絶望の最高裁判所,裁判官に非正規労働者はいないせいか,世間における非正規雇用の実態がよく理解できない彼らの立場

 メンバーシップ型労働とジョブ型労働との違いをおおげさにいいたててきた「観念的な規定のズレ」が,最高裁の法廷においても,まともに認識・判別されえないようでは,これからも日本の産業社会全体のなかでは,少子高齢社会の憂いは永久に消せず,この国の弱体化を昂進させるばかりである

 

  要点・1 非正規雇用・労働者の存在を合理化・正当化するかのような最高裁の判決は,日本の裁判所の反動性,つまり時代後れで「法正義のあるべき基本姿勢」とは別世界での判断を下した
 
  要点・2 そういえば裁判官(判事)という職種には非正規労働者(雇用者)はいないようだが,弁護士余剰とは異なり,国家エリート集団としての彼らは「左ヒラメ・右カレイ」の審理しかできない

【事前・資料】

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 最高裁『不合理でない』 非正社員の退職金・賞与なし 一部命じた高裁判決,変更」朝日新聞』2020年10月14日朝刊1面

 非正社員〔非正規雇用〕と正社員〔正規雇用〕の待遇格差をめぐる2件の裁判で,最高裁第三小法廷が〔10月〕13日,それぞれ判決をいい渡した。原告側は正社員と同じ仕事なのに賞与(ボーナス)や退職金がないのはおかしいと訴えたが,最高裁はいずれも「不合理とまで評価できない」と判断。一部の支給を認めた高裁判決を一転させた。対象となった職場の事例に限った判断だが,退職金・ボーナスの支給を認めない結論が確定した。(▼2面=にじむ配慮,12面=社説,29面=判決要旨,30面=原告憤り)

 通勤手当など「諸手当」の支給を認めた2018年の最高裁判決に続き,退職金・ボーナスの支給の是非が問われた訴訟だった。退職金が争点となった裁判は,東京メトロ子会社「メトロコマース」の契約社員だった66~73歳の女性4人が起こした。約10年にわたり駅の売店で働いたのに退職金が出ないことは,正社員との不合理な労働条件の違いを禁じた労働契約法20条(今〔2020〕年4月からパートタイム・有期雇用労働法に移行)に反すると訴えた。

 第三小法廷(林 景一裁判長)は,原告らと売店の正社員の仕事は「おおむね共通する」としつつ,正社員には,欠勤などでいない販売員に代わって働く役目や,複数の売店を統括するエリアマネジャーに就くこともあったと指摘。仕事や責任に一定の違いがある上,登用試験で正社員になる道もあったと述べた。

 さらに同社の退職金には「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保」を図る目的があるとして,労働条件に差を付けることは「不合理といえない」と判断。正社員の退職金の25%にあたる賠償を命じた東京高裁判決を変更し,住宅手当などの支給を認めた部分だけを維持した。

 補注)この直前 “2段落分” の記事(文面)を読んだかぎりでも,最高裁のこうした判断は非常識の域に達している,としか受けとれない。売店社員の仕事は「おおむね共通する」と断わりながら同時にまた,正規社員の特別な役目,つまり管理者的な業務遂行の関連性に触れている。けれども,その間にありうる「実際の業務」のありようの相違を根拠・理由に,退職金支給ゼロ%というのは,なんとも不合理のきわみであり,非常に残酷な思量だとみなすほかない「判決の内容」である。

 裁判官5人のうち4人の多数意見。学者出身の宇賀克也裁判官は反対意見を出し,「退職金は継続的な勤務への功労報償という性質も含み,契約社員にも当てはまる。仕事内容に大きな違いもなく,労働条件の違いは不合理だ」と述べた。

 補注)この「労働条件の違い」という実体を,実際における仕事・業務の中身としてどのように「それぞれを具体的に評価し,理屈として位置づける」かという問題は,大昔から人事・労務管理や労資(労使)関係における論点であったものとして回顧するとき,これは歴史を重ねてきても,なお非常な困難を含む問題になっていた。

 ところが,日本では職種別・産業別賃金制度が,いまだに十全に確立していない産業経済・労働経済の領域が大部分である実情のなかでは,正規か非正規かによる労働者・サラリーマンの職域区分(その差別)が,絶対的にも・相対的にも正当化しうるかのようにみなされつつ,この待遇「差」を当然視した人事・労務慣行が,依然として続けられている。

 補注中の 補注)「『ヤクルトレディ』3000人正社員に  定着狙い待遇改善」というニュースが,2020年10月5日に報道されていた。この点については,ヤクルトの経営分析をした解説がある。なお,日本国内でヤクルトレディー社員は3万6千余人いる。そのうちの3000人のことである。

 註記)「ヤクルトの決算から考える,ヤクルトレディを正社員化する理由と今後の業績」『note』2020/10/06 22:41,https://note.com/ijnrdx/n/n736034bcb1f3

 そもそも,最高裁の裁判官たちは,非正規雇用関係のもとに生活をしている労働者・サラリーマンたちの待遇,とりわけ賃金の内容やこの水準じたいをどのように観ているのか(?),基本的な疑念を抱かせる。彼らは,不思議だと形容されてもいい「最高裁の判断」を展示していた。

 つぎに参照する画像資料は,厚生労働者から借りたものである。2017年における正規労働者と非正規労働者の賃金水準は,それぞれが年齢を重ねていくにしたがい,どのように・どのくらい「差別されていたのか」。つまり,正規と非正規であるという「雇用形態の違い」を事由にしてのみ挙げて,このような待遇差別が「正当化されている現状・実態」をめぐって,今回,最高裁が判決を下した「賃金・労働条件の差」に関する見解は,はたして,いかほどにまで「合理的に説明しえていた」のか,あらためて吟味されるべき余地を残している。

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 この図表に表現されているごとき,正規と非正規の労働者の間に設けられてきた賃金水準(支給額)の「差」について,最高裁側が合理的に納得しうる論理の説明を用意できていたかと問えば,疑問しか感じられない。

 ついでに『しんぶん赤旗』がかかげていた関連の図表を,参考にまで出しておく。これは,年収の差額を強調した「統計図表の作図」が意図されているが,それなりに理解を助けてくれる資料である。

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 非正規労働者群の現実的な問題,社会生活をしていくうえで経済的な制約があるために,つまり低賃金での日常生活を強いられているために,とくに20代・30代の比較的若い層に属する人びとが結婚などできない,もちろん,結婚などしないから子どもなども儲けない,とてもそれどころの人生の現実ではないという事情に追いこまれており,こうした状況に留め置かれている当該の社会集団が数多く控えている。

   ◆〈田舎暮らし特集〉山田昌弘教授が語る,結婚しない日本社会のこれから ◆

        =『JOIN』2018年3月,https://www.iju-join.jp/feature_cont/file/056/

 

 30代のおよそ3人に1人(34.0%)が未婚,婚姻件数も過去最低を更新しつづけています。先進国のなかでも群を抜く,高い未婚率にはどんな背景があるのでしょう。また,都心と地方での婚活状況・結婚観には違いがあるのでしょうか。

 

 「パラサイト・シングル」「婚活」などの言葉を生んだ家族社会学者・山田昌弘教授と,「エキサイト婚活サービス」を手がけるエキサイト株式会社メンバーシップサービス部・曽田暁乃さんの対談から,日本のいまをみていきます。

 

 ——結婚しない若者が増えている背景にはどんな社会動向があるのでしょうか。

 

  山田:一番大きいのは経済的な理由だと思います。20~30年前まで,社会に出たらほとんどの男性が正社員,あるいは自営業の跡継ぎになれることが決まっていて,結婚後の生活に不安はありませんでした。

 

  ところがバブル崩壊後,とくに1997年以降,企業や役所は,従業員全員を終身雇用の正社員を雇う余裕を失っていきます。40~50代の中高年をクビにするわけにはいかないので,これから入ってくる若者を,正社員になれる人となれない人に分けざるを得なくなった。こうして,非正規雇用が一気に増えていったのです。

 

  安定して収入が上がっていく保障がなくなれば,結婚しても親たちの世代以上に豊かな,あるいは同等の生活を送れる確約はありません。結婚してこれまで以上に貧しい生活になるのなら,実家にいた方が安心です。こうして,いつまでも親と同居する「パラサイト・シングル」が生まれ,結婚へ踏み出せなくなる。これが基本的な原因です。(以下,後略)

 この山田昌弘の関連する説明を聞いただけでも,最高裁の今回判決に不可避である「時代錯誤性」,時代をよくしていこうとする「法哲学的な思念」が完全に欠けている基本精神(未熟な判断)が理解できるはずである。

 ましてや,この最高裁の判決は,日本社会が以前から大いに悩まされ,しかも現に人口減少の傾向が拍車をかけられ,急速に早まりつつある国家・社会的な状況が目前に展開されているにもかかわらず,非正規雇用の立場にある労働者・サラリーマンの賃金・労働条件は,その程度でもかまわない,仕方ないという迷判断を下していた。

 あえて極論するが,最高裁は,日本経団連の回し者か手先機関かと形容されても文句はいえないほど,ひどい審理をし,判決を出した。ことは,日本という国家のこの先「半世紀(あるいは四半世紀でも,さらに10年先でもいい)」を考慮に入れた判決を下したつもりでいるのか,疑念が大きい。

 日本の経済社会・国民生活の実情は,最高裁による今回のごとき判断を “朴念仁” だと批判させるほかない,それも十二分な理由・事情を,相当以前から教えてきたはずである。

〔だいぶ議論のほうが長くなったが,ここで記事に戻る ↓ 〕

 ボーナスが争点となった裁判の原告は,大阪医科薬科大でアルバイトの秘書として働いた50代女性。薬理学教室で2013年から2年余り,フルタイムで教授らの日程管理や来客対応などにたずさわった。

 第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は,正職員は学術誌の編集や病理解剖をしたさいの遺族対応などもしていたと指摘。配置転換の範囲も違い,契約職員や正職員へと登用する制度もあったと述べ,ボーナスゼロは違法といえないと判断した。正職員の60%は払うべきだとしていた大阪高裁判決を変更し,特別休暇に関する一部の賠償を認めた部分だけを維持した。裁判官5人の全員一致の結論。

 ※-1「脱法行為,許されかねない」

 水町勇一郎東京大学社会科学研究所教授(労働法)の話。 判決は,ボーナスや退職金の支給目的を「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図るため」として,非正社員に支給しないことが不合理ではないとした。労契法20条の解釈として問題のある判決だ。計算方法や支給の実態を踏まえて判断するべきで,そうした主観的な(支給の)意図を認めてしまえば,脱法行為が許されることになりかねない。(待遇格差について初判断を示した)2018年の最高裁判決では言及がなかった点だ。

 ただ,今回の最高裁判決が,4月に施行されたパート有期法やガイドラインの解釈に,ただちに影響するものではない。メトロコマース訴訟の補足意見では,労使交渉によって均衡のとれた処遇を図っていくことが,20条やパート有期法の理念に沿うとされている。今後も現場の労使で,非正規労働者の処遇改善を図っていくことが大切だ。

 ※-2 最高裁判決の骨子

    1 退職金やボーナスを非正社員に支給しないことを「不合理」と認める場合はありうる。

    2 今回の訴訟における退職金支給について。原告の仕事は正社員とは一定の違いがあり,退職金の目的を踏まえると,支給しないことが不合理とまでは評価できない。

    3 今回の訴訟におけるボーナス支給について。正職員の仕事内容などが原告と違い,ボーナスの目的を踏まえると,支給しないことが不合理とまでは評価できない。

 この最高裁の,法律用語に不可避であるらしい曖昧模糊とした表現,「『不合理』と認める場合はありうる」「不合理とまでは評価できない」「不合理とまでは評価できない」という文句は,まるで判断停止そのものの「結論」である。だから,日本経団連出先機関であるみたいな「裁判所(最高裁!)の判決」だと表現してみた。

 結論的にいうとしたら,途中で指摘した日本の人口減少傾向は,この最高裁の判断によって「さらに拍車がかかる」要因を付与されたといっていいのである。その意味ででトンデモな審理をし,それなりの判決を下したのが,このたびの最高裁「判決」であった。

 つぎの ② 本日〔2020年10月14日〕の『朝日新聞』朝刊2面「時時刻刻」(解説記事)は,この ① で本ブログ筆者があえて辛辣に批判した最高裁の体たらくぶりを,分かりやすく解説している。

 この〈時時刻刻〉の見出しは「経営裁量,にじむ配慮  退職金・賞与『正社員確保のため』『仕事に違い』最高裁認定」であった。

 補注)本ブログ筆者の意見(議論や批評)はあまり入れないで紹介した記事であるが,一言だけいわせてもらうと,裁判官も身分を保障されてでいいから,一度,どこかの会社にでも出向し,「非正規のアルバイト労働者」として3ヵ月くらい,実地で労働してみたらよい。裁判官としての発想の転換が期待できるかも,である。もっとも,最高裁のオッサンたちにはムリな期待か?

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〔記事に戻る→〕 非正社員に退職金やボーナスを支給しないのは,不合理とはいえない。最高裁が〔10月〕13日に示した二つの判決は,アルバイトや契約社員の原告らと正社員との待遇格差を埋める内容とはならなかった。ただ判決は「事例判断」に過ぎず,今後も訴えがあれば労働条件が個別に検討されることになりそうだ。

 今回の最高裁判決は,経営側の裁量に配慮をにじませるものだった。

 ボーナスが争点となった大阪医科薬科大訴訟で,昨〔2019〕年2月の大阪高裁判決が着目したのが,ボーナスを「ほぼ一律の支給率」で正職員に出していたことだ。仕事内容も成績もボーナス支給率に連動していないなら,働いたことじたいが重要。そう判断して,同じようにフルタイムで働くアルバイト職員の原告にも支給すべきだと結論付けた。

 これに対し第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は,アルバイトの原告と正職員との「仕事内容の違い」に注目した。原告と違い,正職員には病理解剖に関する遺族対応や毒劇物などの試薬管理がある,と指摘した。

 退職金が争点となった東京メトロ子会社「メトロコマース」の訴訟も同じ構図だ。昨年2月の東京高裁判決は,退職金は「長年の功労への報償」の意味合いがあり,正社員とほぼ同じ仕事を長くしてきた原告らにも一部当てはまるとした。だが第三小法廷(林景一裁判長)は,「正社員の仕事は売店に専従していない」と述べた。

 二つの最高裁判決で共通したのは,退職金やボーナスの支給目的について「正社員(正職員)としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る」と,同じ文言で言及した点だ。経営判断の自由」を訴える経営側の主張に沿う内容で,事実上,経営側の裁量に理解を示したものだ。

 メトロコマース訴訟で裁判長を務めた林裁判官が書いた補足意見は,退職金の支給について「労使交渉を踏まえ,賃金体系全体をみすえて制度設計するのが通例」と指摘。退職金の原資が限られるなかで,経営側の裁量や労使交渉を尊重するのが妥当との見方を示した。

 ただ2つの最高裁判決は,あくまで今回の事実関係のもとで検討した事例判断にすぎず,退職金やボーナスが支給されないことが「不合理と判断されることもある」とも強調した。事案によっては,格差を違法とする司法判断が出る可能性を残した格好だ。

 待遇格差をめぐっては,日本郵便契約社員らが起こした3つの裁判についても〔10月〕15日,最高裁第一小法廷が判決をいい渡す。

 「是正の動き,足踏み懸念 格差大きい賃金項目で判決 」

 正社員と非正社員の賃金格差は大きい。国税庁民間給与実態統計調査(2019年)によると,非正社員の平均年収(賞与や一部手当を含む)は,175万円。503万円ある正社員の35%にとどまる。

 補注)この年収に則し考えてみればいいのである。結婚したいの・したくないの,といった次元(希望)にすら到達しにくい非正規労働者の平均年収である。裁判所(最高裁!)は,いったいどのような裁判官(人間たち)の思考でもって,今回の判決を下したのか。奇怪にも感じる判断であった。

 ちなみに,「最高裁裁判所裁判官(最上級の金持ち階層市民)は 3200万円~3280万円」の年収だとか。これでは多分,非正規労働者(最下級の貧乏階層市民)の生活実態など感覚的に理解できそうにないと観ておく。以下の計算は参考にまでだが,圧倒的な意味ある。。

    3280万円 ÷ 175万円 = 18.74倍

    3280万円 ÷ 503万年 = 6.52倍


〔記事に戻る→〕 非正社員は働き手の4割近くを占めるようになり,その収入だけで生計を立てる人も増えている。そうした時代背景も踏まえ,格差是正に向けて制定されたのが労働契約法20条だった。最高裁は2018年,通勤手当など一部の手当を非正社員に支給しないのは違法と判決。同じ年に成立した働き方改革関連法では,違法性は賃金項目ごとに判断することが明確にされた。

 ボーナスや退職金は,とりわけ格差が大きい賃金項目だ。厚生労働省の2014年の調査では,正社員の86%強にボーナスの制度があり,退職金制度がある人も8割を超えていた。正社員以外ではボーナスの対象者は3割。退職金は1割を下回る。

 一方,2018年の最高裁判決で格差が違法とされた諸手当は目的が明確で違法性の判断がしやすかったのに対し,ボーナスや退職金は性格が複雑だ。賃金の後払いや功労報償など,複数の性格があると考えられているうえ,会社の業績や個人の評価,勤続期間を金額にどう反映させるかといった具体的な制度設計は,企業によってまちまちだ。司法判断の積み重ねが必要だった。

 〔10月〕13日の最高裁判決は,ボーナスや退職金は正社員への「長期雇用の動機づけ」だとする経営側の主張を採り入れた形だ。原告側の主張が認められれば賃金制度などへの影響は大きく,「安堵(あんど)した企業もあるのでは」と,企業の退職金の制度設計を支援する三菱UFJ信託銀行の担当者は話す。

 企業が,今回の判決を非正社員にボーナスや退職金を払わない根拠にすれば,格差是正の動きは足踏みすることになりかねない。ただ,経営側から労働問題を扱う倉重公太朗弁護士は,今回の判決は個別の事案に関する判断として「どんな場合でも良いというものではない点は注意が必要」と指摘。「職務内容や責任範囲などの差を,企業側が明確に説明する重要性が,より増した」と話す。(編集委員・沢路毅彦,吉田貴司)(引用終わり)

※キーワード※ 〈労働契約法20条〉

 契約社員やアルバイト職員など有期契約で働く人と正社員との間で,労働条件の「不合理な差」を禁じた規定。不合理かどうかは仕事内容や人事異動などをふまえて判断する。

 

 民主党政権下に成立した改正労働契約法(2013年施行)に盛り込まれ,各地で「20条裁判」と呼ばれる訴訟が起きた。

 

 その後にパートタイム・有期雇用労働法(2020年4月以降に施行)に移行され,不合理性の判断方法がより明確になった。非正社員の求めがあれば,企業側が待遇差を説明しなければならないとの条文もくわわった。

 しかし,今回における最高裁の判決は,この「非正社員の求めがあれば,企業側が待遇差を説明しなければならない」という条件に,余裕をもって対抗しうる経営側にとっては,非常に有利な判断を示したことになる。裁判所はいったい誰の味方かといったら,単純過ぎるといわれそうだが,この国の最高裁は時代に取り残されたごとき判決を出していた。いってしまえば「日本経団連への忖度判決」。

 つぎの ③ は,『朝日新聞』本日の社説であるが,そのあたりの論点を適切に批判している。


 「〈社説〉待遇格差訴訟 是正への歩み止めるな」朝日新聞』2020年10月14日朝刊

 訴えが退けられたからといって,働く環境の改善に向けた歩みを止めてはならない。非正社員に対する待遇格差の当否が争われた二つの裁判で,最高裁は昨日,企業側が賞与や退職金を支払わなかったのは不合理とまではいえないとする判決をいい渡した。

 いずれについても,正社員との間で,仕事の内容や責任,配置転換の有無に一定の違いがあることや,それぞれの企業で人員整理や人事制度のみなおしがおこなわれていたことなどを理由に,処遇の差異を正当化した。

 働く者より経営側の事情を重くみた感は否めず,曲折を経ながらも進んできた格差是正の動きに水を差さないか心配だ。

 一方で,今回の結論がすべての労働現場に当てはまると考えるのは大きな間違いだ。働いた対価の後払いか業績に連動した報酬かなど,賞与や退職金の性質や算定方法は企業によってさまざまだ。裁判所がそうした事情を精査・検討した結果,格差が不合理にあたると判断する場合も,もちろんある。

 厚生労働省が2年前に定めたガイドラインも,会社の業績への貢献に応じて支払う賞与については「同一の貢献には同一の支給を」と明記している。各企業は今回の判決を都合良く解釈することなく,自社の制度が均衡原則にかなうものになっているか,不断に点検し,必要に応じてみなおす必要がある。

 今回の退職金をめぐる訴訟では,2人の裁判官が「企業は労使交渉などを通じて,労働者間で均衡のとれた処遇を図っていくことが法律の理念に沿う」との補足意見を表明。非正社員にも在職期間に応じて一定額の退職金を支払うことや,企業型確定拠出年金の活用に言及した。労組の姿勢も問われる。(引用終わり

 補注)「労組は『正社員クラブ』非正規守らず,下がる組織率」asahi.com 2018年2月12日 12時09分,https://digital.asahi.com/articles/ASL255TZ0L25ULFA02D.html は,つぎの関連する図表をかかげていた。

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 この図表をかかげた記事のほうでは,こういった解説がなされていた。

 いまや非正規の働き手は雇用されている人の4割弱を占める。しかし賃金水準は正社員の6割程度といわれ,欧州諸国の7~8割に及ばない。1人ひとりが確かな生計を営むことが安定した社会につながる。非正社員の待遇の改善・底上げは,社会全体の要請であることを忘れてはならない。

 

 ところが実際は,非正規で働く人びとへの理不尽な仕打ちは一向になくならず,このコロナ禍でも休業手当が払われなかったり,テレワークが認められなかったりする問題が噴き出した。誰もが納得できる透明性の高い賃金体系や職場環境の整備・充実は,企業にとっても,良い人材を確保し,生産性を高めることにつながる。

 

 この国から「非正規」という言葉を一掃する。内閣が代わっても,この目標に向けた取り組みの大切さは変わらない。

 このような記事が書かれてはいても,事態はいっこうにというか,そもそも「基本的」に改善する気配をろくにみせていなかった。『朝日新聞』本日の報道を材料に記述してきたが,この朝刊の社会面は,「『非正社員,見捨てた』 最高裁,待遇差の『不合理』認めず  原告ら憤り」との見出しで,さらに関連する事情を報道していた。

 この記事からは,注目したい段落・文句のみ参照しておく。なお,主語・述語の前後関係は〈いい加減に〉はしょっているので,それ相応に文意だけを読みとってほしい。

   a)最高裁は労働者を見ていない」 「最高裁が,私たち非正規を見捨てた判決をしました」。13日午後,判決を聞いて最高裁から出てきた原告の50代女性は,支持者らの前で声を震わせた。

 地裁判決では負けたが,高裁判決では正職員の6割の支給が認められ,希望もみえた。だが,最高裁は再び支給を認めず「目の前が真っ暗になった」。

 

   b)「非正規と正規が分断され,日本社会がバラバラになる」と怒りをあらわにした。提訴から約6年半。「今日の判決は,2100万人の非正規の人たちが待ち望んでいた。『最低裁判所』だ」。

 法廷で裁判官になんども名前を間違われ,不信感でいっぱいになった。「裁判官は非正規労働者をみていない」と感じる。

 

   c) 退職金が支給されないのは著しい格差を生み出し,生活に大きな影響を与える……,「判決は非常に抽象論で,不合理ではないというその理由には説得力がない」。

 弁護団によると,正社員と非正社員の退職金支給をめぐる今後の訴訟にも影響する可能性は否定できない。

 

   d) 多くの職場を中心になって支えているのは非正社員だとして,「最高裁の考え方は前近代的。裁判官の発想の切り替えを求めたい」。

 

 「『同じ仕事内容なのになぜ…奈落に』『司法がブレーキ』怒りの声〈格差是正訴訟〉」東京新聞』2020年10月14日 05時50分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/61639

 この『東京新聞』の報道は,以上の記述に指摘してきた「非正規雇用」労働者側がこうむっている賃金と労働条件をめぐる「不当な差」を,つぎのように報道していた。これは,最高裁のなんとも,みっともない・情けない・頼りない,つまり,日本経団連側の味方であったと衆目が一致するほかない「立ち位置」を,明確に批判する紙面になっていた。

 --ボーナスと退職金をめぐって正社員との格差解消を訴えた非正規労働者の訴えは〔10月〕13日,最高裁に退けられた。「同じ仕事内容なのになぜ」。問いつづけた疑問への答えは「(不支給は)不合理とはいえない」。原告の女性たちから「国が『同一労働同一賃金』を進めるなか,どうして司法がブレーキをかけるのか」と怒りの声が上がった。

 ◆-1 非正規労働者2100万人待ち望む

 「私の判決を2100万人の非正規労働者が待ち望んでくれていたのに,奈落の底に突き落とされた気分です」。東京メトロの子会社「メトロコマース」で売店契約社員として10年7カ月働いてきた原告の疋田節子さん(70歳)は,東京都内で開いた記者会見で声を詰まらせた。

 働きはじめたのはシングルマザーになった2004年夏。時給1000~1050円で1日8時間,週5,6日働いた。勤務開始の30分前には売店にいき,新聞や雑誌をラックに並べた。通勤・通学ラッシュが過ぎれば,各商品の売れゆきをチェックし,卸売業者に発注。売上金の管理もした。

 補注)経営学の初歩知識で解釈すると,この「新聞や雑誌をラックに並べ」る作業は,りっぱに労働時間のうちに入る(労働基準法もしかりと認めている)。ところが,それが初めから完全にサービス労働化させられており,ただ働きになっている事例は,現実にはほかにもいくらでも存在する。

 外食産業でいえば,アルバイターやパート労働者が店内に出て給仕をしたり,厨房に入ったりするまえに〈着替えるための時間〉も,タイムレコーダーを押したあとの「すべての労働時間」に参入されるべきであって,もしもそれに応じて時給に換算されないとしたら,これも一種の搾取に相当する。

 ◆-2「内容同じ,なんでこんなに違う」

 「仕事内容はまったく同じなのに,なんでこんなに違うのだろう」。働くにつれ,疑問が湧いてきた。同じ制服を着て,同じ業務をしている正社員ともボーナスの額は大きく異なる。忌引休暇や食事補助券もない。

 けがで4カ月休職した時,正社員なら4カ月分出る休業手当が1カ月分だけ。親にお金を借りて子どもと自分の生活を支えた。経営幹部に待遇改善を訴えても「そんなにお金が欲しいなら,兼業でもしてください」と返された。

 ◆-3 自宅ローンは仕事3つをかけもちしのぐ

 65歳になった20155年3月,定年退職。退職金が支払われないことは分かっていたが,なぜ正社員とここまで待遇差があるのかと憤りがこみあげてきた。退職後も残った自宅のローンは別の仕事を3つかけもちしてしのいだ。

 2014年5月の提訴から6年5カ月で迎えた最高裁判決。「本当に悲しくて,なにをいったらいいか分からない」と涙交じりに語った。一方,大阪医科薬科大にボーナスの支給を求めていた大阪府の50代の女性も判決後の会見で,「本当に悔しい」と言葉を絞り出した。

 ◆-4 フルタイムで教授らの秘書業務

 女性は2013年1月,薬理学研究室の教授らの秘書となった。フルタイムの勤務だったが,採用形態はアルバイトだった。隣の研究室には正社員の秘書がいたが,仕事量は自身の方が多いとの自負があった。だが,自分にはボーナスや病欠手当はない。多忙のあまり2015年3月,適応障害と診断され休職。揚げ句の果てに,雇い止めに遭った。

 さまざまな手当を求めて提訴したところ,二審・大阪高裁は「正社員の6割未満のボーナス支給は不合理」と認めたが,今回の最高裁は一転,不支給を認めた。

 ◆-5「なんのための労働契約法なのか」

 女性は「何のための労働契約法二重条なのか。国が格差をなくそうと法律を作っても,裁判所の判断は追い付いてない」と判決を批判した。(引用終わり)

【参考記事】

  

 さて,『絶望の裁判所』というの本を2014年に公刊していたのは,瀬木比呂志であった。この瀬木(1954年生まれ)は現在,明治大学法科大学院教授であるが,もとは裁判官で東京地裁などまで務めたあと,2012年に「裁判官を依願退官」していた。

 裁判官の人生もいろいろあるらしく,最近は面白い裁判官が登場していないわけではない。

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