新産業革命・脱炭素社会を唱えていながら,温暖化の原因として看過できない電源「原発の問題」は無視したまま,ただ原発を再稼働させたいための議論をする「『日本経済新聞』の怪」(2)

 要点・1 添田孝史『東電原発事故10年で明らかになったこと』平凡社,2021年2月は,こういっていた。

 「原子炉は緊急停止したのちも,数分で水1トンを蒸発させるほどの熱を発生しつづけている。冷やしたら止めたりするのに,一般家庭1万世帯ぐらいの電力が要る」(18頁)。

 要点・2原発が温暖化対策にならない5つの理由」の3項目,「原発も温暖化を進める」『GREENPEACE』https://www.greenpeace.org/japan/sustainable/story/2020/11/14/45947/  も,こういっていた。

 原発も……そのウランの採掘,精製,加工時では二酸化炭素が出ますし,そのプロセスでは船などによる輸送でも二酸化炭素が出ます。

 〔そして〕燃やしたあとは使用済み核燃料となり,数万年,環境から隔離しなければなりません。その設備の建設,維持している間も二酸化炭素は排出します。

 もうひとつの問題は「温排水」です。原発では燃料を冷やすために海水を使い……温まってしまい……,入れたときより7度~10度温まった状態で棄てられ……,海水温を上昇させ,排水口付近の生態系に影響を与えてしまいます。

 また,その水は温まっただけでなく,化学物質や放射能が含まれ,海水温の上昇に加えて,化学物質と放射能も生態系に影響を与えます。

 要点・3原発の問題」は「原爆の問題」に対して当然,直通していた話題であった。

 要点・4 原発コストが再生エネルギーのコストに完全に負けている現状。 

【断わり】-「本稿(1)」はこちら(  ↓  )。

 


  炭酸ガスが地球環境を温暖化するというが,その原因は原発にも大いにあるゆえ,この「当たりまえの事実=秘密」をしる専門家は,あえて触れない

 1)「2050年ゼロ宣言  自治体急増 温暖化ガス排出」「総人口1億人超え 実効性に課題」『日本経済新聞』2021年4月2日夕刊1面

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 この記事は,上の2つの表を添えて冒頭をつぎのように書き出していた。

  温暖化ガスの排出を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言した自治体が増えている。2019年9月には4自治体だけだったが3月上旬には300を超え,総人口は1億人を上回った。長野県や横浜市など積極的に取り組む地域もある。ただ自治体ごとに取り組みには濃淡があり,今後は具体性が問われる。

 この地方自治体から声が盛んに上がってきた温暖化ガス排出「2050年までゼロ目標」という標語は,市民・住民の生活基盤を意識したその削減ゼロに向けた目標をかかげている。しかし,産業界におけるこの問題がどうなるのかについては,それほど語られていない。

【参考記事】-参考図表:『朝日新聞』から-

 

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 2)「脱炭素30年目標,壁高く 2050年ゼロ,2030年4割超減らす必要 再生エネ後押し急務」『日本経済新聞』2021年4月1日朝刊3面「総合」

 この記事は,「脱炭素に向けた議論が日本でも本格的に動き出した。2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするためには,2030年時点で40%を大きく超える削減目標が必要だ。達成には,再生可能エネルギーの拡大や排出量取引制度の導入,技術投資などを急ぐ必要がある」と書き出している。

 しかし,この種の記事の場合は,いつものような報道の仕方であれば必らずといいくらい,それもかなり控えめになのだが,その内容にそっと添えられて登場してくる「原発の必要性」に関した言及が登場していなかった。

 3)『朝日新聞』2021年3月29日朝刊22面全体を充てていた「特集」の記事であっても,

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 このなかに立てられた小見出し「脱火力発電,再エネ増やす」という段落が,原発については,こう触れるだけであった。

 菅 義偉首相がかかげた「2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」という目標と,経済成長を両立させるため,経済産業省は昨〔2020〕年12月に「グリーン成長戦略」を策定した。

 

 国内で出る温室効果ガスの約9割は二酸化炭素(CO2 )だ。2019度の排出量(速報値)は約11億トンで工場などの「産業部門」が全体の35%と最多。「運輸部門」が19%で続く。

 

 経産省の戦略では,電力分野で火力発電を減らして再生可能エネルギーを増やす。原発も「可能なかぎり依存度を低減しつつも,安全性向上を図り,引きつづき最大限活用」する方針だ。産業分野では動力源を電気や水素に切り替える。CO2  の分離・回収技術も使う。 

 経産省原発「観」として発言したこの中身(前後の論理的なうねり)は,実に奇妙ないいまわしを体現させている。この「可能なかぎり依存度を低減しつつも,安全性向上を図り,引きつづき最大限活用」といったふうに,ややこしくこねくりまわした文句は,どのように読んでも

  a)「可能なかぎり依存度を低減」⇔ b)「安全性向上を図り」⇔ c)「引きつづき最大限活用」

という3項の関連性が意味不詳であり,意図的(姑息)にこうした表現を採っているとしか受けとれない。

 日本における原発問題は安全性( b) )を技術的に確保するという要請のために,「3・11」以前であれば「原発1基の販売価格が5千億円」であったところが,事後においては「その倍の1兆円」にまで高騰してきた。その影響で,日本の原発を海外へ売りこむ事業が2010年代には,つぎつぎと商談が不成立になっていった。結果,東芝・日立・三菱重工の経営は少なからぬ悪影響をこうむった。

 つまり,日本における原発の利用:稼働に原子力規制委員会が要求する「安全性向上」,原発という製品を生産するための原価は急上昇してきった。それゆえ,この利用は「可能なかぎり依存度を逓減」( a) )させるが,それでも「引きつづき最大限活用」( c) )というのでは,いったいなにをいっているのかさっぱり分かりえない。あえて「論理の明快性」を抜きとって欠如させた表現が,故意に開陳されていた。

 要は,日本は現有の原発をいかに理由を付けて再稼働させていくかという関心事をめぐり,経産省の立場から提示されたリクツ,その論理学的はアクロバット的に奇妙なリクツを展示しており,論理学的には解釈しかねる修辞を披露していた。

 4)〈Biz Frontier  subject:脱酸素〉2050年へ『新産業革命』を イノベーションを総動員」と題した『日本経済新聞』2021年3月30日朝刊23面「特集」記事もあった。こちらでは,前項で批判した経済産業省・エネルギー資源庁のレトリック(もっともその実体はヘリクツ程度に幼稚な表現なのだが)に,最初の段落で触れていた。

 しかし,こちら『日本経済新聞』の表現のほうが,いくらかは巧妙に文章の構成を工夫した跡が感じられる。

 つぎの画像資料は2点に分けて(この特集記事の全面を撮した画像ではない),以下に紹介しておく。なお,文章についてはそのごく一部分だけを,前後の論旨に関連する段落として引用しておく。

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 ※-1「グリーン成長戦略では,エネルギー産業,輸送・製造関連産業,家庭・オフィス関連産業の14分野にわたり野心的な目業が示され政策を総動員する。2030年に年額90兆円」,2050年で同190兆円程度の経済効果をみこむ」。

 

 ※-2「大前提になるのが電力部門の脱酸素化だ。再生エネルギーの最大限導入や水素発電,火力+二酸化炭素(CO2 )回収,原発も可能なかぎり依存しつつも,引きつづき最大限活用していく」。

 ※-1に※-2をつなげる論理構成が『朝日新聞』よりも,『日本経済新聞』のこの特集記事における文章表現が巧妙である。原発はむしろ迂回的な経路をたどって,それも「炭酸ガス」を直接には出さないかたちで,地球環境の温暖化に非常なる負的関与をしているにもかかわらず,この点は『朝日新聞』も同じであったが,いかにも原発も温暖化問題には大いに貢献できるかのように触れており,「完全なる誤説」を説こうとしている。

 この『日本経済新聞』のほうの特集に添付されていた図解「大胆に変わる電力・輸送」の中身が,非常に興味深い。この風景図のなかには,原発原子力発電所)は描かれていない(「原発隠し」?)。だが,「『2050脱酸素』の実現イメージ」という図解のほうには,2050年における「排出と吸収で実質0トン(-100%)」という箇所にあっては,

    「原子力・火力+CO2  回収  30~40%」

と記入(表記)されている。

 本ブログ筆者は,このように「原子力」と「火力」と並べてひとくくりにしておき,原発も電源としては火力発電の仲間であると位置づける方針については,以前から指摘してきた点があった。これは火力の減少を原子力で補い,代替させる意図を示唆している。

 ごく最近になっての変更点とみうけるが,以前は火力発電とは別に独立した分類項目に位置づけられてきた原発原子力)が,いつの間にか火力のほうに仲間入りさせられていた。原発が「独自の分類」として目立たないあつかいに変更されていた。

 以上の推移・経緯を感知してみた本ブログ筆者は,そうした原発原子力)のエネルギー資源問題の全体における位置づけ,そして原発の技術経済的な評価も,ある意味で決定的に豹変した様相に接して,驚くほかなかった。

 5)「JPOWER Group」の全面広告には原発原子力)という語句はない

の全面広告がエネルギー産業企業が出稿した内容であったが,原発原子力)のことには一句どころか,その一字さえ登場していなかった。

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 この全面広告は「広告そのもの」であるだけに,つまり企業の広告として経済社会・国民生活に向けて訴求したいなにかを表現しなければならない関係上,原発とは 事業経営の実際において深いかかわりのないこの「JPOWER Group」でもあるゆえか,原発原子力)ウンヌンはしていない。

 補注)JPOWER Group の事業内容については,つぎの参照されたい。おおまかな理解はできる。

 主なグループ会社 | 企業概要 | J-POWER 電源開発株式会社

 

 J-POWERジェネレーションサービス株式会社 

 

  事業内容 | J-POWERジェネレーションサービス株式会社

 以上のホームページにおける説明で判る範囲では,「JPOWER Group」は原発の本体(原子炉)に直接関与する事業は展開していないと推察される。

 しかし,原発関連の装置・機械の全体面に関する工事などには,いまだに日本全国には廃炉の決まった原発も含めて60基も存在する事実に即していえば,この原発部門から生まれる各種の需要に応えないという手はない。

 要するに,「JPOWER Group」の主な事業部門は「再生エネルギーで未来を加速する」,「CO2 フリー 水素をつくる」などといった路線をめざしており,原発事業の中核部分とは一線を画している(⇒経営の実際においてそのように「画せる」会社である)。


  経済産業省・エネルギー資源庁の原発絶対維持の観点「批判」

 経産省の「原発保有」戦略は,こう表現されていた。

 電力分野で火力発電を減らして再生可能エネルギーを増やす。原発も「可能なかぎり依存度を低減しつつも,安全性向上を図り,引きつづき最大限活用」する方針だ。産業分野では動力源を電気や水素に切り替える。CO2 の分離・回収技術も使う。

 これに対して『朝日新聞』「東京経済部・記者」の大津智義は,2021年4月1日夕刊7面のコラム「取材考記」で,その経産省のもくろみ(たくらみ)を,つぎのように批判していた。これはまっとうな議論になっている。

  ◆〈取材考記〉「脱炭素社会に不可欠」と主張する前に--原発の負の側面,国は直視すべきだ ◆

 

 東日本大震災による東京電力福島第1原発の事故から10年が過ぎた。その節目の年に,将来のエネルギー政策の方向性を決める「エネルギー基本計画」の改定作業が進む。菅 義偉首相が昨〔2020年〕秋にかかげた2050年までの温室効果ガスの排出「実質ゼロ」の実現に向けた試金石となる。

 

 政府は風力などの再生可能エネルギー(再エネ)をできるかぎり導入する方針だが,気になるのは「原発復権」ともいえる推進派の声の強まりだ。電力業界は「新増設やリプレース(建て替え)が不可欠だ」と踏みこみ,原発産業は「依存度を可能なかぎり低減する」という政府方針の見直しを求める。

 

 発電時に二酸化炭素を出さない原発なしに,脱炭素社会は描けないとの考え方にもとづいている。その一方で,改定作業をリードする経済産業省の進め方は実に巧妙だ。すぐに原発に飛びつくことはせず,地理的制約がある日本では,再エネ普及に限界があることを強調する。議論が煮詰まっていけば,「原発は不可欠」との結論が自然と導き出されるとの読みがある。

 

 そこには,新増設や建て替えも視野に入ってくる。なぜなら,脱炭素は50年に実現したら終わりではなく,それ以降も続く長期的な課題だからだ。幹部の1人はこういい切る。「常識のある人なら,原発がなければ脱炭素は実現できないと分かっている」。

 

 しかし,本当に原発は不可欠なのだろうか。事故を起こした東電では不祥事が相次ぐ。再稼働をめざす柏崎刈羽原発新潟県)で不正侵入が長期間検知できない状態だった問題や,社員が他人のIDカードで中央制御室に入室したことが明るみに出た。関西電力でも,役員が,原発の立地する福井県高浜町の元助役から多額の金品を受領していた不祥事は記憶に新しい。

 

 10年前の事故の教訓を,電力業界が生かしているとはとても思えない。国はエネルギー政策で原発の必要性を強調するが,「負」の側面を正面から取り上げて議論を尽くすべきだ。原発に関わる問題がいまも後を絶たないのはなぜなのか,総括ができていない。再エネで足りない分は原発でと主張する前に,やるべきことがある。

 以上の大津智義記者による記述には,実は,まだ足りない論点がいくつも残されている。

 まず,電力業界が原発の「新増設やリプレース(建て替え)が不可欠だ」と主張し,原発産業への「依存度を可能なかぎり低減する」政府方針の見直しを求めている点については,イタリアが原発を廃絶し,ドイツが原発を2022年までには全廃する予定を,どう受けとめているのかという問題が出てくる。

 このイタリアやドイツの実例に対しては,イタリアやドイツはフランスから電力を購入しているではないか,そのほかの隣接国などから電力を調達しているのではないかという反論もありうる。しかし,その問題を日本の問題にじかに当てて,批判しようとする意図は当たらない。

 日本は南北(東西)に長い島国であり,再生エネルギーの導入・利用の今後についてとなれば,原発なしで電力の需給を開発・調整できる地理・風土的な条件が備わっていないわけでない。それでなくとも「3・11」の体験を経てきたゆえ,再生エネルギーの電源比率を最大限にまで高める努力をしてきたとしても,なんらおかしくないのがこの国である。

 ドイツの場合は日本の東電福島第1原発事故をみせつけられて,それまでの原発維持・利用の電力体制を180度転換させ,原発廃絶に踏み切った。フランスとて8割近くもある原発比率をなるべく下げる努力に向かわざるをえなくなっている。

 ともかく日本の再生エネへの移行率は遅々としており,原発維持を企図する原子力村的な利害関係方面は,再生エネの不足を供給できるエネルギー源が原子力であるなどと,いまだに滅相でもない観念・発想に固執してやまない。

 また,「発電時に二酸化炭素を出さない原発なしに,脱炭素社会は描けないとの考え方」じたいが,脱炭酸ガス政策として有効ではない事実については,この記述の「(1)」ですでに根本的に批判済みであった。

 その考え方は,実際には膨大な炭酸ガスの発生源にならざるをえない原発を,「火力発電」のひとつに分類しつつも,それでいてまだなお「炭酸ガスのたいした発生源にならない」などいった謬論を振りまいている。

 経済産業省は「すぐに原発に飛びつくことはせず,地理的制約がある日本では,再エネルギー普及に限界があることを強調」し,結局「原発は不可欠」との結論が自然と導き出されるとの読みを事前にしているというけれども,これも読みが浅い。

 再エネルギー普及の可能性が日本では限界があるといわれていないわけではない。けれども,「常識のある人なら,原発がなければ脱炭素は実現できないと分かっている」というのは,まさしく〈しったかぶり〉でする独断論であった。再エネルギーの未来像(すでに日本以外では実現させている国々がいくつもある)をしりたくない者だけが放てる盲論は,好ましくない。

 結局,日本では「10年前の事故の教訓を,電力業界が生かしているとはとても思えない」し,とりわけ「原発の必要性を強調するが,『負』の側面を正面から取り上げて議論を尽く」そうともしていない。「原発に関わる問題」の「総括ができていない」のに,「再エネルギーで足りない分は原発でと主張する前に,やるべきことがある」という朝日新聞社記者の意見はまっとうである。

 原子力村側の利害集団の理念(この一方的な観念の世界)にこだわっているかぎり,日本は「再生エネルギーの導入・利用」の展開においては「他国との格差」を拡げていくほかなくなる。

 それでは,2011年の「3・11」東日本大震災によって日本が惹起させた東電福島第1原発事故の反省も克服も,なにもできていないことになる。そのせいか,「3・11」⇒東電福島第1原発事故の事実をとらえて,日本の「第2の敗戦」といわれてもいる。

 経済産業省・エネルギー資源庁の国家官僚たちは,太平洋(大東亜)戦争にかかわらしめて表現するとしたら,『東京裁判史観』を認めたくない「旧日帝的な日本民族風の国粋的観念右翼」による「戦前・戦時体制」観を思い起こさせる。

 同じ敗戦国でもイタリアやドイツが先に原発とはおさらばしている事実に比較して,日本側のなんとも間の抜けたエネルギー問題をめぐる歴史「観」の貧相さには呆れるほかない。日本は太陽光発電に比較して風力発電の開発にはまだ多くの余地があり,こちらの方面における進展が期待できる。 

 補注)ここでは,つぎの記事を参照しておきたい。

 

 「フランスとスウェーデン風力発電原子力発電を追放する」,トーマス・コーベリエル(自然エネルギー財団理事長)/ ロマン・ジスラー(自然エネルギー財団上級研究員)『自然エネルギー財団』2020年4月24日,https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20200424.php


 世界のなかでも,フランスとスウェーデンは,国民1人あたりの原子力による発電電力量が圧倒的に多い。2か国の共通点はこれだけではない。電源構成における低炭素電力の割合がきわめて高く,約90~95%となっている。

 補記)この「原発」を「低炭素電力」に分類する定義的な考えには疑問符ありであった点を断わっておく。

 

 歴史を遡ってみると,この高い割合は,水力と原子力によるものだったが,最近では風力の拡大が貢献しはじめめている。実際,フランスとスウェーデンは,2018年と2019年に,新規風力発電設備を導入した欧州上位5か国の2か国だった 。

 

 電源構成比をみると,フランスとスウェーデンでは,化石燃料による発電(石炭,ガス,石油)の割合が低い。そして風力発電が,燃料を必要とするそうした発電に代わって拡大するにつれて,これまで一番安い電源として限界電源(marginal electricity)の位置を占めてきた原子力は,より安い費用で電力を提供できる(より限界費用が低い電源である)水力と風力に,しばしばその位置を奪われはじめている。

 

 これは,原子力で発電された電力が,系統システムの状況に合わせて出力調整されているということである。需要の低下と水力や風力の豊富な発電が,電力価格の下落を招き,原子力発電の設備利用率を低下させ,原子力の経済性を悪化させているのである。

 

 2020年の第1四半期は,こうした状況のケーススタディといえる。欧州は,今年の1月から3月にかけて,暖冬のために暖房用電力需要が減少した一方で,水力や風力にとっては気象条件が良好だった。当然ながら,フランスとスウェーデンの電力価格は安価で推移し,原子力の発電電力量は低下した。

 

 フランスの前日市場の価格は,平均で30ユーロ/MWhを下回り,原子力の発電電力量は10TWh以上減少した(またはマイナス10%となった)。スウェーデンでは,より高い水準で水力や風力が導入されているため,前日市場価格はフランスより低い。平均で20ユーロ / MWh未満,時折10ユーロ / MWhを大きく下回り,原子力の発電電力量は,約2TWh減少した(またはマイナス10%となった)。

 

 こうした状況から,今〔2020〕年末まで運転を継続し廃炉となる予定だったスウェーデンのリングハルス原子力発電所1号基は,採算が取れずに経済的運転停止状態となった。(〔関連する図表など〕中略)

 

 フランスでは,2020年2月15から17日の電力需要は比較的緩やかな一方,水力と風力による発電出力は大きく,2月16日の午前中に国の発電電力量の最大3分の1を占めた。この時点のスポット市場価格はネガティブプライス(価格が「マイナス」であること)で,原子力の発電出力は36GWと底打ちし,この3日間の最大値だった50GWに対し30%低かった 。

 

 スウェーデンでも,2020年2月14から20日の電力需要は比較的緩やかな一方,水力と風力による発電出力は大きく,とくに2月17日は,ほぼ終日にわたり国の発電電力量の最大4分の3を占めた。この時点のスポット市場価格は10ユーロ / MWhを少し上回る程度で,原子力の発電出力は同週の最大8GWに対し最低5GWで,約35%低かった。

 

 スウェーデンでは,原子力より風力の発電量が増える事例が多くなり,2020年の第8週目は,初めて,原子力より風力の発電量が継続して上まわる週となった 。

 

 今後は,限界費用がゼロに近いコスト競争力のある自然エネルギーの一層の拡大に伴って,こうした事例がより頻繁となり,さらに原子力発電技術を脅かすことになるだろう。こうして,自然エネルギーはしだいに割合を拡大し,最終的には原子力に取って代わる電源となるであろう。

 

  参考となる文書・解説資料

 日本の役所でも経産省とは対極の方角を向いている環境省は,たとえば,いまから7年前に公表した文書のなかで,こう主張していた。

 1)「再生可能エネルギー導入加速化の必要性」『環境省』2014年5月22日,https://www.env.go.jp/earth/report/h26-01/chpt01.pdf

 地域レベルで再生可能エネルギー普及をおこなうことの意義エネルギー供給方式を,原子力,火力(化石燃料)および再生可能エネルギーの3つに分類した場合,原子力と火力(化石燃料)は,地域の特性に応じて地域が独自に普及を進めることがむずかしいエネルギーである。

 他方で,地域の特性に応じて地域の主体が普及を推進できる再生可能エネルギーは,地域が主導的にエネルギーの政策や地域づくりの一環として進めることが可能である。地域主導の再生可能エネルギー普及方策の策定や地域特性に応じた取組を実施していくことの意義として以下が挙げられる。

 地域のエネルギーセキュリティ向上に向けて,みずからの地域にあった再生可能エネルギーの普及を検討することが可能(電力にくわえて,再生可能エネルギー熱利用は地域性がさらに高いものとなる)。

 ・普及方策についても地域の主体が連携して能動的に検討することが可能。

 ・技術的にも地域の企業などがコストダウン等の創意工夫を活かす余地が大。

 ・経営主体として地域の主体が参画することが可能。

 ・普及のための資金を,地域金融機関,地域の主体が連携して調達することが可能。

 ・地域の特性に応じた普及を進めていくことで,地域を活性化し,特徴のあるまちづくりにつなげていくことが可能。

 ・地域が主体的に具体のプロジェクトを進めていく場合,周辺環境影響について事前に配慮することが可能。

 また,地域間連携により再生可能エネルギー普及方策の策定や地域特性に応じた取組をおこなっていくことの意義としては,以下が挙げられる。

 ・各地域の取組が同時進行することで,相互の学習効果が働き,普及方策や取組を集合知により洗練させていくことが可能。

 ・普及(供給)のポテンシャルを有する地方の主体と資本力,経営力,技術力等を有する都市部の主体が連携することで,わが国全体のエネルギーセキュリティ,エネルギー需給安定化を向上させていくことが可能。

 2)『わが国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル』環境省の解説資料-更新 2020年9月25日)から-

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 3)「核兵器の先制不使用案は『日本の反対で断念』 オバマ政権元高官が証言」『東京新聞』2021年4月6日 06時00分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/95967

 関連させては軍事問題として「原発の存在」が,日本の場合でも有する戦略的な問題性を示唆させておくために,つぎの記事を引用しておく。

 経済産業省・エネルギー資源庁の原発に対するこだわりは,もともと原爆(核兵器)と無縁どころか大ありであった。その種の話題にゆきつくほかない事情が控えていたと断わっておいたほうが,理解しやすい話題となるはずである。

【ワシントン=金杉貴雄】 米オバマ政権が2016年に検討した核兵器の先制不使用宣言に関し,国務省の核不拡散担当だったトーマス・カントリーマン元国務次官補が本紙の取材に対し,対中抑止力の低下を懸念した日本政府が反対したことが宣言を断念した最大の要因だったと証言した。

 

 日本が反対していたことはこれまで米紙などの報道で伝えられていたが,日本政府は一貫してコメントを差し控えてきた。今回,当時政権内にいた米元高官が認め,裏付けられたかたちだ。

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