コロナ禍下,大企業の一部だけが生き延び,中小・零細企業が自然死していく日本経済社会の様相,大会社の内部留保が肝心ないまどきに労働者に分配されない冷酷

 『経済新体制確立要綱』1940年と『企業民主化試案』1947年が,コロナ禍下の日本資本主義経済体制においてももちうる含意:根本義など,まったく反映される様子すらない2021年における日本の企業体制のあり方


  要点・1 内部留保ばかり貯めこんできた大企業が,いざとなった場合に,それを従業員のために使わない理由はなにか

  要点・2 歴史の教訓に学ばない日本であるせいか,コロナ禍に遭遇してからも,そのさらにひどい腰抜けぶりばかりを露呈させつづける「安倍晋三政権と菅 義偉政権の体たらく」

  要点・3 二階俊博や菅 義偉たちは,自分たちだけは密な会食を重ねて毎日たらふく美食していたが,庶民のなかには失業してしまい,衣食住に困窮する者たちまで出ていても,このまま餓死してもいい,凍え死んでもいいと放置している

 

 「〈大機小機〉 新時代の『企業民主化案』」日本経済新聞』2020年12月31日朝刊11面「マーケット総合2」から

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 自由な個人の意見交換の場として,終戦直後に設立された経済同友会。1947年秋,発起人のひとり大塚萬丈(当時日本特殊鋼管社長,1896~1950年)は「企業民主化試案」を公表した。

 企業民主化研究会(委員長=大塚)の主張の骨子は

  (1)   経営,労働,資本の三者からなる経営協議会を中心に企業活動の民主化を進める

  (2)   資本と経営を分離,経営機能は経営者が担い監査機能は資本家が担う

  (3)   経営最高意思決定機関として企業総会を設け,経営者代表,労働者代表,株主代表の監査役      による三者同数で多数決議する

であった。

 なかんずく「労働者の全幅的な責任と協力を得て,経,労,資三者の合作で企業民主化を確立させる」ために,終戦直後の激しい労働運動,戦前における株主主権と対極する時代背景のもとで,大塚は,企業経営の関係者すべてに発言権をもたせることこそ,民主化の道と考えた。

 すなわち,労働者側の要求が過激に趨(はし)り,階級的功利に堕(だ)して企業の基礎を危ふくする場合には,「経営者と資本家とは一致してこれを阻む」。資本家が監査権を濫用して企業を純然たる営利の具たらしめやうとする場合には,「経営者と労働者がこれを阻む」。経営者が労働者の福祉を無視し,資本家の立場を無視して,独善的な経営に趨る場合には,「資本家と労働者がこれを防ぐ」(寄稿論文より)。

 この修正資本主義的構想は,経営者をいちじるしく制約するものとして,幹事会の議論が紛糾。筆頭当番(代表)幹事は大塚自身であったにもかかわらず,一研究会による試案として公にするにとどめた。

 時移って今〔2020〕年1月。スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラムの主題は,ステークホルダー資本主義だった。顧客,従業員,取引先,地域社会,株主,あらゆるステークホルダーの利益に配慮すること,従業員への正当な賃金支払い,地域社会への投資,環境破壊の防止などが議論された。かつて異端とされた大塚の経・労・資三者協同体の枠組を超えて,「企業経営の関係者」が社外に向けて一気に拡大している。

 大塚の想定にはなかった,新たな企業経営関係者の信認をいかにして確保するか。新年は,経済界の優先課題のひとつとして,「社会」を同列に組みこんだ続・企業民主化案づくりが急がれる。(一礫)(引照終わり)

 この1947年秋に公表された「企業民主化試案」を語ることになれば,これに必然的な関連性を有していた戦時中の「経済新体制確立要綱」に触れないわけにはいかない。この「経済新体制確立要綱」1940年8月1日は,戦時体制期にあって,国防中心になる日本経済の内部構造をどのように強化するかに関した法律であった。近現代の日本経済史や日本経営史の研究者であれば,この「経済新体制確立要綱」の存在をしらない者はいないほど,基本的な知識のひとつである。

 補注)『日本経済新聞』1994年5月12日朝刊「私の履歴書  小坂善太郎 ⑪   吉田茂門下」には,小坂善太郎が大蔵政務次官に在任中,「修正資本主義の構想」と題した著書を出版したと書かれている。これは『企業民主化試案』を実際に執筆した人物がこの小坂であった点を示唆する。『企業民主化試案』は書名であるが,上掲したこの本の表紙をみると副題が「修正資本主義の構想」である。


 「経済新体制確立要綱」

 第2次近衛内閣は組閣直後の1940〔昭和15〕年8月1日,「基本国策要綱」において,「国防国家体制」の確立を目標として国防・外交・内政の各分野における「新体制」の樹立を試み,そのひとつに国民経済の確立(「大東亜共同経済圏」確立・一元的統制機構整備・財政金融統制強化・貿易政策刷新・食糧自給方策・重要産業発展,科学振興・交通施設整備・国土開発計画),農業の安定発展,国民生活水準の確保などを強調した。

 この「経済新体制確立要綱」は,これら全般的な新体制確立の諸要綱のうち,経済面での中心をなすものであり,1940〔昭和15〕年12月7日に至ってようやく閣議決定をみた。公益優先・職分奉公・生産増強・指導者原理・官民協力を基調として,企業体制の強化と経済団体の組織化を規定した。

 とくに論争となったのが,公益優先のもとに企業経営の内容にまで官僚による統制を及ぼそうとした点である。この問題をめぐり,同内閣の小林一三商相は企画院と対立して辞職したが,経済新体制確立要綱は,生産共同体的な経済統制団体構想を取り下げて,指導者原理を導入しながらも民間の自主性を尊重したかたちで,経済団体の新体制を方向づけた。

 註記)中村隆英・原 朗編者『現代史資料43 国家総動員1』みすず書房,1970年,「資料解説」xliv頁。「重要産業団体令」(三和良一執筆)『国史大辞典7』312頁。https://www.jacar.go.jp/glossary/term1/0090-0010-0040-0080-0030.html

 ① に ② を比較すると,後者は戦時体制期において大東亜共栄圏という旧大日本帝国の侵略思想・軍事戦略を,当然の国是に踏まえた国内の生産体制にあり方に関して,「公益優先・職分奉公・生産増強・指導者原理・官民協力を基調として,企業体制の強化と経済団体の組織化を規定した」ものであった。

 しかし,個々の企業経営が産業経済全体において占める立場や,その営利原則を捨てたわけではない個別経済的な利害関係に鑑みていうに,「公益優先のもとに企業経営の内容にまで官僚による統制を及ぼそうとした点」に関して,当時,中国大陸での泥沼の戦争を遂行中であった旧日帝の「国策そのものであった戦争遂行」に対する「産業界側からの体制協力」が,いちおうはえられていたとはいえ,そうした「公益優先」の方途じたいは,企業経営の資本としての主体性を損壊するものと受けとめられた。その結果,「経済新体制確立要綱」案に対しては猛烈な反撥が巻き起こり,実質的には骨抜きにされていた。

 もっとも,この経済新体制確立要綱について経済史・経営史の分野からする研究としては,たとえば,つぎのような解釈もなされていた。柳澤 治「日本における「経済新体制」問題とナチス経済思想-公益優先原則・指導者原理・民営自主原則-」『政經論叢』第72巻第1号,2003年10月,45~123頁に掲載された(https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/1842/1/seikeironso_72_1_45.pdf)は,大東亜・太平洋戦争が開始される前年に用意されたこの経済新体制確立要綱が登場した時代的な背景について,つぎのように議論していた。

 日本でのナチス的政策思想受容は,ナチス ・ドイツの状況と日本のそれとの間の共通性の認識に裏付けられていたが,しかしそれは同時に両国間の事情の相違性,日本的な特殊性に関する自覚を伴った。それはドイツに比較した場合の日本の産業的発展の後進性,とくに重化学工業の発達の遅れをはじめとする経済面における特殊性ばかりでなく,国家的統制を現実化する権力的体制が両国間で異なるという認識にも示された。

 

 すなわち「官民協力」体制の下で,時経済体制の要請する生産力拡充 ・経済動員の国家的政策は,自主的原則を土台として企業体制,その団体的組織を通じて実現される。 その際国家的要請を公益優先原則にもとづいて企業活動に指示する方式が指導者原理であった。

 

 フューラー ・プリンチープと日本語化されたこの指導者原理は,ナチス・ドイツの Führerprinzip を受容したものであったが,ドイツにおいてこの原理を貫徹させえた総統(Führer)ヒトラーナチス党の強力な独裁的権力体制を日本は欠いていた。 美濃部洋次らの革新官僚はこれを最大の問題点として認識し,こうした弱点を補完する手段として国民の伝統的な観念と皇国思想の利用を構想する。

 

 旧い家族主義的観念や職域奉公・一億一心,公私一如の倫理と皇道主義の理念がそれである。こうしてナチス的な公益優先原則と指導者原理が日本的な国体イデオロギー,伝統主義的な観念や倫理と結合し,補完し合う関係がつくり出される。

 

 他方,経済新体制の現実化に対して財界が営利原則,企業自主原則とともに第一に掲げた原理も伝統主義的な「経済道」であった。伝統的な日本精神と皇国観は,経済界が戦時経済体制の確立のために昭和研究会的な「国民経済の再編成」の構想に対置して提示した要求であった。

 

 伝統主義的天皇制的イデオロギー革新官僚の側においても,また財界の側においても経済新体制を支え,補強する手段として自覚され,強調された。経済新体制の下でそれらは官僚(軍)と財界とに共通し,官民協力方式と一体となって両者を統合する原理を構成することになる。

 

 「かくて新体制,そして日本のファシズムは,国体すなわち天皇制と資本主義(とりわけ日本資本主義)のその本質,とくにその痛点にはいささかもふれないワク内のものに終わったのである。」と安藤良雄氏は述べたが,それは氏の誤解であった。経済新体制は,むしろ国体;天皇制と日本資本主義の本質と特殊性とを十分に認識し,国民の「痛点」を熟知して,それらを自覚的に利用し,補完的に統合して,日本的全体・主義の構成的原理とする巧みな構想であったのである。

 註記)以上に引用した論稿は,柳澤 治『戦前・戦時日本の経済思想とナチズム』岩波書店,2008年,Ⅴに収録されている。ただし,この原文どおりではない。

 要は,経済新体制確立要綱は,大東亜(太平洋)戦争を戦っていく旧大日本帝国の国体的な「経済道,(これは作田荘一『経済の道』弘文堂書店,昭和16〔1941〕年を想起させる)を独自に構想していたと,解釈することができる。

 さて,その作田荘一『経済の道』は,1940年3月に公表していた文章のなかで,こう提唱していた。

 我が国固有の道に精進することと世界的開花に進出することとは,同一の方向に立ってゐる。国の経済に就いても,資本主義や社会主義の如き経済道に迷ひ込んではならぬ。全体的造化の大道に即する経済経済こそ皇国自体の経済生活であり,それはまた中外に施して悖らざる邦国経済の本義である(同書,424-425頁)。

 

  敗戦した日本,GHQによる民主化政策

 しかしながら,1945年8月に旧日帝は敗北が決まっていた。この敗戦後におけるGHQ指導による日本の民主化動向は,どのように展開されていくことになったか。マッカ-サ-を最高司令官とする連合国軍総司令部(GHQ)は,1945年9月から,つぎのごとき占領政策を実行していった。

 その基本方針は「軍国主義の除去」と「民主主義の育成」され,ポツダム宣言にもとづいて,以下の方針を実施した。

 a) 日本の軍国主義者・戦争指導勢力の除去
 b) 日本の軍事占領
 c) 日本の主権を本州・北海道・九州・四国と諸小島に限定
 d) 軍隊の武装解除
 e) 戦争犯罪人の処罰
 f) 反民主主義の除去
 g)   賠償と軍事産業の禁止

 これら諸点は,ここではいちいちをとりあげて議論できないが,GHQは敗戦した旧日帝の経済水準は「満州事変」以前の地点までに押しとどめておく方針を立て,日本における「産業経済の生産力(軍事力配備の可能性)」の弱体化を措置した。しかし,この措置は朝鮮戦争が1950年6月25日に勃発するとともに,完全に反古にされた。

 それはともかく,敗戦した日本においてなかでも財界層の人士からは,事後において日本の産業経営をどのように復興させるかという問題が強く意識されるようになった。その一例が ① のように,『日本経済新聞』のコラム「大機小機」のなかで言及された「企業民主化試案」の公表であった。

 ただし,敗戦後(1947年秋)に公表されたこの「企業民主化試案」は,もちろんのこととして,大東亜共栄圏に関する戦時的な経済思想は雲散霧消的に立ち消えていて,こんどは日本国内だけに限定される話題になっていた。

 そのさい当時の時代背景としては,つぎのような占領政策が控えていた事実があった。

 マッカ-サ-が占領政策として指令を出し,推進させた民主化政策の主柱は「憲法自由主義化」と,この「民主化に関する五大改革」であった。

 a) 婦人の解放--婦人参政権の承認,衆議院議員選挙法改正,男女20歳以上に選挙権。

 b) 労働組合の結成奨励--労働組合法の制定(1945年12月)

 c) 教育の自由主義化--軍国主義超国家主義教育の禁止

   1946年 アメリカ教育使節団が新しい教育制度を日本政府に勧告
   1947年 教育基本法の制定(平和主義・民主主義を基調)
       学校教育法の制定(男女共学,六・三・三・四制)
       義務教育が9年,教育委員会の設置

 d) 専制政治の廃止--国防保安法・軍機保護法・治安維持法などの廃止

 e) 経済制度の民主化--財閥解体の指示

 そしてなかでも,経済政策としての「財閥解体」は,四大財閥(三井・三菱・住友・安田)の持株を処分させるかたちで実行され,また独占禁止法(1947年)が制定された。「農地改革」も大々的に実行され,1950年までに小作地は,全農地の約10%に低下し,寄生地主制度を消滅させる結果となった。

 前記の  a)  から  e)  まで,敗戦にともなった民主化政策の歴史事実を,21世紀の段階になっても忌み嫌い(毛嫌いし?),戦前・戦時を郷愁してやまなかった日本国の前首相が,現にまだ生きている。

 だが,その種の「戦前回帰」という幻想を否定するかのように登壇した「経済・経営思想」が,前記の  e)「経済制度の民主化--財閥解体の指示」を受けつぐかたちで,敗戦後史における日本経済・経営史の舞台に登壇したのが,大塚萬丈の『企業民主化試案』であった。

 ところが,この「企業民主化試案」の内容を観察してみると,戦時体制期に登場させられていた「経済新体制確立要綱」の敗戦後「版」という印象が回避できなかった。ただし,こんどはもっぱら国内版としてのそれに変質(転)させられていた。その具体的な中身を表現する方法は,いちおう異なっている向きはあるものの,その基本的な思考じたいは,「試案」が「要綱」を参照していたのではないかとも思えるほど似ていた。

 補注)ここではくわしく言及できないが,戦時体制期において経営学者たちは当然であったかのように,「経済新体制確立要綱」の意図に沿った学問・理論を構想し,展開していた。敗戦後になると,こんどは「企業民主化試案」に即したそれが盛んに披露・陳列されていた。

 

  大塚萬丈『経済民主化試案』はいまもなお日本の財界人が銘記すべき「経営思想」
 
 『日本経済新聞』コラム「大機小機」は,最後の段落で,「かつて異端とされた大塚の経・労・資三者協同体の枠組みを超えて,『企業経営の関係者』が社外に向けて一気に拡大している」。「大塚の想定にはなかった,新たな企業経営関係者の信認をいかにして確保するか。新年は,経済界の優先課題のひとつとして,『社会』を同列に組みこんだ続・企業民主化案づくりが急がれる」と強調していた。

 だが,そこまでいってもいい対象が,現状における日本企業の最高経営者群像でありうるのか,まだまだ疑問が大きく残る。そのめざす目標「像」としてはもっともな像でありうるし,実際にとても好ましいその提唱となっている。しかし,2020年春以来に日本企業がコロナ禍に対峙しながらみせてきた基本姿勢は,けっして褒められたものではない。

 日米戦争が(大東亜戦争から太平洋戦争にまで旧大日本帝国の戦線が拡大されて)開始した12月8日〔日本時間〕から79年が経った2020年12月8日の『朝日新聞』朝刊7面「経済」は,こういう記事を掲載していた。

  経団連「賃上げ難しい」 コロナ禍で一転 春闘方針 ★
   =『朝日新聞』2020年12月8日朝刊7面「経済」=

 

 経団連は〔2020年12月〕7日,会長と副会長が来春の春闘に向けた経営側の方針を話しあい,コロナ禍で業績が悪化している企業が多いことから「賃金の引き上げはむずかしい」との方向でまとまった。今年の春闘まではベースアップを含め賃上げに前向きだったが,8年ぶりに厳しい姿勢に転じる。対する労働組合の中央組織・連合は8年連続でベア目標〔2%〕をかかげる。例年以上に厳しい交渉になりそうだ。(以下につづく本文記事は省略)

 

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 そう主張しているのが財界側の立場であるが,つぎに,以上の話題をとりあげ報道していた類似の記事4点などを引用・紹介してみたい。これらの内容を読めば,経団連側にあっては,利潤追求:自社第一主義(ファースト)の観点・利害ばかりが突出していた事実が,いまさらにように分かる。

 いいかえれば,いままで労働者への価値配分は相当程度に控えてきたにもかかわらず,こんどはコロナ禍に遭っている現状だからといって,2021年春闘にさいしてはさらに,「賃金の引き上げはしない」という経団連側の「資本の論理」の姑息な立場が,ムキ出しにされている。

 まず財界派新聞紙(『日本経済新聞』)の報道から引用する。

 1)「内部留保475兆円,過去最大 2019年度の法人企業統計」nikkei.com 2020年10月30日 10:44,https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65647030Q0A031C2EAF000

  ※ 2019年度の内部留保は8年連続で過去最大を更新 ※

 財務省が〔2020年10月〕30日発表した法人企業統計によると,2019年度の内部留保(利益剰余金)は金融業・保険業を除く全産業ベースで前年度比2.6%増の475兆161億円となった。8年連続で過去最大を更新したが,増加率は2018年度(3.7%)から縮んだ。足元では新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化した企業などで,内部留保を取り崩す動きが強まっている可能性がある。

 2019年度の内部留保は製造業が前年度比0.4%減の162兆9354億円,非製造業が4.2%増の312兆806億円だった。製造業の内部留保が前年度を下回るのは,2011年度以来8年ぶり。米中貿易摩擦などの影響が出た。

 全産業の売上高は3.5%減,経常利益は14.9%減だった。売上高は2年連続で前年度を下回った。財務省は「年度初めから世界経済の減速の影響が続き,年度末に新型コロナの影響がくわわった」と分析している。

 2019年度の設備投資は10.4%減の44兆394億円だった。減少は11年ぶり。このうち製造業は4.6%減った。鉄鋼や情報通信機械で生産能力を増やす動きが減った。非製造業は13.2%減った。都市部のオフィスビルや商業施設への投資が減少した不動産業が全体を押し下げた。

 コロナ禍の影響がはっきり出てきているが,それでも「2019年度の内部留保(利益剰余金)は金融業・保険業を除く全産業ベースで前年度比2.6%増の475兆161億円となった。8年連続で過去最大を更新した」ことに変わりはない。(引用終わり)

 問題は,コロナ禍の影響が同じに生じている状況にあっても,それこそいざという時のためにこそ内部蓄積されているその利益剰余金が,「労働者階級(階層・集団)」のために用立てされていない現実にあった。

 つぎに,国営放送局になりはてているNHKの報道を引用する。

 2)「企業の『内部留保』 8年連続過去最高更新  昨年度は475兆円超」『NHK NEWS WEB』2020年10月31日 6時21分,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201031/k10012689381000.html

 企業が手元に残している利益剰余金,いわゆる「内部留保」は,昨〔2019〕年度は475兆円を超え,8年連続で過去最高を更新しました。ただ,今〔2020〕年度は新型コロナウイルスの影響で,業績が悪化している企業も多く,内部留保を取り崩す動きが広がっているものとみられます。

 財務省は〔2020年10月〕30日,全国の企業およそ3万社を対象にした「法人企業統計調査」の昨〔2019〕年度の結果を発表しました。

 それによりますと,企業が,蓄えとして手元に残している利益剰余金,いわゆる「内部留保」が,昨〔2019〕年度は475兆161億円と,前の年度から11兆円余り,率にして2.6%増加し,8年連続で過去最高を更新したということです。

 ただ,今〔2020〕年度は,新型コロナウイルスの影響で業績が悪化している企業も多く,内部留保を取り崩す動きが広がっているものとみられます。

 麻生副総理兼財務大臣は,〔2020年10月〕30日の閣議のあとの記者会見で,「結果論ではあるが,内部留保が厚かった企業のほうが,新型コロナの騒動に耐えるだけの体力があったことになる」と述べました。

 そのうえで「もう少し,内部留保が設備投資や給与に回ってしかるべきではないか」と述べ,多額に積み上がった内部留保が投資などに振り向けられることが望ましいという考えを強調しました。(引用終わり)

 われわれのことを「下々の皆さん」と呼んできた麻生太郎であるが,ここでは多少いいこともいっている。つまり「内部留保が設備投資や給与に回ってしかるべき」と。しかし,その「回ってしかるべき」具体的な方途のあり方が問題であった。要は期待薄であるような「現実」しかみいだせない。

 コロナ禍から経営が大きな打撃を受けているANAや日本航空では,内部留保も従業員への給与も,どうにも首が回らない状態にまで追いこまれている。そのほかのコロナ禍の悪影響をこうむっている諸会社は,それこそ非常事態と形容していい経営状況にまで落ちこんでいる。

 しかし,日本企業(とはいっても大企業体制中心の話題であるが)の全体が貯めこんできた内部留保の多さは,これまで従業員への給与をケチりにケチってきた「見返り:成果」であったといえるゆえ,いまこそ,内部留保を豊富に貯めている企業は従業員のために充てて支給すべきである。

 つぎは日本共産党機関誌の意見を紹介する。

 3)「大企業内部留保 経常利益減っても10兆円増  12年連続最高更新 賃上げに回さず 2019年度法人統計」『しんぶん赤旗』 2020年10月31日

 財務省が〔2020年10月〕30日発表した2019年度の法人企業統計によると,大企業(資本金10億円以上,金融・保険業を含む)の内部留保は459兆円と前年度から10兆円増えました。内部留保が最高額を更新するのは比較可能な2008年度以降,12年連続です。

 経常利益は昨〔2019〕年10月に強行された10%への消費税率引き上げや新型コロナウイルスの感染拡大などの影響を受けて,前年度を8兆円下回る50兆円でした。

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 安倍晋三政権が発足した2012年度と比較すると,経常利益が1.4倍,内部留保が1.38倍,配当金が1.64倍に増える一方,労働者の賃金は1.05倍と横ばいにとどまります。機械や工場など有形固定資産も1.1倍にしか伸びていません。大企業を優遇するアベノミクスのもとで増えた利益が,賃金にも設備投資にも回らず,配当金と内部留保に回ったことを示しています。(引用終わり)

 最後に「建設業界,産業廃棄物業界,行政などのニュースを発信」すると謳っているネット記事『kyoto-seikei』は,この内部留保の問題を,どのように認識していたか?

 4)「2019年度・企業の内部留保:475兆161億円!」『kyoto-seikei』2020年11月5日 10:34 PM,http://kyoto-seikei.com/hp/2020/11/05/

「8年連続増・コロナ感染拡大で投資抑制!」

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 財務省が〔2020年〕10月30日発表した2019年度の法人企業統計は,企業が蓄えた内部留保に当たる利益剰余金が前年度比2.6%増の475兆161億円となり,8年連続で過去最高を更新した。消費税増税新型コロナウイルス感染拡大による景気の先行き不透明感を背景に,企業が投資を抑制し,内部留保が一段と積み上がった。

 2019年度の全産業の経常利益は14.9%減の71兆4385億円。リーマン・ショックがあった2008年度以来の下げ幅となった。売上高は3.5%減の1481兆8986億円だった。設備投資は10.4%減の44兆394億円となった。

 麻生財務相が,内部留保の厚みがコロナ禍の直撃を「結果論として耐えるだけの体力につながった」ともいっている。これは,「完全終息まで力を温存」という企業判断でもあろう。

 補注)ここの記述は「企業じたい,会社そのもの」を「温存する」という意味での判断を指している。つまり,従業員の雇用維持は二の次である。前段で議論してきた戦時中の経済新体制確立要綱や敗戦後における企業民主化試案は,その意味では,キレイゴトにしか位置づけられない「歴史的な素案」であったといえなくはない。

 コロナ禍に対応する企業,それも体力の備わっている大企業体制側が,いざという時のために貯めこんできた「内部留保」の使い方は,いままさに試金石を当てられていると表現できるが,要はその企業側の姿勢と来たら高がしれていた。前段の戦時期「経済新体制確立要綱」や敗戦後「企業民主化試案」などの指針が,いまの時期,まともに生かされるような気配は,ほとんど感じられない。

〔記事に戻る→〕 マクロでは,貯蓄過剰が常態化する西欧では金利は当然下がる。貯蓄が潤沢にあるから,消費や投資の資金需要は減り,資金が動かなくなることで金利が低下するのは当然のことである。

 麻生財務相は,内部留保の増加でリーマンショック時と比べれば自己資本比率が急激に上がり「銀行なんかは,それはそれなりの値打ちはあった」としながらも,「もう少しこれが設備投資とか給与とかに回ってしかるべきではないかというのはわれわれの希望的観測」とも語った。(引用終わり)

 麻生太郎君よ,口先だけでモノをいうのは止めにしたまえ。「設備投資とか給与とかに回ってしかるべきではないかというのはわれわれの希望的観測」などと,それもノンキにも,他人ごとみたいに “自国経済の惨状” を語るなかれ。この「居ても居なくてもいい」ような老害財務相は,さっさと引退したらよい。

 5) 最後に,和田秀樹「『自殺者が月600人増』政府リーダーが見落としているコロナ自粛の深刻な副作用 デメリットが見えないバカ化が進行」『PRESIDENT Online』2020/12/15 13:00,https://president.jp/articles/-/41449?page=1  から冒頭段落のみ引用しておく。

 2020年10月の全国の自殺者数は,前年同月に比べ600人以上多い2158人だった。精神科医和田秀樹氏は「一連のコロナ自粛要請で自宅にこもる機会が増えたことで,孤独感や感染不安がつのってうつ状態になった人や,雇用が奪われて経済苦を抱えてしまった人が精神的に追い込まれた可能性がある。政府は自粛の “副作用” についてもっと国民に説明をするべきだった」と指摘する。 

 今日(2021年1月7日)から再度「緊急事態宣言」が発せられている。日本では2020年9月に,首相が安倍晋三から菅 義偉に交代していたが,この国はいまや,実質的な「第2の敗戦(安倍晋三:アホノミクスの失政)」に重ねて,さらに不可避の「第3の敗戦(菅 義偉:スガーリノミクスの拙政」に突入しつつある。

 2021年の日本は,このまま進行していったら,近いうちに「1億2千5百万人」,総・玉砕か? この困窮した状況は,いったい,いつに・誰が,どの方向に「転進」させうるのか? コロナ禍に対峙するためのまともな国家指導者が,どこにもいないかのように映っているのが,昨今日本の実相である。

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【参考記事】------------------------------