原発を止められない・止めたくない日本国であるが,再生エネルギーの利用状況をみると先進国中では後進国的に遅滞

 東電福島第1原発事故の問題は汚染水(処理水)にあるというが,事故により破壊した原発の後始末はこれからも半永久的に未解決状態のまま,それを太平洋に薄めて排水できれば問題解決であるか のように語る『日本経済新聞』の欺瞞的報道

 原発地球温暖化防止に貢献しうるのだというのは,「不確かであいまい」な,大衆に対する謀略的な刷りこみ工作あり,「有力な反証が控えている主張」でしかありえない,その反証に応えられないでまた,原発が稼働中は炭酸ガスをあまり出さない発電装置・機械だといったところで,原発の「建設から廃炉までの総過程」を通してそのように主張しうるまともな根拠はない

 東電福島第1原発事故に関する「後始末問題」のひとつ,事故原発現場から発生しつづけている汚染水を「処理水」に加工したのち,「トリウム」という核種を最終的に含有する汚染水として太平洋に放出して済まそうとする解決方法は,トリウムの放射性物質としての危険性を完全に無視している,その関連する議論を放置したまま,問題の核心を「風評被害」に局限したい見地は,原発事故問題の本質をそらすための思考上のカラクリ(トリック)

 

  要点・1 21世紀中に東電福島第1原発事故の後始末・廃炉工事が終えられ,東電のその跡地が更地に戻せるのかと問われて,しかりと答えられる専門家はいない

  要点・2 原発は人類・人間にとって有害で不要な発電装置・機械であった,この利用にまだこだわるのは,愚かな妄想の思いこみ

  要点・3 原子力発電と再生エネルギー発電に対して,それぞれの総合的な経済計算・評価にもとづく比較研究がなされていないのは,それがただちに原発の不利性・短所の暴露になるからである,原発の推進派も反対派もおこなっていないその比較研究の必要

 

  河野太郎・ブログ『ごまめの歯ぎしり』がいっていたことを考える

 a) この河野太郎のブログがいまから5年半ほど前に書いていた文章,「原発は安くない!?」2016.11.12,https://www.taro.org/2016/11/原発は安くない!?.php」が説いていた,原発コスト論のまやかし「説」対する批判を,まず紹介しておきたい。

 その前に,この河野太郎がする議論に関連した電源別コストの比較表,その一例も紹介しておきたい。

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 この「1kWhあたりの発電コスト」(2015年)という図表のなかでは,原子力のそのコストだけがなぜか,「10.3~」と記入されている。この「~」に関する理解の仕方となるが,現在の時点(2021年3月)になってもまだ,その「~の上限」をいったいどこに定めておけばいいのか,まったく分かりえない状況にある。

 この原発コストに関する議論は大島堅一が,とくに「3・11」を契機に,周到な議論を展開してきた。その結論はごく簡単であって,あえておおげさにいってしまえれば,原発コストの上昇ぶりは「青天井(志向!)だ」とたとえていえば,理解しやすいかもしれない。

 日本の場合でもとくに,標準的な原発1基の建設費が暴騰したと形容してなにもおかしくないくらい高価な水準(高原価⇒高価格)になったのは,原子力規制委員会の指導のもとづき,原発を製造して販売するために要求される諸条件,なかでも安全基準が非常にきびしいものになってきたからである。

 さらなる問題が,原発廃炉する時にも,よりいっそう困難な課題をともなって生じていた。廃炉工程にかかる時間の長さと手数の多さは,使用済みの原子炉・格納容器・建屋など一式の処分がたいそうな手間ひまを要するほかない現実から発生しているわけで,こちらにおける後始末(バックヤード的な)作業が時間的にかけていく長大さは,けっしてバカにならないコストを事後においても追加的に重加算させていく。

 前掲の図表に記入されていた「10.1~ → 10.3~」という原発コストに関する数値の表記方法は,最初から正直に,その不可避であるマヤカシ性あるいは転倒性を物語っている。数字の部分よりもこの「~」という記号そのものが,原発コストの問題性のありかをより明解に示唆している。

 ここでひとつほかの解釈をするとしたら,この「~」は経産省・エネルギー資源庁が先回りをしたつもりで,そして,のちになれば当然のように公然化することになる原発コストが,ひたすら「非常に高価になっていくほかない現実」に対する『いいわけ』を,いまからしこんでいたことを意味する。もっとも,同省・同庁の国家官僚たちがいまの時点で,その事実(原発の「本当の真実」)をしらないとは思えない。

 b) 河野太郎のブログに戻り,原発問題に対するいいぶんを聞こう。これは,2016年11月時点の主張であった。

 イ) これまで経産省は,原発のコストは安いの一点張りだった。原発のコストには,事故による社会的コストも含まれていて,それでも一番安いというのが定番だった。が,しかし,but,今日,経産省は,原発のコストが安いというのは,モデルプラントという想定上の原子炉を考えて計算するからであって,現実の原子炉が事故を起こしたと想定したら,原発のコストは安くないといい出した。

 おい,おい。ということで,2017年1月1日に各電力会社の実際の原発に福島第1並みの事故が起きたら,原発コストはどうなるかを試算してもらうことになった。さて,経産省は,原発廃炉やら,福島の事故の賠償や除染,廃炉のコストに関する非公開のインチキ委員会を立ち上げて,なにやら画策を始めている。

 まず,福島第1原発廃炉費用に関しては,東京電力が負担することになっている。この費用の詳細を経産省に求めているが,まだ,計算中とのこと。

 つぎに,福島第1原発事故による除染費用は,2013年12月に2.5兆円と試算された。それが2017年度の概算要求分まで入れると3.8兆円まで膨らんでいる。おそらくこの費用はさらに膨らむ。

 ロ) 除染の費用は,国が保有する東京電力の株式を売却して充てることになっているが,そもそも,東電の株式に2.5兆円の価値があるのか。自民党の会議でも柴山首相補佐官が,2.5兆円の価値があるかどうかもわからないのに,3.8兆円あるいはそれ以上に膨らんだ費用をどうするのかとブチ切れた。

 それに対して経産省は,東電の企業価値を上げてもらって...。さらに除染した土などの中間貯蔵の費用は国がエネルギー特別会計で負担することになっているが,2013年12月に1.1兆円と見積もられている。ようやく中間貯蔵に関する業務が始まったが,この見積もりがきわめて甘いのではないかといわれている。

 たとえば,この1.1兆円のうち,運搬費は1750億円と見積もられている。合計2200万立方メートルのうち,10万立方メートルの運搬が終わったところで,見積もりの数倍のコストがかかったとみられている。

 行革推進本部の求めに応じて,環境省が,実際にかかったコストを計算中だが,エネルギー特会の負担が急増することになりそうだ。

 ハ) さらにこれらに賠償の費用がくわわる。2016年3月31日に7兆6585億円と見積もられている。これは原子力発電所保有する電力会社が負担することになっているが,経産省は,託送料金を使って,新電力にも負担させようと画策している。

 補注1)この「画策」はいまでは現実のものになっている。

 補注2)託送料金とは,小売事業者が送配電事業者に「電気を運ぶ」ための費用として払う料金のことである。 この託送料金は,家庭向け電気料金に30~40%程度含まれている。具体的にみると,送配電部門の人件費や送配電設備にかかわる修繕費,減価償却費などの費用となる。

〔河野に戻る→〕 福島第1原発の事故を受けて2011年から,原発保有する電力会社が一般負担金というかたちで賠償費用の拠出を始めたが,経産省は,本来,それ以前から電力会社は拠出すべきだったのに,していなかった。だから,2011年以前に拠出すべきだった分(過去分)を,いまから取る必要がある,などという。

 そして,新電力と契約した消費者も,2011年以前は電力会社から電気を買っていたのだから,その分は負担する必要があるなどと,めちゃくちゃなことをいっているのが経産省。では,その分はいくらなんだとマスコミが迫ると,経産省はまだ計算中だとはぐらかす。しかし,経産省発の怪文書によれば,約6割,3兆円ぐらいはとりたい(!?),と。

 補注)この経産省のいいぶんは「強盗的なリクツ」にほぼ相当する。もちろん経済強盗としてのヘリクツなのであるが,これが実際にまかり通っているのが,この日本における「3・11」以降における大手電力会社関係事情。

 それまで経産省と電力会社は,原発は事故を起こさないなどとうそぶいて,事故のコストは計算に入れる必要がないなどと主張したこともある。2011年の福島の事故を受けて,慌てて負担金の徴収を始めたのだから,過去分もなにもないはず。

 補注)原発コスト「10.1~ → 10.3~」という数値の表記方法は,「3・11」を境にあわてて案出した工夫だとみうけるが,この伸縮自在に応用できそうな「~」にこめられた〈カラクリ〉性には用心が必要である。

 この「~」ひとつだけでもって,現段階における原発コストは,原発事故の後始末や今後に展開されるはずの廃炉工程から生じてくる『もろもろのコスト』を収納させうる役目をもたされているとみなしてよい。

 ちなみに,2019年時点における関連事情が,つぎのように説明されていた。 

     ★〈プレスリリース〉再生可能エネルギー,最安値の                       石炭火力発電に対してもコスト優位に ★
 =『IRENA』2020年6月3日 午後 7:30:20,https://www.irena.org/-/media/Files/IRENA/Agency/Press-Release/2020/Jun/Costs-Press-Release_Japanese.pdf?la=en&hash=74ABA924301966290F7C521929701C80F69256C1

 

 再生可能エネルギーの電力コストはこの10年で急激に下がりました。コスト低下を牽引したのは,技術の改善,規模の経済,サプライチェーンの競争力向上,開発事業者の経験蓄積です。

 

 2010年以降にもっとも大幅なコスト低下を実現したのが大規模太陽光発電の82%減で,次いで集光型太陽熱発電(CSP)の47%,陸上風力発電の39%,洋上風力発電の29%となっています。

 

 太陽光発電および風力発電の技術においても,毎年コスト低減が進んでいます。大規模太陽光発電の電力コストは2019年に13%低下し,世界平均でキロワット時(kWh)あたり6.8セント(0.068米ドル)になりました。陸上及び洋上の風力発電はいずれも9%下落し,それぞれ0.053米ドル/kWh,0.115米ドル/kWhになりました。

 付記)最近の円ドル・為替レートは1ドル108円だが,分かりやすくは100円で換算するといい。この段落に出ている金額の6.8セントならば,6.8円。原発コスト(日本での計算だが)は勝負にならず,歯がたたなくもなっている。

 

 最近の入札や電力購入契約(ppa)の結果は,2020年以降に稼働開始の新規プロジェクトについてもコスト低下の傾向が続くことを示しています。

 

 競争入札の手続を経て決定された2021年に稼働を開始する太陽光発電の調達価格は,平均で0.039米ドル/kWhになり,2019年比で42%の低下,もっとも安価な化石燃料の電源である石炭火力発電よりも20%以上低い水準です。

 付記)ここでは比較する対象としての「原発コスト」は出ていない。

 

 アブダビおよびドバイ(ともにUAE),チリ,エチオピア,メキシコ,ペルー,サウジアラビアにおいて記録した太陽光発電の最低入札価格の記録は,0.03米ドル / kWhという低価格がすでに現実味を帯びていることを裏付けています。

 

 今回のIRENAの年次コスト報告書では,新たに発電コストの低下に関連した投資価値についても分析をくわえています。今日の再生可能エネルギーの発電に対する投資は,10年前に同額の投資とおこなった場合と比較して,より大きな設備導入を実現することが可能です。

 

 2019年に稼働を開始した再生可能エネルギー発電の設備容量は,2010年比で倍増しましたが,それに要した投資額は18%の増加にとどまっています。

 「10年一昔」である間にめだって変質・発展してきた「再生エネルギー事情」,いいかえれば,そうした「コストの低原価化の傾向」はめざましい。もちろん,火力発電の石炭やLNGによる発電方式も,その技術的な改善によって熱交換比率を顕著に向上させてきた。

 だが,再生エネルギーの低原価化傾向のなかに顕現されていた特性は,いまだに熱効率の点ではたいした進捗のない(せいぜい3分の1である)原発の技術経済的な後進性を,対照的にきわだたせる背景の要因,つまり「規模の経済」に裏づけられた技術経営面での有利性を確実に発揮させえてきた。

 それにもかかわらず,「3・11」以降においてもあいからず,原発コストは「10.1~(から)10.3~」からほんの少ししか上昇していないと説明しつづけたところは,いかにもみえすいた表記の方法を採っていたと批判するほかない。

 河野太郎も自身のブログのなかでほかにも書いていた記述中で言及していた大島堅一が,原発コストについてはこう語っていた。2019年1月の見解である。

     原発の本当のコストは? 経産省の『安い』試算に異論 ◆
 asahi.com(小森敦司) 2019年1月23日 12時57分,https://digital.asahi.com/articles/ASM1L4W0PM1LULFA013.html

 

 日立製作所が英国での原発計画を凍結したことは,原発がもはや安い電源といえなくなった現実を私たちに突きつけました。原発や事故処理のコストをどう考えたらいいのでしょうか。電力のコスト分析に詳しい大島堅一・龍谷大教授に聞きました。

 

 ※-1 経産省のコスト試算「甘すぎ」

 --経済産業省が2015年に示した2030年時点の発電コスト(1キロワット時)で,原発は10.3円となっていて,天然ガス火力(13.4円)や石炭火力(12.9円)より安く試算されていました。

 

  「原発の建設費の想定が甘すぎます。福島の事故以前に建設されたような原発を建てるという想定で建設費を1基4400億円とし,そこに600億円の追加的安全対策を加算するというものです。設計段階で安全性の高い原発を想定しないという非常に奇妙な試算です」。

 

 --試算に使われた事故の発生確率にも疑問を呈していますね。

 

  「経産省の試算では,追加的な安全対策を施すので,(福島第1原発のような)『過酷事故』が起きる発生確率は半分になるとしています。素朴な疑問ですが,なぜ,半分になるのでしょうか?」

 

 ※-2 原発建設費2基で3.5兆円も

 --原発の建設費は世界的にみても高騰しています。

 

  「英国で計画中の『ヒンクリーポイントC原発』(160万キロワット級 ✕ 2基)の建設費245億ポンド(欧州委員会の2014年の想定。直近の為替レートで日本円に換算すると約3.5兆円)です。それが大事なファクトです」。

 

  「メルトダウンした核燃料を受け止めるための『コアキャッチャー』や,大型航空機の衝突に耐える二重構造の格納容器など,安全性能を高めたためです。経産省の試算のように安くできるはずがありません」。

 

 --こうした状況を踏まえた場合,原発の発電コストはいくらになるのですか?

 

  「私は,原発の1キロワット時あたりの発電コストは17.6円になると試算しています。米電力大手エクセロンの経営幹部は昨〔2018〕年4月,『新しい原発は米国内では高くてもう建てられない』と発言しています」。

 

  「日立製作所も想定した収益がみこめないとして,英原発輸出計画を凍結しました。そんな現実からしても17.6円は外れていないと思います。もはや原発にコスト競争力はありません。斜陽産業として,いかに『たたむか』を考える時です」。(引用終わり)

 ここで,河野太郎のブログ『こまめの歯ぎしり』に戻る。

 ニ) 本来,この賠償の負担は,電力会社の利益から出すべきものだ。どこの世の中に,事故を起こして支払わなければならなくなった賠償金を,ほかの消費者からとろうとする企業があるか。

 みずからの利益から支払うのが当然のこと。しかも,経産省と電力会社は,金額が法定されず,国会で議論もされない託送料金で消費者からとろうとしている。たとえば再生可能エネルギーの賦課金は,きちんと明確に金額を示し,年限をきっている。

 賠償金が将来,増えたら,託送料金をこっそり上げればよいぐらいのことを考えている。ちなみに,河野太郎消費者担当大臣〔これは当時の太郎の肩書き〕は,託送料金が不透明で高すぎるので引き下げろと経産大臣に勧告している。それに上乗せするなどとんでもない。

 ホ) このほかに,各電力会社のもつ原発廃炉問題がある。原発廃炉にする決定をすると,ほとんどの原発廃炉費用が必要な分まで積み立てられておらず,また,原発設備を資産計上している分を特損で落とさなければならず,電力会社が債務超過になる。

 だから,廃炉決定をしたときに,一括で債務計上しないで済むようにしようとしている。これは会計基準を変えればよいだけで,これまでにも経産省は,原発のためにわけのわからない基準の変更をおこなってきている。

 ところが今回,その費用を託送料金に乗せてとれるようにしなければ,債務超過になってしまうなどと,意味不明のことをいい出している。おそらく,廃炉に必要な費用なる見積額は,どの原発でも実際よりも小さく見積もられている。

 ヘ) ここにきて,もんじゅ廃炉に始まり,さまざまな原発に関する嘘が噴出している。先日の自民党の会議でも,経産省は,原発の発電コストは一番安いと称して, OECD / NEA の資料を出してきた。その資料のもとに当たると,割引率3%では原発が石炭や天然ガスよりも安いが,割引率10%だと一番高くなると,最初に書いてある。

 経産省は,そのなかから,割引率3%のところだけ写して出してきた。さすがに経産省寄りの自民党議員からも,いい加減にしろという声が噴出した。そろそろ世耕(弘法成)大臣〔これも当時〕が自分で考えて,決断する必要がある。河野太郎,引用終わり)

 要は,原発コスト論に関する国側(経産省・エネルギー資源庁)の原発擁護論は,その根拠をすでに喪失している。しかし,なぜそこまで原発の維持・再稼働にこだわるのかという点が,まだ一種の謎として残っている。

 防衛省ならば兵器として原爆関連へのこだわりが想定されるが,経産省・エネルギー資源庁の立場をうかがうと,原子力村的な既存権益へのこだわりが裏事情としてみえ隠れする。

 つぎに本日,2021年3月11日の『日本経済新聞』朝刊を紹介するが,日本はなにゆえ,ここまで原発問題への対応・態度としてゴタゴタやっているのかという感想しかもてない。


  「エネ政策  不作為の10年『基幹電源』原発再稼働は9基 政府方針の明確化,急務」日本経済新聞』2021年3月11日朝刊3面「総合2」

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【参考図解】 日本経済新聞』2021年3月11日朝刊から

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【参照図解】 東京新聞』から,クリックで拡大・可

 

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 東日本大震災津波の影響で東京電力福島第1原子力発電所1~3号機が炉心溶融メルトダウン)事故を起こし,国民の原子力への信頼は地に落ちた。政府は原発を重要な基幹電源に位置づけるが実績はみえない。一方,再生可能エネルギーへのシフトも進んではいない。この10年,エネルギー政策について積極的な議論を避けてきた政府の不作為が問われている。

 補注)日本政府・経産省・エネルギー資源庁は,多分,21世紀において生きながら〈浦島太郎〉になってしまった風が感じられる。あるいは三猿主義に閉じこもっていたともいえる。

 震災前に国内では,米国などに次いで世界で3番目に多い54基の原発が稼働可能な状態にあり,総発電量の約3割をまかなっていた。事故後,定期検査などで止まった原発は事故の反省を踏まえてできた新規制基準にもとづく原子力規制委員会の審査に合格しないかぎり,再稼働できなくなった。

 2015年8月に九州電力川内原発1号機(鹿児島県)が再稼働するまで,「原発ゼロ」が約2年続いた。これまで,規制委の安全審査に合格したのは9原発16基ある。

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 1) 合意形成に時間

 このうち再稼働に至ったのは5原発9基。発電量に占める原発の割合は6.2%(2019年度)にすぎず,事故の影響がほぼない2010年度の約25%にはほど遠く「基幹電源」は看板倒れだ。

 補注)この「基幹電源」とは,おそらく「ベースロード」として原発を位置づける考え方と同一と思われる。しかし,この発想じたいがすでに時代錯誤であり,また技術経済的な本質に即した検討からしても,電力事情の現実にそぐわない概念になっている。

 安全審査に合格済みで再稼働できていない7基は安全対策工事や地元同意の手続に時間がかかっている。とりわけ原発周辺の人口が全国でもっとも多い日本原子力発電の東海第2(茨城県)は合意形成が見通せない。再稼働しても運転差し止めを認める仮処分決定で一時的に停止する原発が相次ぐなど司法判断も影を落とす。

 原発を将来どう活用するのか。この10年の政府の態度はあいまいだった。2018年に閣議決定されたエネルギー基本計画では,「原発依存度は可能なかぎり低減させる」としつつも,「低炭素の準国産エネルギー源として,優れた安定供給性と効率性を有する」と利点も強調。今後の電力需給や温暖化対策も踏まえて2030年度に原発の割合を20~22%にする目標をかかげる。

 補注)この原発の技術特性に関していつもいわれてきた決まり文句,「低炭素の準国産エネルギー源として,優れた安定供給性と効率性を有する」という点は,実際にはいちいち失当とみなすほかない見解であった。

 ※-1 低炭素(炭酸ガス排出面でのそれ)という点は,以前であればこの〈低炭素〉という点への言及さえなかったはずであるが,「原発は石油の第2次製品」という技術特性を無視している。

 準国産エネルギー源だという点は,外国産の小麦でパン工房で造った食パンを「順国産」というのに似て,実に奇妙な表現である。食料自給率でいわれる諸指標,

   カロリーベース総合食料自給率
   生産額ベース総合食料自給率
   食料国産率

などのうち,最後の食料国産率を当てはめたかのような発想になっている。

 ※-2 その食料国産率はこう説明されている。原発に使用される核燃料も,この考えたに即して〈準国産〉というリクツになっていたのか? ただし,核燃料の「原料」は輸入品であるゆえ,さらに苦しいリクツの補充が必要になっていた。

 食料国産率は,我が国畜産業が輸入飼料を多く用いて高品質な畜産物を生産している実態に着目し,我が国の食料安全保障の状況を評価する総合食料自給率とともに,飼料が国産か輸入かにかかわらず,畜産業の活動を反映し,国内生産の状況を評価する指標です。

 

 令和2年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画で位置付けられました。総合食料自給率が飼料自給率を反映しているのに対し,食料国産率では飼料自給率を反映せずに算出しています。

 註記)「食料自給率とは」『農林水産省』2021年1月25日 午後 10:31:11,https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/011.html

〔記事に戻る→〕 実現には30基程度の稼働が必要だが,現状では達成がきびしい。梶山弘志経済産業相は「現時点で(原発の)新増設は考えていない」として再稼働を優先する考えだ。

 規制強化で原発の安全対策工事費は増えつづけており,電力会社の負担は計5兆円を上回る。主な原資は利用者が支払う電気料金だが,原発の経済性について精緻な議論も進んでいない。

 2) 再生エネで遅れ

 一方,同基本計画では,再生エネの主力電源化をめざすとした。福島第1原発事故後,日本だけでなく世界で原発の安全対策費は高騰し,安価な電源ではなくなった。欧州を中心に世界で再生エネへのシフトが進んだ。英国やドイツでは再生エネの価格低下が進んだこともあり,2020年は総発電量の約4割を占めた。日本は,いまだ同2割程度で世界に出遅れている。

 2040年までに,洋上風力発電を規模として原発45基分の発電量に相当する4500万キロワットまで設置するなどの施策をようやく打ち出した。だが実現性については不透明で,技術やコスト面で海外勢に比べて大幅に劣勢だ。

 政府は2020年10月には,2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を打ち出した。原発も再生エネも,実現のために重要なカギを握ることは間違いない。2021年夏にも策定する次期エネルギー基本計画では,エネルギー政策の道筋を責任を明確にしたうえで示すことが求められる。(引用終わり)

 「原発も再生エネも,実現のために重要なカギを握ることは間違いない」と表現された『日本経済新聞』の指摘・解釈は,完全なる間違いそのものであった。

 原発をなくすことにした先進国としてはイタリア(1990年で廃絶)やドイツ(2022年までに脱原発を決めた)がある。むろん,そのほかに原発利用国はまだ多く残っている。だが,原発を全廃する国々がないわけではなく,それゆえ「原発と再エネ」とをこのようにいっしょに並べてそのまま説明に利用するのは,誤導的というか,あるいは誤導を意識した文章作成だと受けとれる。

 さらに「原発が廃熱する熱量」については,「全国の原子力発電所の毎月の排熱量について」『内閣府原子力委員会』更新日時 2018年12月10日 午前 9:51:46,http://www.aec.go.jp/jicst/NC/qa/iken/iken-q85.htm  に,ある庶民からの質問に対してだいぶ昔に回答された記述(説明)が公開されている。だが,その内容は素人が読んですぐに理解できるものではなかった。

 そこで次段では,内閣府が説明したその回答は引用せず,代わりに,小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)「原発温廃水が海を壊す  原発からは温かい大河が流れている」『imidas』2010/03/26,https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-059-10-03-g112  という記述を紹介しておく。こちらを参照しただけで,内閣府側の回答に対する “十分な反証” が与えられるはずである。

 つぎの ③ に紹介するが,これは「3・11」が発生するほぼ1年前に公表されていた小出裕章の文章であった。炭酸ガスの排出が直接なくとも,地球温暖化には原発が大きい影響を与えている。

 

  小出裕章原発温廃水が海を壊す 原発からは温かい大河が流れている」2010年3月9日
 
 原子力発電所の稼働に不可欠な冷却水は,その膨大な熱とともに放射能や化学物質をともなって海に排出される。この温廃水(温排水 hot waste water)の存在,あるいは環境への影響が論じられることは少ない。地球温暖化への貢献を旗印として原子力回帰が叫ばれるなか,けっして避けられない温廃水の問題を浮き彫りにする。

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  蒸気機関としての宿命※

 地球は46億年前に誕生したといわれる。その地球に人類が誕生したのは約400万年前。地球の歴史を1年に縮めて考えれば,人類の誕生は大みそかの夕方になってからにすぎない。その人類も当初は自然に寄り添うように生活していたが,18世紀最後の産業革命を機に,地球環境との関係が激変した。

 それまでは家畜や奴隷を使ってぜいたくをしてきた一部の人間が,蒸気機関の発明によって機械を動かせるようになった。以降,大量のエネルギーを使うようになり,産業革命以降の200年で人類が使ったエネルギーは,人類が全歴史で使ったエネルギー総量の6割を超える。

 その結果,地球の生命環境が破壊され,多数の生物が絶滅に追いやられるようになった。その期間を,地球の歴史を1年に縮めた尺度に合わせれば,大みそかの夜11時59分59秒からわずか1秒でのことである。

 今日利用されている火力発電も原子力発電も,発生させた蒸気でタービンを回す蒸気機関で,基本的に200年前の産業革命のときに誕生した技術である。その理想的な熱効率は,つぎの式で表される。

 理想的な熱機関の効率=1-( 低温熱源の温度 ÷ 高温熱源の温度 )

(この時,それぞれの温度には「Kケルビン」の単位で表す絶対温度を用い,「℃」で表わす摂氏温度の数字に「273」をくわえ,たとえば0℃=273K,100℃=373Kとなる。)

 だが,現実の装置ではロスも生じるため,この式で示されるような理想的な熱効率を達成することはできない。

 火力発電や原子力発電の場合,「低温熱源」は冷却水で,日本では海水を使っているので,その温度は地域差や季節差を考慮しても300K(27℃)程度であり,一方の「高温熱源」は炉で熱せられ,タービンに送られる蒸気である。

 そのため,火力発電と原子力発電の熱効率は,基本的にそれらが発生しうる蒸気の温度で決まり,その温度が高いほど,熱効率も上がることになる。現在稼働している原子力発電では,燃料の健全性を維持するため冷却水の温度を高くすることができず,タービンの入り口での蒸気の温度はせいぜい550K(約280℃)で,実際の熱効率は0.33,すなわち33%しかない。

 補注)その後に登場している「新型・改良型」と称されている原発は,この33%に数%の向上・改善を足しうるに過ぎず,いってみれば技術革新とは無縁のわずかな変化である。

 つまり,利用したエネルギーの2倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。(引用終わり)

 要は,前掲の「全国の原子力発電所の毎月の排熱量について」『内閣府原子力委員会』2018年12月10日が語った原発の廃熱に関する問題は,説明にならない説明を,それも専門家ではない素人である庶民に対して与えていた。庶民向けとしては実質的に無意味に近い説明であって,かえって有害な説明になりかねない。

【補説:2021年3月12日】 日本経済新聞』朝刊「春秋」

 その瞬間,心底震え上がった。チェルノブイリの惨状が頭をよぎった。東北を大津波が襲った日から一夜明けた3月12日夕,テレビで福島第1原発から立ちのぼる噴煙をみたときだ。当時この事故報道に携わり,以後2カ月,直面したのは文字どおり未曽有の事態だった。

 

 ▼ 暴走する炉心。それを制止するために総動員された手段は,技術立国とはほど遠いローテクのオンパレード。自衛隊のヘリコプターから水を空中散布するものの命中しない。消防車による地上からの放水もうまくいかない。海へ漏れ出る高濃度汚染水を止めるため,投入されたのはおがくず,新聞紙,おむつに使う樹脂だ。

 

 ▼ それでも流出しつづける水の経路を調べるのには,乳白色の入浴剤が投入された。かくいう筆者も原発との闘いが水との闘いであるとは,まったく理解も想像もしていなかった。運転時には毎日東京ドーム約6杯分の水を必要とすること 註記1)。全長170キロにも及ぶ「配管のお化け」と呼ばれていること。しらないことばかりだった。

 

 ▼ ちょうど10年たった今日もこの闘いは終わっていない。あたかも「フランケンシュタイン註記2)のように,科学がみずから生み出した「怪物」はひとたび暴れ出すと,手なずけるのがむずかしい。巨大な原子力を前にいかに人類が非力かを思いしらされた。万が一,同じ事故が起きたとして,いまならもっとうまくやれるといい切れるか。


 註記1)「運転時には毎日東京ドーム約6杯分の水を必要とする」という点は,原発1基あたりか,それとも原発事故を起こした東電福島第1原発4基分に対する分量か?

 註記2)フランケンシュタインなどまだかわいいのであって,原発や原爆の問題次元におけう話題となれば,これは当然,ゴジラに譬えるのが定番であるはずであった。同じような「想像上の〈生き物〉」を引きあいに出して例示的に理解を求める場合,より適切・適当な相手を選ぶべきであった。フランケンシュタインでは原子力放射能には全然勝てまい。

 要言すれば,電力生産装置・機械としての原発は,時代後れの,しかも相当な厄介ものでしかない電源を意味した。こんなものは捨てるしかないのである。しかし,そうはいっても,その後始末⇒廃炉問題がまた大ごとであって,原発そのものを稼働させえた年数の何倍にもなる期間をかけて片付けていく労苦が,人間側に押しつけられている。

 そこまで原発のかかえてきた現実問題を考えると,この《悪魔の火》を燃料に使う発電装置・機械は,だから,もともと魔物同然であった。ただし,この魔物が提供する火をTNT火薬の代わりに使う原爆ならば,悪魔から送られた核兵器としてそれなりに有用である。しかし,原発も原爆も悪魔からの贈り物であった事実にかわりはない。


 「処理水の風評,対策万全に 福島県知事インタビュー 県企業の廃炉参加めざす」日本経済新聞』2021年3月11日46面「社会1」

【引用する前の断わり】

 すでにだいぶ長い記述になっているので,この日経記事を引用して終わりにしたい。この記事はとくに「風評被害(事故原発から発生しつづけている「汚染水」の問題に関した話題なのであるが,最終的に除去できず残ってしまうために,太平洋に放出・排出することにしたい「トリチウムを含む処理水」をめぐる問題のこと)を気にした内容になっているが,それにしてもいったいなにをいいいたのか,不鮮明・不明解である。この種の記事に特有である日経記事の限界が露わであった。

 --東日本大震災東京電力福島第1限子力発電所事故から10年を前に,福島県の内堀雅雄知事がインタビューに応じた。原発にたまる放射性物質を含む処理水について,風評被害への万全の対策を政府に要請していると述べた。

 経済活性化の原点は県内企業がいい製品を作って稼ぐこと。もう1つの柱が新しい産業をつくることだ。ロボットなどのほか,核になるのが東電が手がける廃炉。地元企業が参加できるか否かが,福島が経済的により元気になれるかなれないかの分岐点になる。東電とも相談しながらマッチングをして県内の企業が廃炉の一定部分に貢献できるよう取り組んでいる。

 福島県内では帰還困難区域を除き面的な除染が完了し,避難地域でも医療介護,商業施設,学校など生活環境の整備が進み,復興は着実に前進している。一方でいまも多くの方々が避難生活を続けるほか,被災者の生活再建,廃炉や汚染水対策など課題は山積している。

 原発事故に伴う風評被害で教育旅行は回復が遅れ,桃や牛肉などの価格は震災前の水準に回復していない。食品の放射性物質検査を徹底し,認証ギャップ(農業生産工程管理)取得などに粘り強く取り組む。新型コロナウイルスへの対応に関心が集まることで,県の取り組みが埋もれないよう,ウィズコロナに対応した情報発信をおこなう。

 原発の処理水の海洋放出をめぐる問題の本質は風評対策だ。首相,官房長官経産相,復興相には会うたび,県の農林水産業や観光業に影響を与えないよう万全の対策を具体的に示してほしいといっている。

 昨〔2020〕年秋に処分方針が出る出ないという話があったが,それから相当の期間が経った。国はいま,県の意見を含め慎重に検討を重ねているからだと思う。県はいうべきことをいい,政府が今後どう対応するかをしっかり見極めたい。(引用終わり)

 とくに「政府が今後どう対応するかをしっかり見極めたい」とは「?」である。2011年3月11日からすでに10年が経過したこの時期に,いったい,なにのどれをどのように見極めるというのか。日経の立場なりに明確に具体的な主張をなすべきではないか。締まりのない記事であった。

 なぜ,東電福島第1原発事故から排出しようともくろんでいる汚染水(処理水)について風評被害が発生し,流布するのか。この問題からして,議論の外に置かれたごとき口調が聞こえる。本質を外した記事,報道に終始している。

 日経の記事でとりわけ大間違いを平然と説いているのが,「原発の処理水の海洋放出をめぐる問題の本質は風評対策だ」というくだりである。広瀬 隆がつぎのように根源から批判している。

 福島第1原発の汚染水はどんどん増えつづけるので,国は海に流すことだけを考えているが,この汚染水の主成分トリチウムは,セシウム放射能より質が悪くて,遺伝子の水素を消してゆくから,おそろしいことに,子供に伝える親の遺伝子DNAがバラバラになって,子供たちに重大な障害を起こす。それを風評被害と呼ぶのは科学的に間違いだ。

 註記)広瀬 隆「『即刻,全原発廃炉しかない』 除染作業が続く現実 #あれから私は」『AERA dot.』2021.3.11 08:02,https://dot.asahi.com/wa/2021031000015.html(『週刊朝日』2021年3月19日号)

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【参考記事】

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