東電福島原発事故現場から排出される「汚染水」のなかに残留するトリチウムは人類・人間にとって害悪

 東電福島原発事故現場の「汚染水問題」は,最終的にトリチウムを残して含むほかない「処理水問題」にいいかえたところで,けっしてアンダーコントロールにはならない

 そのつど一時しのぎで,太平洋沿岸へ排出(放出)しておき,問題を現象的にごまかすだけであって,そもそも事故現場の汚染水はこれからも当分止まるみこみがない

 風評被害だけでも大問題であるにもかかわらず,トリチウムの廃棄問題に関する本質的な理解,つまり科学的な認識から逃げまわってきた東京電力と日本政府の欺瞞

 原発事故の被災地とくに福島浜通り地区(など)の漁業被害は,風評被害の範囲を超えて,これからも半永久的に継続していく

 「東日本大震災・東電福島原発事故」の発生直後,米軍が災害救助活動として派遣した米海軍原子力空母「ロナルド・レーガン」の乗組員たちが受けた放射性物質被害の問題もあった

 

  要点・1 トリチウムもまた非常に厄介な放射性物質(核種)であり,人類・人間はその被害を受けつづけていく

  要点・2 国際的次元においてたびたび誤魔化そうとしてきた「原発事故」の「深刻な産業公害」性ならびに「地球環境破壊行為」としての重大性は,これからさきもそう簡単に消せることがないし

  要点・3 21世紀において最大・最悪の公害問題を発生させた原発事故の凶悪さは無限大
 
 原発のない国へ』と題した常設の解説記事欄を報道しつづけてきた『東京新聞』の「ある記事」につなげるための記述-内閣府『防災情報のページ みんなで減災』「特集 東日本大震災」,および「3・11」直後に出動した当時の米軍の救助活動としての「トモダチ作戦」の問題など-

 a) この『東京新聞』が独自に,日常的に取材・追及しつづけている2011年3月11日午後2時46分に発生した「東日本大震災」〔(および)と東電福島原発事故の問題〕は,三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東 130km付近で,深さ約24kmを震源とする地震(および)を原因にしたその事故の発生〕であった。

 マグニチュード(M)は,1952年のカムチャッカ地震と同じ9.0。これは,日本国内観測史上最大規模,アメリカ地質調査所(USGS)の情報によれば1900年以降,世界でも4番目の規模の地震であった。

 とくに,この大震災によって惹起された被害の概要については,まだ行方不明者も多く,全容は把握されていない。緊急災害対策本部資料によると,震災から3ヶ月を超えた2011年6月20日時点で,死者約1万5千人,行方不明者約7千5百人,負傷者約5千4百人。また,12万5千人近くのひとびとが避難生活を送っていた。

 註記)以上の解説は,内閣府『防災情報のページ みんなで減災』http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h23/63/special_01.html の「特集 東日本大震災」を参照して書いたものであるが,このページには不思議なことに「原発の事故発生」については一言もない。

 「3・11」といったら,もちろん大震災として超・大地震が起きたという事実と同時に,またそれ以上に「いまも」重大でありつづけている,その後遺症というにはあまりにも深刻・重大である「東電福島第1発電所の大爆発事故」に関した事実が,まったく言及されていない。

 そのホームページ内では,関連するほかのページのほうできっと,原発事故の事実を書いているものと思っていた。ところが,大地震の関連事項だけを解説したそのページは,つぎのような見出しを立てているだけであった。

 1.東日本大震災の概要
 2.各地の状況
 3.政府の対応
 4.海外からの支援
 5.避難所・避難者
 6.支援活動
 7.地震のメカニズム
 8.津波のメカニズム

 これら見出しを観ただけでも,「3・11」に関する大地震の発生を解説した内容としては,なにかおかしい,不足している,ということは即座に判る。そうである,なぜ「東電福島第1発電所の大爆発事故」には,まったく触れていないのか(?)という疑問が,ただちに湧いてくる。

 b) 「3・11」のすぐあと,米軍が軍事力を活用した「トモダチ作戦」は,もとより以前における米日安保法的な両国関係のもとでも,すでに「半・植民地状態に置かれてきた日本全土」という現実の背景を踏まえてであったが,米軍の兵士たちが救助活動をしてくれていた。

 ところが,米軍兵士たちはその活動のなかで,彼らの相当数が放射性物質に汚染される結果が生じていた。だが,この内閣府『防災情報のページ みんなで減災』「特集 東日本大震災」は,そうした事実の介在に目を向ける余地などもっていなかった。

 いまとなっては,被災者のみなさん,あの大震災のときは「とてもたいへんだったよね,よく耐えたよね,すごくがんばったよね」とだけ,いいたいかのようなホームページの紙面になっていた(なお,記述の日付が明記されていない)。そこではまたとくに,「東電福島原発事故」が触れられていないとなれば,字数でみると約7千5百字ほどの分量たっぷりの紙面であっても,それこそ「画竜点睛を欠く」記述になっているとみなすほかなかった。

 もう一度触れておく。「特集  東日本大震災」と題した文章を書くとするとしたら,東電福島原発事故を抜きにしたままで,いいわけがない。画竜点睛ウンヌンどころか「竜のほうの絵の半身」までを,故意に描き残しておいたような描写にしかなっていない。この点は,あまりにも分かりきった(みえすいた)あつかい(問題)であったことは,くどくどいうまでもなく理解してもらえる。

 c) ちなみにウィキペディアで「東日本大震災」は,まず冒頭でこう書きはじめている。

 東日本大震災は,2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害,およびこれに伴う福島第1原子力発電所事故による災害である。大規模な地震災害であることから大震災と呼称される。

 東日本各地での大きな揺れや,大津波,火災等により,12都道県で2万2000人余の死者(震災関連死を含む)・行方不明者が発生し,これは明治以降の日本の地震被害としては関東大震災,明治三陸地震に次ぐ規模となった。

 沿岸部の街を津波が破壊しつくす様子や,福島第1原子力発電所におけるメルトダウン発生は,地球規模で大きな衝撃を与えた。

 この説明につづいて長文の解説が,当然に延々と記述されている。だが,この冒頭部分の解説だけでも,

 東日本大震災「大地震と大津波」+「東電福島原発爆発事故」

という記述の内容が「3・11」に関する大枠の骨組(核心)となることは,いまさら蝶々を要しない「歴史に関する理解」であった。

 要は,なんらかの特別の意図がないかぎり,内閣府『防災情報のページ みんなで減災』「特集 東日本大震災」のような解説の仕方,換言すれば,東電福島原発事故抜きでその説明をすることなどはありえない。

 もっとも,その表現方法にはいろいろありそうだといえなくはないけれども,内閣府の説明方法そのものは,完全にといっていいくらい,想像を絶した “東日本大震災に対する「偽装(カムフラージュ)」の話法だ” と断言してもかまわない。

 d)日本平和学会 2018年度秋季研究大会・グローバル  ヒバクシャ分科会」の報告,『トモダチ作戦 もうひとつのフクシマ  空母レーガン乗組員の被曝裁判』が,田井中雅人(朝日新聞・核と人類取材センター記者)によって報告されていた。

 註記)『日本平和学会』「【グローバルヒバクシャ】報告レジュメ(田井中).pdf
PDFファイル 143.9 KB」, https://www.psaj.org/2018/10/09/トモダチ作戦-もうひとつのフクシマ-空母レーガン乗組員の被曝裁判/  このレジュメでの「キーワード」としては,福島第1原発事故,日米同盟,トモダチ作戦内部被曝,UNSCEARが挙げられていた。

 いまとなってみれば,日本ではそれほど注目されていない原発事故関連の記事であるゆえ,当初は “目次だけ紹介しておき,あとは「はじめに」と「おわりに」だけを引用しておく” ことにするつもりであったが,

 その内容をよく読んでみると,本日の記述でとりあげる「日本側の問題:汚染水処理」の論題を考える以前(同時!)に,このオトモダチ作戦で被曝させられた米軍兵士たちの問題にも,特定の共通する日米両国の基本姿勢原発行政というよりは原子力関連の政治的な集合体,日本では原子力村とも呼ばれているそれ)が控えている事実をよく理解しておく必要を感じた。それゆえ,以下にその全文を紹介することにした。

 なお,途中の「註記⇒引用文献」は割愛している。末尾に一覧されている参考文献そものは引用する。

 

  田井中雅人『トモダチ作戦 もうひとつのフクシマ 空母レーガン乗組員の被曝裁判』

  「はじめに」

 2011年3月の福島第1原発事故直後から約1カ月,東北沖に展開した米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」などで救援活動「トモダチ作戦」にあたった元乗組員らが,がんや白血病などさまざまな健康被害を訴えて,米国の裁判所で争っている。当時,東北の被災地に支援の手を差し伸べた彼らは「日米同盟の絆」の象徴であると英雄視されたが,いまでは日米両政府から見捨てられている。なぜなのか。

 1)漂流するトモダチ(田井中・ツジモト 2018)

 2012年末に甲状腺障害などを訴えるレーガンの元乗組員ら8人が「福島第1原発を運転する東京電力が十分な情報を出さなかったため,危険なレベルまで被曝させられた」として米カリフォルニア州サンディエゴの連邦地裁に提訴。東電のほか,ゼネラル・エレクトリック(GE)やエバスコ,東芝,日立といった原発メーカーをも相手取り,医療基金の設立などを求めている。

 原告らは,原発事故による高レベルの放射性プルームにさらされた外部被曝のほか,空母内で海水を脱塩した水(脱塩蒸留水)を飲んだりシャワーを浴びたりしたことによる内部(体内)被曝の可能性も訴えている。だが,軍医らは「放射線との因果関係はない」と口をそろえ,国防総省が2014年6月に連邦議会に提出した報告書は「トモダチ作戦レーガン乗組員らが浴びた推定被曝線量はきわめて少なく,健康被害が出るとは考えられない」と結論づけた。

 国防総省報告書がレーガン乗組員らの被曝と健康被害との因果関係を否定した主な論拠は,国連放射線影響科学委員会(UNSCEAR)などが示す「潜伏期間」の考え方である。放射線由来の白血病の最低潜伏期間は2年,固形がんは5年。報告書によれば,約5千人のレーガン乗組員のうち放射線由来の病気とみられるのは3人だけ。彼らの発症は「潜伏期間」より早かったので,トモダチ作戦以前に病気のプロセスが始まっていたことを示唆しているとの論法だ。しかし,「潜伏期間」を過ぎたあとの報告はない。実際,2017年末までに400人を超えた原告のうち,死者9人,がん発症者は23人に増えている。

 2)  初期被曝の衝撃と内部被曝の軽視

 レーガン乗組員らが被曝したことじたいは国防総省も認めているが,報告書によると,トモダチ作戦に従事した期間(60日換算)の推定平均被曝線量は,全身が8ミリレム(0.08ミリシーベルト),甲状腺は 110ミリレム( 1.1ミリシーベルト)。「これほどの低線量の被曝によって,がんなどの健康被害が生じるとは信じがたい」と結論づけている。

 しかし,原発事故当初のベント作業などによる高レベルのプルームの風下に入った空母レーガンは,きわめて強い放射線にさらされており,甲板要員らは口のなかで「アルミニウムや銅貨のような金属の味」を感じ,まもなく下痢などの症状に見舞われたと証言している。

 山田國廣はこれを典型的な「初期被曝の構図」とみるほか,矢ケ崎克馬は「放射性プルームの吸引内部被曝」を指摘し,国防総省報告書について「問題は,吸収線量で考えなければならないのに,照射線量で表していること。原爆被爆者やチェルノブイリ原発事故被害者と同様に,切り捨て論で片付けられている」と批判する。

 原発事故により,海水も相当汚染されていたとみられ,空母の海水蒸留設備では除去できないトリチウムなどの放射性物質を,乗組員らが経口摂取して内部被曝した可能性も指摘される。さらに,レーガン艦内には乗組員約5千人全員分の被曝を抑えるためのヨウ素剤を備えていたが,被災地におもむく一部の航空要員らにしか配布されず,しかも,そのことを隠蔽するために,「配布された」とする虚偽の書類に署名を強要されたとの複数の乗組員証言もある。

 3) トモダチ作戦の表と裏

 では,乗組員らの健康をそこまでリスクにさらしながら展開されたトモダチ作戦とはなんだったのか。そのネーミングが示唆するとおり,当時の日本の民主党政権下で,ぎくしゃくしていた日米関係を立てなおす意図が米側にあったことは間違いない。

 当時のケビン・メア国務省日本部長が「沖縄の人びとは,ゆすりの名人」と発言したとされ,沖縄の米海兵隊不要論が声高に語られるなか,東日本大震災発生を受けて,在沖縄海兵隊は震災で孤立した気仙沼沖の離島・大島に駆けつけ,その有用性をみせつけた。空母レーガンを中心に米軍と自衛隊がかつてない規模の連携をしながら東北の被災地への人道支援を展開し,「日米同盟の絆」をアピールした。

 2015年4月に米議会で演説した安倍晋三首相は,あらためてトモダチ作戦に触れて「希望を与えてくれた」と米側への謝意を示し,大規模除染作業を終えたとされる空母レーガンは同年10月に横須賀基地に配備された。日本外務省は「トモダチ作戦に従事した船であり,歓迎する」との声明を出した。

 2017年11月に初来日したドナルド・トランプ大統領も横田基地で演説し,「トモダチ作戦は米国史上最大の人道支援任務であり,何千人もの日本人の命を救った」とたたえた。日米両政府は連携してトモダチ作戦によって日米同盟の絆が深まったと盛んにアピールしながら,その作戦によって苦境に置かれている米国のトモダチのことにはいっさい触れない

 こうした人道支援の成果が表舞台で語られる裏で,もうひとつのトモダチ作戦も進められている。国防総省報告書によると,ワシントンDCでは,国防総省と退役軍人省が連携して「トモダチ作戦記録」データベースを開設した。1万7千人のトモダチ作戦にあたった兵士のほか,当時,在日米軍基地などにいた米軍人・軍属らも合わせて7万5千人以上の推計被曝線量について「信頼できる歴史記録」をつくるのが目的だとし,原爆開発の「マンハッタン計画」をルーツとする陸軍放射線研究所が包括的な報告書作成にあたる。

 石井康敬は「トモダチ作戦の二面性」を指摘し,米軍の放射線部隊が日本国内に大規模に展開して各地で放射線測定をおこない,核テロ・原発事故への対応を記した危機管理マニュアルを実践に映した希なケースだったと分析する。

 4)「核の桃源郷」を維持する「行政的手段」

 マンハッタン計画から始まったとされる核時代。戦争に勝つためには放射線被曝のリスクは許容できるものだという考え方が,1950年代の米ソ冷戦期に確立し,核開発による被曝の人体への影響は軽視されてきた。そして,なお米国は,核施設へのテロや原発事故に備えて被曝データをせっせと収集しつづけていることが,トモダチ作戦によって明らかになった

 国防総省トモダチ作戦による被曝と健康被害の因果関係を否定する論拠とした UNSCEAR は,1955年に発足。その前年のビキニ水爆被災後に,米原子力委員会の科学者らによって設立された経緯がある。放射性降下物の人体への影響,とりわけ内部被曝の影響について研究を進める一方で,公式発表のなかでは,その影響を軽視した言説を繰り返していた

 〔まず〕UNSCEAR について,高橋博子は「その歴史的経緯をみても,米ソ冷戦のなかでの核開発史と密接に関連しており,少なくとも被ばくした人びとを救済するための国際機関ではない」と断じ,「国際的科学的知見」を演出するひとつの「冷戦科学」装置として機能していると指摘する。

 〔また〕中川保雄は「今日の放射線被曝防護の基準とは,核・原子力開発のためにヒバクを強制する側が,それを強制される側に,ヒバクがやむをえないもので,我慢して受忍すべきものと思わせるために,科学的装いを凝らして作った社会的基準であり,原子力開発の推進策を政治的・経済的に支える行政的手段なのである」としている(中川 2011:225)。

 米国のマンハッタン計画の拠点ハンフォードと,旧ソ連の秘密核開発都市だったマヤークの労働者らを研究した歴史学者ケイト・ブラウンは,貧しかったはずの工場労働者に中流意識をもたせ,核兵器開発により被曝しても,国への忠誠心をもちつづける労働者らの「核の桃源郷(プルートピア)」が生まれたと分析。「米ソ冷戦は終わったが,マンハッタン計画から続く核時代は終わっていない」と指摘する。

 ハンフォードのような国策依存構造が,米国のGE製原発を受け入れた福島などにも植え付けられ,2020年の東京オリンピック誘致において,原発事故の影響は「アンダーコントロール」(安倍首相)だとウソをついた日本政府が,避難住民らの福島への帰還政策を進め,放射線の危険性をみえなくする広報戦略が続いているとみる。

  「おわりに」 トモダチ作戦に従事したために健康を害したと訴えるレーガン乗組員ら。なんの保障もないまま軍を追われ,医療保険もなく,わらにもすがる思いで訴訟にくわわる人が増えつづけている。米国での本格審理が近く始まるとみられるが,病身の彼らは,けなげにも「自分たちの訴訟が先例になって,やはり十分に救済されていないというフクシマの人たちの傘になりたい」という。不都合なデータをアンダーコントロールして,トモダチを使い捨てる。彼らの訴えは,ヒバクとニチベイドウメイ(日米同盟)の本質をも問うている。

 ※参考文献※

 田井中雅人,エィミ・ツジモト『漂流するトモダチ-アメリカの被ばく裁判』朝日新聞出版,2018年。

 山田國廣『初期被曝の衝撃-その被害と全貌』風媒社,2017年。

 石井康敬『フクシマは核戦争の訓練場にされた』旬報社,2017年。

 高橋博子「UNSCEARの源流:米ソ冷戦と米原子力委員会」,岩波書店『科学』2018年9月号。

 中川保雄『増補 放射線被曝の歴史-アメリカ原爆開発から福島原発事故まで』明石書店,2011年。

 田井中雅人『核に縛られる日本』角川新書,2017年。 

  The Office of the Assistant Secretary of Defense for Health Affairs June 2014,  Final Report to the Congressional Defense Committees in Response to the Joint Explanatory Statement Accompanying the Department of Defense Appropriations Act, 2014, page 90, “Radiation Exposure”.

  Operation Tomodachi Registry, Dose Assessment and Recording Working Group April 2014,  TECHNICAL REPORT, Radiation Dose Assessments for Fleet-Based Individuals in Operation Tomodachi, Revision 1.

  Brown, Kate 2013.  Plutopia: Nuclear Families, Atomic Cities, and The Great Soviet and American Plutonium Disasters (Oxford University Press).


  福島沿岸への汚染水排出は風評被害だけをもたらしているものといえるのか?
   -「福島の漁師は言った『漁業やる人がいなくなっと』 近づく汚染処理水の海洋放出方針決定」『東京新聞』2020年11月3日 05時50分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/65997

 f:id:socialsciencereview:20201103124700j:plain

 「福島の海はなーんでも捕れる宝庫。こんな海はないよ」。福島県沖の漁船上で漁師の声は誇らしげだった。東京電力福島第1原発事故から9年半が過ぎ,復活途中の福島の漁業に再び暗い影がちらつく。原発から出る汚染水を浄化処理したあとの水について,政府は近く,海洋放出の方針を決定しようとしている。反対の声を上げる漁業関係者の思いの底にあるのは,被災者と向き合わない国と東電への怒りだ。

 漁船上で網にかかった魚を手にする漁師小野春雄さんは,「トリチウムを海に流せば,魚は売れなくなる。説明が足りない」と話す。……10月21日,福島県で。

 10月21日午前2時前,福島第1原発から北約50キロにある福島県新地町(しんちまち)の釣師浜(つるしはま)漁港で,漁船「第十八観音丸」に乗った。沖合5キロに着くと,小野春雄さん(68歳)と息子らが固定刺し網を一気に引き上げた。

 「いっぱい上がってきた」「はいよー」。威勢のいい声がライトで照らされた船上に響く。イシガレイ,マコガレイ,イシモチ,コチ,タコ … 。網から外されて,氷入りの箱に投げ込まれた魚が勢いよく跳ねる。

 1)  2021年春には本格操業という矢先

 原発事故後,福島では出漁日などを制限する試験操業が続いており,週6日出ていた漁がいまは週2日のみ。来春に本格操業という矢先,放射性物質トリチウムなどを含む処理水の海洋放出が現実味を帯びてきた。

 「10年,我慢して我慢してきた。いまトリチウム流したら,魚を食べなくなると思うよ。福島の漁業はやる人いなくなっと。明日がわかんねえんだもん。自殺者が出るよ」。小野さんの表情がぐっと険しくなった。

 中学卒業後に漁師になった小野さんは,ずっと海で生きてきた。2011年3月11日,二つ下の弟は漁船を沖に出したが津波にのみこまれ,亡くなった。3人の息子は復興関連の建設業などをしていたが,試験操業を機に呼び戻した。祖父の代から続く生業を引き継ぐため,船も新調した。

 原発構内のタンクで保管する処理水の処分をめぐっては,政府の小委員会が「海洋放出が確実」と示して以降,所属する相馬双葉漁業協同組合で国から説明があったのは1度だけ。「コロナ禍で人が集まらなかった。漁業者や国民と東電や国で何度も話し合い,ある程度納得してから流すならわかるよ。説明1回ってありえねぇ」。

 2)「国はなんで東電のいうこと聞くの」

 東電は2022年夏ごろに,タンクが限界を迎えるとし,政府は「(処分決定の)時間が限られている」と繰り返すばかり。「なんで2022年にこだわるの。被害者はわれわれよ。悪いことはなにもしてない。国はなんで東電のいうこと聞くの」。

 つぎの漁場で「すぐそこは宮城沖だぁ」と小野さん。海はつながっている。だからこそ,全国漁業協同組合連合会は「わが国漁業の将来に壊滅的な影響を与えかねない。漁業者の総意として絶対反対」と訴える。

 漁の方法や船の操縦を伝えようと,息子たちに厳しく指導していた小野さんは,一層険しい表情で訴える。「トリチウム流して怖いってイメージが1度ついたら,払拭するには相当な年月がかかる。これだけ反対の声がある。1度立ち止まってもらわなきゃ困る」

 3)「どんなに薄めても気持ちのいいものではない」

 福島県では,震災翌年の2012年6月から試験操業がおこなわれている。昨〔2019〕年の水揚げ量は3640トンで事故前の14%にすぎない。今〔2020〕年2月,全魚種の出荷制限がようやく解除され,9月には福島県漁連が来〔2021〕年4月から本格操業を再開する方針を決めた。

 f:id:socialsciencereview:20201103124540j:plain

 小名浜機船底曳網漁協(いわき市)の柳内孝之理事(54歳)は,トリチウム水と呼ばれる処理水は他の原発も放出していると説明を受けた。だが福島第1の処理水は,事故で溶け落ちた核燃料(デブリ)に触れた汚染水を浄化したもので,他の放射性物質が残る。「どんなに薄めても気持ちのいいものではない」。

 中国や韓国などへは,福島の魚はまだ輸出できない。柳内さんは,処理水放出となれば風評被害は避けられないとみる。「海洋放出すると聞き,宮城の三陸でホヤを作るのをやめた人が出ている。効果的な風評被害対策があるなら,いまだってやってほしい」。

 東電は風評被害を賠償するというが,具体策はみえない。相馬原釜魚市場買受人協同組合の組合長で水産加工業も営む佐藤喜成さん(67歳)は「事故前は年商8億円だったのが,2019年には3億円に。それなのに2016年で賠償は打ち切られた。仲買や水産加工もきちんと賠償してほしい」と憤る。

 4) 漁業者の同意見通せず 東電「理解うる」の一点張り

 東電は福島第1原発で保管する汚染処理水について,2022年夏にタンク容量が限界を迎え,処分に必要な施設整備などに2年かかると説明しており,現時点が方針決定のタイムリミットとされる。実際の放出までに,地元関係者と処分方法や風評被害対策などの協議もおこなわれる見通しだ。

 だが,漁業関係者から理解がえられるかは未知数。東電は2015年8月に当時の広瀬直己社長名の文書で処理水について「関係者の理解なしには,いかなる処分もおこなわない」と回答した。理解をえられなかった場合について,東電の小野明・福島第1廃炉推進カンパニー最高責任者は10月29日の記者会見で「理解をえられるよう努力する」と繰り返すだけで,合意形成への道筋はまったくみえない。

 タンク容量も,解体タンクの敷地活用などで増やす余地があるが,小野氏は「精査が必要」と述べるにとどまり,「2022年夏」という期限を見直す方針は示さなかった。

【関連記事】 「福島の漁業」復活か,後戻りか 原発事故から9年半

【関連記事】   政府方針決定は11月以降に延期 福島第1原発の汚染処理水の処分

【関連記事】 「海洋放出は絶対反対」全漁連が政府に要請 福島第1原発の汚染処理水巡り

【関連記事】   福島第1原発の汚染水問題に関する記事は「原発のない国へ」に掲載しています

 以上に引用した記事は最後の段落で,とくに問題となっている「トリチウム」を,つぎのように説明していた。

 放射能を帯びた水素で,酸素と結合してトリチウム水になる。普通の水と分離するのは難しく,汚染水を浄化している多核種除去設備(ALPS)でも取り除けない。放射線ベータ線)は比較的弱く,人体に入っても大部分は排出される。放射能は12.3年で半減。

 この説明では触れていないが,その「放射線ベータ線)は比較的弱く,人体に入っても大部分は排出される。放射能は 12.3年で半減」という点が,文字どおりには受けとれない重大な問題があった。つぎの ④ の記事を読んでからわれわれなりによく考えねばならない。


  伴 英幸(原子力資料室)『トリチウムの危険性』2020.5.3 in 東京〔講演の配布資料〕,https://www.foejapan.org/energy/fukushima/pdf/200503_ban.pdf 参照。-以下の参照では,レジメ(要約であり短冊)形式の文書を,なるべく「文章化」する工夫をくわえて紹介する。

 a)  3H〔トリチウム』は原発で作られる。このトリチウムは原子炉内で作られるので,回収装置がなく,ふだんは垂れ流し

 補注)ここで「3H」と書かれている数字・文字は「H」と3は小さく,しかも上付きに書かれている。ブログの書体設定ではそのように正確に表現するように指定できないので,念のため付記しておく。

 年間のトリチウム水放出量(事故前)は,1基あたりでは,PWRは「10の13乗」のオーダー(位:単位)と,BWRは「10の11乗」のオーダーとになり,全基合計は「10の14乗」のオーダーになる。

 補注)PWRとは “ressurized Water Reactor” で, 加圧水型原子炉
    BWRとは “Boiling Water Reactor” で,沸騰水型原子炉。

 日常の垂れ流しも問題だが,いったん貯蔵したものを流すのはもっと問題である。というのは,2次処理してもトリチウムは取り除けないし,これ以外の多くの核種が含まれているからである。つまり,2次処理しても,100%は取り除けない。放出以外の方法としては,たとえば,貯蔵継続・固化処理がある。

 b)  貯蔵量と放出方針のリクツ

 「貯蔵量」は汚染水として120万トン,860兆ベクレルだが,東電計画では137万トンまで対応する予定。これ以外に炉内に1200兆ベクレル。

 「放出をする理屈」はというと,「いつまでも貯蔵しつづけることはできない」「放出しても薄まるから問題ない」「トリチウムは人体への影響が小さい」から……。

 c)  トリチウムに関する経産省のいい分

 被ばく線量は非常に小さく, 「生物濃縮することはない」。DNAのなかでトリチウムがヘリウムに変わって損傷しても,「普通は修復される」。

 トリチウムが排出されている原子力施設周辺で,トリチウムが原因と考えられる共通の(健康)「影響の例はみつかっていない」。

【関連画像】

 f:id:socialsciencereview:20201103130154p:plain

 

 f:id:socialsciencereview:20201103130215p:plain

------------------------------

 

 ※-1「被ばく線量が小さい」? 

 陽子1個に中性子2個で構成(H)される。ベータ線しか放出しない,その測定がたいへんである。崩壊⇒陽子2個中性子1個のヘリウム(He)になる。

 エネルギー最大値:18.6keV(平均 5.7keV)で,局所的な領域に集中的な被ばくを与える。たとえば,セシウム137の最大値は512keV(平均187keV)。

 内部被ばくが問題となる。体内での飛距離は平均で0.6μm程度,物理的半減期 12.3年,生物的半減期7~18日。有機結合体としての生物的半減期は40~350日(~500日)。影響が大きい場合,2~5倍,100倍という評価もある。

 

 ※-2「生物濃縮が起きない?」

 生体内ではH水だけでなく,有機結合体Hとして存在する「生物濃縮」がおこりうるし,有機結合体H(OBT)は体内に長く留まる(200~500日との評価もある)。

 遺伝子と結合する ⇒ 壊変 ⇒ がん発症のリスクがあって,放射線を出して遺伝子を傷つけるし,ヘリウムに壊変することで結合を破壊する。

 

 ※-3 武田 洋著『生体内に置けるトリチウムの動態』の知見

 生体内でのトリチウムHは体液あるいは組織水として存在する以外に,その一部が同位体で,ある生体内有機成分中の水素と交換し同化・固定され,有機物として存在することがしられている。

 したがって,ほかの生物を糧としていきている動物(人を含む)は,Hに汚染した環境から水のかたちのみでなく有機物の形でHを摂取することとなる。

 註記) 特別研究「核融合炉開発に伴うトリチウムの生物学的影響に関する調査研究」報告書,放射線医学総合研究所,1987年12月。

 補注)前段に図形を借りた三菱研究所の当該筆者は,トリチウムにはなにも問題がないかのように記述していた。だが,同じ三菱集団のなかでの三菱重工と近しい「研究所の識者」の立場として,みずからの限界を露呈していた。

 d)  生物濃縮しないか?

   イ)  すでに,いくつかの論文は生物濃縮を指摘している。

   ⇒  Turner 2009, ”Distribution of tritium in estuarine waters:
the role of organic matter”

   ロ)  英国政府のRIFEレポート(2002)にも,環境中の3H濃度よりも生物の濃度が高い測定結果を示している(ただし,程度は低い)。

   ⇒  https://www.cefas.co.uk/publications/rife/rife.pdf

   ハ)  トリチウム水の植物プランクトンムール貝,イガイへの生物濃縮”
   ⇒  Bioaccumulation of tritiatedwater in phytoplankton and trophic transfer of organically bound tritium to the blue nussel, Mytilusedulis”

 e)  DNAに取りこまれたトリチウムは修復されるか?

   ☆1 崩壊でヘリウムに変化,DNAの部分切断が起きる。

   ☆2 崩壊時に局所的に放出されるエネルギにより,DNA切断がおきる可能性がある。

 実験研究によれば,1崩壊でDNA2.1カ所を切断。

   ⇒  “Molecular dynamics study on DNA damage by tritium disintegration”(Hiroaki Nakamura et.al2020, Japanese Journal of Applied Physics)

 二本鎖切断の可能性もあり,「100%修復される」とはいえない。

 f)  Hが共通の影響の例がない? すべての原発で起きていないと影響ありとはいえないのか?

 ドイツ政府の実施した kikk 報告書は,「原子力施設周辺の子供達の白血病が有意に増加していることを疫学的に示した。その原因は特定されなかったが,Ian  Fairlie 氏が『仮説』」としながら,原因がトリチウム放出にあることを問題提起した。(定期検査で原子炉を開放したときに,スパイク状にトリチウムが放出されることに原因を求めた)。
   ⇒  “A hypothesis to explain childhood cancers near nuclear power plants”  (Ian Fairlie, Journal of Environmental Radioactivity,2013)

 カナダ型原発ではH放出量が多く,下流域での白血病や小児白血病ダウン症,新生児死亡などの増加が報告されている。

   ⇒「福島第1原発トリチウム汚染水」 岩波『科学』2013年5月号。

 g)  海洋放出は安全でない

 薄まるから安全という考えでは環境を守れない。放出は30年以上にわたって続くのである。とくに,政府評価(きわめて低い被ばく線量)という見解の欠点は,以下のとおりである。

 すなわち「均質に薄まるとは限らない」し,「海で一部が有機トリチウムとなる」のだから,「食物連鎖を通して濃縮される」ことになる。もしかしたら,タンク内で有機トリチウムに(?)変化している可能性もある。タンク内には炭素があるし,バクテリアもいる。(引用終わり)

 さて,しょせんは素人であるわれわれの側:立場において,以上のような専門家たちの議論=説明をどのように受けとめればよいか? ともかくも,専門的な議論・批判・主張を介して,確かに受けとめ,理解できることがある。

 日本は公害問題の取り組みにおいては,まことに皮肉なことに,その先進国になりえていた。が,当初,自国内で各種の公害が発生するたびに,その原因がよく分からないから(あるいは意図的に隠蔽されたうえで),「それはしかじか害悪の発生原因になってはない」というヘリクツが,しばしばまかり通る歴史を重ねてきた。

 結局,歴史を前後するなかで明確に因果関係があっての公害発生であったことは,環境・公害史のなかでいろいろと蓄積されてきた「過去の教訓」として学ばざるをえなくなっていた。

 トリチウムの問題は,いまの段階ではまだ,関連する知識が十分とはいえない状況であるにもかかわらず,「なんら問題がない」かのような言説が優勢である。しかも,原子力問題を差配する国際政治の基本姿勢は,そうした主張を各方面に対して押しつけていて,当然な顔をしている。

 だが,そのうち10年単位以内には,トリチウムのその有毒性が科学的な所見としてより正当に認められるほかない時期が来る。しかし,その時期が来たときは,すでに「時遅しというべき原発(災害)の公害」が,この地球環境をさらに汚染している。そうなるとまたその分,人間の命が余計にむしばまれていく。

 2013年9月の開催されたIOC総会において安倍晋三は,2020年に東京へオリンピックを招致する演説のなかで, “東電福島原発事故の汚染水問題はアンダーコントロール” だなどと大ウソを,それも得意げに語っていた。彼は以後,自分のその汚名を人類の歴史に明確に刻まれることが決定した。これから何百年,否,何千年経っても忘れられない存在になったのである。

 安倍晋三は,まさしく「世襲3代目のお▼カ政治屋」として,偉大なる「負のレガシー」を構築した。戦後日本の現代政治史のなかで,まことに見苦しい「歴史の一コマ」を,はでに演じてしまったのである。

------------------------------

【参考記事】

 

------------------------------