「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という対・概念の,いまどきな非学術性・反厳密性

新型コロナウイルス問題が問うことになった「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という「雇用形態分類の無意味さ」

ジョブ型雇用もメンバーシップ型雇用もジョブ(仕事・職務)に関する雇用の分類方法であるかぎり,概念的につまり論理学の集合論の概念に照らしてみるとき

奇妙な重複関係が含まれるほかなく,コロナ問題の襲来によって,その区分のあり方が単なる表相的な仕分けでしかない点がより明らかに露呈

 

  要点:1 ジョブ=仕事・職務に関する分類のために,同じ用語(仕事・職務=ジョブというもの)を前後に重ねて使うかたちで,「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という雇用形態上の「分類」を提示したのは,もともと奇怪な思考に依るものであった。今年になって日本も襲われている新型コロナウイルス感染拡大「問題」のなかで,ジョブ(仕事・職務)そのもの中心に人事・労務管理の制度運営問題を再考すべき契機を突きつけられた

  要点:2 メンバーシップ型雇用の会社従業員が在宅勤務中心の業務遂行体制に完全に移行したら,正規雇用と非正規雇用の区分が有するごとき絶対的と相対的な関係性は,よりアイマイになる

 

 「〈大機小機〉賃金の機能は報酬だけか」日本経済新聞』2020年6月11日朝刊17面「マーケット総合2」

 この『日本経済新聞』のコラム記事,今日はとくに興味がもてる議論をしていた。要は,正規雇用と非正規雇用の問題をとりあげているのだが,さらに,理論的には十分に納得のいく論理的な説明を欠いたまま,いつの間にか流通してきた「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という対・概念そのものの “使用妥当性にかかわる問題” もとりあげていた。

 新型コロナウイルス感染拡大「問題」は,いままであればふだんにおいて,真正面から急に迫ってくる企業環境要因には想定されていなかった。ところが,このたびは,一気にしかも否応なしに襲来したこのコロナ問題は,企業経営側に対する勤務体制の基本的な変更点を,「在宅勤務」の導入として推進させる原因になっていた。

 勤務体制に関したこの急激で,それこそ瞬時的だったとも受け止めてよい基本の変化は,個別企業がコロナウイルス問題のための議論などを余裕をもってするまでもなく,在宅「勤務化」の方向となって一般化してきた。

 要は,この在宅勤務体制をめぐって考えるすれば,以前であれば裁量労働制で仕事に従事する労働者群の「日常的な労働形態」に似た勤務状態に変更することになった,ごくふつうの労働者群がこのさい増えたことになる。

 その裁量労働制とは,こう説明されている。日本の労働法制で採用されている労働者が雇用者と結ぶ労働形態の一種であり,労働時間と成果・業績が必らずしも連動しない職種において適用され,あらかじめ労使間で定めた時間分を労働時間とみなして賃金を払う形態である。

 このように説明されている裁量労働制に近似したかたちでもってだが,労働者たちの全般的な生活環境のなかに,その裁量労働制が採用されやすい業種・業態の仕事・職務が,コロナウイルス問題の発生を契機に,突如増えはじめたかのように映る。こうなると,裁量労働制がいままでのように,なにか特別な働き方であったかのような考え方では,現実の仕事・職務の進め方としては適合的でない要素が生まれてくるほかない。

 そのあたりに齟齬などが生じないようにするためには,在宅勤務で働く従業員たちの「仕事・職務」が自宅でなされているときでも,いいかえれば,課業を達成するためには会社(事業所)に出てこない時でも,出てきている時と同じになされているという前提が要求される。

 コロナウイルス問題のために従業員の全員が会社に出勤してこないとなると,従来のいわゆる「メンバーシップ型雇用」という語感に示唆される,それも「正規雇用」者群にまつわる特有の雰囲気が,仕事・職務という課業(業務)の遂行にとって,どうしても必要不可欠なものかという論点が露出されてくる。

 契約社員派遣労働者,アルバイト・パート労働者たちは「非正規労働」に従事する人びととして,そのメンバーシップ型雇用の範疇・圏域からは大なり小なり「阻害」されるほかないという〈企業の現実〉があった。ところが,正規社員が在宅勤務体制を採るという体制になると,そのあたりの区分がいまひとつ明解ではなくなる。

 極端な解釈をしてみる。同じ仕事・職務についている正規社員と非正規社員が,それも会社には出てこないで,自宅でおこなっているとした場合,前者はメンバーシップ型雇用だからナントカであり,また後者がジョブ型雇用だからさらにナントカであり,両者のあいだには,特定・一定の賃金や労働条件に違い(格差)があって当然という理屈は,感覚的にも実際的にも通用しにくくなる。

 以上のように考えてみる問題を,このコラム記事「大機小機」は議論している。

〔記事に戻る→〕 新型コロナウイルスの感染防止のために在宅勤務が政府によって推奨され,多くの大企業が実施した。在宅勤務は,日本の普通の企業で現実的な労働スタイルになるかもしれない。在宅勤務を続けることができれば,日本の通勤地獄はかなり解消されるだろう。生産性も高まるかもしれない。

 在宅勤務の対象を正社員のみにかぎっていた企業が多かった。なぜそうなるのか。正社員の場合は,監視をしなくてもきっと仕事をしてくれるはずだという安心感があるからだ。この安心感を担保しているのはなにか。担保は正規従業員への高い給料である。高い給料をえている従業員はそれを失いたくないから,会社の期待にきっちりと応えようとする。非正規従業員の報酬を上げれば,非正規従業員の在宅勤務はもっと広がるかもしれない。

 補注)この在宅勤務体制が,正規と非正規の労働者群を問わず適用・実施されるようになったら,この区分そのものからして大きく変質を迫られる事由になるはずである。いままですでに問題になっていたけれども,正規と非正規とを問わず労働者が本当に課業を能率的・効率的に遂行・達成できているかが,もしかするとより明確な結果として表われるかもしれない。正規と非正規の労働者群の区分・差別が,そうした変化によって意味を失っていく可能性もある。

 高い給料は怠慢を防ぐだけでなく,従業員の不正を防ぐという効果もある。不正や怠慢のなかには監視によっては防ぎきれないものがある。その場合の重要な手段となるのは,類似の仕事をしている他の人よりも高い給料である。会社側からみれば,高い給料を払っていても監視コストを節約できるので,コスト・メリットがある。銀行では現金を扱えるから不正が起こりやすい。不正を防ぐ重要な手段は高い賃金である。高い賃金を失いたくないから銀行員たちは不正の誘惑に打ち勝とうとする。実際に銀行の高賃金が是正されてから小さな不正は増えたのではないだろうか。

 同一労働同一賃金の原則がいわれるが,賃金は労働の対価としての機能をもつだけではない。同じ労働をしていても年配の人の給与が高いのは,年配の人の労働の質が高いからではない。年配の人に高い報酬を払うことによって,若い人びとの中途退職を防ぐことができるのである。

 補注)日本における同一労働同一賃金の理解は,正規と非正規の労働者群に関していえば,適用させられていない。「ジョブ型雇用」であれ「メンバーシップ型雇用」であれ,同じ仕事・職務を果たしているにもかかわらず,なぜ,後者が賃金や労働条件が前者よりも高くて良いのか,合理的に説明できていなかった。

 その種の話題は,「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」の区分が話題になって,つまりは,実業界のなかにこの用語が流通するようになってからも同じように,不合理な問題点として意識されていた。

 とりわけ,新型コロナウイルス感染拡大「問題」の襲来は,もしかしたらそうした「正規雇用と非正規雇用」にまつわっていえば,現象の上っ面だけを掌握したつもりになって提唱されたこの「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という雇用形態に関する分類方法が,いかにも現象追随的な対・概念の提唱であったかを教えている。

〔記事に戻る→〕 実際に賃金はさまざまな機能をもっている。それを無視して,賃金を労働にだけ結びつけるのは誤りである。労働者からみれば,賃金だけが労働の対価ではない。職場の雰囲気や仕事のやりがい,職場の社会的な信用なども重要な対価となる。国家公務員総合職の給料は,その労働時間の長さを考えればけってし有利ではない。それでも希望者が集まるのは,仕事にやりがいがあって社会的な評価が高いからである。(引用終わり)

 最後においてこのコラム大機小機が触れていた論点は,「労働と賃金」の相互関係性じたいの膨らみ具合を示唆しつつ,かつまた,その柔軟なる運用のあり方が,労働者たちの勤労意欲(morale:モラール,motivation:動機づけ,やる気)を左右する基本要因になると指摘している。

 だが,この最後の記述は,労働者の「賃金」に対してと同時にまた,強く意識されるはずの「職場そのものにおける労働環境条件」や「対社会から与えられる評価づけ:信用(一流企業であればその銘柄:ブランド性)」といったごとき「関連する諸要因」の介在,その重要性も指摘している。

 だが,新型コロナウイルス感染拡大「問題」があらためて投じた「賃労働と資本」との関係は,とりわけその間における企業業績全般の急速な悪化によって,労働そのものに対する賃金の支払い方法(形態といえばまさに形態,正規か非正規といった基準も含めてのそれ)を,労働そのものを在宅勤務体制を一挙に普及させるほかない状況も促進するなかで,「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」などといった対比・区別を全面的にみなおすきっかけまで提供したともいえる。

 つまり,ジョブ型雇用であれメンバーシップ型雇用であれ,仮にだが,双方がともに基本的には勤務体制が在宅となったとしたとき,この2つの雇用形態の違いは,まさしく企業忠誠心の多寡をめぐる条件づけの違いでしかなくなるかもしれないが,それとともに,このような問い方じたいが意味をもたなくさせるかもしれない。

 しかし,そういった違いに関した意味あいの極小化・最小化にともなって生まれてくる「仕事・職務の明解化」は,正規と非正規の雇用の問題を基盤に置く必要を排除する可能性が強い。欧米型の横断賃金,職種別・産業別の賃金体系が目の前に浮上することは,論の必然である。「ジョブ型雇用」なる用語でもって意味される日本特殊的な雇用形態は,その意味では,欧米型雇用が別様に矮小化され畸型化した賃金体系を念頭に置いたものだといえなくはない。

 

 「非正規30.3%,正社員21.3% コロナ影響で収入減の人」朝日新聞』2020年6月11日朝刊7面「経済」

 新型コロナウイルスの影響で,パートやアルバイトで働く人のうち3人に1人は収入が減ったことが,独立行政法人労働政策研究・研修機構が〔6月〕10日に発表した調査で判った。正社員で収入が減ったのは5人に1人にとどまっており,非正規社員の働き手に,より大きな影響が出ている。

 調査は5月下旬を中心にネットで実施。企業で働く4307人(うち非正規 1459人)に新型コロナで雇用や収入が受けた影響(複数回答)を尋ねたところ,全体の24.4%が「収入の減少」を選んだ。

 正社員では21.3%にとどまったが,非正規では30.3%いた。雇用形態別にみるとパート・アルバイトでは33.9%に上り,派遣社員では28.6%,契約社員・嘱託では17.7%。パート・アルバイトでは,直近の月収が通常の月より「9割以上減少した」人も7.1%いた。(引用終わり)

 正規と非正規の雇用(被雇用者の立場)における,以上のごとき新型コロナウイルス感染拡大「問題」を理由とした「賃金低下の違いに関した原因・理由」には,いうまでもなく「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」との違いに求められる要因があった。

 しかし,そうはいっても,あくまで同じ仕事・職務に就いていながらそのように賃金の減少の相違性が生まれている事実は,ひとまず「同じジョブ」についていても,同じ会社・事業所の「メンバーシップ」の有無にもとづく差として,前段の記事のように現象している。しかしながら,在宅勤務体制の採用という事実そのものに即して観察すると,ジョブ型雇用に対してメンバーシップ型雇用のほうが,異様に厚遇されていると解釈できる。

 問題は,ジョブ型雇用関係にある労働者の賃金がもともと絶対的に低い事実にあった。資本制企業がコスト低減をあらゆる領域において志向することは,マルクスレーニンに語らせるまでもなく,資本主義的営利追求がなされる経済世界のなかでは,しごく当たりまえの事実であった。

 非正規雇用のことをジョブ型雇用だとかなんとか呼び,修辞面で装飾しなおしてみたところで,その本質的要因に変わりはない。昔風からの工場労働者の分類でいえば,本工に対する社外工・臨時工は,本工と同じジョブ(仕事・職種)に就いていても,賃金や労働条件がまったく異なる。企業体制全体の規律関係や支配構造のあり方として,そうした本工と社外工・臨時工などとの差別構造が厳然と実在している。それだけのことである。労働者側に対する「分割と統治の会社版」である。

 正規雇用と非正規雇用の差別撤廃をするのではなくて,これを「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」の区別として,やわらかい表現にとりかえたところで,企業統治としての現場管理問題の本質に関して「なにか特別の違い」が,今日的な意味が特別に突出してえられるわけではない。あの手この手を使い,現状における企業内秩序の「重要な一環としての賃金体系・構造」が維持されつつ強化もされねばならない。

 新・日本的経営システム等研究プロジェクト編『新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とそのが具体策」-』日本経営者団体連盟,1995年がもくろんだ「正規と非正規の労働区分」とその「普及」は,すでに成功裏に展開させられてきた(次掲の図表参照)。しかし,その現実的に回避できなかった矛盾も,同時に “失敗裏の出来事” となって拡大させられ浸透してきた。

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 そのさらに新たな展開をもくろんだ「正規雇用と非正規雇用」の再概念化が,実は「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」であったと解釈できる。その意味ではまことに時宜をえた名称が提唱されていた。しかし,こうした対・概念をなんの疑問もなく,労働経済学者たちまで自然に使用する現状は,非正規労働者たちの生活や権利のことなど,それほど本気で改善する気などもちあわせない人びとによって作られてきたというふうに理解しておく必要もある。

 要は,その種の批判を本ブログ筆者が披露したところ,これに対してはムキになって,それこそ感情剥き出しにして闇雲にする非難を寄せてくれた人物がいたが,その人物こそがこの「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」を考案していた。

 労働経済学だとか経営労務(人事・労務管理論,ヒューマン・リソース・マネジメント)だとかを専攻する学究たちは,そのような論理学的な集合論の見地から判断しても妙ちくりんな概念の組み合わせである,その「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」という枠組を,ひとまず廃棄してから再考すべき現実の問題がある。

 「ジョブ型雇用」プラス「旧式の日本的経営・精神論」が「メンバーシップ型雇用」であると解釈してもいいのだが,在宅勤務体制は後者の “メンバーシップという意味あい” を根本から吟味すべき必要をうながしている。

 

  関連する議論

 1)正規雇用と非正規雇用賃金格差

 この項目についてはまず,2016年の統計資料に関しての話題となるが,「 【厚生労働省のデータ】非正規社員生涯賃金が正社員よりも1億円少ないことが判明!」『お役立ち情報の杜(もり)』2017年3月5日,https://useful-info.com/non-regular-workers-paid-100-million-less-than-regular-ones から,つぎの図表と本文を引用しておく。 

 日本の労働経済のなかで,労働者たちの生活と権利の隔心付近には,いったいなにが問題となって実在しているか,一目瞭然である。新型コロナウイルス感染拡大「問題」を撃鉄にして撃ち出された日本式雇用関係(大企業体制中心のそれ)の問題性は,いわば在宅勤務体制によってその問題性がみえやすくなったといえる。

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 厚生労働省が発表した2016年の統計データを基に試算すると,20~64歳まで働いて受けとる生涯賃金は,正社員の場合,2億3351万円。それに対して,非正規社員は1億3134万円となる。実に,1億円以上の生涯格差が生まれる。

 非正規社員の労働者人口に占める割合は年々増加を続け,いまでは4割程度にまで達している。非正規社員は昇進昇格させずに済み,時給いくらで給料が払われている。ボーナスも退職金も払わなくていいので,雇う企業側にとって,コストの多くを占める人件費削減の大きな手段となっている。しかし,その副作用は大きい。

  ★-1 組織の一員としての自覚が育ちにくく,親身になって問題解決に取り組む人材が減る。

  ★-2 組織全体としてのモチベーションが低下する。

  ★-3 仕事上必要な知識・経験が,会社内で蓄積・継承されにくくなる。

  ★-4 例外はあるが,任せられる仕事の範囲が限定されがちなので,能力向上が頭打ちとなる。

  ★-5 可処分所得が少ないので,消費を抑えざるをえない。

 補注)「ジョブ型雇用」とは結局,以上の特徴をそのまま認める形態ではなかったか?

 企業の経営者は,コスト削減の安易な手段として非正規社員の割合を増やしている。自分だけの立場や,目先のお金の損得ばかりに目を向けており,視野狭窄といえる。会社としての組織力・活力が低下し,サービス・商品の質が下がり,クレーム増大の原因となるのだ。外食チェーンでのワンオペ問題はその典型だ。

 非正規扱いで収入が少なければ,当然,消費が少なくなる。外食・旅行・車・冠婚葬祭・住宅取得・子どもの教育など,社会に与える影響は広範囲に及ぶ。長い目でみて低成長の原因となる。

 よく,失われた何十年とかいって嘆いている政治家や評論家がいるが,非正規というある意味,搾取的な労働制度を安易に拡大している側に文句をいう資格はない。当然の結果なのである。もしも,原因と結果の関係をいまだに把握できていないのだとすれば,真正のバカである。

 補注)「ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用」などといった対・概念を創案し,世の中に広めた人士も,もしかすると,日本の労働経済において働いている「原因と結果の関係をいまだに把握できていない」「真正のバカである」という帰結になる。

 歴代自民党政権は消費税率を上げて,その分を大企業の減税や内部留保に回しているありさまだ。愚かである。

 補注)2012年12月26日に発足した安倍第2次政権が打ち出した例のアホノミクスは,そもそもその実体が不確かで,空虚なナントカミクス(ウソノミクス・ダメノミクス・サギノミクス・ダマスミクス)であった。最悪・最凶だったアベノポリティクスのほうと併せていえば,日銀総裁黒田東彦と組んだアベ政権の政治・経済政策は,つぎの 2)に述べるような路線にしか進めなかった。

 2)「非正規雇用者の賃金(2020年5月版)」『Recruit Works Institute』2020年05月12日,https://www.works-i.com/column/teiten/detail008002.html

 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』によると,2018年における非正規雇用者の時給は 1326円と前年比+10円と増加した(次図)。正規雇用者の時給を1としたときの非正規雇用者の時給(非正規雇用者と正規雇用者の賃金格差)は,0.66倍と前年からやや低下した。賃金格差の改善はやや足踏みしている状況にある。

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 非正規雇用者が正規雇用者に転換している状況にあって,賃金格差を縮小させていくことは簡単ではない。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用い,非正規雇用者が正規雇用に転換する比率を年収ごとに算出すると,高い年収の非正規雇用者ほど正規雇用者に転換しやすいことが分かる。

 比較的賃金が高い非正規雇用者ほど先に正規雇用に転換する傾向があるため,正規転換が進んでいる状況では必然的に,残った非正規雇用者の賃金が低くなる傾向があるのだ。また,同様に正規雇用から非正規雇用に転換した人の年収は高い傾向があり,正規雇用から非正規雇用になる人が減少すると,やはり非正規雇用者の賃金が低く算出されてしまう。

 上記の要素を踏まえ,非正規雇用者を取り巻く環境について総合的に判断すると,非正規雇用者の処遇改善は進展しているものと考えられる。同一労働同一賃金が明文化されるなか正規雇用者と非正規雇用者の不合理な処遇の格差はけっして許されることではなく,今後,さらなる状況の改善が必要となろう。(引用終わり)

 この指摘は,すでに2020年4月1日から施行されている「パートタイム・有期雇用労働法(改正短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」(中小企業における適用は,2021年4月1日)とも深く関係するが,その実際においてはたして,どこまでその有効性が発揮しうるかについては疑問がないわけではない。

 上の法律は,パートタイマーなど非正規雇用労働者から「正社員との待遇差の内容や理由」などについて求めがあったときは,説明するように,と事業主に義務付けている。

 たとえば,そのガイドラインは,「将来の役割期待が異なるため,賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的または抽象的な説明では足りず,職務内容,配置の変更の範囲等に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして,不合理と認められるものであってはならない,とされている。

 そして説明のさいは,比較対象となる正社員の賃金規程及び職務内容と比較して,説明する必要があるため,客観的・具体的に説明できないと「不合理」とみなされる可能性がある。

 補注)厚生労働省都道府県労働局がかかげている解説(要旨)は,https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000543669.pdf  を参照されたい。ただし,その文章はいろいろと表現上の工夫が施されていて,読み方によっては使用者側に逃げ道も案内しているかのようにも読みこめる。

 しかし,「パートタイム・有期雇用労働法」が前段のように期待されてはいても,国家が指導のために設けたこの案内程度では,いかほどに実効性がありうるかまだ疑問を残している。前段のその補注に指示した案内文を実際に読んでみればいいのである。けっこう “風通しのよさそうな(隙間風がよく通りそうだという意味の)指針” である。

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