と,子育ての状況や自分の心身の状態にあわせて選んできました。政府には「正規」「非正規」を自由に行き来できる社会をめざしてほしいです。(東京都,40代女性)
 
 --この女性,くわしい事情は分からないが,正社員であって十分に実力をもち,それ相応にバリバリ働いてきた人材だと判断しておく。だが,このように有能な女性を,子どもの出産・育児のために正規から非正規のほうへ「社員としての立場」をただ一方的に追いやるのは,人材の有効活用の観点からすると,もっと効果的に活用できる・能力のある労働者を,わざわざムダにしている,矯めてしまっていると観るほかない。

 彼女がいうように『「正規」「非正規」を自由に行き来できる社会』という表現がいいたい点は,よく理解できる。この表現に即してよく考えてみれば,「ジョブ型雇用の非正規雇用」とか「メンバーシップ型雇用の正規雇用」という分類よりも「以前の問題次元」が透視できるはずである。

 ただし,最近造語されたに過ぎないけれども,「メンバーシップ型雇用の正規雇用」は中核に残しておき,そのまわりに「ジョブ型雇用の非正規雇用」を集めて,人事・労務管理体制を維持していこうと企図してきた日本のとくに大企業体制は,こうした女性労働者の期待・希望にすなおに応えようとする経営理念・労務方針はもっていない。

 2)「〈職場のホ・ン・ネ〉『技能アップ』に疑問」『朝日新聞』2020年2月24日 朝刊25面「働く / 小説 」

 携帯電話会社でコールセンターのアルバイトをしています。「技能アップのため」として定期的に研修があるのですが,そのたびに業務がむずかしく複雑になります。途方に暮れる問い合わせも増え,「技能アップ」のたびにストレスです。「時給は上がるんですか」と聞くと,「上がらないよ」。だからって研修は拒めません。病気などで休むごとにシフトの希望などが通らなくなる「ペナルティー」もあり,理不尽で辞める人も多いです。「技能アップ」の名の下,続ける人の負担が増しています。(関東地方,20代男性)

 こういう就業・労働の形態が「ジョブ型雇用での非正規雇用」でなされているがゆえ,もともと問題があり過ぎた。「ジョブ型雇用」=「非正規雇用」という関連づけじたいに無理があった。ジョブ型雇用であれなんであれ,この20代男性が指摘するように仕事(職種・業務の内容)の技能がむずかしくなるのであれば,これにみあって時給もあげられていいはずだが,そこはなかなか実現しない。これでは「非正規雇用」を「ジョブ型雇用」ということば(用語)だけ変えても,現実の非正規労働者の賃金水準はいっこうに改善されない。

 もちろん,このごろは,非正規労働者の時給水準が上昇していないわけではないが,ジョブ型雇用をウンヌンする問題は,実はほとんど無関係とみなしてよい動向の変化であった。

 最新の情報としては,たとえば「アルバイトの時給動向をグラフ化してみる(最新)」『ガベージニュース』2020/02/21 09:13,http://www.garbagenews.net/archives/2228492.html  は,「非正規雇用のなかでもメインとなるパート・アルバイトの時給の推移を通し,市場動向をかいまみることにする」といって,とくに,こう指摘している。ただし,これは三大都市圏全体を中心にした分析であり,その点には留意が必要である。

 販売・サービス系や介護スタッフではいくぶん異なる動向だが,全体的にパートやアルバイトの時給は少しずつ上昇傾向にある。需給の関係から考察すれば,求職者以上に求人が増え,賃金を引き上げることで求人を充足させようとする動きのなかにあるとみてよいだろう。他の記事で触れている「非正規雇用の就業者が増加している」実態と併せると,少なくともパートやアルバイトの雇用市場では,就業する立場にある人から見て,情勢は好転していると判断して問題はない。

 

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 ただし昨今では一部業態で天井感の気配もみられるため,より大きな留意が必要である。これが現状の労働市場における単なる時給の上限なのか,雇用する側の出し渋りによるものか,あるいは雇用形態においてより正社員への雇用が促進されたため,相対的に非正規雇用の需給に変化が生じてきたのか,多方面からの精査が求められよう。

 要は,あくまで非正規労働者をめぐる需給関係によって時給の上昇傾向が生じていたのであって,「ジョブ型雇用」であるとされる「非正規雇用」の問題として論じられる以外の「最近の話題」であった。ジョブ型雇用を提唱した識者は,この雇用形態のもとに,いったいなにをもくろんだつもりかについては,ここではとくに関心を向けないものの,それにしても言葉のお遊びであるきらいが回避できない。

 

 「〈経済気象台〉年功制の限界と企業の今後」『朝日新聞2020年2月20日朝刊10面「金融情報」

 梅の開花のニュースが届きはじめ,春の訪れを感じられる季節になった。この時期に取り上げられる話題のひとつが「春闘」である。今年は3月11日が一斉回答日となった。労使間で賃上げなどの労働条件を交渉するが,近年は雇用形態の多様化や労働組合の組織率の低下などで盛り上がりに欠けている。

 日本企業は長年,長期雇用を前提に若い時の賃金を低く抑え,年齢とともに賃金が上昇する仕組をとってきた。ベースアップや定期昇給といった春闘とは切り離せない仕組は,年功制を代表するものだが,若年層を中心に拒否感が強い。

 「『20年後にはそれなりの処遇をする』といっても,会社が存続している保証もない。それならばいまの成果で処遇してほしい」ということだ。優秀な人材は年齢に関係なく成果に比例した処遇を求め,外資系やベンチャーに流れる傾向にある。

 補注)この話を聞けば,「ジョブ型雇用」の「非正規雇用」と「メンバーシップ型雇用」の「正規雇用」といった「用語の対」で語られるごとき,いうなれば,昨今における日本の労働経済の具体的な問題が,本当のところでは,従来の年功制賃金を守っていたい側面もあるかのように語られている事実も感得できる。

〔記事に戻る→〕 こうした状況に危機感をもつ企業が昨〔2019〕年から,AI(人工知能)分野の技術者や国際的に活躍できる経営幹部候補を対象に,初年度から一般的な初任給の何倍もの処遇を提示する事例が出てきた。入社した彼らが,年功制育ちの人材が大半の企業でどう成長して成果を上げるのか? 彼らの加入で,企業がどのように変わっていくのかもまた興味深い。

 補注)要は,企業の存続(サバイバル)そのものを賭けていかねばならない資本主義経営体制が対峙する〈経済戦争〉では,つぎのような様相も出現している。引用中であったコラム〈経済気象台〉の残りの段落はあとまわしにしておき,つぎの記述を途中に参照してみたい。次段からの引用・参照は,全文ではなく部分的に引用している(が,けっこう長くなる)。

 
   ★ 「激化する人材争奪戦:NEC『新卒年収1000万円』の衝撃 年功序列の廃止か,『3流国への没落』か」★
 =『#SHIFT』2019年09月06日 05時00分,https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1909/06/news023.html〔~ news023_5.html〕から =

 a) 優秀な人材を確保するために,NECは〔2019年〕10月から研究職を対象に,新卒年収が1000万円を超える可能性がある給与を支給すると発表した。これが技術・研究系の職場に衝撃を与えている。

 大学時代の論文が高い評価を得た新卒者を対象にしていて,これまでの年功序列とはまったく異なる破格の厚待遇となる。年功序列が主流である日本企業のなかでは,異例の取り組みだ。裏を返せば,能力のある人材を生かす給与体系に変えていかないと,グローバル競争のなかでは勝てない状況になりつつあることを表わしている。

 b) ソニーは新入社員が730万円。AI(人工知能),バイオテクノロジーなどの先端技術分野では,優れた研究者のアイデアが製品化につながる。そのため,大手の技術系企業は将来のヒット商品の開発につながるような「金の卵」を,のどから手が出るほど欲しがっているのだ。

 c) 人材の引き抜きを警戒。NTT出版コミュニケーションズは〔2019年〕7月から,専門職を対象に新しい人事制度を作り,即戦力の中途採用に力を入れる。

 国籍は問わず,ソフトウェアのエンジニアやデータサイエンティストなどを「アドバンスド・スペシャリスト」という名前の制度で,3年以内に100~200人を採りたい方針で,最高ランクでは年俸3000万円になる可能性もあるという。

 その背景にはクラウドなどITの先端分野での激しい人材の引き抜き競争があり,期待されている人材の流出を防ぐための手段としても,高い給与にして引き留める必要がある。

 その背景にはまた,いわゆるGAFA(GoogleAppleFacebookAmazon)を含めた,国内外のIT企業との人材交流や引き抜きが激しくなっていることが挙げられる。

 補注)ここでの話題は,国際経営としての企業競争を念頭に置く人材獲得の方法に関した人事政策(賃金待遇)であって,正規雇用という問題は,ひとまず当然といえば当然という以上に “問題にすらならない” 雰囲気の解説である。

 d) 夢では終わらない「1億円プレイヤー」。NTTグループではドコモ,NTTデータも同様の中途採用を実施するとしていて,最高年俸は横並びの3000万円となっている。このほか,北米のシリコンバレーに研究拠点のあるNTTリサーチ・インクは,中途採用で国籍を問わず1億円の年俸も支給する枠を設けていて,能力しだいでは「1億円プレイヤー」も夢ではなくなっている。

 e) 年功型からジョブ型へ。ハードからシステム開発などソフト志向を強めている富士通は,顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)事業を支援するコンサルティングを強化する方針で,そのための新会社を2019年度中に設立する。とくにDXが進んでいる金融や製造,物流を最初のターゲット分野と定め,既存のコンサルタントと合わせて約500人のコンサルタントで事業を始める。コンサルティング成果を発揮すれば,それにみあ合った処遇をおこなう給与制度を検討していくという。

 補注)ここに出てきたのが,日本型の「年功型〔の賃金形態〕からジョブ型〔の賃金形態〕へ」の移行問題である。この「移行するという問題」は,地球規模で活動する企業にとってみれば,四の五のいっていられない性質のものゆえ,ある意味では議論する余地すらない絶対的な要請,人事政策の一環だという位置づけになる。

 したがって,本日の記述で述べているような正規雇用か否かの問題などは,視野のなかには入っていない。要は,ここで「年功型からジョブ型」にと形容されている論点は,日本の労働経済のなかで話題になっている「正規雇用か否か」の問題とは,はるかに次元を異ならせた地平にあるものだといってもいい。

 f) チームワーク志向が強い日系企業。NEC,ソニー,NTTコミュニケーションズ,DeNA富士通といった企業は,遅ればせながら給与制度の改革に乗り出してきている。だが,日本企業の多くの給与制度は依然として年功序列型のままだ。一部では能力給が導入されるなど変わりつつあるが,技術・研究職でも給与に占める年功部分の比率が大きい。

 日本企業はチームワークを大事にしてきたため,個人の能力を評価したがらない企業風土が根強い。技術革新のスピードが速いいまの時代は,まさに個人のアイデアが企業の命運を担う。このため,技術志向の企業は,チームワークは必要ではあるが,個人の能力を最大限生かせるような給与制度にあらためるべきだろう。

 g) 半導体商社の大手,菱洋エレクトロが “PCのサブスク” を始めた理由は,なにか(?) しかし,一部の社員だけが飛び抜けて高い給与が支給されると,他の社員の労働意欲や士気が低下する「モラールダウン」が広まる恐れがある。経営トップは,そうしなければ会社として生き残れないことを社員に対して明確に説明する必要がある。

 補注)「サブスク」とはサブスクリプションを略した言葉で,定期購入という意味である。新聞の定期購読などは従来からあるその1種である。いまは,さまざまな商品・サービスがサブスクで受けられるようになりつつある。パソコンのサブスクとは「PCの月額レンタルサービス」と書けば分かりやすいと思う。

 今年の経済財政白書でも年功序列制度の見直しが指摘されている。この制度の壁を壊さないかぎり,日本企業からは世界で通用する斬新な製品は生まれてこないのではないか,という見方もある。一方で,給与を釣り上げて人材を採用すると,短期間での成果を追い求めるようになり,じっくり長期間おこなう研究が疎(おろそ)かになりがちになる点を指摘する専門家もいる。

 このバランスにむずかしい面があるけれども,人材を集める手段としては,ライバル企業に〔先手を〕取られないためには待遇を手厚くせざるをえず,日本企業は技術系人材を採用する上で,転換点に来ている。

 h)「雇用の仕組み変えないと『3流国』に転落」。こうした日本企業の変化について人事制度に詳しいパーソル総合研究所の櫻井 功副社長は危機感を強める。

 「NECなどが求めているデジタルトランスフォーメーション人材と呼ばれる人たちの給与は査定で決まるものではなく,マーケットバリューで決まってくる。技術系の企業はこうした人材がいないと生き残れない時代になっており,高給を出してDX人材を取ろうとするのはやむをえない」。

 i) 通信インフラ企業のNTT東日本が中小企業向けに DaaS 註記)を展開する理由とは。いま日本企業は,仕事における貢献度の低い人も含めて,終身雇用・年功序列の人事給与体系から,年齢や年功に関係なく職務のマーケットバリューに応じて給与を支払うジョブ型給与体系に徐々に変わろうとしているが,なかなか変われていないのが実態だ。

 註記)DaaS【Desktop-as-a-Service】とは,コンピュータのデスクトップ操作画面をネットワークを通じて遠隔の端末へ提供するサービス。利用者ごとにフル機能のコンピュータ一式を揃えなくても,簡易な端末などを通じてデスクトップ環境を利用できる。

 なぜなら,サラリーマン社長である大手企業の経営者,役員の多くは旧来の日本型雇用における『勝ち組』であるため,その制度に関する課題意識が低いだけでなく,自分の代でリスクを取ってまで人事組織の大改革をやることに強いインセンティブがないからだ 補記)。だが,世界の大半の国がジョブ型の制度のもとで,能力のある人材を最大限,力を発揮させようとしており,同じ人材をマーケットでとりあう日本企業は,今の雇用の仕組みを変えていかないと,世界から取り残された『3流国』に成り下がってしまう恐れがある」。(引用終わり)

 補記)この問題点は「本稿(1)」で触れていた。

 以上の説明は,本日のこの記述が論じているつもりの「正規-非正規雇用」と「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」の問題とは,だいぶ離れていることが分かる。しかし,この世界企業・国際経営の舞台で働ける人材を確保することが緊急の要請になっている日本の一流大企業の立場にとってみれば,「ジョブ型雇用の非正規雇用」などいった表現とは縁遠い “企業競争の経済世界” で経営管理を推進・実行していなければならない。

〔ここで,コラム〈経済気象台〉の記事に戻る(  ↓  )〕

 個人的には「終身雇用制」には賛成だが,成果に比例した処遇とセットが条件だ。組織や個人の成果を公正に評価する仕組が不可欠である。トップやその周辺の独断や嗜好にもとづく評価がまかり通る成果主義は,内向き志向と忖度が横行し,優秀な人材の流出を招いて崩壊へ向かう。今後10年間の日本企業の変化を興味深く見守りたい。(H)

 この経済気象台の指摘は,前段までの『#SHIFT』2019年09月06日の記事の議論に照らせば,なにゆえこれほどにまで呑気なことをいっているのか,と一蹴されていいかもしれない。すでに,最先端の舞台で企業競争が熾烈になされている状況にあるのであれば,「組織や個人の成果を公正に評価する仕組が不可欠である。トップやその周辺の独断や嗜好にもとづく評価がまかり通る成果主義」など,初めから通用しない。

 この ③ における記述の内容は,パートやアルバイト,派遣社員契約社員の問題次元についてする発想,いいかれば「ジョブ型雇用になる非正規雇用」が想定できるなどといった発想じたいが,なんとものどかな日本の労働経済的な風景だといえなくもない。

 

  昔からこういう非正規雇用の形態があったという話題

 1)「臨時工」https://kotobank.jp/word/臨時工-660042 解説)

 臨時工とは,臨時に短期間雇用される労働者である。臨時工は,景気変動に対する経営者の安全弁として機能し,現実には,本工とまったく変りない仕事に従事する長期勤続の者が多いにもかかわらず,使用者により容易に解雇され,賃金も労働条件も本工に比べて非常に劣悪である。

 したがって,臨時工の無権利や低賃金が本工の賃金,労働条件を引き下げ,しばしば労働者間に分裂をもたらす。なお,法律上所定期間を越えて雇用された臨時工には,解雇予告期間が必要とされる場合がある。

 日本の臨時工の起源は,明治維新後の産業資本主義確立期にまでさかのぼる。当時,繊維工業を中心とする軽工業においては,零細農家出身の若年女工を採用したが,軍需部門や鉄鋼,造船などの重工業部門では,不熟練労働分野に労働者供給業者の支配下にある人夫,寄場(よせば)人足を臨時職工として採用し,景気の変動に応じて増大しあるいは解雇した。

 第1次世界大戦後から昭和恐慌に至る時期になると,企業は臨時工に本工労働者と同様の職務に従事させ,短期の雇用契約を更新することにより,相当長期にわたって雇用するようになった。しかし,賃金・労働条件は依然劣悪なままに放置されていた。

 さらに,未組織労働者である臨時工は,当時の労働運動の高揚に対してそれを弾圧ないし切り崩す手段として利用された。1934年〔昭和9〕12月の内務省社会局の『臨時職工及人夫に関する調査』によれば,使用職工数100人以上の民間工場のうち30%が臨時職工および人夫を使用し,その合計は8万人に上るとされているが,実際には全工場を通じて30万人と推定されている。

 その内務省の同調査によれば,八幡製鉄所では本工1万6661人に対し臨時工および人夫は1万1276人に達している。当時,臨時工の解雇にさいし,会社が予告手当の支払いを拒否するなどの事件が発生(たとえば1933年9月の三菱航空機株式会社名古屋製作所争議),臨時工問題は社会問題化した。日中戦争から太平洋戦争中は,軍需経済のもとで重工業を中心に労働力不足現象が生じ,臨時工は戦時強制労働体制(徴用制)のなかに吸収された。

 補注)以上の記述を読み,臨時工≒非正規労働者という図式的な理解が浮かんでくるのは当然である。時代の状況が基本的に異なるとはいえ,その本質的な意味にはまったく同じ性質の要因があると断言したところで,けっして間違いにはならない。

  ※ 第2次世界大戦(敗戦)後の動向を観る ※

 第2次世界大戦後,朝鮮戦争の時期に社外工にかわって臨時工が大量に利用され,1950年代末まで企業の雇用調整の主要な手段となった。この背景には,戦後「民主化」の過程で定められた職業安定法(1947年)により労働者供給事業(社外工制度)が禁止された点がある。

 1950年代後半以降高度成長期を迎え,大企業では技術革新を進め,近代的工場や設備が新設されたが,本工の新規採用は極力抑制されたのに対し,臨時工や日雇が新規採用のなかでかなりの比重を占めた。

 たとえば,労働省(現厚生労働省)の「労働異動調査」によると,1959年の新規入職者のうち臨時工の占める割合は,製造業500人以上規模の企業の場合で49.9%に,なかでも金属機械部門では61.5%に達した。

 しかし,臨時工による本工化闘争が活発化するとともに,職業安定法施行規則の改正(1952年)により,労働者供給事業の認定基準が緩和されたため社外工制度が積極的に利用されるようになり,しだいに臨時工は社外工にとってかわられるようになった。1961年当時の製造業常用労働者のうち「常用名義の常用労働者」が92.1%であるのに対し,「臨時日雇名義の常用労働者」は7.9%である(労働省昭和36年労働白書』)。

 製造工程に従事する臨時工に限定しないで,広く臨時雇についてみれば,高度成長期を通してその数は増大しつづけた。旧総理府統計局(現在は総務省統計局が調査を所管)『就業構造基本調査』によれば,臨時雇(1か月以上1年以内の雇用契約で雇われている者)は,

 1956年 96万人,1962年 96.5万人と,1960年代なかばまでは90万人台で推移していたが,1960年代後半より急増し,1968年 148.4万人,1971年 156.8万人となった。

 1974~1975年の不況以後,大企業は雇用調整によって,企業の生産・営業活動にとって必要不可欠な常用労働者を削減または抑制し,そのかわりに臨時雇,日雇,パートタイマー,社外工などの非正規労働者を導入するようになった。その結果,臨時雇は1974年以降,急速に増大し,前記調査によれば,1974年 191.0万人,1977年 220.5万人,1982年 333.5万人と推移した。

 さらに,1990年代に入ると長期不況のもとでこの傾向はよりいっそう顕著になっており,1997年には臨時雇は503.4万人に,2007年には603.1万人にまで増加した。なお,同時点で日雇(日々または1か月未満の雇用契約で雇われている者)はそれぞれ 145.2万人,135.6万人であった。

 国勢調査によれば,本来の臨時工を意味する製造工程の臨時雇労働者(職業中分類「製造・制作作業者」の臨時雇)は2000年に 102.4万人,2005年に 108.4万人である。なお,国勢調査の「臨時雇」の定義は「就業構造基本調査」とは異なり「日々または1年以内の期間を定めて雇用されている人」である。

 21世紀に入る前後より,自動車や電機部門などの製造ラインには間接雇用の派遣労働者や請負労働者が導入されているが,その多くは雇用契約期間が数か月に限られている臨時雇である。自動車産業などの期間工も臨時工の一種である。

 2)「社外工」https://kotobank.jp/word/社外工-524563 解説)

 社外工とは,下請企業に雇われて,その親企業(元請企業)の事業場で働く労働者。発生史的には,組夫(くみふ)制度の近代的再編形態による下請工,間接雇用労働者の一種である。

 1970年代までは一般に鉄鋼,化学,造船,建設,鉱山などの諸産業の補助部門に多くみられ,賃金・労働条件が劣悪で,労働組合活動などの諸権利はほとんど無視され,就業状況の不安定性は臨時工と同じであったが,法整備や労働力の需給関係の変化で改善されつつある。

 またいえば社外工とは,日本の大企業の下請制度のうち,親企業の構内において製品の完成または作業の遂行に直接充用される下請企業の労働者をいう。社外工は間接雇用(労働者を指揮命令して就業させる使用者と労働者の間に第三者が介在する雇用形態)の一つであり,第2次世界大戦前は組請負制(人夫供給業)として鉱山,建設現場,工場で広範に活用されていた。

 1947年に制定された職業安定法は,強制労働や中間搾取の排除の視点から労働者供給事業(間接雇用)を禁止したため,直接雇用の臨時工がもっぱら利用された。1952年の職業安定法施行規則の改定によって,労働者供給事業の規制が緩和されたのに伴い,間接雇用は社外工制として復活し,1960年代に入ると,鉄鋼業や石油化学工業などの装置産業造船業では,臨時工にかわって社外工が非正規雇用の主役となった。

 親企業にとって社外工を活用するメリットには,正社員への登用を求める臨時工の闘争を回避できることにくわえて,

  (1)  社外工は本工(正社員)や臨時工と異なり,親企業とは直接的雇用関係がないため,使用者責任を果たすことなく,また募集費,福利厚生費などの負担を免れ,低賃金労働を広く利用できること,
  (2)  景気変動のさい,容易に雇用調整でき,解雇に対する労働運動の圧力を回避しやすいこと,

などがある。

 社外工の担当作業は,かつては基幹工程周辺の機械化・自動化されない部署,付帯作業,運輸・整備作業などが大部分であったが,しだいに基幹工程へも社外工が導入されるようになった。新鋭製鉄所では,本工と同数またはそれを上回る規模で,社外工が活用されている。今日,自動車・電機部門の製造ラインで増加している派遣労働者や請負労働者は社外工の新たな形態である。(引用終わり)

 「ジョブ型雇用」と「非正規雇用」と「メンバーシップ型雇用」と「正規雇用」といったふうな関連づけが想起されてもいい「新しいことば:用語の登場」は,けっして目新しい労働経済上の出来事を指して用意されたのではなく,どちらかといえば,ことば・用語にまつわる斬新的な印象をもってのみ,以上に議論してきたごとき,日本の企業における生産・労務管理制度の歴史的な淵源や実情を,もっぱら目くらまし的にはぐらかすために提供されていたともいえる。

 雇用形態に関してジョブ型だとかメンバーシップ型という用語を創成したのは,濱口桂一郎であったが,最近でも「ポエムを語るかのようにこの用語をさえずっている」様子がうかがえる。

 ※ 人物紹介 ※  濱口桂一郎はまぐち・けいいちろう,1958年大阪府生まれ)は,独立行政法人労働政策研究・研修機構労働政策研究所長。1983年労働省入省,欧州連合日本政府代表部一等書記官,衆議院調査局厚生労働調査室次席調査員等を経て,2008年より現機構所属,2017年より現職。専門は労働法政策。『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ-』『EUの労働法政策』など著書多数。メンバーシップ型・ジョブ型の提唱者としてもしられる。

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