文献は正確に読もう!  BCG所属の経営コンサルタントの貧弱な読解力はその後改善されたか?

             (2011年10月24日,更新 2021年6月6日)

 ピーター・F・ドラッカー『現代の経営』1954年がすでにいっていたことを,平坦に読み流した経営コンサルタントの読解力 が気になって,10年前に書いてあった文章を復活させる

 

  要点・1 文献購読はまずなによりも,その原典を忠実に理解することが第1義的に重要な注意事項

  要点・2 ドラッカーは「経営思想の神様」にあらず,オカルト的に追随するのは要警戒

 

 「〈森健太郎と読む「マネジメント」〉(1)経営学の父 求められるもの,平易に説く」日本経済新聞』2011年10月17日朝刊「キャリアアップ」の解説記事

 2011年10月17日付『日本経済新聞』朝刊の上記コラムの「解説記事」は,ドラッカーの理論を解説しはじめていた。

 本日のこの記述は,そのなかにみいだした “おかしな理解,不正確な説明部分” を指摘するのが目的である。ともかく,経営コンサルタント健太郎のその文章全体を,さきに引用しておく。なお,a),b),c) ,…… の符号は本ブログ筆者である。

 a) 連載の初回を飾るのは経営学の父,ピーター・ドラッカー(1909~2005年)著の『マネジメント』です。ソニー創業者の故盛田昭夫氏やファーストリテイリングの柳井 正会長兼社長などドラッカーの愛読者は数しれません。必読の経営書を一冊だけ挙げるなら間違いなくドラッカーの本でしょう。

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 b) ドラッカーの著作は多岐に及びますが,その中核をなすのが,経営論三部作です。1954年に『現代の経営』を発表,企業の中核機能は「マーケティング」と「イノベーション」であると論じます。1964年の『創造する経営者』では経営戦略を正面からとりあげ,企業の目的は「顧客の創造」であるとしました。

 c) そして,ドラッカーが万人のための経営学として世に出したのが,いまも世界中で広く読まれている1966年の『経営者の条件』です。1973年にドラッカー経営学の集大成として書かれた『マネジメント』は,翻訳版は1000ページを超える総合書です。

 d) ドラッカーのことばは分かりやすく,数式や難解な理論はありません。若い読者が手にとると,当たりまえのことが並んでいてなにがすごいのかピンとこないかもしれません。最初はそれでもかまいません。

 将来,初めて部下をもったとき,全社プロジェクトに抜擢されたとき,壁にぶち当たったときなどに,ふと本棚のドラッカーを思いだして,また読んでみる。すると,ドラッカーは必らず,新たな気づきを与えてくれ,励ましてくれます。私もそうでした。

 e) 今回とりあげる『マネジメント』のなかでドラッカーは,現代社会を「組織社会」ととらえて,マネジメントこそが「社会の要」であり,社会の中核を担う崇高な存在であると位置づけます。

 社会の進歩と人の幸せは,企業,政府,NPOなどのさまざまな組織が,マネジメント層によっていかにして運営され,どれだけの成果を生み出すことができるかにかかっているからです。

 f) そして,マネジメントは「実践と行動」によって誰にでも学べるものであると説き,企業にとって,管理職にとって,そして経営陣にとって,具体的になにが求められているのかを考察します。 (ボストンコンサルティング

 

  疑問に感じた不正確な記述部分

 経営学を専攻してきた本ブログの筆者は,昭和40〔1965〕年10月に新しく日本語訳でもって公刊された『現代の経営  上・下』(ダイヤモンド社)を,学生時代,ある指導者のもとで徹底的に読まされた体験を有する。いまも書斎の棚には傍線がたくさん引かれた同書が並んでいるし,これをときどき手にとってつまみ食い的に読むこともある。

 そこで,経営コンサルタント健太郎① の  b) で,

  ☆-1『現代の経営』1954年で「企業の中核機能は『マーケティング』と『イノベーション』であると論じ」,

  ☆-2『創造する経営者』1964年で「経営戦略を正面からとりあげ,企業の目的は『顧客の創造』であるとし」た

と説明するのは全然正確ではない。というか,厳密にいえば完全に間違いである。
 
 ドラッカー『現代の経営』(1965年の日本語訳,上)「5 事業とは何か」には,「顧客の創造」という項目が同書の47-48頁に説明されているが,これを受けてさらに「企業の2つの基本的機能」である「マーケティング」と「イノベーション(革新)」が記述されていく(48頁以下)。

 以上の事実を飛ばして森のように,1964年の『創造する経営者』では経営戦略を正面からとりあげ,「企業の目的は『顧客の創造』であるとしました」というのは,ドラッカーが『現代の経営』1954年ですでに「顧客の創造」という事業目的観を提示していた点を, ① の b)  のように解説することによって,わざわざ10年も遅らす恣意的な理解=誤説を,しかも『日本経済新聞』上で披露したことになる。

 たしかに『創造する経営者』(日本語訳,ダイヤモンド社,昭和39年)も,第6章「顧客あっての企業」のなかで「企業の目的は,顧客の創造にある」(136頁)と書いているが,これにはきちんと,ドラッカー自身による「原注」が付けられており,こう断わっている。

 10年まえに,筆者の “ The Practice of Management ”(New York and London  1954)(『現代の経営』現代経営研究会訳,自由国民社,昭和31〔年。これは本書の日本語初訳〕)ではじめて述べたことを再言すれば……(137頁)。

 結 語。 要は,正確に文献を読み,間違ってもデタラメを,大手経済新聞の解説記事に書くのは止めてほしいと思う。「経営の実践」(The Practice of Management!)にたずさわる経営コンサルタントだから(?)といって,けっして許されることではない。

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