発電時の原発は炭酸ガスを排出しない(?)と珍妙な奇説を開陳してきた原発推進派のエセ論理,すでに原発コストは安価ではありえない現実を承知しながら,2030年に「電源比率20~22%」まで回復したいという奇怪な目標設定(その2)

 原子力による発電方法は安心・安全でない事実は既知となった現在,そして最安価の電源でもない原発の利用は,危機管理の問題意識に照らしていえば絶対に事故を起こしてはいけない にもかかわらず,日本がこれからもまだ原発の利用を増やしていきたいとする摩訶不思議

 

  要点・1 地球温暖化に対して顕著な影響を及ぼしてきたのが原発である

  要点・2 原発炭酸ガスを発電時に直接出さないという主張じたいは否定しえないが,同時に,炭酸ガスの排出なしで大量に排出するエネルギーを,冷却水を媒介にして周辺の海域に向けて流しこみ,こちらを大規模に温めている

  要点・3 東電福島第1原発事故現場では2022年からデブリ取り出し作業が始まるというけれども,その強い絶望的な見通し

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「本稿(その1)」】は,以下の記述。


  小出裕章稿「原発温排水が海を壊す-原発からは暖かい大河がながれている-」『imidas』2010年3月26日,https://imidas.jp/jijikaitai/k-40-059-10-03-g112

 この文章は,「3・11」「東電福島第1原発事故」発生の1年ほど前に書かれていた小出裕章の寄稿であった。この種の主張もおこなってきた小出は,以前にもたとえば,

 「2007年 原発は巨大な『海温め装置』エネルギーの3分の2は海に棄てられ,海を温めている」『月刊誌 Actio』1252号,2007年11月19日,『小出裕章(京大助教)非公式まとめ-京都大学原子炉実験所助教 小出裕章氏による情報』

と題した文書などをもって,この問題:原発こそが海を温めている」⇒「地球温暖化」の原因になっている事実を解説していた。

 補注)2007年を前後する記事は,当時の日本の電力事情は,ほぼ最高の需要水準に達していた時期である。

 ここでは,この『imidas』2010年3月26日に寄稿した小出裕章の文章,「海温め装置」としての原発を解説した一文を引用しておく。

 --原子力発電所の稼働に不可欠な冷却水は,その膨大な熱とともに放射能や化学物質をともなって海に排出される。この温廃水(温排水;hot waste water)の存在,あるいは環境への影響が論じられることは少ない。地球温暖化への貢献を旗印として原子力回帰が叫ばれるなか,けっして避けられない温廃水の問題を浮き彫りにする。

 a) 蒸気機関としての宿命

 地球は46億年前に誕生したといわれる。その地球に人類が誕生したのは約400万年前。地球の歴史を1年に縮めて考えれば,人類の誕生は大みそかの夕方になってからにすぎない。

 その人類も当初は自然に寄り添うように生活していたが,18世紀最後の産業革命を機に,地球環境との関係が激変した。それまでは家畜や奴隷を使ってぜいたくをしてきた一部の人間が,蒸気機関の発明によって機械を動かせるようになった。

 以降,大量のエネルギーを使うようになり,産業革命以降の200年で人類が使ったエネルギーは,人類が全歴史で使ったエネルギー総量の6割を超える。その結果,地球の生命環境が破壊され,多数の生物が絶滅に追いやられるようになった。その期間を,地球の歴史を1年に縮めた尺度に合わせれば,大みそかの夜11時59分59秒からわずか1秒でのことである。

 今日利用されている火力発電も原子力発電も,発生させた蒸気でタービンを回す蒸気機関で,基本的に200年前の産業革命のときに誕生した技術である。その理想的な熱効率は,つぎの式で表される。

 理想的な熱機関の効率 = 1-(低温熱源の温度 ÷ 高温熱源の温度)

 (※それぞれの温度には「K(ケルビン)」の単位で表す絶対温度を用い,「℃」で表す摂氏温度の数字に「273」をくわえ,たとえば0℃=273K,100℃=373Kとなる)

 だが,現実の装置ではロスも生じるため,この式で示されるような理想的な熱効率を達成することはできない。火力発電や原子力発電の場合,「低温熱源」は冷却水で,日本では海水を使っているので,その温度は地域差や季節差を考慮しても300K(27℃)程度であり,一方の「高温熱源」は炉で熱せられ,タービンに送られる蒸気である。

 そのため,火力発電と原子力発電の熱効率は,基本的にそれらが発生しうる蒸気の温度で決まり,その温度が高いほど,熱効率も上がることになる。〔しかし〕現在稼働している原子力発電では,燃料の健全性を維持するため冷却水の温度を高くすることができず,タービンの入り口での蒸気の温度はせいぜい550K(約280℃)で,実際の熱効率は0.33,すなわち33%しかない。つまり,利用したエネルギーの二倍となる67%のエネルギーを無駄に捨てる以外にない。

 b) 想像を絶する膨大さ

 この無駄に捨てるエネルギーは,想像を絶するほど膨大である。たとえば,100万kWと呼ばれる原子力発電所の場合,約200万kW分のエネルギーを海に捨てることになり,このエネルギーは1秒間に70トンの海水の温度を7℃上昇させる。日本には,1秒間に70トンの流量を超える川は30筋もない。原子力発電所を作るということは,その敷地に忽然として「温かい大河」を出現させることになる。

 7℃の温度上昇がいかに破滅的かは,入浴時の湯の温度を考えれば分かる。ふだん入っている風呂の温度を7℃上げてしまえば,普通の人なら入れないはずである。しかし,海には海の生態系があって,その場所に適したたくさんの生物が生きている。

 その生物たちからみれば,海は生活の場であり,その温度が7℃も上がってしまえば,その場では生きられない。逃げることのできない植物や底生生物は死滅し,逃げることができる魚類は温廃水の影響範囲の外に逃げることになる。人間からみれば,近海は海産資源の宝庫であるが,漁業の形態も変える以外にない。

 c) 途方もない環境破壊源

 雨は地球の生態系を持続させるうえで決定的に重要なもので,日本はその恵みを受けている貴重な国のひとつである。

 日本には毎年6500億tの雨が降り,それによって豊かな森林が育ち,長期にわたる稲作も持続的に可能になってきた。雨のうち一部は蒸発し,一部は地下水となるため,日本の河川の総流量は年間約4000億tである。

 一方,現在日本には54基,電気出力で約4900万kWの原子力発電所があり,それが流す温廃水の総量は年間1000億tに達する。日本近海の海水温の上昇は世界平均に比べて高く,とくに日本海の温度上昇はいちじるしい。

 補注 1)「3・11」後において日本の原発稼働率が低下してきた事実は承知のとおりである。次表2点を参照。

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 補注 2)「3・11」発生以後,急速に進行していった原発基数の稼働率低下は,2014年9月15日には,日本全国の原発が稼働を停止してから1年を迎えるまでになっていた。そして,さらにその後,約2年ぶりに再稼働をすることができたのは,2015年8月11日になっていた。その時は,九州電力台原発1号機が原子炉を再稼働していた。

小出裕章の記事に戻る→〕 原発の温廃水は,日本のすべての川の水の温度を約2℃温かくすることに匹敵し,これで温暖化しなければ,その方がおかしい。そのうえ,温められた海水からは,溶けこんでいた二酸化炭素(CO2 )が大量に放出される。もし,二酸化炭素地球温暖化の原因だとするなら,その効果も無視できない。

 もちろん,日本には原子力発電所を上回る火力発電所が稼働していて,それらも冷却水として海水を使っている。しかし,最近の火力発電所では770K(約500℃)を超える高温の蒸気を利用できるようになり,熱効率は50%を超えている。つまり,100万kWの火力発電所の場合,無駄に捨てるエネルギーは100万kW以下で済む。

 もし,原子力発電から火力発電に転換することができれば,それだけで海に捨てる熱を半分以下に減らせる。さらに,火力発電所を都会に建ててコージェネレーション(cogeneration),すなわち無駄に捨てるはずの熱を熱源として活用すれば,総合的なエネルギー効率を80%にすることもできる。しかし,原子力発電所はけっして都会には建てられない。

 d) 熱,化学物質,放射能の三位一体の毒物

 温廃水は単に熱いだけではなく,化学物質と放射性物質も混入させられた三位一体の毒物である。

 まず,海水を敷地内に引きこむ入り口で,生物の幼生を殺すための化学物質が投入される。なぜなら海水を施設内に引きこむ配管表面にフジツボやイガイなどが張り付き,配管が詰まってしまっては困るからである。

 さらに,敷地から出る場所では,作業員の汚染した衣服を洗濯したりする場合に発生する洗濯廃水などの放射性廃水もくわえられる。日本にあるほぼすべての原子力施設は,原子炉等規制法,放射線障害防止法の規制にもとづき,放射性物質を敷地外に捨てる場合に濃度規制を受ける。

 原子力発電所の場合,温廃水という毎日数百万トンの流量をもつ「大河」がある。そのため,いかなる放射性物質も十分な余裕をもって捨てることができる。洗濯廃水も洗剤が含まれているため廃水処理がむずかしい。原子力発電所からみれば,苦労して処理するよりは薄めて流すほうが得策である。

 たとえば,昨今話題となる核燃料サイクルを実現するための核燃料再処理工場は,原子力発電所以上に膨大な放射性物質を環境に捨てる。ところが,再処理工場には原子力発電所のような「大河」はない。そこで,再処理工場は法律の濃度規制から除外されてしまった。逆にいえば,原子力発電所にとっては,温廃水が実に便利な放射能の希釈水となっているのである。小出裕章・引用終わり)

 以上のごとき原発という発電装置・機械に固有である問題性,いいかえれば極度に高い種々の有害性については,国家側が説明する段になると,たいして深刻ではない現象であるかのように再解釈をほどこされる,いいかえれば,徹底的に希釈・加工されて変質をこうむる。

 つぎの ⑥ に引照する原子力村側の説明は,小出裕章のそれとは真逆の方途に向かい,一般大衆側の理解・認識を誤誘導させることにだけ熱心である。なお,引照される住所(アドレス)中の “http://www.aec.go.jp/” とは,内閣府原子力委員会のそれである。

 

  小出裕章の指摘・批判に比較すると,論点を意図的にボカした説明しか答えておらず,隔靴掻痒どころか韜晦ないしは明確な論点はずし 

     ◆ 全国の原子力発電所の毎月の排熱量について ◆
  http://www.aec.go.jp/jicst/NC/qa/iken/iken-q85.htm

 ※-1「質問した人物」 職業・自営業 年齢・66歳~70歳 性別・男性

 ※-2『御質問の内容』

   全国の原子力発電所の排熱量は毎月何Calでしょうか?
   これは,地球の環境を破壊していないか,如何考えますか?


 ※-3「回答」 

 1) 原子力発電所でタービンを回した蒸気は復水器に送られ,海水により冷却され水に戻り,再び原子炉に送られます。この復水器で使われる冷却用の海水は,海へ放出される時に取水した時の水温に比べ何度かの温度上昇がありますので,一般に温排水と呼ばれています。この温排水は,海面から比較的浅い地域に拡がっていきます。

 2) 世界全体の運転中の原子力発電所の排熱量を1時間あたり約6.0×10の14乗カロリーとして,日本国内の原子力発電所(53基,4712.2万kW)に換算すると1ヶ月あたり約6.0×10の15乗カロリーになります。また,太陽からの放射入熱は1ヶ月あたり約8.0×10の22乗カロリーになります。

 付記)世界全体の原子力発電所の排熱量および太陽からの放射入熱は以下の値を用いています。原子力情報なび:http://www.atomnavi.jp/uketsuke/qa03_28_020356.html

 

 ただし現在,このサイトは削除されている。以前閲覧した時の記憶によれば,高等数学についてある学力がない人には,とてもむずかしくてわかりえないものであった。なぜ,現在,この住所が削除されているのか,特定の事情があったものと推察してみる。

 補注)ここでの説明内容(方法?)で出てきた「14乗⇒15乗⇒22乗」という乗数関係の表現は,その質的な意味,いいかえれば自然科学的にその本質面で有する意味あいを,特定にあるいは格別にはなにも説明していなかった。読む側が勝手に解釈したらよい程度にしか記述していなかった。

 この 2) のごとき,

  まず,「世界全体の運転中の原子力発電所の排熱量を1時間あたり約6.0×10の14乗カロリー」(ここでは,原発1基の1時間あたりに関する計算の話)

  つぎの,「日本国内の原子力発電所(53基,4712.2万kW)に換算すると1ヶ月あたり約6.0×10の15乗カロリー」(ここでは,当時の日本の原発53基分の1カ月あたりに関する計算の話)

  さらに,「太陽からの放射入熱は1ヶ月あたり約8.0×10の22乗カロリー」(ここでは,太陽から地球全体に入ってくる熱量の関する計算の話)

といって並べて比較させた熱量関係の “それぞれの具体的な単位” は,いったいなにを説明したいのかとみれば,要は,地球温暖化に対して原発が排出する熱量は,とくに問題になるよう水準ではないと訴えている。本当か?

 以上のごときに一見は判ったようで,実は,けっしてよくは理解しかねる「比較の方法」は,前項で小出裕章が批判して論じていた原発排熱問題が,それほど深刻ではなく,問題にされるほど重要ではない,という立場からなされていた。結局,そこでなにをどのように理解してもらいたいのかというと,たいした問題(自然環境に与える負の効果=地球温暖化)にはなっていないと “入念な説明” を試みていた。

 3) 温排水の放流によって,海水の温度や流れが変化し,海の生物や漁業に影響があるのではないかといわれていますが,温排水は海の表層を拡がり,放水口から少し離れれば周辺の海水と混合したりして,温度差は急激に小さくなり,流れの速度も低下するため,影響の範囲は放水口近くに限られます。

 補注)このように,温排水の放流がもたらすその「影響の範囲は放水口近くに限られ」るという説明は,それ以後において海水中に発散・吸収されていく熱量を,あたかも問題ないかのようにとりあつかうための便法となっていた。

 発電所設置時の温排水対策としては,計画予定地点周辺の環境を調査し,必要に応じて放水口の位置を漁場などから離れたところに設ける,取水口は温排水が再循環しないような位置に設ける,深層取水設備を施すなどの基本的な対策が立てられています。そして海の調査結果,温排水拡散予測結果等を総合的に検討してもっとも適切な取水方法,放水方法が採用されます。

 補注)しかしそうだとすると,さきほど提示されていた「日本国内の原子力発電所(53基,4712.2万kW)に換算すると1ヶ月あたり約6.0×10の15乗カロリー」そのものは,どこへどのように「ここで説明されている経路をたどる結果」となって拡散され,しかもその分の熱量がいかほど温暖化の原因となっているのか(もしくはそうはなっていないのか)という点は,直接説明していない。あえてアイマイにしておき,説明の対象とはしない。

 4) 温排水の排熱が二酸化炭素を発生し,地球温暖化に影響するという指摘がありますが,学会等で議論が進むなかでもそれらは問題視されていない状況にあります。また,温排水が直接的に地球を温暖化するという指摘については,原子力発電などによる人為的に発生させる熱量は太陽からの熱量に比べ無視できるほど小さく,地球温暖化は,太陽からの入熱量と大気圏外への放散熱量のバランスを崩す,二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中への過剰蓄積の問題と理解されています。

 補注)ここでその「学会等」とは,どこそこのどの諸学会を指すのか明記されていない。原発が排熱する分量が「太陽からの熱量に比べ無視できる」(※)という議論も,明証されていない。そもそも,太陽から地球(水球であるこのわれわれの惑星)に降りそそぐ熱量(入熱量)の問題とその「※の問題」とのあいだに有意な関連がないとする主張じたいが,根拠において薄弱であった。

 5)なお,火力発電所でも,原子力発電所と同様に温排水は発生します。

 補注)この点に関して前段の小出裕章の解説は,原発と火力発電を具体的に比較しながら説明する段落を設けていた。同じに温排水を排出する「火力発電所」と原子力発電所」の問題だといっても,原発のほうは最終的にトリチウム除去できないまま,温排水のなかに混入させて海に捨てる。それゆえ,双方から出される温排水の問題をいっしょくたにしたかたちで,とりあげ議論することじたいに問題があった。

 好意的に解釈しても,火力発電と原発の機関内部でそれぞれ焚かれる燃料が記録する温度の高さには,もともと質的にも顕著な差があった。原子炉内の温度は,とくに事故を起こしたさい,異常に高くなる。そのさい,放射性物質を燃料に利用する原発本来の運命的な危険性が同時に突発に浮上する。

 たとえばの話,東電福島第1原発事故現場がいまだに抱えこんで,その解決の見落としすらつかないでいる難題があった。それについては今日もたとえば,つぎの『東京新聞』の記事がこう伝えていた。この記事は,前文と見出しと画像および末尾のみ引用する。

  ▼ 凍土壁,想定外の長期運用へ 福島第1原発汚染水対策の「切り札」,検証不十分なまま ▼
    =『東京新聞』2021年7月19日 06時00分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/117551

 

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 東京電力福島第1原発で汚染水対策の切り札とされ,国費345億円を投じて造られた凍土遮水壁。東電は当初,2021年をめどに対策を終えるはずだったが,凍結から5年が過ぎても大量の汚染水は発生が続き,ゼロへの見通しすら立たない。毎年億単位の維持費がかかる氷の壁は,検証不十分なまま長期運用に入る。

 

 ◆-1 冷却液で凍土,年間維持費十数億円

 ◆-2 隙間から地下水,効果は限定的

 ◆-3 規制委からは代案求める声も

 

 凍土壁の維持費は,消費者が東電に支払う電気代を通じて賄われる。規制委の検討会では「費用対効果の観点から,凍土壁をやめて鋼板やコンクリート壁などを埋めこむべきだ」との専門家の意見が根強い。この意見にも東電は「検討中」と答えるだけで,事故から10年が過ぎても汚染水対策の終わりはみえない。(下図はクリックで拡大・可)

 

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 つづけては,『福島民報』の2016年10月12日が報じていた「つぎの記事と図解」も紹介しておく(上掲した『東京新聞』作製の図解も参考になる)。「デブリ除去作業」に関するこの記事の「文章表現」に接した時,ズッコけることは必至である。これは「1グラム程度」という点をめぐって形容してみた指摘である。

 東電福島第1原発事故現場2号機のデブリ総重量は237トンである(1号機と3号機を足すと880トン)。

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 1トンは1000キログラム,1キログラムは1000グラムである。実際にこのデブリ除去作業が開始されたとしても,膨大な時間を要することになる。デブリの「1グラム掻き出す」のに,どのくらいの時間と手間を要するのか,ここではよく判りえない事情である。

 だが,全3基合計で880,000,000グラムを1グラムで割ると,8億8千万回にもなるこの作業となる。しかも,事故現場の一番の中心部分(圧力容器と格納容器の底部)に対面しつつ,放射性物質とも戦いながらの除去作業となる。いったい,何年と何ヶ月くらいをかけたら,終えられる見通しがつくというのか。

 関連していうと,福島第1原発事故現場に関しても石棺化による封印が,最近では現実味を帯びる話題になってきた事情が理解できる。

 東京電力福島第1原発2号機の原子炉内に溶け落ちた核燃料(デブリ)を採取するステンレス製のロボットアーム(長さ約22メートル,重さ約4.6トン)が,7月上旬に英国から日本に輸送される。今春搬入される予定だったが,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で遅れていた。

 

 神戸市の施設で試験を実施し,2022年から福島県楢葉町の施設内で訓練後に,原発に設置する。東電は当初,2021年中に2号機でデブリ採取開始を目指していたが,1年ほど延期して2022年中に変えた。ロボットアームで1グラム程度ずつデブリを採取する。(後略)

 註記)「〈東日本大震災アーカイブ〉溶融燃料 計880トン  構造物混じり3倍に  第1原発1~3号機」『福島民報』2016年10月12日,https://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/10/post_14300.html

 最後にこういう事実に言及しておきたい。

 スリーマイル島原発で1979年3月28日に溶融事故を起こした2号機の場合,アメリカ政府と電力会社は,核燃料が溶けて金属などと混ざりあった「燃料デブリ」を取り出そうと試みた。

 しかし,作業は難航した。原発内の放射線量を下げ,取り出しを開始できたのは事故の6年後であった。その後,開発した掘削装置で取り出しを続け,事故から11年後,全体の99%,130トン余りの「燃料デブリ」を取り出し,作業を終えた。

 断わっておくが,スリーマイル島原発2号機で」の溶融事故は,圧力容器内で落下状態が留まっていたが,東電福島第1原発事故の溶融事故は圧力容器を突き抜けてしまい,格納容器の底面にまで達していた。かといって,その状況がくわしく把握できているわけではない。

 あらためていいなおすと,東電福島第1原発事故現場においてデブリを最終的に除去できたといえる時期は,いったいあと何十・何年経ったら来るのか? スリーマイル島原発の現場よりもはるかに難易度の高い後始末作業である。

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