大坂なおみは2020年10月までに日本国籍を取得したが,アメリカ国籍を捨てたのか? アメリカ政府はアメリカ人の二重国籍を「否定していない」

              (2018年9月10日,2020年8月31日)

 大坂なおみ(20歳)が「テニス選手の国籍」として「日本を選択している」とはどういう意味か? 日本国側ではすっかり日本〔国籍〕人あつかいだが……

 

  要点:1 大坂なおみは日本人,それともアメリカ人,さらにはそれとも……

  要点:2 スゴイ人は,皆,「自国人」あつかいが好都合という万国共通の価値感

 

 大坂なおみ 優勝賞金は4.2億円 使い道は? 『お金を使うタイプではないので…』」スポニチ Sponichi Annex』2018年9月9日,https://www.sponichi.co.jp/sports/news/2018/09/09/kiji/20180909s00028000181000c.html

 テニス全米オープン第13日『女子シングルス決勝「大坂 2-0 Sウィリアムズ」(2018年9月8日,ニューヨーク・ビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニスセンター)

 全米オープン優勝で大坂なおみ(当時:20歳=日清食品)は,優勝賞金380万ドル(約4億1800万円)を獲得。これまでの獲得賞金を超える莫大な賞金の使い道を問われると「自分にお金を使うタイプではないので,私にとって家族が幸せなら私も幸せです」と控えめにコメントした。次戦は日本でおこなわれる東レ・パンパシフィック・オープンに出場予定。「姉も一緒に東京にいくので,私にとっては大きなギフトです」と話していた。

 ところで,大坂なおみ選手は日本語をほとんど話せない。4歳まで日本で暮らしていたが,その後,アメリカに移住してから英語での生活であった。母親は日本人であるが,家のなかでは英語で,日本語は子供に教えなかったらしい。それで,テレビでも観られる程度の日本語力である。

 f:id:socialsciencereview:20200831055846j:plain

  付記)左から,なおみ・妹・母・父の順。

 大坂なおみの父親はアメリカ人で,氏名はレオナール・フランソワといい,日本で英語講師をしていたとき,奥さんとなる環(たまき)と出会って結婚,その後,大坂選手が4歳のころ,アメリカのフロリダに移ったという。

 

  法務省の説明:「国籍に選択」について(を参照し,関連個所を引用)

 日本の国籍と外国の国籍を有する人(重国籍者)は,一定の期限までにいずれかの国籍を選択する必要があります(国籍法第14条第1項)。期限までに選択をしない場合には,日本の国籍を失うことがありますので,注意してください。

 日本国民である父または母(あるいは父母)の子として,生地主義を採る国で生まれた子(例:生まれたときに,父母が日本国籍であり,かつ,アメリカ,カナダ,ブラジル,ペルーの領土内で生まれた子)が,「国籍の選択をすべき期限は,重国籍となった時期により異なりますが,その期限は」つぎのとおりです(ここでは,大坂なおみに関係する事項のみ参照)。

 「昭和60〔1985〕年1月1日以後に重国籍となった日本国民」は,

    ア)  20歳に達する以前に重国籍となった場合→22歳に達するまで

    イ)  20歳に達した後に重国籍となった場合→重国籍となった時から2年以内

 なお,昭和60〔1985〕年1月1日以後に重国籍となった方が,上記期限までに国籍の選択をしなかったときには,法務大臣から国籍選択の催告を受け,場合によっては日本の国籍を失うことがあります。

 補注)実際にはこの場合(二重国籍状態)であっても,このような警告が文字どおりに発動されているわけではない。つづく説明を読めばその実情・理由が理解できるはずである。

 なお,この日本国籍の選択宣言をすることにより,国籍法第14条第1項の国籍選択義務は履行したことになりますが,この選択宣言により外国の国籍を当然に喪失するかについては,当該外国の制度により異なります。

 この〔日本国側での〕選択宣言で国籍を喪失する法制ではない外国の国籍を有する方については,この選択宣言後,当該外国国籍の離脱に努めなければなりません(国籍法16条第1項)。離脱の手続については……(以下,省略)

 註記)以上の手続についてくわしくは,http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06.html を参照されたい。

 補注)上記の最後に書かれている文言のうち,注意したいのは「当該外国国籍の離脱に努めなければなりません(国籍法16条第1項)」とあるだけで,法律上「努める」という要求の意味が奈辺にあるかは,説明する余地もない。

 だが,ここまで有名人になった大坂なおみである。以上のごときに法務省が禁じる二重国籍問題は,来年(2019年10月16日)に迎える22歳の誕生日までには,日米の国籍からどちらかひとつを選択しなければならない現実問題になるはずだけれども,これを回避して棚上げしておくことはしにくい。

【参考記事:その1】

【参考記事:その2】

 

 「〈こころの玉手箱作家〉 星野智幸(1) アメリカのパスポート」『日本経済新聞』2020年8月31日夕刊から,以下の話題として引用するが,これは1985年前後に関するものと思われる。日本政府が二重国籍を否定していない事例である。

 

 ※「ほしの・ともゆき」は1965年米国生まれ,早大卒,新聞社勤務を経てメキシコに留学。1997年「最後の吐息」で文芸賞を受賞しデビュー,2011年「俺俺」で大江健三郎賞,2015年「夜は終わらない」で読売文学賞,2018年「焔」で谷崎潤一郎賞

 

 --「アメリカ人なら英語しゃべれるんでしょ,なにかしゃべってよ」。幼児期から小学生低学年の,まだ自我があやふやな子ども時代,私がアメリカ合衆国で生まれたことを話すと,このような反応が返ってくることが多かった。けれど,アメリカに住んでいたのは2歳半までだし,両親は日本の人間で,英語で会話するわけではないから,英語など話せない。それどころか,アメリカの記憶すらない。

 (中略)

 アメリカ人としての私には,星野智幸の他にもう一つ名前があって,パスポートに記されているが,ジェームズという。父が親しくしていたアメリカ人がつけてくれた名前だ。自分がジェームズであるという自覚はゼロなので,「おい,ジェームズ」と呼ばれても絶対振り返れないけど,アメリカ時代に録音されたテープを聞くと,母は私のことを「ジミーちゃん」とも呼んでいる。

 

 そんなわけで人生初のパスポートは,日本に帰国(初めていくのでも「帰国」なのが不思議)するさいのアメリカのパスポートでもあった。以来,期限ごとに更新しつづけている。大学時代,初めて海外旅行するために,ツアーに申しこんだ。そしてあろうことか,日本のパスポート取得の費用をケチった私は,アメリカのパスポートで旅行しようとした。

 

 成田空港の出国審査で,係官から私はいわれた。「このパスポートで君はアメリカ人として出国はできるけど,入国はできないよ。君が日本国籍であることは証明できないから」。ゲートの向こう側でウキウキ顔のツアー仲間を尻目に,私は引き返すほかなかった。係官は,戸籍謄本をもってくれば特例で出入国させてあげる,と言ったのである。入管もあの時代は融通がきいたのだ。

 

 戸籍謄本を取得して,私は2日遅れで出国し,ツアーに合流した。そして帰国時,入国審査の係官はたまたま,あの係官だった。私は問題なく日本に入れた。私の小さな難民体験だ。国籍がいかに偶然的なものなのか,思いしった。

 

 大坂なおみ公式サイト』(NAOMIOSAKA.COM,www.naomiosaka.com/)

 “Message from Naomi” 〔say〕 “Thank you for your continuous support always. I will do my best on every game ! And I will keep trying hard to speak better Japanese (^ _ ^)

 

 なおみからは「いつも,応援ありがとうございます。1試合,1試合,全力でとり組みます! 日本語ももっと話せるようにがんばります (^_^)」とのあいさつがあった。

     ※「大坂なおみ」の基本情報 ※

   生年月日は,1997年10月16日で,現在20歳。

   国 籍:「アメリカと日本の国籍をもつ」二重国籍状態。

   出身地:「大阪市中央区」(4歳まで)

   居住地:「アメリカ,フロリダ州ブロワード郡フォートローダーデール

   身長 180cm,体重 69kg。

   利き手「右」,バックハンドは「両手打ち」

   ツアー経歴。デビューは2013年,ツアー通算2勝(シングルス 2勝,ダブ
 ルス 0勝)

   生涯獲得賞金 3,232,734〔アメリカ合衆国ドル〕
   優勝回数    1(米1)

   キャリア自己最高ランキング

    「シングルス」   17位(2018年7月23日)
    「ダブルス」  324位(2017年4月3日)

 大坂なおみは,法的には日米二重国籍(2018年現在)であるが,現在までのところ「テニス選手としての国籍」は日本を選択している(姉の大坂まりも同様)。日清食品ホールディングスに所属し,マネージメントはインターナショナル・マネジメント・グループ,練習拠点はプロワールドテニスアカデミー。

 補注)「プロワールドテニスアカデミー」は,アメリカ・フロリダ州デルレイビーチにある「世界中のプロ・ジュニアの選手が日々トレーニングをおこなう,世界トップレベルのテニスアカデミー」である。選手の受入は通年でおこなっており,1週間の短期キャンプから年単位での留学が可能である。

 註記)https://pbi.jp/sports/proworldtennis/ 参照
 全体の註記)https://ja.wikipedia.org/wiki/大坂なおみ

 

  大坂なおみは日本人か -純ジャパでないことはたしか-

 テニス全米オープン『女子シングルス』決勝で大坂なおみが勝利した分には,とくに日本のマスコミの報道ぶりをみると,すっかり完全に,彼女を日本人・民族風にあつかう体裁になっている。彼女の父親の画像は前掲に出ていたが,

 例の「お▼▼の日本国副総理大臣」みたく,「プロテニス・プレイヤーの大坂なおみがですな,テニス全米オープン日『女子シングルス』で,つまりはだな,日本人との混血児として,いいかえると有色人種として優勝したところに歴史的な意味があるわけだ……」などと,したり顔でいわれるような余地はほとんどとなかった,と受けとってよい雰囲気であった。

 スポーツ選手にかぎらず混血児や二重国籍状態にある者は,両国側からはいずれも自国に所属する人間であるかのようにあつかわれることが多い。しかし,この側面において反映されている「ある種の解釈」は,「めでたいこと・いいこと・得になること」に関する要素をめぐってなされるものゆえ,表面的にはむずかしい問題は出てこない。

 しかし,有名人でもなんでもない「ふつうの・ごく平凡な混血児」が,とくにこの日本という国のなかでは,その事実を理由にして「たいそうなイジメ」に遭わされることも多い。たとえば,「オコエ瑠偉ダルビッシュ有〔などは〕『小さいころハーフという理由で差別された 日本人は外人に厳しい』」といった現実も指摘されている。

 註記)『http://blog.livedoor.jp/6469』2018年09月06日18:13〔の記述の題名〕,http://blog.livedoor.jp/i6469/archives/54100796.html

 大坂なおみはいま,無条件に讃美の嵐のなかに立っている。けれども,日本で生まれ大きくなった混血児たちのなかには,差別を受けてきた体験者が多く存在する。そのさい「差別の理由」を提供するものが,いわゆる「疑似・純ジャパ」的な判断基準である。もっとも,イジメの問題は,日本社会における子どもたちの世界ではあまねく浸透する現象であるゆえ,純ジャパといった「その物差し」だけがイジメの理由に使われているわけではなく,もろもろの事由がイジメの材料に総動員され応用される。

 さきほど〔 ③ の終わりのほうで〕,現在までのところ,大坂なおみは「テニス選手としての国籍」は日本を選択しているとの断わりがあった。だが,国籍を選択しなければならなくなる(最終期限は22歳の誕生日,なおみの場合であれば:2019年10月16日)までは,日本国籍アメリカ国籍もともに現在は保有しているゆえ,そのように「テニス選手としての国籍」は「日本を選択している」などと奇妙な理屈をわざわざ披露する余地はなかったというほうが,よりまっとうな立場ではなかったか。

 補注)この段落の記述は2109年10月時点の話題であった。前掲した【参考記事】を読んでもらえれば,二重国籍問題に関した日本政府法務省の〈基本姿勢〉(?)は,もともと「かなりいい加減」であって,それも故意にアイマイ化させてきた実態が理解できるはずである。

 まさか,なおみが「テニスをやっていない時間帯はアメリカ国籍の人間です」というのも,これまた奇妙というよりはずいぶん奇怪な表現になってしまう。彼女は現在(繰り返すが2019年10月16日の誕生以前までは)「二重国籍状態に置かれていた」という事情があって,ただし「テニス選手としての国籍」は「アメリカを選択・表示していない」だけのことであって,この事実を針小棒大的に語ったところで,「心情的に理解できる以上のもの」はみいだしにくい。

 22歳になってからの彼女がもしも日本国籍を選んだうえで,アメリカで両親とともに生活するのか,それともアメリカ国籍を選んで,日本で暮らしつつ活躍しようとしていくのか。さらにいうと,両国を股にかけて国籍など超越した空間を創造しつつ生きていくのかなどについては,いまの時点においては,われわれの口からはなんともいいようがない(が,今日は2020年8月末日になっているので,関連する議論が,この記述のなかでおこなわれている)。
 
  大坂なおみは何国〔籍〕人か

 福岡安則『在日韓国・朝鮮人』(中央公論社,1993年,序章)が,つぎのように,日本人・民族に関する「判断基準の内容明細」を示していた。これは「日本人から『非日本人』までの類型枠組」を考えるための参考表として提示されていた。これにしたがい「日本人」の諸分類(?)に関する説明がされていた。

 類 型   1  2  3  4  5  6  7  8

 血 統   +  +  +  -  +  -  -  -
 文 化   +  +  -  +  -  +  -  -
 国 籍   +  -  +  +  -  -  +  -

---------------------------

  類型1「純粋な日本人」→ いわゆる純ジャパ。
  類型2「日系1世」など

  類型3「海外成長日本人」
  類型4帰化者」→ 以前は在日韓国・朝鮮人が多かった。

  類型5「日系3世」あるいは「中国残留孤児」
  類型6「民族教育を受けていない『在日韓国・朝鮮人の若者たち』」

  類型7アイヌ民族
  類型8「純粋な非日本人としての『外国人』」→ 分かりやすい外国籍の人たち。 

 これら基準のなかに「大坂なおみ」の事例は,ぴったりは当てはまらず,おさまりどころがうまくみつからない。というのもなおみの場合,「血統 ⇔ 文化 ⇔ 国籍」の組み合わせで8種類が例示された類型のうち,この類型を分類するときに判断される「いくつもの基準」は,それぞれが濃淡の差もあるかたちで併存・混合しているからである。

 ごく単純に当てはめていえば,大坂なおみの「血統」は「日本人半分」であり,「文化」も半分と思われるのだが,アメリカで過ごしてきた生活のほうが「圧倒的に比重がある」と観ていい。そして,彼女の「国籍はいまのところ二重国籍」であるが,ともかく1年後(2019年10月のことだが,この事実は表面だっては話題になっていない)には選択を迫られる。

 これだけ有名人なったら「努力目標」であるかのような「国籍選択」の義務であっても,これを履行しないわけにはいくまい。そのさい,日本〔国籍〕人ではなくアメリカ〔国籍〕人になったとしたら,日本:日本人のほうからは「彼女という存在」に対して,どういった解釈が「血統 ⇔ 文化 ⇔ 国籍」をめぐりなされることになるか?

 アメリカ国籍を選んだら「でも彼女は母親が日本人だよ」という事実にこだわるのか,それでも日本国籍を選んだら「彼女は肌の色ははっきりちがうが,日本人だよ」ということになるのか? いま(2018年9月)のところこの種の話題(問題?)は,ともかく先送り状態にされている。それでも,彼女の誕生日は2019年の秋には必らず来る(そして,本日は2020年8月31日になっていたから,10ヵ月も前にその期日は「来ていた」)。さあ,そのとき彼女はどちらの国籍を選択するのか?(「していたのか?」)

 補注)その後,大坂なおみは「2020年の東京オリンピックへ日本人選手として出場するため,日本国籍を選択したと米紙 Washington Post が報じた」というしだいになっていた。2020東京オリンピックはコロナ禍のために中止となり,1年延期が措置されているが,最終的には開催されない可能性が大だと予測されている。

 大阪なおみの「血統」は日本人がともかく半分,「文化」は日本語が片言での次元であることに鑑みると,アメリカ文化のほうにかなり近い立場にある。そして,「国籍」を1年後までにそのどちらを選択するかによって,「彼女の米日間において立つところの生活基盤の重み」が,いったい両国間のどちらに置かれるかが,だいたい明かになるはずである。

 補注)ここまで記述してきたのだから,前段の福岡安則『在日韓国・朝鮮人』1993年が提供していた “日本人・民族に関する「判断基準の内容明細」” を,大坂なおみに適用すると,こうなる。

 「血統」は + でも - でもなく,アメリカと日本の半分ずつ。

 「国籍」は日本。

 「文化」はほとんどアメリカ。

 となれば,類型でいうと,「類型5:日系3世あるいは中国残留孤児」と「類型8:純粋な非日本人としての『外国人』」→ 分かりやすい外国籍」との半ばである。ここまで限定してくると,こういう概念操作そのものに,いかほどの意味があるのか疑問も湧いていくる。

 大坂なおみ日本国籍を採る可能性は10%未満と予測する。つまり,日本・国籍人にはならないと予想しておく。1年ほど経ったら確認できることになる(この10%とみた予想は外れ,前述のとおりなおみは,日本国籍を選んだ)。アメリカ国籍になってもならなくても,プロテニス・プレイヤーとしては,日本でも大いに稼げる実力を実証したのだから,以上の述べてきた諸問題(関心事)などは「小さい,小さい……」と,いわれそうでもある。

 補注1)以上の議論についてとくに,福岡安則の前掲書における説明に関しては,本ブログ内ではつぎの記述のなかに,さらに詳述した段落があるので,こちらも参照されたい。

 補注2)なお,在日米国大使館・領事館の「二重国籍」に関する見解については,https://jp.usembassy.gov/ja/u-s-citizen-services-ja/citizenship-services-ja/dual-nationality-ja/ を参照したらよい。アメリカ政府は二重国籍を『否定していない』のである。

------------------------------